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第一章

秋永君へのお礼

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 我ながらいい考えよね。

「ねえ、お母さん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「なに?」
「実はね……」

 私は今日学校で、セクハラから秋永君に助けてもらったことや、その流れで彼にボディガードになってもらうことになってしまったことを話した。

「……じゃあ、その秋永君って子は、未花を守るためにわざわざ朝も来てくれるってこと?」
「うん」
「そうなの。じゃあ、お礼しなきゃね。秋永君の分も、お弁当作ってあげるわね」

「あ、ううん。そうじゃなくて、唐揚げだけちっちゃなランチボックスに詰めてもらえれば。……あんまり、『お礼!』って感じにしたくないんだ。オーバーにし過ぎると、意識してるみたいでヤだし」

「そうなの? んー、じゃあ、それに少しきんぴらとかも添えてあげようか。それくらいならいいでしょ?」
「うん、じゃあお願い。一応私のお礼だから、唐揚げ作りは手伝うよ」
「そう? じゃあ、このお肉、そこのフォークで数か所プスプスって穴開けてくれる?」
「え? 穴開けるの? 何で?」
「こうするとね、お肉が固くなるのを予防できるし、下味も入りやすくなるから美味しく出来上がるのよ」
「へえー」

 恥ずかしながら、家でこうやって料理を手伝うのは初めてだった。お母さんに色々指示をされながら、言われた通りに何とかこなしていく。
 でもまあ、いかんせん初めてのことなので、一口大に切るという作業だけで天手古舞だ。大きく切り過ぎて半分にしてみたら、それもまたちぐはぐな大きさだったり……。

 なんて不器用なんだろう、私って……。

「切り終わったわね。じゃあ、この袋にその鶏肉入れてくれる? お肉に味を染み込ませるから。それで三十分くらい放置しときましょう」

「うん、わかった」

 その間、他のおかずを作る手伝いをしてみたのだけど、野菜を切る手つきが危なっかしいとかで、お母さんはハラハラしていたようだ。

「そろそろ時間ね」

 そう言ってお母さんはポリ袋に入っていた鶏肉を出し、サッと水けを拭って手際よく片栗粉を塗していった。

 ……言ってくれれば、やるのに。

 私の心の愚痴を他所に、お母さんはフライパンを火にかけ油を引いた。

「じゃあ、焼いてみる?」
「えっ! 焦がしちゃわないかな」
「大丈夫、お母さんが傍で見ててあげるから」
「……分かった」
「皮目は下にね」
「うん」

 ドキドキしながら鶏肉を一個一個丁寧にフライパンに並べる。じゅわじゅわと美味しそうな音が広がってきた。

「うわー、美味しそうな音だねー。ワクワクしてきた」
「ふふっ。そうね……、あ、そこの小さいの。もうひっくり返して良さそうよ?」
「あ、これ?」
「そうそう。ホラ、淵の方がいい色になってるでしょ」
「ああ、本当だ。……あ、じゃあこれも?」
「うん、良さそうね」

 結構ドキドキしながら始めたにしては、かなりいい感じで仕上げることが出来た。もちろん全部お母さんの言う通りにしただけだから、私が一人で作ったとはとてもじゃないけど言えないんだけどね。
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