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第五章
疲れてますね
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家に帰って何気にカレンダーを見ると、下旬辺りに二週間ほど丸印が着いていた。
側には月華劇場と書かれている。
月華劇場とは、家が昔からお世話になっていて良く使わせてもらっている劇場だ。ここはゴールデンウイーク中に講演したところよりもはるかに家から近いので、そのまま家から通うことになる。
「姉さん、これ出るの?」
「うん? ああ、毎日は無理だけど出れるときはね。信ちゃんにも、そうそう助っ人には来てもらえないから」
信ちゃんとは付き合いのある劇団の一員で、時々人手が足りない時に来てくれる心強い人だ。
「由紀也、千代美も、稽古始めるぞ」
「あ、はい」
僕と姉さんは稽古場へと足を向けた。
「う~ん…」
ここの所連日、予想していたとはいえハードな稽古が続いていた。
親父は芸に関しては完璧主義なところがあるので、若干楽観主義的な僕にはついて行けないところがあるんだ。だからと言って緩い稽古では納得してもらえないので、親父のハードさについて行くしかないのだけど。
僕は教室の自分の机の上で片腕を投げ出して枕にし、突っ伏している状態だ。およそ普段の「由紀」のとる動作では無い。
グターッとしていると、僕の頭を二つの手が優しく撫でている。
んん?
気持ちは良いけど二つ?
しかもなんとなく大きさと感触が違う…?
不思議に思いながら顔を横に向けて見上げると、梓と佐藤が同時に頭を撫でていた。その横ではなぜかちょっと剥れた顔で、まどかが頬杖を突いている。
「えと、あれ…?」
「疲れてんだな、由紀」
僕がむくりと起き上がると、「由紀ちゃーん」と言いながら、まどかがガバリと抱き着いてきた。
ギョッとして固まっていると(しばらくされていなかったので油断していた!)いつものように梓がぺりっとまどかを僕から剥がしてくれる。
「由紀ちゃん大丈夫? やっぱり体丈夫じゃないから、疲れが溜まって来てるのかな」
「あ…。大丈夫、ちょっとだけだから…。うん」
「でも今度の遊園地は、お母さんたちからストップかけられたんでしょ?」
「…」
まどかは僕の嘘を信じて心配してくれてるんだよな…。何だか凄く申し訳ない。
「そんな顔するな」
コツンと梓がまどかのおでこを小突いた。
「まどかはムードメーカーだろ? そんな沈んだ顔してると由紀も心配するだろ」
梓に言われてまどかは、小首を傾げながら丸い目で僕を見た。
何ともかわいらしい仕草だ。
「うん、まどかが笑ってるの見てると私も元気になるから、楽しそうにしていて欲しいな」
「そなの?」
「うん」
「分かった―! 大好き由紀ちゃん」
またガバリと抱き付こうとするまどかを、今度は梓と佐藤の二人に襟首を掴まれて遮られた。
「もー! 佐藤のバカッ。何で邪魔するのよ」
梓も邪魔をしていたのだが、そちらの方はどうやら気にはしていないようだ。
「一応彼氏なんで」
へ?と思って、僕は思わず目をぱちぱちしてしまった。だけどよく見ると、佐藤は意地悪そうに微笑んでいる。
あー、あれはきっと意趣返しのつもりなんだな。佐藤、いつもまどかにおちょくられてるから。
だけどまどかは、そんな佐藤の気持ちに気が付いていないのか、ムキになって佐藤を楽しませている。
「由紀」
梓に呼ばれて僕は、顔を上げた。見上げた梓の顔は何だか心配そうに見える。
「稽古、大変なのか?」
まどかに聞かれないようにという配慮だろう、小さな声だ。
「うん。他にも公演が入っているから、親父の奴、時間が足りない気分になってるんだろうな…。で、余計に熱が入って、ハードさ半端ないんだよ」
「…あたしで何かできる事ある?」
梓に出来る事…?
梓にしか出来ない事…。
梓としたいことをちょっと妄想してみた。
ハグしてキスして…もにゃもにゃもにゃ…。
いかん!
顔が熱くなってきた。パタパタパタ。
熱くなった顔に両手で風を送って熱を冷まそうと試みる。
ふと梓を見るとキョトンとした顔をしていたが、僕と目が合うと見る間に真っ赤になってきた。どうやら僕が何を考えていたのかだいたい想像がついたらしい。
「…由紀」
「ハハ。ごめん、でも一番充電できそうだ」
「もう! ちょっと顔洗ってくる」
言うなり梓は急ぎ足で廊下に出て行った。
「れ? どしたの梓」
「あ、顔洗ってくるって」
「ふうん? そう言えばちょっと今日は暑いかな?」
「かもな」
横から佐藤が口を挿み、ニヤニヤしながら僕を見ている。
…ばれてますね。はい、一応僕も男ですから。
側には月華劇場と書かれている。
月華劇場とは、家が昔からお世話になっていて良く使わせてもらっている劇場だ。ここはゴールデンウイーク中に講演したところよりもはるかに家から近いので、そのまま家から通うことになる。
「姉さん、これ出るの?」
「うん? ああ、毎日は無理だけど出れるときはね。信ちゃんにも、そうそう助っ人には来てもらえないから」
信ちゃんとは付き合いのある劇団の一員で、時々人手が足りない時に来てくれる心強い人だ。
「由紀也、千代美も、稽古始めるぞ」
「あ、はい」
僕と姉さんは稽古場へと足を向けた。
「う~ん…」
ここの所連日、予想していたとはいえハードな稽古が続いていた。
親父は芸に関しては完璧主義なところがあるので、若干楽観主義的な僕にはついて行けないところがあるんだ。だからと言って緩い稽古では納得してもらえないので、親父のハードさについて行くしかないのだけど。
僕は教室の自分の机の上で片腕を投げ出して枕にし、突っ伏している状態だ。およそ普段の「由紀」のとる動作では無い。
グターッとしていると、僕の頭を二つの手が優しく撫でている。
んん?
気持ちは良いけど二つ?
しかもなんとなく大きさと感触が違う…?
不思議に思いながら顔を横に向けて見上げると、梓と佐藤が同時に頭を撫でていた。その横ではなぜかちょっと剥れた顔で、まどかが頬杖を突いている。
「えと、あれ…?」
「疲れてんだな、由紀」
僕がむくりと起き上がると、「由紀ちゃーん」と言いながら、まどかがガバリと抱き着いてきた。
ギョッとして固まっていると(しばらくされていなかったので油断していた!)いつものように梓がぺりっとまどかを僕から剥がしてくれる。
「由紀ちゃん大丈夫? やっぱり体丈夫じゃないから、疲れが溜まって来てるのかな」
「あ…。大丈夫、ちょっとだけだから…。うん」
「でも今度の遊園地は、お母さんたちからストップかけられたんでしょ?」
「…」
まどかは僕の嘘を信じて心配してくれてるんだよな…。何だか凄く申し訳ない。
「そんな顔するな」
コツンと梓がまどかのおでこを小突いた。
「まどかはムードメーカーだろ? そんな沈んだ顔してると由紀も心配するだろ」
梓に言われてまどかは、小首を傾げながら丸い目で僕を見た。
何ともかわいらしい仕草だ。
「うん、まどかが笑ってるの見てると私も元気になるから、楽しそうにしていて欲しいな」
「そなの?」
「うん」
「分かった―! 大好き由紀ちゃん」
またガバリと抱き付こうとするまどかを、今度は梓と佐藤の二人に襟首を掴まれて遮られた。
「もー! 佐藤のバカッ。何で邪魔するのよ」
梓も邪魔をしていたのだが、そちらの方はどうやら気にはしていないようだ。
「一応彼氏なんで」
へ?と思って、僕は思わず目をぱちぱちしてしまった。だけどよく見ると、佐藤は意地悪そうに微笑んでいる。
あー、あれはきっと意趣返しのつもりなんだな。佐藤、いつもまどかにおちょくられてるから。
だけどまどかは、そんな佐藤の気持ちに気が付いていないのか、ムキになって佐藤を楽しませている。
「由紀」
梓に呼ばれて僕は、顔を上げた。見上げた梓の顔は何だか心配そうに見える。
「稽古、大変なのか?」
まどかに聞かれないようにという配慮だろう、小さな声だ。
「うん。他にも公演が入っているから、親父の奴、時間が足りない気分になってるんだろうな…。で、余計に熱が入って、ハードさ半端ないんだよ」
「…あたしで何かできる事ある?」
梓に出来る事…?
梓にしか出来ない事…。
梓としたいことをちょっと妄想してみた。
ハグしてキスして…もにゃもにゃもにゃ…。
いかん!
顔が熱くなってきた。パタパタパタ。
熱くなった顔に両手で風を送って熱を冷まそうと試みる。
ふと梓を見るとキョトンとした顔をしていたが、僕と目が合うと見る間に真っ赤になってきた。どうやら僕が何を考えていたのかだいたい想像がついたらしい。
「…由紀」
「ハハ。ごめん、でも一番充電できそうだ」
「もう! ちょっと顔洗ってくる」
言うなり梓は急ぎ足で廊下に出て行った。
「れ? どしたの梓」
「あ、顔洗ってくるって」
「ふうん? そう言えばちょっと今日は暑いかな?」
「かもな」
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…ばれてますね。はい、一応僕も男ですから。
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