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4日目後編 カ ク セ イ
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[闘技場]
突如空は巨大な戦艦に覆われ、暗闇に包まれる。
戦艦は不気味な機械音とともに巨大な砲台を大量にだすと、四方八方に狙いを定める。
それはこの闘技場も例外ではなかった。
観客席から悲鳴とともに大量の人が出口目指して逃げ出す。
一体さっきからなにが起きてんだ...?
「観客の皆様は避難指示が来るまで席を立たないでください!!」
司会の声は数万の足音にかき消される。
てかマルタとワキオはどこだ?
先程マルタ達が座っていた席の方に目をやるが、そこはすでに観客で溢れだれがどこにいるかわからない状況だった。
...だめだ、人が多すぎて分からねえ。
「来るとは分かっていたが、これほど巨大な存在とは」
横を見るとレインが少し驚いたような顔をしていた。
「あれって一体何なんなんですか!?」
「先日アディビアの森で見張り兵と隣国の使節団が数十人行方不明になった。そのときの唯一の痕跡が、この星にない物体」
「え?」
「つまり別の星からの来訪者ということだ。お前たちと同じようにな」
だとしたらおかしい。俺達がいた世界にはこんな船が空を飛ぶ技術なんてないはず。
だったらあれはなんなんだ?何処から来た?
ますます訳が分からなくなる。
「そしてあの戦艦の目的はおそらくこの星を滅ぼすことだ」
「なんでそんなこと!?」
「今より遠く。星からの黒い兵地に落ち、この星赤く染まる...500年前から伝えられている予言だ。最初はお前たちを警戒していたが、お前たちの行動や先の事件を期に別の存在の可能性が高いという結論にたどり着いた」
予言?なんだか知らないが良くないことが起こりそうな言葉が並んでいる。
だが初日の3時間の事情聴取や夜中のリリス、姫様との話の意味が少しわかった気がする。
最初から俺達は異世界からきた一般人ではなくこの世界を滅ぼしかねない人物と思われてたのか。
「リリスが防御魔法を今かけているからしばらく闘技場内と周辺は安全だろう。だがしばらくすればここも戦場になる。お前は他の観客と一緒にアディビアの森に向かえ。脱出用の転送魔法陣を置いてある。そこに入れば遠くの避難所に行けるはずだ」
そこまで言うと、突然空が白く輝く。
上を見ると砲台は光を放ち、エネルギーを貯めていっている所だった。
『ガードマジック:マキシマムシールド!!』
闘技場中央の上空にはリリスらしき人が詠唱を唱えて、それと同時にドーム状の透明なシールドが広範囲に張られていく。
それと同時に砲台に込められたエネルギーは巨大な音とともに解き放たれた。
”キ―――――――ン”
視界が真っ白になり耳鳴りが続く。
しばらくして目を開けるとそこには...
瓦礫の山となった闘技場...ではなく傷一つ付いていない闘技場が顕在していた。
上を見ると砲撃から闘技場を守り抜いた透明なシールドは今にも割れそうなほどのひびが入っている。
「た、助かった...?」
「いや、まだだ」
再び戦艦は不気味な機械音を響かせると、下の部分が大きく開き、そこから大量の兵士が落下してくる。
黒い雨のように大量に地面に降り落ちようとする兵士はシールドに阻まれると、腕を触手や棘などに変化させてシールドを壊そうと攻撃を始める。
「早く森に向かえ、元の世界に戻りたいならまずは生き延びろ」
「わ、わかりました」
騎士の言葉に押され、俺は急ぎ足で会場から出口に向かう。
通路は大量の人で溢れており、闘技場出口には避難指示を出している兵が見える。
だがいまだにマルタとワキオの姿が見えない。
先に脱出してるといいのだが...
[町:アディビアの森へと続く道]
闘技場から森に向けての道は防御魔法によってトンネル状のバリアによって守られている。
未だに数万の人々の列が続いているが、あと10分もすれば森に入れるだろう。
バリアの外は配慮のためか見えないようになっているが、激しい爆発音や悲鳴が時折聞こえてくる。
先程出口の避難兵に聞いたところ、幸いなことにトーナメント本戦ということでこの町にいるほぼ全ての人がこの闘技場内にいるため、避難が成功すれば人的被害は最小限に抑えられるらしい。
バリアが破られないことを祈りながら列に並んで進んでいく。
あと数十メートルのところだった。
外から声が聞こえてくる。
「おや、何もない場所に核石反応が...いや、これは透明な結界かバリアでしょうか」
バリアをガンガンと叩く音が聞こえる。周りの避難民が悲鳴をあげ、俺もその声の方向を警戒する。
「この星の妙な技術で逃げようとしたのでしょうが、残念でしたね」
バリアを叩く音が強くなる。
「貴方が持つ核石がある限り!」
段々とひびが入り、声がはっきりと聞こえてくる。
「どこに逃げようと無駄なんですよ!!」
”バリン”
ガラスが割れるような音とともに真横のバリアが破壊される。
その先にあったのは――
瓦礫になった町と転がっている死体、煙によって夜のように暗くなっている空。
そして、長身な体を赤いネクタイと黒いスーツで着こなしている男だった。
だが男は人にしては肌が青白く、背中には蝶の羽のようなものが生やした不気味なフォルムをしていた。
「キャアアアアア!!」
避難客が悲鳴と叫びをあげながら奥に逃げようと列を崩す。
列が乱されたトンネルはすぐに数千の人で溢れかえり、数名は破られた箇所から外に飛び出してしまう。
それは連鎖のように起こり、次々と避難民は自らを守るためのバリアから外に押し出されていく。
運が悪いことに俺は破られた箇所に近かったため、勢いよくバリアの外に押し出されてしまった。
「まさかこんなに人間が中に隠れていたとは、まさか人混みに紛れれば逃げられるとでも?」
男は訳の分からない言葉を言うと、羽を広げて宙に飛び立つ。
「悔やむがいい!その者の近くにいたことを!!」
男の羽が黄色い光を放ち始める。
これはやばい気がする...!
「みんな俺の後ろに隠れろ!!」
バリアの中から飛び出してしまった人に呼びかける。
集中しろ。
さっきの戦いを思い出せ...
――後ろの人達を守れる盾を
途端に手背の円模様が黒く光り、そこから回路状に線が広がっていく。
手の平に力を集中させるイメージをすると、次第に手掌に黒いエネルギーが溜まっていく。
それを巨大な黒い盾に変化させると、両腕で支えて持ち上げた。
「ハハハ!!耐えれるものなら耐えてみるがいい!!」
蝶男の羽に集まるエネルギーは、大きな音を出しながらこちらに放出され、そのまま盾に衝突した。
両腕に強い衝撃がくる。必死に足を踏ん張り盾を支える。
「うぉぉぉおおおおおおお!!」
雄叫びをあげ全身に力を込める。
だが、奮闘虚しく...
盾が破られる音とともに視界が真っ白になった。
[戦場]
次に目を覚ました時、目の前にあったのは黒い粉だった。粉は風によって舞い上がると、どこかへ飛んでいく。
ぼーっとする頭でゆっくりと立ち上がる。
どうなったんだ...
顔をあげて状況を確認しようとする。
だが確認することはできなかった。
なぜなら俺の目の前には男が立っていたからだ。
「...てめぇ」
蝶の羽根の音が不快に聞こえ、平然と立つ男に怒りを覚える。
「私の殺傷光線に耐えるなんて、中々やるじゃないですか。でも、貴方が守ろうとした人たちは全員粉になっちゃったみたいですけどね」
ハハハハと高らかに笑う男。
「もう時期貴方が逃げようとしていた空間に我々の兵が向かいます。ここから逃げられて安心してる人たちはどんな顔になるのでしょうか?実に楽しみです」
なにがそんなに楽しい?
目の前の男に明確な殺意を抱く。
「ああ、もうすぐ死を迎える貴方には関係ない話でしたか」
「...その前にお前ら全員殺してやるよ」
再び右手に力を集中させる。するとそこから真っ黒な長剣が生成される。
「やってみるといい」
蝶男もそれに反応するように右手の爪を鋭く伸ばす。
両者ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。
”キンッ”
火花を散らしながら剣と爪が交差する。
次に動いたのは蝶男だった。
男は蝶の羽根を広げると上空へ羽ばたいていく。
逃すまいと羽根を斬ろうとするも、風圧によって防がれる。
「逃げる気か!?」
「まさか!」
蝶男は数十メートルの高さまで上がると、そのまま俺に向けて猛スピードで滑空していく。
突進か!
まずい、長剣じゃ突進の衝撃に耐えられない。
すぐに長剣を盾に変化させると、上に向けて構える。
あと一秒遅ければ俺の体は粉々になっていただろう。
全身に重力と衝撃が襲いかかる。
支える腕と足がプルプルと震える。
「流石に耐えますか、だがこれはどうでしょうか?」
突然脇腹に激痛が走る。
そこには今真上にいるはずの蝶男が足蹴りをしていた。
「な...んで...?」
すると盾にかかる重力がスッとなくなる。
「脱皮というものです。知りませんでしたか?」
そのまま体は宙に打ち上げられる。
目まぐるしく変わる景色とともに背中に強い激痛が走った。
気が付いたときには俺は瓦礫の町ではなく森の樹木に激突して倒れていた。
「こんだけ飛ばされても死なないとは、しぶといですね貴方」
正面から蝶男の声がする。
立ち上がらなければ...
両腕に力を入れて立ち上がろうとした時、
”グチャリ”
と嫌な音がした。
突然左腕に力が入らなくなり、鋭い激痛が走る。
違和感の方向に目をやると、事態の深刻さを知った。
俺の左腕は原型を残さないほどぐちゃぐちゃになっており、すでに血だらけの肉塊と化していた。
「うぁぁぁあああああああ!?」
自分の腕の有様と激痛で口から悲鳴がでる。
「ハハハ!実に無様ですよ!!殺すと息巻いてこの様!笑いが止まらない!!」
ケタケタと腹を抱えて笑う男。
それよりも、出血が止まらない腕に危機感をもつ。
出血多量で脳の思考スピードは急速に遅くなっていく。
―――足りない...もっと、力...を...
薄れゆく意識の先に暗闇で見た黒い箱が現れた。果たしてこれは幻覚か現実か...
こいつを倒せるくらい..強い力を...
箱に右手を伸ばす。
右手は箱に触れると、手背の円が二つに増え、そこから光が溢れて俺を包んでいく―――
薄れていた意識は途端にはっきりとすると、体中に力を感じていた。
「ん?貴方、今何をしました?」
蝶男のくだらない問いには答えずすぐに立ち上がる。
左下をみると、潰れた左腕はいつの間にか巨大な黒い腕に変化していた。
「お前をぶっ殺す方法がやっと思いついたぜ、蝶野郎」
気分は絶好調だ。今にも目の前の男を潰したくなるほどに。
「...少々遊びすぎてしまったようですね」
地面に激しい風圧を巻き起こし蝶男は飛び上がる。
「逃がすかよ!!」
黒い左腕を勢いよく振り上げると、まっすぐ蝶男に向かって伸びる。
腕は蝶男の上昇スピードよりも早く伸びると、そのまま蝶男を鷲掴みにするように握り、すぐさま巨大な球体に変化して男を飲み込んでいく。
「なんだこの能力は!?貴様何をしたぁ!?」
球体から男の無様な声が聞こえてくる。さっきまでの丁寧な喋りはどうした?
「お前に殺されたやつはみんな粉みたいになるんだろう?だったらお前も粉微塵にしてやるよ!」
伸ばした左腕を大きく振りかざす。するとそれに釣られて左腕にくっついている球体が地面に叩き落される。
その衝撃で何本かの木が倒れ、地面が揺れるような感覚が足に響いた。
「ぶっ飛べ!!」
俺はボール投げのように真上に向かって左腕を振り上げると、蝶男が入った球体は腕から分離してそのまま天高く飛ばされる。
「やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ...」
蝶男の最後の悲鳴が聞こえなくなった所で、球体は爆発を起こした。
黒い爆発は遠くから見てもはっきり見えるほど大きくなり、その衝撃波と風圧で森がなびき大地が揺れる。
煙塵が舞う森の中心で、ひとつの大きな戦いが幕を閉じた。
突如空は巨大な戦艦に覆われ、暗闇に包まれる。
戦艦は不気味な機械音とともに巨大な砲台を大量にだすと、四方八方に狙いを定める。
それはこの闘技場も例外ではなかった。
観客席から悲鳴とともに大量の人が出口目指して逃げ出す。
一体さっきからなにが起きてんだ...?
「観客の皆様は避難指示が来るまで席を立たないでください!!」
司会の声は数万の足音にかき消される。
てかマルタとワキオはどこだ?
先程マルタ達が座っていた席の方に目をやるが、そこはすでに観客で溢れだれがどこにいるかわからない状況だった。
...だめだ、人が多すぎて分からねえ。
「来るとは分かっていたが、これほど巨大な存在とは」
横を見るとレインが少し驚いたような顔をしていた。
「あれって一体何なんなんですか!?」
「先日アディビアの森で見張り兵と隣国の使節団が数十人行方不明になった。そのときの唯一の痕跡が、この星にない物体」
「え?」
「つまり別の星からの来訪者ということだ。お前たちと同じようにな」
だとしたらおかしい。俺達がいた世界にはこんな船が空を飛ぶ技術なんてないはず。
だったらあれはなんなんだ?何処から来た?
ますます訳が分からなくなる。
「そしてあの戦艦の目的はおそらくこの星を滅ぼすことだ」
「なんでそんなこと!?」
「今より遠く。星からの黒い兵地に落ち、この星赤く染まる...500年前から伝えられている予言だ。最初はお前たちを警戒していたが、お前たちの行動や先の事件を期に別の存在の可能性が高いという結論にたどり着いた」
予言?なんだか知らないが良くないことが起こりそうな言葉が並んでいる。
だが初日の3時間の事情聴取や夜中のリリス、姫様との話の意味が少しわかった気がする。
最初から俺達は異世界からきた一般人ではなくこの世界を滅ぼしかねない人物と思われてたのか。
「リリスが防御魔法を今かけているからしばらく闘技場内と周辺は安全だろう。だがしばらくすればここも戦場になる。お前は他の観客と一緒にアディビアの森に向かえ。脱出用の転送魔法陣を置いてある。そこに入れば遠くの避難所に行けるはずだ」
そこまで言うと、突然空が白く輝く。
上を見ると砲台は光を放ち、エネルギーを貯めていっている所だった。
『ガードマジック:マキシマムシールド!!』
闘技場中央の上空にはリリスらしき人が詠唱を唱えて、それと同時にドーム状の透明なシールドが広範囲に張られていく。
それと同時に砲台に込められたエネルギーは巨大な音とともに解き放たれた。
”キ―――――――ン”
視界が真っ白になり耳鳴りが続く。
しばらくして目を開けるとそこには...
瓦礫の山となった闘技場...ではなく傷一つ付いていない闘技場が顕在していた。
上を見ると砲撃から闘技場を守り抜いた透明なシールドは今にも割れそうなほどのひびが入っている。
「た、助かった...?」
「いや、まだだ」
再び戦艦は不気味な機械音を響かせると、下の部分が大きく開き、そこから大量の兵士が落下してくる。
黒い雨のように大量に地面に降り落ちようとする兵士はシールドに阻まれると、腕を触手や棘などに変化させてシールドを壊そうと攻撃を始める。
「早く森に向かえ、元の世界に戻りたいならまずは生き延びろ」
「わ、わかりました」
騎士の言葉に押され、俺は急ぎ足で会場から出口に向かう。
通路は大量の人で溢れており、闘技場出口には避難指示を出している兵が見える。
だがいまだにマルタとワキオの姿が見えない。
先に脱出してるといいのだが...
[町:アディビアの森へと続く道]
闘技場から森に向けての道は防御魔法によってトンネル状のバリアによって守られている。
未だに数万の人々の列が続いているが、あと10分もすれば森に入れるだろう。
バリアの外は配慮のためか見えないようになっているが、激しい爆発音や悲鳴が時折聞こえてくる。
先程出口の避難兵に聞いたところ、幸いなことにトーナメント本戦ということでこの町にいるほぼ全ての人がこの闘技場内にいるため、避難が成功すれば人的被害は最小限に抑えられるらしい。
バリアが破られないことを祈りながら列に並んで進んでいく。
あと数十メートルのところだった。
外から声が聞こえてくる。
「おや、何もない場所に核石反応が...いや、これは透明な結界かバリアでしょうか」
バリアをガンガンと叩く音が聞こえる。周りの避難民が悲鳴をあげ、俺もその声の方向を警戒する。
「この星の妙な技術で逃げようとしたのでしょうが、残念でしたね」
バリアを叩く音が強くなる。
「貴方が持つ核石がある限り!」
段々とひびが入り、声がはっきりと聞こえてくる。
「どこに逃げようと無駄なんですよ!!」
”バリン”
ガラスが割れるような音とともに真横のバリアが破壊される。
その先にあったのは――
瓦礫になった町と転がっている死体、煙によって夜のように暗くなっている空。
そして、長身な体を赤いネクタイと黒いスーツで着こなしている男だった。
だが男は人にしては肌が青白く、背中には蝶の羽のようなものが生やした不気味なフォルムをしていた。
「キャアアアアア!!」
避難客が悲鳴と叫びをあげながら奥に逃げようと列を崩す。
列が乱されたトンネルはすぐに数千の人で溢れかえり、数名は破られた箇所から外に飛び出してしまう。
それは連鎖のように起こり、次々と避難民は自らを守るためのバリアから外に押し出されていく。
運が悪いことに俺は破られた箇所に近かったため、勢いよくバリアの外に押し出されてしまった。
「まさかこんなに人間が中に隠れていたとは、まさか人混みに紛れれば逃げられるとでも?」
男は訳の分からない言葉を言うと、羽を広げて宙に飛び立つ。
「悔やむがいい!その者の近くにいたことを!!」
男の羽が黄色い光を放ち始める。
これはやばい気がする...!
「みんな俺の後ろに隠れろ!!」
バリアの中から飛び出してしまった人に呼びかける。
集中しろ。
さっきの戦いを思い出せ...
――後ろの人達を守れる盾を
途端に手背の円模様が黒く光り、そこから回路状に線が広がっていく。
手の平に力を集中させるイメージをすると、次第に手掌に黒いエネルギーが溜まっていく。
それを巨大な黒い盾に変化させると、両腕で支えて持ち上げた。
「ハハハ!!耐えれるものなら耐えてみるがいい!!」
蝶男の羽に集まるエネルギーは、大きな音を出しながらこちらに放出され、そのまま盾に衝突した。
両腕に強い衝撃がくる。必死に足を踏ん張り盾を支える。
「うぉぉぉおおおおおおお!!」
雄叫びをあげ全身に力を込める。
だが、奮闘虚しく...
盾が破られる音とともに視界が真っ白になった。
[戦場]
次に目を覚ました時、目の前にあったのは黒い粉だった。粉は風によって舞い上がると、どこかへ飛んでいく。
ぼーっとする頭でゆっくりと立ち上がる。
どうなったんだ...
顔をあげて状況を確認しようとする。
だが確認することはできなかった。
なぜなら俺の目の前には男が立っていたからだ。
「...てめぇ」
蝶の羽根の音が不快に聞こえ、平然と立つ男に怒りを覚える。
「私の殺傷光線に耐えるなんて、中々やるじゃないですか。でも、貴方が守ろうとした人たちは全員粉になっちゃったみたいですけどね」
ハハハハと高らかに笑う男。
「もう時期貴方が逃げようとしていた空間に我々の兵が向かいます。ここから逃げられて安心してる人たちはどんな顔になるのでしょうか?実に楽しみです」
なにがそんなに楽しい?
目の前の男に明確な殺意を抱く。
「ああ、もうすぐ死を迎える貴方には関係ない話でしたか」
「...その前にお前ら全員殺してやるよ」
再び右手に力を集中させる。するとそこから真っ黒な長剣が生成される。
「やってみるといい」
蝶男もそれに反応するように右手の爪を鋭く伸ばす。
両者ほぼ同時に攻撃を仕掛けた。
”キンッ”
火花を散らしながら剣と爪が交差する。
次に動いたのは蝶男だった。
男は蝶の羽根を広げると上空へ羽ばたいていく。
逃すまいと羽根を斬ろうとするも、風圧によって防がれる。
「逃げる気か!?」
「まさか!」
蝶男は数十メートルの高さまで上がると、そのまま俺に向けて猛スピードで滑空していく。
突進か!
まずい、長剣じゃ突進の衝撃に耐えられない。
すぐに長剣を盾に変化させると、上に向けて構える。
あと一秒遅ければ俺の体は粉々になっていただろう。
全身に重力と衝撃が襲いかかる。
支える腕と足がプルプルと震える。
「流石に耐えますか、だがこれはどうでしょうか?」
突然脇腹に激痛が走る。
そこには今真上にいるはずの蝶男が足蹴りをしていた。
「な...んで...?」
すると盾にかかる重力がスッとなくなる。
「脱皮というものです。知りませんでしたか?」
そのまま体は宙に打ち上げられる。
目まぐるしく変わる景色とともに背中に強い激痛が走った。
気が付いたときには俺は瓦礫の町ではなく森の樹木に激突して倒れていた。
「こんだけ飛ばされても死なないとは、しぶといですね貴方」
正面から蝶男の声がする。
立ち上がらなければ...
両腕に力を入れて立ち上がろうとした時、
”グチャリ”
と嫌な音がした。
突然左腕に力が入らなくなり、鋭い激痛が走る。
違和感の方向に目をやると、事態の深刻さを知った。
俺の左腕は原型を残さないほどぐちゃぐちゃになっており、すでに血だらけの肉塊と化していた。
「うぁぁぁあああああああ!?」
自分の腕の有様と激痛で口から悲鳴がでる。
「ハハハ!実に無様ですよ!!殺すと息巻いてこの様!笑いが止まらない!!」
ケタケタと腹を抱えて笑う男。
それよりも、出血が止まらない腕に危機感をもつ。
出血多量で脳の思考スピードは急速に遅くなっていく。
―――足りない...もっと、力...を...
薄れゆく意識の先に暗闇で見た黒い箱が現れた。果たしてこれは幻覚か現実か...
こいつを倒せるくらい..強い力を...
箱に右手を伸ばす。
右手は箱に触れると、手背の円が二つに増え、そこから光が溢れて俺を包んでいく―――
薄れていた意識は途端にはっきりとすると、体中に力を感じていた。
「ん?貴方、今何をしました?」
蝶男のくだらない問いには答えずすぐに立ち上がる。
左下をみると、潰れた左腕はいつの間にか巨大な黒い腕に変化していた。
「お前をぶっ殺す方法がやっと思いついたぜ、蝶野郎」
気分は絶好調だ。今にも目の前の男を潰したくなるほどに。
「...少々遊びすぎてしまったようですね」
地面に激しい風圧を巻き起こし蝶男は飛び上がる。
「逃がすかよ!!」
黒い左腕を勢いよく振り上げると、まっすぐ蝶男に向かって伸びる。
腕は蝶男の上昇スピードよりも早く伸びると、そのまま蝶男を鷲掴みにするように握り、すぐさま巨大な球体に変化して男を飲み込んでいく。
「なんだこの能力は!?貴様何をしたぁ!?」
球体から男の無様な声が聞こえてくる。さっきまでの丁寧な喋りはどうした?
「お前に殺されたやつはみんな粉みたいになるんだろう?だったらお前も粉微塵にしてやるよ!」
伸ばした左腕を大きく振りかざす。するとそれに釣られて左腕にくっついている球体が地面に叩き落される。
その衝撃で何本かの木が倒れ、地面が揺れるような感覚が足に響いた。
「ぶっ飛べ!!」
俺はボール投げのように真上に向かって左腕を振り上げると、蝶男が入った球体は腕から分離してそのまま天高く飛ばされる。
「やめろおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ...」
蝶男の最後の悲鳴が聞こえなくなった所で、球体は爆発を起こした。
黒い爆発は遠くから見てもはっきり見えるほど大きくなり、その衝撃波と風圧で森がなびき大地が揺れる。
煙塵が舞う森の中心で、ひとつの大きな戦いが幕を閉じた。
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