修行のため、女装して高校に通っています

らいち

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第四章

芸事も恋も頑張ってます1

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今日は五月三日。
昨日の夕方近く劇団の皆は僕に留守を預けて、今日からの公演に備えて出かけて行った。今頃みんなどうしているだろう。
六日の夜になるまで、僕はこの家に一人っきりだ。

「今までこんな事って無かったからな…」

いつもは舞台があるときは僕も必ず出演していたので、取り残されて一人留守番というのは初めての事だった。
見学について行くくらいは有りかと思っていたのだけど、親父はこんな機会はそうそうないから、休みのときくらいは稽古に専念するようにと別行動を提案してきた。

昔から親父は学業も大事だと思っていたようで、せめて高校まではちゃんと勉強するようにと、僕らは小さなころから言い聞かせられていた。
だから稽古だけの時間ではなく、ちゃんと学校の勉強もとる事が我が家のしきたりになっていたので、こうやって稽古の事だけに時間を費やすことは意外に少なかったりする。

「由紀也君、腰を落として!」
「は、はいっ」

いけない、いけない。今は稽古中だった。
余計な事を考えずに集中しなくちゃ。

「指先もちゃんと意識して! 柔らかさも表現しなさい」

足も腰も指先も、それこそ体の先々まで意識しようと僕は全身に神経を張り巡らせた。そして同じ動作を何度も繰り返していく。

前田さん、きついです…! 
僕は汗を掻きつつ、心の中で悲鳴を上げる。
泣き言はとてもじゃないけど言えない雰囲気だったので、いっぱいいっぱいの中なんとか耐えて僕は前田さんについて行く。

そろそろ集中力がなくなりそうだと思い始めた時、前田さんが僕の表情を見るようにじっと僕の目を見つめてきた。

「休憩にしましょう」
「はい~」
僕は思わずその場でへたり込んでしまった。

「もう少し集中力を付けた方が良いですね」
「…すみません」

うなだれて謝る僕に、前田さんはクスリと笑う。

「まあ、君が良いものを持っていると思うから、私も熱が入ってしまうのですけどね」
「あ、有難うございます」

僕はぺこりと頭を下げて、立ち上がり、茶菓子の準備に台所へと立った。
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