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第五章
それぞれの恋心2
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「…日曜日、佐藤君来るんだろ?」
「あ、うん」
「頑張れよ、姉さんなら大丈夫だから」
「うん…。あー、でも緊張する~。何話したらいいんだろ」
「大丈夫だよ。佐藤ってあの外見に反してかなり気さくだし、気配り上手だよ」
「でも緊張する…」
言葉だけでなく本当に緊張してしまったようで、姉さんは顔を両手で多い「緊張する、緊張する」とつぶやいている。恋する乙女は可愛いね~。
ニヤニヤしてみていたら、姉さんが勢いよく両手を外して僕を見た。
な、何事?
「由紀也、彼女やっぱり連れて来て!」
「へ? 何で?」
「いきなり佐藤君と2人っきりだと緊張するから、彼女も交えて3人で話すわ」
「え~? でもそれじゃあ良い雰囲気にはならないよ」
「良い雰囲気ってあんた…。いくらなんでもそんな簡単に特別な関係になれるわけないでしょ。それよりは、色んなこと話せる間柄になって次につなげていった方がいいもの」
ああ、そうか。そう言う考え方もあるんだ。
「分かった。じゃあ日曜日には梓も誘うことにするよ」
「うん、そうして」
うーんと背伸びをして、立ち上がる。
「そろそろ稽古しに行くかな。呼び出される前に」
「…だね」
姉さんも、手にしてた残りのせんべいを口に放り込んで立ち上がった。
稽古が終わった後、ダメ元というか断ってくれと思いながら、友達に稽古を見学させてもいいかと親父に聞いてみた。
「あぁ? お前本気で聞いてるのか?」
案の定、ドスの利いた声で威嚇するかのごとく眉間にしわを寄せながら僕を睨みつける。
本気なわけね―じゃん。僕だってンな姿見せたくねえよ。
「頼まれたから聞いただけだよ。僕だってまだ見せられるレベルだなんて思ってないから」
「分かってんならいい。友達には却下と伝えておけ」
「分かった」
僕は顔色一つ変えずに返事をして、心の中では胸をなでおろしていた。
そのまま風呂場に行こうと向きを変え、もう一つ聞いておこうと思っていたことを思い出す。
「あ、それからさ」
「何だ」
まだ何かあるのかというように、面倒臭げに親父が僕を見る。
「日曜にこないだ姉さんを助けてくれた僕の友達が来てくれるんだけど、僕もちょっと顔出したいから、その時はいつもより長めに休憩とってもいいかな」
「この前の痴漢のか?」
「うん、そう」
親父はちょっと考えたようだったが、ため息を一つ吐いて「30分だけだぞ」と言ってそのまま部屋を出て行った。
ま、そんなとこだろ。
もうちょっと長くしてくれてもいいのにと思ったけど、あれはあれで親父にとっては恐らく最大の譲歩だろう。
後で梓にラインしておこう。
僕は汗を流すべくまずは風呂場へと直行した。
「あ、うん」
「頑張れよ、姉さんなら大丈夫だから」
「うん…。あー、でも緊張する~。何話したらいいんだろ」
「大丈夫だよ。佐藤ってあの外見に反してかなり気さくだし、気配り上手だよ」
「でも緊張する…」
言葉だけでなく本当に緊張してしまったようで、姉さんは顔を両手で多い「緊張する、緊張する」とつぶやいている。恋する乙女は可愛いね~。
ニヤニヤしてみていたら、姉さんが勢いよく両手を外して僕を見た。
な、何事?
「由紀也、彼女やっぱり連れて来て!」
「へ? 何で?」
「いきなり佐藤君と2人っきりだと緊張するから、彼女も交えて3人で話すわ」
「え~? でもそれじゃあ良い雰囲気にはならないよ」
「良い雰囲気ってあんた…。いくらなんでもそんな簡単に特別な関係になれるわけないでしょ。それよりは、色んなこと話せる間柄になって次につなげていった方がいいもの」
ああ、そうか。そう言う考え方もあるんだ。
「分かった。じゃあ日曜日には梓も誘うことにするよ」
「うん、そうして」
うーんと背伸びをして、立ち上がる。
「そろそろ稽古しに行くかな。呼び出される前に」
「…だね」
姉さんも、手にしてた残りのせんべいを口に放り込んで立ち上がった。
稽古が終わった後、ダメ元というか断ってくれと思いながら、友達に稽古を見学させてもいいかと親父に聞いてみた。
「あぁ? お前本気で聞いてるのか?」
案の定、ドスの利いた声で威嚇するかのごとく眉間にしわを寄せながら僕を睨みつける。
本気なわけね―じゃん。僕だってンな姿見せたくねえよ。
「頼まれたから聞いただけだよ。僕だってまだ見せられるレベルだなんて思ってないから」
「分かってんならいい。友達には却下と伝えておけ」
「分かった」
僕は顔色一つ変えずに返事をして、心の中では胸をなでおろしていた。
そのまま風呂場に行こうと向きを変え、もう一つ聞いておこうと思っていたことを思い出す。
「あ、それからさ」
「何だ」
まだ何かあるのかというように、面倒臭げに親父が僕を見る。
「日曜にこないだ姉さんを助けてくれた僕の友達が来てくれるんだけど、僕もちょっと顔出したいから、その時はいつもより長めに休憩とってもいいかな」
「この前の痴漢のか?」
「うん、そう」
親父はちょっと考えたようだったが、ため息を一つ吐いて「30分だけだぞ」と言ってそのまま部屋を出て行った。
ま、そんなとこだろ。
もうちょっと長くしてくれてもいいのにと思ったけど、あれはあれで親父にとっては恐らく最大の譲歩だろう。
後で梓にラインしておこう。
僕は汗を流すべくまずは風呂場へと直行した。
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