13 / 75
第一章
失礼だったかな?
しおりを挟む
「そういや未花ちゃん、朝は何時の電車に乗ってる?」
「え? んーと、遅くても七時半には乗るようにしてる。って言っても、早くても二十分の電車がせいぜいだけど」
「そうか。だったら、改札内で十五分に待っていたら大丈夫だね」
「え? ホームでいいよ」
「いいから。中にはどさくさに紛れてってヤローもいるんだろ?」
「それは……、うん。ありがと。じゃあ、そうしてもらおうかな」
秋永君ってば、マメだなあ。そこまで徹底しなくても大丈夫なのに。……確かに私としては、気を張る時間が短くなって助かるけれど。
そうこうしている内にS駅に着いた。二人で電車を降り、改札口まで送ってもらった。
「それじゃあ未花ちゃん、気をつけて帰ってね。明日の朝も一緒に登校するから、万が一俺が遅くなっても先に行っちゃダメだよ」
「うん、分かった」
念押しする秋永君が可笑しくて小さく笑うと、彼はホッとしたような表情になった。そして手を振りながら、構内へと戻って行った。
私はというと、手を振り小さくなる秋永君の後ろ姿を見ながら、今更ながら申し訳ない気持ちが襲ってきていた。
だって、ついでじゃなくてわざわざ寄り道までしてくれてるんだよ? もしかしたら秋永君って、本当にただの良い人だったのかも。
なんとなく、あんなにいつもニコニコできる人なんて胡散臭いって思ってたけど……、もし本当にそんなふうに取り繕っているだけの人だったら、こんな面倒な送り迎えを毎日続けてあげるだなんて、やっぱり言えないよね。……もしかしたら私、随分失礼なこと思っちゃってたのかな?
「ただいまー」
「お帰りなさい」
私の『ただいま』の挨拶に、お母さんは顏を見せずに台所から声を飛ばす。靴を脱いで台所へ向かうと、お母さんは買い物から帰って来たばかりなのか、買って来た食材を片付けているところだった。
「今日から揚げにするつもりだけど、多めに作ろうか?」
「え?」
「お弁当にいいかなと思って」
「あ、うん! お願い!」
「そ。じゃあ、そうしましょ」
「お母さん、私も手伝うよ」
「あら、珍しい。じゃあ、着替えて手を洗ってきて」
「はあい」
着替えを済ませて洗面所で手を洗いながら、らしくないことを思いついてしまった。秋永君へのお礼だ。
だって、いくら私が困っているからと言っても、私と秋永君はただクラスが同じなだけで、特別親しい友達ってわけでもない。私なんて男嫌いだし。
なのにそんな私の為に、これから毎日送り迎えをしてくれるんだ。ちゃんとお礼をしなけりゃ、やっぱりどう考えても悪い。
でもだからと言って重すぎるお礼じゃ却って面倒くさいことになっても困るから、お昼の足しになるようなちょっとしたおかずのお裾分けくらいなら良いんじゃないかと思ったんだ。
「え? んーと、遅くても七時半には乗るようにしてる。って言っても、早くても二十分の電車がせいぜいだけど」
「そうか。だったら、改札内で十五分に待っていたら大丈夫だね」
「え? ホームでいいよ」
「いいから。中にはどさくさに紛れてってヤローもいるんだろ?」
「それは……、うん。ありがと。じゃあ、そうしてもらおうかな」
秋永君ってば、マメだなあ。そこまで徹底しなくても大丈夫なのに。……確かに私としては、気を張る時間が短くなって助かるけれど。
そうこうしている内にS駅に着いた。二人で電車を降り、改札口まで送ってもらった。
「それじゃあ未花ちゃん、気をつけて帰ってね。明日の朝も一緒に登校するから、万が一俺が遅くなっても先に行っちゃダメだよ」
「うん、分かった」
念押しする秋永君が可笑しくて小さく笑うと、彼はホッとしたような表情になった。そして手を振りながら、構内へと戻って行った。
私はというと、手を振り小さくなる秋永君の後ろ姿を見ながら、今更ながら申し訳ない気持ちが襲ってきていた。
だって、ついでじゃなくてわざわざ寄り道までしてくれてるんだよ? もしかしたら秋永君って、本当にただの良い人だったのかも。
なんとなく、あんなにいつもニコニコできる人なんて胡散臭いって思ってたけど……、もし本当にそんなふうに取り繕っているだけの人だったら、こんな面倒な送り迎えを毎日続けてあげるだなんて、やっぱり言えないよね。……もしかしたら私、随分失礼なこと思っちゃってたのかな?
「ただいまー」
「お帰りなさい」
私の『ただいま』の挨拶に、お母さんは顏を見せずに台所から声を飛ばす。靴を脱いで台所へ向かうと、お母さんは買い物から帰って来たばかりなのか、買って来た食材を片付けているところだった。
「今日から揚げにするつもりだけど、多めに作ろうか?」
「え?」
「お弁当にいいかなと思って」
「あ、うん! お願い!」
「そ。じゃあ、そうしましょ」
「お母さん、私も手伝うよ」
「あら、珍しい。じゃあ、着替えて手を洗ってきて」
「はあい」
着替えを済ませて洗面所で手を洗いながら、らしくないことを思いついてしまった。秋永君へのお礼だ。
だって、いくら私が困っているからと言っても、私と秋永君はただクラスが同じなだけで、特別親しい友達ってわけでもない。私なんて男嫌いだし。
なのにそんな私の為に、これから毎日送り迎えをしてくれるんだ。ちゃんとお礼をしなけりゃ、やっぱりどう考えても悪い。
でもだからと言って重すぎるお礼じゃ却って面倒くさいことになっても困るから、お昼の足しになるようなちょっとしたおかずのお裾分けくらいなら良いんじゃないかと思ったんだ。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる