上 下
1 / 47
第一章

そこは私の場所なの!

しおりを挟む
「家に来るのは久し振りだなあ……」

 日曜日の午後、なんとなく暇を持て余してじんに会いたくなった私は、久し振りに彼の家を訪れてみた。連絡なんてしていない。居なければ居ないでいいと思ったから。明日は学校だし、しかも私達は同じクラスで、絶対に会えるわけだから。

 ピンポーンとチャイムを鳴らすと、二十代前半の綺麗な男の人が顔を出した。神のお兄さんだ。

  ヤバい。元々よく似た兄弟だと思っていたけど、しばらく会わない内に神を大人にして色気倍増させた風貌になっている。
 もちろん私が好きなのは神だけど、こんなによく似て、しかも神より格好良いとあってはドキドキしちゃうのも無理ないよね。

「あれっ? もしかして加代子かよこちゃん? 久しぶりだね」
優作ゆうさくお兄さん、お久しぶりです。あの、神いますか?」
「神ね……。いるよ、どうぞ入って」
「失礼します」

 靴を脱ごうとしてふと見ると、どう見ても女子の物だとしか思えないスニーカーがある。
  この家に女の人はおばさんしかいないし、おばさんの物かもしれないけど……。なんか違和感。

「ちょっと待ってて」

 お兄さんは私をリビングで待たせて、奥の部屋へと入って行った。
 それから待つこと数分。だけど神は、ちっとも顔を見せようとはしなかった。

 そう言えばお兄さんの様子、少しおかしかったよね。おまけにあのスニーカー。

 ちょっと見に行ってみよう。 

 私は待つのを止めにして、神の部屋に向かうことにした。

 小学校のころまでは、よく家族と一緒にこの家に遊びに来たものだ。だから神の部屋がどこなのか、ちゃんと覚えている。
 リビングを横切って、階段を上る。確かその二番目の部屋が、神の部屋だ。近付くと、中から話し声が漏れてきた。よく見ると、ドアはほんの少しだけ開いている。

「……だからさ、先約がいるんだから加代子にはうまく断ってよ」
「そうは言ってもな、せっかく加代子ちゃんが来てるんだぞ」 
「加代子が来たからって、美人の有理奈さんとの時間を放棄出来るわけないじゃないか、なあ?」
「ねー?」
「なんですって!」

 相変わらずの神の態度にぶち切れて、思いっきりドアをバタンと開けた。

「うわっ! びっくりしたー。いたんだそこに」

 急に私が現れたのに神も驚いていたけど、有理奈さんなんて心底驚いていて、神に飛びついていた。

 ちょっと~。……失敗した。もっと静かに入ってくれば良かった!

 ……て、私だと分かってもう落ち着いたはずなのに、有理奈さんは未だに神にしがみついたままだ。

「そこ! そこ私の場所なんだから離れて!」
「はい~?」

 美人な顔を歪め、有理奈さんが下から私の顔をねめつける。

「離れてよー」
「嫌ぁ」
「いーやーだー」

 なんとか有理奈さんを神から引きはがそうと躍起になるのだけど、彼女の腕はさっきよりも神の腕に固く絡まっている。

「もう~!」
 学校一の美女だか何だか知らないけど、彼女はいつも強気だ。三年生のくせに年下に譲ろうという気なんてこれっぽっちも無い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~

神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。 一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!? 美味しいご飯と家族と仕事と夢。 能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。 ※注意※ 2020年執筆作品 ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。 ◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。

処理中です...