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第一章

隠れた本音

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「行ったか……」

 加代子は僕の姿が見えなくなるまで、有理奈さんと競うように一生懸命手を振っていた。
 本当に可愛いんだよな、加代子って。有理奈さんに対抗意識を燃やして必死になって。しかも、あんなふうに抱き着いてくるなんて……。
 
 少し肌寒さを感じ始め家に入ろうと思った時、一台の車がこちらに近づいて来た。よく見覚えのある車だ。

「よう神、珍しく出迎えに出て来てくれたのか?」

 軽口を叩きながら、車から従兄の芳樹が降りてきた。千秋も一緒だ。

「まさか、芳樹達が来ることすら知らなかったのに。今さっき加代子達が帰ったところだったんで、見送ってたところだ」
「え? 加代子ちゃん来てたの? 会いたかったなあ」
「千秋は加代子のこと気に入っていたよな」
「そうよー。てか神、千秋お姉様でしょう?」
「はい、はい」
「はい、はいじゃないわよ。本当にあんたってば、可愛げないわよね」
「で? 今日は、ゆっくりしていくの?」

「いや、母さんが前に借りた着物のお礼に、伯母さんに渡して欲しい物があるって言ってたからさ。代わりに俺達が届けに来ただけだから」

「へえ? わざわざ代理に二人で?」
「だって、ここに来たら優作お兄さんがケーキとかクッキーとか作ってくれるじゃない」
「また兄さんかよ」
「え? 何?」
「いや、別に」

 思わず口に出してしまっていた。加代子が昔優作兄さんにべったりだったことを思い出して、ちょっと頭に来ていたから。
  まあ冷静に考えれば、加代子は兄さん自身を好きというよりも、作るスイーツの方に興味があるんだろうけど。

「……ところで、神さっき加代子達って言ったわよね。まさかまた、他に女の子達をはべらせていたんじゃないでしょうね?」
「……加代子と有理奈さんだけだよ。しかも加代子は、連絡も無しに後から来たんだからな」
「神、あんたねえ」

「おいおい、千秋。神をそんなに責めるなよ。こいつもこんだけモテるんだからさ、なにも今から一人の女の子に決めることもないだろう?」

「だけど神、加代子ちゃんの事好きなんでしょう?」
「……それは、まあ」
「だったらさっさと告白でも何でもすればいいのに。本当に二人とも、あの時からちっとも成長してないんだから。呆れるわ」

 千秋の言葉に、僕と芳樹は顔を見合せて苦笑いをした。千秋にとっては兄である芳樹でさえも、だらしのないバカな男になるらしい。
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