修行のため、女装して高校に通っています

らいち

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第六章

気まずい見学 1

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公演が近づきますますボルテージが上がった親父は、その熱気を僕や団員の皆へと向けてくる。
そのハードさは半端なく、おかげで僕は稽古以外の事には気が回らなくなってきていた。

日曜日。
今日は梓と佐藤が見学に来る予定になっていた。そのせいか姉さんも、朝からそわそわ落ち着かない。

…なんだか可愛い…。

だけど僕は、そわそわする余裕もない。
今日は前田さんについて踊りの最終確認をすることになっている。
前回前田さんに指摘された僕の踊りの癖や改善点などが修正されているかを見てもらうのだ。

「由紀也君、視線はここ! もうちょっと腰を落とす!」
「そう! そこは儚げに!」
「手首の返しは柔らかく、そう。いいね」

厳しく、そしてしっかりおだてることも忘れずに、前田さんは僕を上手くその気にさせてくれる。本当に教え方の上手い人だと思う。

…親父も少しは見習ってほしいよホントに。

「ふうっ」と、汗をぬぐい、何気に外に視線を向けると梓と佐藤の姿が見えた。
ああ、もう来てくれてるんだな。

ただ、認識したのはそれだけで、今日は手を振ったり合図したりする余裕は無いので、前田さんの合図の下、先に指摘のあった個所からまた踊り始める。
そうして踊っている最中、視線を流して庭の方が視界に入った時、僕はとんでもない光景を目にしてしまった。

――宇野が来ている。

一瞬、三人の姿が目に入った僕は動揺して、体が揺れてしまった。

パシン!
乾いた音が鳴り響いた。

ハッとして顔を上げると、前田さんが険しい顔で僕を見ている。

「どこに気を取られているんですか? 集中して下さい」
「す、すみません」

気持ちを立て直そうと深呼吸をしていて、何気なく振り返ると親父が物凄い顔で僕を見ていた。

身がすくむほどの恐ろしい形相。

…まずい。これは非常にまずい。
嫌な汗が背中をつたい、一気に目が覚める。

今までの経験から考えても、このまま僕が集中力に欠けた状態でいつづけたら、親父は必ず僕にその原因を追究して来るだろう。
そしてそれが恋愛がらみと分かったら、梓との交際をつぶしにかかるに違いない。
……親父はそういう奴だ。

「もう大丈夫です。お願いします」

恐らく僕の真剣な表情を見て取ったのだろう。前田さんはニコリと笑って、「ではもう一度最初から」と指示を出した。

それからの僕は、何もかも一切の邪念を遮断して、目の前の前田さんと踊りにのみ集中していた。
だから他所からの視線も声や物音さえも僕の耳には入ってこなかった。
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