5 / 106
第一章
女って怖い2
しおりを挟む
「あ、次体育だよ。そろそろ体育館に行かなきゃ」
まどかの言葉に梓も反応する。
「あ、そうだね」
体育着の入ったカバンを手に立ち上がった。僕も、一緒に立ち上がる。
「ねえ、由紀の心臓って、その…だいぶ悪いの?」
まどかが、言いにくそうに聞いてきた。
「まどか」
梓が気にして、たしなめるようにまどかの名前を呼ぶ。
「あ、ううん。大丈夫、気にしないで。その、昔に比べるとだいぶ良くなっているんだよ。だからこうして学校にも通えてるし。ただ、発作が起きると厄介だからって、用心しているだけなの」
こうやって、本気で心配してくれると僕はいたたまれない気持ちになってしまう。
だって本当の僕はかなりの健康優良児で、家族がインフルエンザにかかっているときだって、一人だけ元気で過ごしてしまったくらい健康には自信があるんだ。
だけど女装しているから着替えなんて出来るわけないから、苦肉の策として、結果こういう嘘を吐かざるを得なくなっている。
恐らく僕は嘘を吐いている心苦しさから、余程ひどい顔をしていたんだろう。気遣うように佐藤が声をかけて来た。
「辛い事とかあったら、遠慮なく言えよ。力になるから」
僕はびっくりして佐藤の顔を見た。
そんなに親しい間柄でもないのに、僕にまで気を遣ってくれる。梓の周りにはホントに良い人たちが集まっているんだな。
「ありがとう」
僕は安心してもらうために、にこりと笑った。
そして、出口近くで待ってくれている二人の下に小走りで駆け寄った。
廊下を三人で歩きながら、「佐藤君って、優しいんだね」と感心したように言うと、まどかが僕を楽しそうに見つめる。
「何、何?由紀ちゃんってもしかして佐藤に気があるの?」
「は?違う、違う。そうじゃなくて、さっき無理するなって感じで気遣ってくれたから。…まどかも梓も優しいし、何か恵まれてるなって思って」
「キャー、何この子。めっちゃかわいいんだけどー」
むぎゅうというくらいの勢いで、まどかが抱き着いてきた。いつものまどかの抱き癖だ。これは、本気で焦る。
僕は、胸が無いのをばれないように両腕を前でクロスさせながら、顔を真っ赤にしながら抵抗した。
「ほら、まどか。由紀が恥ずかしがってるから」
そう言って、梓がまどかの肩を掴んで引きはがしてくれた。
「だって、由紀ちゃん可愛いんだもん」
「まあ、確かに可愛いけど」
今度は梓が僕の頭に手を乗せて、顔を覗き込んできた。かなりの至近距離で見る梓の顔に、僕は火を噴きだしそうなくらい顔が熱くなった。
梓は、目をぱちくりさせて、急に僕を抱きしめる。
「まどかの気持ちが分かった気がする~」
「でしょ?でしょ?」
「あ、ああ、あず…」
僕は、テンパって言葉も上手く紡ぎだせない。
好きな人に抱きしめられて、普通でなんかいられるわけもない。
僕の身長は情けないけれど、男にしては高い方では無い。かろうじて梓より五センチくらい高いくらいだろう。
梓が少し俯き加減になっているため、梓の息が僕の肩にあたる。
ヤバい、ヤバい!ヤバ過ぎるっ!
僕は妙なところを反応させないように、覚えたての数式を頭の中で羅列させていった。効果があるのかないのか分からないけど……。
ようやく梓は僕を解放したのだけど、茹蛸のように真っ赤になった僕の顔を見て、「由紀は危なっかしいなあ」と、肩を揺らして笑い続けた。
…男の僕としては、かなり情けない。
もちろん、男とばれるわけにはいかないんだけど。
まどかの言葉に梓も反応する。
「あ、そうだね」
体育着の入ったカバンを手に立ち上がった。僕も、一緒に立ち上がる。
「ねえ、由紀の心臓って、その…だいぶ悪いの?」
まどかが、言いにくそうに聞いてきた。
「まどか」
梓が気にして、たしなめるようにまどかの名前を呼ぶ。
「あ、ううん。大丈夫、気にしないで。その、昔に比べるとだいぶ良くなっているんだよ。だからこうして学校にも通えてるし。ただ、発作が起きると厄介だからって、用心しているだけなの」
こうやって、本気で心配してくれると僕はいたたまれない気持ちになってしまう。
だって本当の僕はかなりの健康優良児で、家族がインフルエンザにかかっているときだって、一人だけ元気で過ごしてしまったくらい健康には自信があるんだ。
だけど女装しているから着替えなんて出来るわけないから、苦肉の策として、結果こういう嘘を吐かざるを得なくなっている。
恐らく僕は嘘を吐いている心苦しさから、余程ひどい顔をしていたんだろう。気遣うように佐藤が声をかけて来た。
「辛い事とかあったら、遠慮なく言えよ。力になるから」
僕はびっくりして佐藤の顔を見た。
そんなに親しい間柄でもないのに、僕にまで気を遣ってくれる。梓の周りにはホントに良い人たちが集まっているんだな。
「ありがとう」
僕は安心してもらうために、にこりと笑った。
そして、出口近くで待ってくれている二人の下に小走りで駆け寄った。
廊下を三人で歩きながら、「佐藤君って、優しいんだね」と感心したように言うと、まどかが僕を楽しそうに見つめる。
「何、何?由紀ちゃんってもしかして佐藤に気があるの?」
「は?違う、違う。そうじゃなくて、さっき無理するなって感じで気遣ってくれたから。…まどかも梓も優しいし、何か恵まれてるなって思って」
「キャー、何この子。めっちゃかわいいんだけどー」
むぎゅうというくらいの勢いで、まどかが抱き着いてきた。いつものまどかの抱き癖だ。これは、本気で焦る。
僕は、胸が無いのをばれないように両腕を前でクロスさせながら、顔を真っ赤にしながら抵抗した。
「ほら、まどか。由紀が恥ずかしがってるから」
そう言って、梓がまどかの肩を掴んで引きはがしてくれた。
「だって、由紀ちゃん可愛いんだもん」
「まあ、確かに可愛いけど」
今度は梓が僕の頭に手を乗せて、顔を覗き込んできた。かなりの至近距離で見る梓の顔に、僕は火を噴きだしそうなくらい顔が熱くなった。
梓は、目をぱちくりさせて、急に僕を抱きしめる。
「まどかの気持ちが分かった気がする~」
「でしょ?でしょ?」
「あ、ああ、あず…」
僕は、テンパって言葉も上手く紡ぎだせない。
好きな人に抱きしめられて、普通でなんかいられるわけもない。
僕の身長は情けないけれど、男にしては高い方では無い。かろうじて梓より五センチくらい高いくらいだろう。
梓が少し俯き加減になっているため、梓の息が僕の肩にあたる。
ヤバい、ヤバい!ヤバ過ぎるっ!
僕は妙なところを反応させないように、覚えたての数式を頭の中で羅列させていった。効果があるのかないのか分からないけど……。
ようやく梓は僕を解放したのだけど、茹蛸のように真っ赤になった僕の顔を見て、「由紀は危なっかしいなあ」と、肩を揺らして笑い続けた。
…男の僕としては、かなり情けない。
もちろん、男とばれるわけにはいかないんだけど。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる