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第一章

気にしないでよ

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 椎名君もそのまま合流し三人になって、私たちはそのまま教室へと向かった。案の定というか何と言うか、秋永君と二人の時よりももっと驚いたような表情で、皆が私たちを振り返って行く。

「いやー、すごいなあ。有名人にでもなったような気分だ」

 ケラケラと楽しそうに笑う椎名君に、呆れたように秋永君が小突く。じゃれるように応酬しあう彼らを見ていると、ムッとする自分がなんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
 すごいなあ。気持ちの持ちよう一つで、同じことでも違うように感じられるんだな……。

「おはよう、秋永君、椎名君。……あ、糸魚川さんも……?」

 教室に着くと、近くにいた芝塚さんが秋永君達に気づき挨拶をした。だけど同時に私が一緒にいることに気が付き驚いたように目を丸くする。

「おはよう」

 苦笑して返事をする私に、秋永君も笑って答えた。

「おはよう。未花ちゃんとは一緒に登下校することにしたんだ」
「ボディガードだってさ、こいつ」

 椎名君は揶揄うように秋永君の肩に手を回して、相変わらずケラケラと楽しそうに笑っている。その彼らの言葉に、近くにいたみんなは一斉に驚いたような表情になった。

 秋永君たちから離れて自分の席に着いても、皆の驚きは変わらないようで、いつもよりじろじろと見られているような気がしてならない。
 そりゃね、私は男嫌いだよ。なのにその男の秋永君にボディガードを頼んでるって確かに変かもしれないけどさ。でもそんなふうにあからさまに変な目で見なくてもよくない?

 ほんのちょっと前に、椎名君たちのおかげで気を取り直し始めていたのに、なんだかまたモヤモヤし始めてしまった。席に着いてため息を吐く。

「未花、おはよ!」
「雅乃! あー、良かった。おはよ~」
「何? どうしたの?」

 私の一番の理解者、雅乃の顔を見てやっと平常心に戻ることが出来た。彼女は私の今までの不幸を身近で知る機会が多かったせいもあり、私の過剰な男嫌いを心底理解してくれているから。

「うん。……まあ、大したことじゃないんだけどね。例の如く色々モヤモヤしちゃって」
「ふうん? でも今日は痴漢には遭ってないんでしょ? 秋永君と一緒だったよね?」
「うん、まあ、ね」

 微妙に歪んだ私の表情を見て雅乃は教室内を見回した。それで私の気持ちに気づいたのか、「ああ、なるほどね」と小さくつぶやいた。

「らしくないな。気にしない、気にしない」
「分かってる。……でも、私のことなんか一々気にしないで欲しいんだよね。ウザいったらありゃしない」

 イライラしながらそう言うと、雅乃は笑って私の肩をポンポンと叩く。先生が教室に入ってくるのに気が付いて、雅乃は自分の席へと歩いて行った。
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