実はこっそりあいつに溺れてますが、何か?

らいち

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第三章

視線が怖いんだけど

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   学校が休みの日はのんびりだ。いつもよりゆっくり起きて朝食を取った後、またベッドに寝転がってSNSを見る。そんなふうにだらだらと過ごしていたら、いきなり電話が入って驚いた。
 加代子からだ、何だろう急ぎかな?

「もしもし?」
「もしもし、神。今日暇?」

 開口一番にこれか。らしくて、ちょっと笑う。

「暇かなあ?」
「……暇じゃないわけ?」

 あっ、拗ねた。可愛いけど面倒なことになったら困るから、ちゃんと答えてやろう。

「特に用事は無いよ」
「本当? じゃあ、今日私のお家に来て。あっ、私の家覚えてるかな?」
「それは覚えてるけど……加代子の家に行くのか?」
「……いや?」
「嫌なことは無いよ。加代子に招待されるのは珍しいから、ちょっと驚いただけだ」
「本当? 良かった、じゃあ二時頃にでも来てくれる?」

「オッケー。……あっ、そうだ! 昨日、加代子にジャケット貸すって話してただろう? サイズの確認もしたいだろうから、今日ついでに持ってってやるよ」

「ありがとう、じゃあ待ってるから」
「うん、じゃあ後でな」

 電話を切って首を傾げた。昨日は結構拗ね続けていたから本気で怒っているのかと思ったんだけど、そうでもなかったのか?
 まあ、いいか。せっかくの加代子のお誘いだ。少しは機嫌もとってやらなきゃな。

 僕は母さんに加代子に貸す予定のジャケットを出してもらって、約束の二時には加代子の家に着くようにした。

「いらっしゃいませ、神様。お久し振りでございます」

 出迎えてくれたのは佐倉家の家政婦さんだ。確か彼女は、加代子に恵美ちゃんと呼ばれていたんじゃなかったかな?

  しかしその可愛らしい呼び名に反して、彼女にはかなりの威厳がある。どう表現していいのかはわからないのだけど、武道を嗜んでいるからなのだろうか? 人を威圧する雰囲気を持っていて、かなり迫力があるのだ。

  そんな男もタジタジとするような家政婦さんだけど、僕の記憶が間違っていなければ、彼女は確か随分と加代子を溺愛していたはずだ。

「こんにちは、お久し振りです。加代……加代子さんに呼ばれたんですけど、いますか?」
「はい、お待ちになっておりますよ。どうぞお入り下さい」

 玄関を通されて中に入ると、おばさんが顔を出した。

「あらあら、神君ね。いやだわ、見ないうちに大きくなっちゃって。皆さん元気?」
「ご無沙汰していてすみません。みんな元気です」

「そう、良かったわ。こちらこそ、加代子が仲良くしてもらっているのに何の挨拶もしていなくて申し訳ないわ。お父様やお母様によろしく仰ってね」

「はい、ありがとうございます」

 なんて加代子のお母さんと挨拶を交わしている間に、家政婦さんが僕の到着を加代子に知らせに行ってくれていたらしい。加代子が奥の方から慌ただしく出てきた。

「神!」
「やあ、来たよ」

 片手を上げて加代子に向かって挨拶をすると、彼女は少しはにかんだような表情を見せた。……可愛い。

 だがその背後には、威厳を通り越し僕に刺すような視線を送る家政婦の姿。冷や汗が出そうだ。
 汗を拭くためにハンカチを取ろうと思い、手に荷物を持っていることに気が付いた。

「ああ、そうだ。ジャケット持って来てるけど。今、着てみる? 少し大きいかもしれないけど」
「うん」

 僕がそう言うと、加代子の表情が嬉しそうに変化する。ただ服を貸すという事くらいで喜ぶ加代子が、クッソ可愛い。
 ジャケットを渡すと加代子はその場で袖を通した。袖丈は確かに少し長いが、却ってこのくらいの方が可愛く見える。おまけにこいつ、小柄のわりに胸が大きいから、そんなにブカブカ感が無いんだよな。

「このくらいなら構わないよね」
「そうね、直すほどの事はないわね」
「僕もそう思う。このくらいなら萌え袖だ」
「えっ? 本当? じゃあ恵美ちゃん、これしまっておいて」
「畏まりました」

 加代子から恭しくそれを受け取った家政婦は、顔を上げた後僕のことをジッと見た。その目つきは鋭くて、何だか責められているような気にもなる。

「神、部屋に行こう」

 そう言いながら加代子が、僕の腕を引っ張った。

「神君、ゆっくりしていってね」
「……後でお茶をお持ちします」

 おばさんの優しい笑顔と家政婦の無表情な真顔に見送られ、僕は加代子の部屋へと向かった。
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