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第一章
困るんですけど3
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「沢村さん、ちょっと」
ようやく落ち着いたとホッとしたところで、教室の入り口近くにいる西村に声をかけられた。
何だ?と思って西村を見ると、こっちこっちといった感じで手招きされた。
しょうがないので、立ち上がって西村の所に近づいて行った。
「沢村さん、まさかと思うけど佐藤と付き合ってる?」
わざわざ呼び出して何かと思えば、そんな事かよ。
「付き合ってないけど」
「そうか!良かった」
西村の顔は見る見る明るくなり、笑顔になる。
そして僕の手を取り、ぎゅっと握った。
「あ、ちょ、西村君…っ」
僕はギョッとして慌てて離そうとしたのだけど、強い力でびくともしない。
その時後ろから手が伸びて、誰かが僕の手から西村を引きはがしてくれた。
助かったと思って振り向くと、ちょっと怖い顔をした佐藤が立っていた。
「こんな所でくどいてんなよ」
「何だよ。彼氏でもないのに口出すな」
二人とも、険悪なムードで睨み合っている。
これってもしかして、僕の事を取り合っているということ?
なんだか居た堪れない微妙な雰囲気なんですけど。
「だいたい佐藤が仲良くなんかしたら、沢村さんに迷惑かけるんじゃないのか?」
佐藤はそれには答えず、片眉を上げて西村を睨んだ。
「他の女子が黙ってないだろ」
「女子が黙ってないってなんだよ?それこそ、もしそんな嫌がらせをする子がいたら、こっちから願い下げだな。隠れてコソコソするような子は俺は嫌いだ」
佐藤はまるで、こちらのやり取りに聞き耳を立てているであろう女子たちに、わざと聞こえるような大きさで喋っているようだ。
多分、暗に梓に対する女子の仕打ちを牽制する目的もあるのだろう。
下手に一件一件かばうより、この方が多分効果的だ。
佐藤に関する噂はあっという間に広がるので、梓に関する嫌がらせもきっとその内収まるに違いない。
それにしても、僕はどうしたら良いんだ?
このまま、席に帰ってもいい?ってか、帰りたいんだけど…。
「由紀、そろそろ行くよー」
背後から梓が僕をポンと叩いた。そして、佐藤の腕をポンポンと叩く。
佐藤は、振り返って梓を見て苦笑いをした。なんとなく阿吽の呼吸。
こういうところはやっぱり幼馴染なんだろうな。僕は佐藤にちょっとだけ嫉妬をしてしまう。
「行こ。由紀ちゃん」
まどかが、僕の手を引っ張ったので、僕はそのまま一緒に廊下へと出た。
「…佐藤君に悪いことしたかな」
ちょっと居た堪れない雰囲気だったけど、佐藤は僕が困っていたから助けに来てくれたわけで。
それなのにさっさと抜けてしまった自分が嫌な奴に思えてきた。
「大丈夫だよ。なんかさ、佐藤も由紀のためにって事もあったかもしれないけど…」
「そうそう。あれは自分が居ても立っても居られなくて、つい出しゃばっちゃったって感じだったもんねー」
「うん。今頃多分反省してるよ。もうちょっと、スマートに出来たはずなのに、ってさ」
「え、でも実際私、助かったよ」
「じゃあ後でありがとうって言っておいたらいいよ」
梓が優しく僕の頭を撫でた。まどかも隣でニコニコ笑っている。
「うん。分かった」
「あ」
「何?」
またハモってる。それがなんだか可愛くて、ちょっと笑ってしまった。
「で、どこ行くの?」
廊下をそのまま歩いていく二人に行先を尋ねたら、今度は二人に苦笑いをされてしまった。
「別にどこでも。単に由紀の救出だったから」
目を細めて笑う梓にきゅんとした。ホントに感激してしまって、それをごまかすためについ俯いてしまう。
「…ありがと」
恥ずかしさから絞り出すように声を出すと、ガバッとまどかが抱き着いてきた。
「由紀ちゃん可愛いー!」
「!!!」
まどかの腕の中で真っ赤になってもがいていると、梓がぺりっとまどかを剥がしてくれた。
…なんだか、恒例の行事になりつつあるんですけど…。
もーっと思ってまどかを見ると、楽しそうに笑っていた。
ようやく落ち着いたとホッとしたところで、教室の入り口近くにいる西村に声をかけられた。
何だ?と思って西村を見ると、こっちこっちといった感じで手招きされた。
しょうがないので、立ち上がって西村の所に近づいて行った。
「沢村さん、まさかと思うけど佐藤と付き合ってる?」
わざわざ呼び出して何かと思えば、そんな事かよ。
「付き合ってないけど」
「そうか!良かった」
西村の顔は見る見る明るくなり、笑顔になる。
そして僕の手を取り、ぎゅっと握った。
「あ、ちょ、西村君…っ」
僕はギョッとして慌てて離そうとしたのだけど、強い力でびくともしない。
その時後ろから手が伸びて、誰かが僕の手から西村を引きはがしてくれた。
助かったと思って振り向くと、ちょっと怖い顔をした佐藤が立っていた。
「こんな所でくどいてんなよ」
「何だよ。彼氏でもないのに口出すな」
二人とも、険悪なムードで睨み合っている。
これってもしかして、僕の事を取り合っているということ?
なんだか居た堪れない微妙な雰囲気なんですけど。
「だいたい佐藤が仲良くなんかしたら、沢村さんに迷惑かけるんじゃないのか?」
佐藤はそれには答えず、片眉を上げて西村を睨んだ。
「他の女子が黙ってないだろ」
「女子が黙ってないってなんだよ?それこそ、もしそんな嫌がらせをする子がいたら、こっちから願い下げだな。隠れてコソコソするような子は俺は嫌いだ」
佐藤はまるで、こちらのやり取りに聞き耳を立てているであろう女子たちに、わざと聞こえるような大きさで喋っているようだ。
多分、暗に梓に対する女子の仕打ちを牽制する目的もあるのだろう。
下手に一件一件かばうより、この方が多分効果的だ。
佐藤に関する噂はあっという間に広がるので、梓に関する嫌がらせもきっとその内収まるに違いない。
それにしても、僕はどうしたら良いんだ?
このまま、席に帰ってもいい?ってか、帰りたいんだけど…。
「由紀、そろそろ行くよー」
背後から梓が僕をポンと叩いた。そして、佐藤の腕をポンポンと叩く。
佐藤は、振り返って梓を見て苦笑いをした。なんとなく阿吽の呼吸。
こういうところはやっぱり幼馴染なんだろうな。僕は佐藤にちょっとだけ嫉妬をしてしまう。
「行こ。由紀ちゃん」
まどかが、僕の手を引っ張ったので、僕はそのまま一緒に廊下へと出た。
「…佐藤君に悪いことしたかな」
ちょっと居た堪れない雰囲気だったけど、佐藤は僕が困っていたから助けに来てくれたわけで。
それなのにさっさと抜けてしまった自分が嫌な奴に思えてきた。
「大丈夫だよ。なんかさ、佐藤も由紀のためにって事もあったかもしれないけど…」
「そうそう。あれは自分が居ても立っても居られなくて、つい出しゃばっちゃったって感じだったもんねー」
「うん。今頃多分反省してるよ。もうちょっと、スマートに出来たはずなのに、ってさ」
「え、でも実際私、助かったよ」
「じゃあ後でありがとうって言っておいたらいいよ」
梓が優しく僕の頭を撫でた。まどかも隣でニコニコ笑っている。
「うん。分かった」
「あ」
「何?」
またハモってる。それがなんだか可愛くて、ちょっと笑ってしまった。
「で、どこ行くの?」
廊下をそのまま歩いていく二人に行先を尋ねたら、今度は二人に苦笑いをされてしまった。
「別にどこでも。単に由紀の救出だったから」
目を細めて笑う梓にきゅんとした。ホントに感激してしまって、それをごまかすためについ俯いてしまう。
「…ありがと」
恥ずかしさから絞り出すように声を出すと、ガバッとまどかが抱き着いてきた。
「由紀ちゃん可愛いー!」
「!!!」
まどかの腕の中で真っ赤になってもがいていると、梓がぺりっとまどかを剥がしてくれた。
…なんだか、恒例の行事になりつつあるんですけど…。
もーっと思ってまどかを見ると、楽しそうに笑っていた。
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