実はこっそりあいつに溺れてますが、何か?

らいち

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第一章

もう帰る時間だね

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「なら、いいじゃない。……うわっ、この神君可愛いわね」
「えっ? どれどれ? わっ、本当だ。なにこれハロウィンの?」

 おそらく小学校二年生くらいの神だろう。吸血鬼か悪魔のコスプレのようで、襟の立った黒いマントを羽織り、中には黒地に赤い刺繍のシャツを着ている。おまけにしっかり化粧までしていて、恐ろしいくらいの可愛さだ。

「ああ、そうだな。確か芳樹よしきの家のハロウィンパーティーの時のだ」

 あー、確か四つ上の従兄の……。あの人もいつも何人もの女の子を侍らせていたような。

「どうした?」

 その従兄が神に悪影響を与えているってずっとそう思っていたから、知らないうちに私は眉間に皺を寄せていたようだ。神にグニグニと眉間を揉まれて気が付いた。

「や、別になんでもない」
「わー、さすが神君よね。こっからはドンドン格好よくなって行くわ」

 やけに大きな有理奈さんの声に、ぱっと神が私の眉間から指を離した。
 有理奈さん、絶対わざとだ。

 でもそうこうしながらも、私たちは神の写真をたっぷり堪能して楽しい時間を過ごす事が出来ていた。

「そろそろ日が暮れて来たな。暗くならないうちに帰った方がいいんじゃないか?」
「あっ……」

 あまりにも楽し過ぎて気が付かなかったけれど、確かに外が少し薄暗くなり始めている。私も有理奈さんも帰ろうかということになった。

 三人で神の部屋を出て階段を下りていると、「ただ今」と声が聞こえて来た。どうやらおばさんが帰って来たようだ。
 神がおばさんの所へと真っ直ぐ歩いて行く。

「お帰り、母さん。ランチ会楽しかった?」

「ただいま。楽しかったわよ~。久しぶりの集まりだったから、ついつい長居しちゃった。……って、あらもしかして加代子ちゃん?」

「あっ、はい。お久し振りです」

 おばさんに会うのは、それこそ数年ぶりだ。懐かしくて駆け寄り、ぺこりと頭を下げた。

「随分大きくなって、お姉さんになったわねえ」
「エヘヘ。そうですか?」
「中身はあまり変わらないだろう?」

 横から茶々を入れる神を軽く睨んだ。

「あのっ、初めまして! お邪魔していました。田端有理奈です!」

 らしくないやたら元気なはきはきとした声で、有理奈さんが割り込んできた。ちょっぴり緊張気味なその顔が、妙に新鮮に見える。

「あら、初めまして田端さんね。こんばんは」
「こっ、こんばんは!」
「あれ? もしかしてもう帰るの?」

 台所の方から優作お兄さんが顔を出した。

「はい、ごちそうさまでした」
「すごく美味しかったです。ご馳走様でした」
「どういたしまして。ああそうだ、よかったら送って行こうか?」
「あら、いいわね。そうしてあげなさい。二人とも、今日は遊びに来てくれてありがとう。またいらしてね」
「はい、ありがとうございます」

「さ、じゃあ行こうか」

 お兄さんの呼び掛けに、私達は続いて靴を履いて玄関を出た。神も見送ってくれるつもりなのだろう。一緒に外に出て来てくれた。

「どうぞ」

 優作お兄さんは後部座席の扉を開けて、私達を促した。私が後から降りるコースをとるというので、私は奥の方へと座った。

「僕も一緒に乗ろうかな?」

 見送りじゃなくて神も一緒に送るつもりでいただなんて思いもよらなかったので、私達はその一瞬で急浮上に喜んだ。……なんだけど、次のお兄さんの一言でそれは束の間の喜びになってしまう。

「いいよ、お前は。宿題まだ済ませていなかっただろう? 戻って勉強してろ」
「ええっ?」
「なんだ? そんなに勉強したくないのか? ……それともそんなに離れ難いか?」

 優作兄さんのからかうような口ぶりに、神はちょっとムッとしたようだった。

「……別に。宿題すればいいんだろう? じゃあ頼むよ」
「おう」
「それじゃあ、加代子も有理奈さんもまた明日」
「……うん。今日は楽しかった、ありがとう」
「神君、また明日ね」

 お兄さんが運転席に座ったのを見た神が、車から少し離れた。それを合図に車がゆっくりと走り出す。神は私達を見送り手を振ってくれていたので、私達も後ろを向いて神に手を振り返した。二人で競うように手を振って、それは神の姿が小さく見えなくなるまで続いた。
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