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第一章

失礼だったかな?

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「そういや未花ちゃん、朝は何時の電車に乗ってる?」
「え? んーと、遅くても七時半には乗るようにしてる。って言っても、早くても二十分の電車がせいぜいだけど」
「そうか。だったら、改札内で十五分に待っていたら大丈夫だね」
「え? ホームでいいよ」
「いいから。中にはどさくさに紛れてってヤローもいるんだろ?」
「それは……、うん。ありがと。じゃあ、そうしてもらおうかな」

 秋永君ってば、マメだなあ。そこまで徹底しなくても大丈夫なのに。……確かに私としては、気を張る時間が短くなって助かるけれど。

 そうこうしている内にS駅に着いた。二人で電車を降り、改札口まで送ってもらった。

「それじゃあ未花ちゃん、気をつけて帰ってね。明日の朝も一緒に登校するから、万が一俺が遅くなっても先に行っちゃダメだよ」

「うん、分かった」

 念押しする秋永君が可笑しくて小さく笑うと、彼はホッとしたような表情になった。そして手を振りながら、構内へと戻って行った。

 私はというと、手を振り小さくなる秋永君の後ろ姿を見ながら、今更ながら申し訳ない気持ちが襲ってきていた。
 だって、ついでじゃなくてわざわざ寄り道までしてくれてるんだよ? もしかしたら秋永君って、本当にただの良い人だったのかも。

 なんとなく、あんなにいつもニコニコできる人なんて胡散臭いって思ってたけど……、もし本当にそんなふうに取り繕っているだけの人だったら、こんな面倒な送り迎えを毎日続けてあげるだなんて、やっぱり言えないよね。……もしかしたら私、随分失礼なこと思っちゃってたのかな?

「ただいまー」
「お帰りなさい」

 私の『ただいま』の挨拶に、お母さんは顏を見せずに台所から声を飛ばす。靴を脱いで台所へ向かうと、お母さんは買い物から帰って来たばかりなのか、買って来た食材を片付けているところだった。

「今日から揚げにするつもりだけど、多めに作ろうか?」
「え?」
「お弁当にいいかなと思って」
「あ、うん! お願い!」
「そ。じゃあ、そうしましょ」
「お母さん、私も手伝うよ」
「あら、珍しい。じゃあ、着替えて手を洗ってきて」
「はあい」

 着替えを済ませて洗面所で手を洗いながら、らしくないことを思いついてしまった。秋永君へのお礼だ。

 だって、いくら私が困っているからと言っても、私と秋永君はただクラスが同じなだけで、特別親しい友達ってわけでもない。私なんて男嫌いだし。

 なのにそんな私の為に、これから毎日送り迎えをしてくれるんだ。ちゃんとお礼をしなけりゃ、やっぱりどう考えても悪い。
 でもだからと言って重すぎるお礼じゃ却って面倒くさいことになっても困るから、お昼の足しになるようなちょっとしたおかずのお裾分けくらいなら良いんじゃないかと思ったんだ。
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