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プロローグ

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「由紀也、明日から授業始まるんだね…。頑張ってね…」

ため息交じりに姉の千代美が話しかけてきた。
可愛そうにという心の声が聞こえてきそうだ。

「うん…」
僕も思わずハアッとため息を吐く。

「お母さんもさんざん止めたんだけどね、本当にもうお父さんときたらっ」

少し離れたところから、母さんも同情の意を込めて会話に加わる。3人とも軽くうなだれ気味だ。そんな姿を同情するように二人の劇団員がこちらを見ていた。

僕、沢村由紀也の家は大衆演劇を営んでいる。

だから僕も当たり前のように、幼いころから演劇が身近にあり、物心ついた時には父の指導の下、踊りやら芝居やらを習わされていた。そしてまた、それは僕にとっても当たり前の日常として受け入れられていたのだ。

父は、普通に逞しくて男らしいのだけど、僕はどういうわけか母のDNAを多く受け継いでしまったようで、線は細く女顔だ。だから僕は、劇団むらさきの看板女形として活躍中…、と思っていたのだけど…。
父には、僕の女形の出来具合がどうも気に入らなかったらしい。しかも、それはかなり長い間父の中での不満だったらしく、半年前、ついにそれは爆発した。

「由紀也、お前の女形はなんだ!」
「へ?」
「へじゃない。馬鹿者!所作も何もかも、色気も素っ気もない」
「こんなんで、客の心をつかめると思っているのか?」
「色気って…。流し目だってちゃんとそれなりに…」
「出来てない!お前はどっからどう見ても男が女の真似事をしているだけだ」

いや、女形ってそういうものだろ?バッカじゃねーのこの親父、と思っていたら突然爆弾をぶち込まれた。

「由紀也、お前高校は中条高校に行け」
「は?」
「あそこは父さんの幼馴染が経営している私立高校だ」
「事情を話しておくから女子として学校に通え」
「は、はあっ!?」

何言ってんだこの親父!いくらなんでもありえねえだろ!

「一瞬たりとも気を抜くなよ。男子とばれたら恥をかくぞ」

あり得ない話を、まさにあり得ないくらい大真面目に話すバカ親父にめまいがしてくる。もちろん必死で抵抗したのだが、芝居バカの親父には、まったくもって通用しなかった。
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