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第六章

やっかいな恋心 1

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それからの僕のスケジュールは、ほぼ変わりが無かった。たまに休みをもらってもすべてが平日で、僕はそれに親父の嫌がらせを感じているのだけど、どうなんだろう。
おかげで僕は梓とのデートが全くできずに、学校だけが癒される時間となりつつあった。

そして七月に入り、稽古事態も大詰めを迎えている。
稽古場で親父の声が響く。

「そう、その間の取り方だ! 由紀也はちゃんと伊藤さんの動きを確認して次に移る準備をしろ。ここは見せ場でもあるんだからな、しっかりと叩き込んでおけよ」

「はい」

伊藤さんは僕が演じるお紗代の恋仲で、奉公人の役を演じている団員さんだ。
彼は繊細な役を演じるのが上手く、体育会系の雰囲気を持つ向井さんとは対照的だ。とはいえ、二人とも割と器用に色んな役をこなしてくれるので、親父の彼らへの信頼度はかなり高いものだったりする。
もちろん根強いファンも結構いて、劇団むらさきにとっては大事な戦力なのだ。

「良い流れになって来てるよね」
「そうですよね! 伊藤さんにはずいぶん助けてもらって、ありがたいです」
「何言ってるんだよ。由紀也君だって…」
「由紀也!」

後ろから大きな声で呼ばれて振り返ると、呼んだ母さんの後方に、稽古場を見学したい人が通されるところ(稽古場に面した庭)に宇野が立っていた。

「お友達が見学に来てるわよ」

宇野は僕と目が合うとニッコリと手を振った。僕はそれに軽い会釈で答える。

「…何で? 僕なにも聞いてないけど」

「そうなの? …そう言えば直接家の方に電話があったわね。その時お父さんが了承したんだけど…。あの子じゃないの?」

「あの子って?」
「だからこないだお父さんが言ってた彼女って」
「違うよ!」

僕は小声だけどはっきり否定した。ちょっと顔が嫌そうな表情になっていたかもしれない。
それを見た母さんは微妙な顔をする。

「あんたね…、モテるのは良いけど、ちゃんとしなさいよ」

呆れた顔をして母さんは、向井さんの方へと歩いて行った。
ちょっと、なんだよそれ!
僕は宇野にはちゃんと断ってるっつーの!

何て宇野の目の前でそれを叫ぶことも出来ないので、僕は心の中で母さんに反論していた。

「いろんな人がいるからね」
「…伊藤さんも、そう言う事ありました?」
「…まあ、君より少しは長く生きてるからね」

言葉を濁し、微妙な笑顔を僕に向ける。
伊藤さん、モテそうだもんなあ。子供の僕には分からない色んなことがあったとしても、おかしくはないだろう。

「まだ休憩じゃないから、続きはじめようか」
「はい」

一瞬梓の顔が横切ったけど、僕はそれを振り払って稽古に集中するため伊藤さんに向き直った。
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