核醒のカナタ -First Awakening-

ヒロ猫

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Dルート

5日目後編 核醒

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[???]
「ねえねえ、どうしてカナタはパパいないの?」

「お父さんはボクが生まれたときにとおくにいっちゃったってお母さんが言ってた」
ここは...また夢でも見ているのか?
俺の目の前には5歳の俺とその友達が公園の砂場で遊んでいる。
この前と同じで、公園の外は全て白い背景で塗りつぶされている。
ただ前と違うのは、俺の体が全く動かないことだ。
「見てよ、カナタ!すなのお城!」

「わぁー!」
この公園、小さい頃は毎日のように遊びに行ってたんだけど、何故か急に行かなくなったんだよな。
「...カナタのそれ、何?」

「これ、とりさん。どんなにとおくはなれてても、飛んでかけつけてくれるんだ」

「うわ、なにそれ...怖いよ!?カナタ!!」
小さな俺の背中が邪魔で何を見せているのかわからない。
だが友達はそれに恐怖の表情を見せながら立ち上がり砂場から逃げていく。
「まって!なんでにげるの!?」
困惑する小さな俺に何処からか母さんが近づいてくる。
「カナタ!それ、どうやって使ったの!?」

「すごいよお母さん!あたまでかんがえたものがね、そのままでてくるんだ!でもね、カンタ君にげちゃったの。こわがりなんだあいつ!」

「カナタ、その力は絶対に使っちゃダメ。使ったら皆が不幸になっちゃうものなの」

「そうなの?でもつかうと楽しいよ?」

「ダメなものはダメなのよ...お願いカナタ」
母さんは小さな俺の肩に手を置きながら話す。
「...これ使うとお母さんもお父さんも悲しんじゃうの?」

「そうよ。だから約束できる?絶対にその力は今後使わないこと」

「うん、つかわない。お母さんとお父さんが悲しんじゃうなら、使わない」

「ありがとう...」
母さんは小さな俺に抱きつく。その表情は悲しみに暮れていた。
すると突然地面が崩れ、公園の遊具が奈落に落ちていく。
またこれか!?
次第に母さんたちの姿が見えなくなっていく。

――もし、もしもの話だけど。どうしてもその力を使わなくちゃいけない時が来たらね...

箱の中身だけは、絶対に開けちゃダメよ





[ᛖᚨᚱᛏᚺ]
大量のビル。一見大都市と思われるその街には電気が通っていないかのように光が一切なく、月明かりだけがビル群を照らしている。
道路の真ん中には車が何台も止まっているが、人のいる気配はない。
この不気味な街に二名の部外者が現れた。

ただ二名は地面に降り立つことはなく、逆に地面から離れていっている。
二人だけ重力が真逆に作用しているように空に向かって落ちていっているのだ。
だが、すぐ横のビルの窓を咄嗟に破り入る事で少年は一命を取り留め、怪物の方はビルの壁に爪を立てる事で重力に逆らう。
そのビルの一室の天井に俺は立っていた。

...ここは、まさか俺のいた世界に戻れたのか?いや、それよりなんだこの重力。
俺だけ逆さになっているのか?

真上に見えるデスクに置いてある書類などは元の重力に従っているようで天井に落ちてくる気配はない。
「がぁぁあああああああああ」
ビルの外から化け物の声が聞こえる。

あいつも生き延びやがったのか。

急いで右手に長剣を生成させ、戦闘態勢に入る。
だがその前に俺の体はビルの壁へと落下していった。

重力が変わった!?

重力に逆らえず足が浮き出しすぐにビルの外と中との境界線の壁へと激突する。
そして化け物の声とともにその壁は破壊されてしまった。
床として俺を支えていた壁はそのまま瓦礫となり地面に落ちていき、身体は外へと浮き出ていく。

まずい、このままじゃ...

すぐに長剣を壁に突き刺そうとするが、それは化け物の爪によって防がれる。

こいつ...!壁を器用に這いずっているのか!
もはや知能は無いと思っていたが、臨機応変に対応できるほどの脳は働いているようだ。
ビルの外に落ちていく身体は10メートルほど落下したところで再びビルの側面に引き戻される。

また重力が変わりやがった...!

ビルの壁に打ち付けられた俺はすぐに立ち上がり、壁を這いずる化け物と対峙する。
化け物の身体は黒い背景に淡く光る月によって黄色く照らされていた。

「...」

「がぁぁぁぁぁ...」

長剣を...振りかざす――

”ガキッ”

爪と長剣が交差する。
すぐに左腕を巨大化させるが、化け物の鉤爪によって呆気なく弾き飛ばされる。
それと同時に重力が変化し、俺と怪物は徐々に地面の方向へ壁を滑らせていく。

今元の重力に戻ったら...!?
下は数十メートル先の道路。このまま落ちれば待っているのは死。
すぐに左腕を生成させ、壁にぶっ込む。
左腕だけで支えられている身体は必死に地面を探そうと足を動かしている。
真上は今にも落下しそうな化け物が声を荒らげながら爪をビルの壁に立てている状態だ。

「がぁぁぁああああああ!!」

「耳元で叫ぶんじゃ...ねえ!!」

右手の長剣で無防備な化け物の肩を突き刺す。
肩からは血しぶきが吹き出し、顔にかかってくる。
「がぁぁああああああああああああ!!」

化け物は重力に逆らうのをやめて、俺に飛びかかってくる。

「うぉあ!?」
突如降り掛かってくる数百キロの重量に左腕は耐えられるはずなく俺と化け物は地面に向けて勢いよく落ちていく。

まずい、このままじゃ地面と化け物に挟まれて圧死する!!

すぐに左腕を大剣に変化させ、化け物の腹にどうにか突き刺す。
すると化け物は唸り声をあげて俺から離れていく。それを逃さないように大剣を振り回し、化け物の身体を俺の真下へと投げ飛ばす。
そのまま化け物の身体をクッションにするように俺は地面に落下していった。

”グチャリ”
肉が潰れ、血が飛び散り背中に強烈な衝撃が走る。
が、どうやら生きて降りられたようだ。
下に無惨に潰れている化け物からすぐに離れる。
周りには駐車場といくつかの車、そしてビル群に道路。
まるで元いた世界のような感覚が感じられるが、よく見ると地面には亀裂が入っており、車の窓ガラスは割れており、周りの建物は一切の光を発していない。

取り敢えず、探索を...

「ぁぁぁあああああ、がぁあああああああ!!」
背中からうめき声と叫び声が聞こえる。
振り返るとそこには、先程潰れて肉塊になったはずの化け物がいた。
「不死身かよ、お前」

もはや呆れるほどの耐久度だ。
化け物は潰れた肉をうねうねと動かししながらこちらに飛びかかってくる。
距離およよ20メートル。
すぐに横に飛び跳ねる事でギリギリ攻撃を躱す。
ドスンという音とともに地面に大きな亀裂が出来上がる。

直線で逃げればすぐに追いつかれるな...

ビルとビルの隙間に入り込み、路地裏を走っていく。
流石にあの巨体ならこの狭い所には入ってこれまい。そして目の前のドア。
恐らくBARか何かの店だろう。
後はこのドアが空いていれば...

そう思っているのもつかの間、路地裏を作っていた二つのビルは突如根本から倒壊していく。
煙が上がり、瓦礫が大量に降り落ちてくる。

「もうなんでもアリかよ!」

すぐに左腕を巨大な半円に変化させ、しゃがんでシェルターのように身体を多い込ませる。
視界は真っ暗になり、建物の崩れる音と化け物の雄叫びが外から聞こえてくる。
騒音は次第に消えていった。

そろそろか...?

シェルターを解除し元の左腕に戻す。
周りには瓦礫の山と...

四足歩行の化け物が目の前に佇んでいた。

「化け物にしては待ち伏せとは、結構知性残ってんじゃないか?」

その一言とともに前足から放たれる振り払い。
両腕で守りの体制になるも化け物の腕力に負け、俺の身体は瓦礫の上に打ち上がっていく。

「ぐっ!!」

だが逆にこれであの化け物から離れることが出来た。
そのまま数十メートル先の広い道路まで吹っ飛ぶと、バランスを上手く取りながら地面に着地する。
足先から痺れと衝撃がくるも、幸いそこまでの痛みは感じない。右腕も多少の傷は出来ているがまだ許容範囲だ。
「がぁあああああ!!」
すぐに化け物は瓦礫の山から飛び出し、俺のいる道路にやってくる。

...逃げていては埒が明かない。

「来いよ...化け物!!」
左腕を巨大化させ、その姿を鋭い刃へと変化させる。

―――これ以上使いたければ、最後の封印を解くがいい

ドクンという心臓の音とともに突然右手の円模様が刻まれている部位に激痛が走る。

「ぁぁあぁあああああ!?」
円模様から黒い回路が全身に広がっていき、それとともに内蔵を鷲掴みにされるような痛みが襲う。
その様子を見た化け物は道路に止まっている赤い軽自動車を器用に持ち上げると、こちらに向けて投擲してくる。

痛みに耐えながら左腕をどうにか振り上げ、飛んでくる車を真っ二つに切り落とす。
車は激しい火花を散らしながら後ろにスライドしていき、数秒で爆発した。

だがそれは揺動。化け物は車の後ろに隠れるように一緒に飛び込んでいたのだ。

「なっ!?」

「がぁぁあああああああああ!!」

腹を抉られるような痛みがきて、口から血が吐き出される。
それと同時に衝撃が全身を襲い、俺の身体は後ろへと高速に吹き飛んでいく。
目まぐるしい景色の変化と風圧を肌で感じる。
そのまま数百メートル離れた廃ビルの壁に強く激突して、俺の体は瓦礫とともに地面に垂れ落ちた。

「ゴホッ...ガハッ...」

まずい、息が上手く出来ない、息を、息をしなければ...
だがそのように思うほど血が口から吐き出されていく。
殴られた箇所は大きな跡が出来ており、恐らく肋骨は数本折れているだろう。
だが逆にこの程度で済んでいるのはやはり核石のおかげなのだろうか。

遠く離れた先の歩道に化け物が降り立つ。
恐らく数秒でこちらまで走って来れるだろう。

「はぁ、はぁ、はぁ...」

恐らくさっきのは警告。
もうこの力を使うエネルギーは体に残っていないと示すように右腕に伸びていた回路は手背の紋章に戻っていく。

チャンスはこの一度きりだけ...

再び左肩から巨大な刃を創造する。
イメージをよりはっきりと...
その刃は先程よりもより鋭く、凶器性を持っていく。
それと一緒に全身に激痛がやってくる。

「ぁぁぁァァアアアアアア!?」

肩は痛みで震え、刃が上手く前に構えられない。

こんな所で諦め切れるか!!

右手で刃を無理やり押さえつける。掌から血が吹き出し、回路は再び伸び身体を蝕む。
だがお陰で狙いを定める事ができた。
刃先の数百メートル先で化け物は飛び上がりまっすぐとこちらへと向かってくる。
回路は顔まで伸びると、左目に迫り、新しい眼球を生成する。
黒い眼ははっきりと光を取り戻し、ようやく両目で景色を見ることが出来るようになった。

.........昔から約束は嫌いなんだ...母さん、ごめん。

刃から黒い波動が辺りに発せられ、激しい風圧が邪魔な瓦礫共を吹き飛ばす。

「そんなにこっちに来たいならよぉ...」

化け物は残り数十メートル近くまで迫ってきている。
バカ正直にまっすぐと。
お陰で今はしっかりと頭を狙うことが出来る。

「地獄まで付いてきやがれ!!」

轟音とともに黒い刃は光を放ちながら化け物目掛けてまっすぐと撃ち放たれる。
化け物よりも速く。心臓の鼓動よりも速く。
穿つは脳天。
飛ばされた刃は化け物の頭に突き刺さると、そのまま全身を真っ二つに貫いていく。

「がぁぁぁあああああ!?」

そしてそのまま大きな光を発すると、刃は大量のエネルギーを暴発させるように黒い爆発を巻き起こす。

爆風で俺の身体が後ろに跳ね除け、もたれかけていた後ろの建物は崩壊していく。

そのまま周りの建物、道路全てを巻き込むような大爆発になると、轟音を起こしながら爆発は収まっていった。

もはや街とはいえない有様になった瓦礫の山には、一人の少年だけが倒れていた。




......目を覚まして下さい。

視界に光が差し込んでくる。
これは現実か?それとも死後の世界か?
アスファルトの硬い感触...冷たく吹き込んでくる風。
目の前には太陽の光に照らされて神秘的な雰囲気を漂わせている女性がいた。
天使のような真っ白な服で身を包み、美しい顔には金色の髪がなびいている。

「...こ...こは?」

「ここは地球です」

「ち...きゅう?」

「はい。もっとも貴方のいた地球とは別の地球ですが」
思考が...思考がまともに動いていない。
呂律が上手く回らない。
「来訪者は100年ぶりなので気づくのが遅くなってしまいました。申し訳ありません」
女性は倒れている俺の横に座りながら話す。
「私はアテネ。この星の管理者だった者です」

「か...りしゃ?」

「百年前までこの星は緑豊かで人々が盛んに歩いていました。ですがある時、悪しきものの策略により核石が暴走し、この星中の人間を巻き込んだ最悪の願いが叶えられてしまったのです。その結果この星から殆どの人間は死滅し、生命は枯れ、生物は環境汚染により数を減らしていきました」

なんの話をしているんだ...?

「貴方はここに自らの願いを叶えに来たのでしょうが、残念ながらそれは出来ません。もうこの星の核石にはその願いを叶えるエネルギーは残されていないのです」
そう言うとアテネは右手に付けているブレスレットを見せる。
そこには今にも光を失ってしまいそうな石がはめられていた。

「...かく...せき?」

「はい、ただ絶対に叶えられないという事ではありません。この星のエネルギー全てと引き換えなら...恐らく一回だけなら願いを叶えることが出来るかも知れません」

願い......?俺の...願い。
元の...世界に.........

「もし...願いを叶えたら......この星は、どうなる?」
呼吸するのが段々苦しくなってきた。
「そうですね...生命という生命が死に絶え、今辛うじて生き残っている数千人の人間もついに死を迎えて、核石も消滅する。本当の意味で終焉が訪れるでしょう」

「......」

「貴方が深く考える必要はありません。これは当然の天罰。行き過ぎた力を使いすぎた結果一つの小さな惑星が消えるだけです。貴方が大切にしている人でも、貴方が見知っている人でもない。ただの赤の他人が勝手に死んでいくだけのただの事象だと考えて下さい」

「...君は?」

「私はもう疲れました。実は待ってたんですよ、この星を終わらせてくれる存在を。今叶えれば生き残っている人間は天国に行けると喜んで死を迎えられるでしょう。ただもし貴方がそんな彼らに会って、情を持ってしまえば、この地獄をもうあと100年続けなくてはならなくなるかも知れない」
少女は笑顔でこちらを見つめている。

「だからお願いです。貴方が終わらせて下さい」

...ああ。これは最悪の二択だな...

これまでの人生が走馬灯のように頭の中を巡っていく。

俺は声を発した。
最後に彼女は泣いていた気がする。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――終焉と共に虚無が訪れる。

END D[destiny of Extinction]
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