核醒のカナタ -First Awakening-

ヒロ猫

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2日目 魔女と蝶々

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このルートはAルート2日目からの分岐です。

[エルフィンダール王国:町]
エルフィンダール王国。なんとこの世界の中で一番大きな国であり最も魔法使いが多い国である。町の中央には大きな噴水があり、そこから十字に分けられた道にはポーション、指輪、防具、武器など様々な店が並んでいるのが見える。右奥には大規模なイベントなどに使われる闘技場があり、その直ぐ近くに俺達が落ちたアディビアの森がある。
そして現在俺達三人はこの国の王様に呼ばれて城に向かう最中だ。

「あんなとこ俺達の世界では絶対入れないだろうなぁ!」

「で、でもちょっと緊張しますね。いきなりこの国の王に会うなんて...総理大臣と会いに行くようなもんですよ」

ワキオはわくわくとした表情をしており、対象的にマルタは緊張で歩き方が固くなっている。

「まあとりあえずワキオは変なことするなよ」
また牢屋なんかに数時間閉じ込められるのはごめんだ。

”ゴツン!”

「「痛ッ」」

話に夢中で前方の人に気づかなかった。どうやら目の前の男の肩に顔面が強く激突してしまったようだ。
我ながら失態だ。

「すいません!」

ここは素直に謝って許してもらおう。
相手が面倒だと困る。

「ああ?目が前についてねえのかテメェ」

もっと面倒なのに当たってしまった。
相手はゴロツキ、のリーダーだろうか。男の後ろに子分らしき人が何人か見える。

「おいてめぇ、このお方がだれか分からねえのか!?てめぇが当たったのはこの町最強の裏ギルド長と言われているバファリン様だぞ!」

どこから突っ込めばいいのかわからない。このいかにもただのデカいゴロツキっぽいやつがこの町最強?てか裏ギルド長ってなんだよ。

「カ、カナタ!これはマズイ。非常にマズイ。こういうRPGではな、ゴロツキからの揉め事→戦闘ってのは定番のど定番!そして俺らは武器も何も持っていない。つまりこのままじゃゲームオーバー確定だ!」

ワキオに耳打ちされる。ああわかっているともワキオ君。どうせ次のセリフはこうだ。

「兄貴ぃ、この無礼者共を今すぐボコして誠意を見せて貰いましょうよ!」

やっぱり―!
でもこういうテンプレセリフはゲームだとすぐスキップするけど、実際目の前で行われるとちょっと興奮するよな!

「ハッ、そりゃいいアイデアだ。おいガキ共、このバファリン様が今から直々に稽古をつけてやるよ」

そういいながらバファリンは拳をゴキゴキ鳴らす。

「カ、カナタく~ん!!」
マルタが俺の後ろに隠れる。

「じゃあまずアレだ、拳で直接学べみたいなもんだ。じゃあいくぞ!」

バファリンは腕を大きく振り上げると、俺達に向かって振り下ろそうとする。

その時、

『ガードマジック:エンクロージングウォール』

詠唱とともにバファリンと子分たちは四方を透明な壁で囲われる。

「だ、誰だ!?」

「大の大人5人で子供3人に相手なんて、ちょっと大人げないんじゃないの?」

地面に女性の影が映る。上を見上げると、そこには昨日出会ったリリスが宙を浮いていた。

「その子達は城に用があるの、それでも絡みたいなら...」

とバファリン達の周りに巨大な魔法陣が浮かび上がる。

「あ、兄貴ぃ!!」

「ちっ、こいつはエルフィンダール王国の国王直属の魔女リリス...流石に相手が悪いな」

「で、でも兄貴はこの町最強の裏ギルド長ですぜ!怖気づいて逃げたなんて知られたら...」
「いいんじゃないかしら?」

リリスが子分のセリフを遮る。

「そもそもバフェリン?も裏ギルド長なんて言葉も聞いたことないわ、まあとりあえず邪魔だから遠くに飛ばすわね」

「ま、待て...」

言い切る前にバファリンと子分たちは一瞬で姿を消し、それと同時に透明な壁も消滅した。

「なんだったんだ...」
俺達は急展開についていけずきょとんと突っ立っていた。

[城:玉座の間]

「頭をあげよ」

豪華な一室には王様の肖像画や豪華そうな品々が置いてあり俺達三人は場違いのようにこの場で浮いている。

「…さて、お主達が元の星に戻れる唯一の方法を教えよう。彼らに”例の紙”を」

入口付近で待機している召使いと兵士が近づいてくる。
兵士はA4サイズの紙一枚を、召使いは三人分のメガネを手渡してきた。

「その紙にお主らが元の世界に戻れる方法が書いておる。文字はその翻訳魔法が掛けられたメガネを掛けてみるが良い。安心せよ、メガネはつけると透明になるからの」

言われたまま内容を読んでみる。

【100年に一度の奇跡を手にしろ!!願いの杯トーナメント開幕!!】

・100年に1度しか開かれないという伝説の祭りがやってきた。勝ち上がった者にはなんでも願いを叶えてくれるという盃、『願いの杯』の使用権を贈呈。果たして今回は誰が願いを叶えることになるのか。この紙を見ているそこの君も、ぜひトーナメントに参加して願いを叶えよう!!

・ルールは一対一の決闘。魔法の使用、武器の使用、魔道具使用あり、魔道具は一試合3回まで。ただし、人を殺めてしまった場合は即刻退場。

・参加歩法。この紙の右下に書かれている「参加」の文字に手を当てながら、『ジョイン』と唱えるだけ!後は闘技場入り口にある登録者一覧に自分の名前が載っているか確認しよう!

「つまりこれに勝ち上がれればお主らは元の世界に戻れるかも知れぬというわけじゃ」

なんかあっさりと話を進めようとしてるが、全くもって理解できない。
魔法?魔道具?願いの杯?

「あ、あのぉ」

マルタが小さな声で話す。

「これって僕たちでも優勝できるものなんですか...?」

それだ。勝てばなんでも願いが叶うトーナメントに、戦いの素人ばかり集まるとは思えない。

「それはお主ら次第じゃが、勝てる可能性は一応あるぞ」

王様はそう言いながら指につけている5つの指輪をこちらに見せる。

「このようにアイテムに魔力と魔法を注ぎ込んだ魔道具。これをうまく扱えれば敵の意表もつけよう」

「そして、万が一殺し合いに発展せぬよう、出場選手の武器は試合前に全てレプリカに変換される。殺傷能力が高い魔法攻撃はこれによって半分以下の出力に抑えられるというわけじゃ」

なるほどな。つまりどんなに強い戦士にでも頑張れば肉弾戦に持ち込める可能性があるって仕組みか。

「そういえば俺らって魔法使えないんですか?」

大きな声でワキオが発言する。

「貴方達の魔力量を取り調べの際調べたけど、残念ながら貴方達の体からは一切魔力が感じられなかったわ」

リリスがそれに答える。
すると王様に一人の兵士が近づいていき何かを耳打ちする。

「おっともうそんな時間か。すまんがワシはこれから他国からの使節団との話があるので、ここで失礼させてもらうぞ」

王様が立ち上がると周りに兵士が集まる。そして兵士たちはそのまま王様の転送の準備を始める。

「あ、そうそう。お主らここに来る途中に輩に絡まれたそうじゃな。リリス!この者たちが無事に宿に帰れるように護衛せよ」

「え?」

リリスは驚いた顔をするが、王様はすでに兵士と共に別の場所へと転送してしまった。

「はぁ。私もレイン様と一緒に見回り行きたかったのにぃ」

「王の命令だ、分身で手を抜いたりするなよ」

「そうでやんす!それじゃあオイラ達も見回りにいくでやんすよ」

小柄のへんな語尾の男の子と甲冑を着た大男はしょんぼりするリリスと会話した後、どこかに姿を消した。

玉座の間はしばらく静寂に包まれる。

気まずい。

”ガチャリ”

後ろの大きな入口の扉が開く。
その場の全員が音の方向に目を向ける。
そこには―――

華やかなドレスを身に着けている可愛らしい少女がいた。

「あ、あれ?お父様もう行ってしまいました?」

[王城:庭]

「どうぞ姫様、お紅茶でございます」

「ありがとう」

城の庭にある大きなテーブルには四人の少年少女が座り、近くには三人の使用人とリリスが立っていた。

「で、ひ、姫様は僕たちに何用で?」

「こ、この紅茶おいしいですねー!香りがこう、なんというか」

「あ、あはははは、ワキオ君、それは紅茶じゃなくてコーヒーだよ?」

目の前にはこれまで見た中で一番美しい顔立ちの女性が礼儀正しく座っている。ロングヘアの金髪の髪は癖一つなくまっすぐと伸びており、白い肌は使用人の日傘によって日焼けから守られている。金色に反射する宝石?のネックレスは彼女の存在感をより一層に強くしている。
そんな彼女につい俺達は緊張してしまい、ワキオまでもがいつもと違う反応を見せている。


「いえ、他の星からの来訪者が城にやって来たと聞いて、どんな顔か気になっただけです。だだ、まさか私達と同じ人間だと知って少々がっ...いえなんでもありません」

今がっかりしたって言いそうになったか?この姫様。

「じゃ、じゃあ姫様。僕たちも急いでやらなくちゃいけないことがあるので...」

「おい、カナタ!もう帰るのか?目の前にこんな綺麗な人がいるのに」

「ワキオ君、本人の目の前でそれ言えるのは逆に尊敬しますよ...」

まあ空から落ちてきた別世界の人間がどんなやつか気になるのは分かるが、こっちは早くトーナメントについて話し合わなきゃいけないんだ。残念ながらこのお姫様と話している暇はない。
椅子から立ち上がろうとした時、

「星からの黒い兵地に落ち、この星赤く染まる」

「え?」

「500年前からの言い伝えです」

突然なにを言い出すんだこの姫様は。

「もちろんあなた方がそうだとは思ってませんが、あなた方が空から落ちてきたという事実は、この言い伝えの信憑性をより高めました」

「お嬢様、そろそろお時間です」

使用人が姫様に伝えると、机と椅子は片付けられ俺達は強制的に立たされる。

「あ、私のことは次から姫様じゃなくてアリスって呼んでください。そのほうが堅苦しくなくていいわ」

そう言いながらアリスと使用人たちは俺達の前を通り過ぎようとする。その時、

「空には気をつけて」

アリスは小声でそう呟いた気がした。

[アディビアの森]

大事な時期というのもあり見張りが数百人いるこの森の先すぐのところにはエルフィンダール国の隣国がある。そこは近くということで比較的友好関係を結んでおり、今回の大規模イベントにむけて国王と数人の貴族、そして優秀な騎士たちが馬車でエルフィンダール王国に向かっている最中だ。そんな彼らはアディビアの森の入口に着いた所で馬車を止めている。

「おい、迎えの兵士は愚か、見張り兵すらおらんではないか」

いつもならすぐ来るのに!と王様は馬車の中で愚痴を吐いている。

「確かに見張りがいないのは妙ですね」

「我々が様子を見てきましょう」

と馬車を運転していた何人かの兵士が入り口に入っていく。

「私も行ったほうがよろしいでしょうか」

「護衛が先走ってどうする!リアナ、お前はワシの馬車を守る、それだけを考えてればよいのじゃ。それに万が一のことがあったらトーナメントに支障がでるからな」

国王が乗る馬車の横には赤毛が特徴的な女性が青い剣を腰に差している。

だがしばらくたっても迎えや見張り兵、さらには様子を見に行った兵士すら戻ってこなかった。

「国王、なにか妙です。ここは一度国に戻りヘルタール王と連絡をとりましょう」

「バカ言え、このまま奴に直接文句一つ言えずに帰れるか!」

森の中まで響くほどの大声を出した所で、

入り口からなにか物音がした。

兵士たちは剣に手を置き、森から出てくるものに警戒する。

そこから出てきたものは、
出向かいの兵士でもなく、見張りの兵でもなく、様子見をしていた兵士でもなかった。

その男は人間とは思えないほど青白い肌をしており、細く長身な体は赤いネクタイの黒いスーツで着こなされている。
そしてなにより不気味なのは、背中から巨大な蝶の羽根のようなものを生やしていることだ。

「おや、命令は森の中のみの殲滅でしたが、この方々は果たして含まれるのでしょうか」

男は悩ましい表情で自問自答する。

兵士たちはついに剣を抜き、男を睨みつける。

「ではこうしましょう!あなた方が一歩でもこちらに近づいたら、森への侵入者として排除しますので、死にたくなければ回れ右してさっさと失せなさい」

「生憎だが我々はこの国に用がある。その道を邪魔すると言うなら、賊としてこの場で貴様を切り捨てる。死にたくなければさっさとこの場を去るがいい」

リアナは男に対してそう吐き捨てると、青く輝く剣を鞘から抜き、剣を構える。

「あ~あ。せっかくチャンスを与えたというのに...どうやらこの星の人間は馬鹿しかいないようですね。ではお望みどうりこの場で全員殺して差し上げましょう!」

背中の蝶の羽根は大きな音とともに羽ばたき、男は宙に飛び上がっていく。

「来るぞ!全員攻撃の準備をしろ!!」

リーダー格の騎士が叫ぶと全員が空中の男に向けて詠唱をはじめ、各々の魔法を発動させる。
空中で色とりどりの魔法が放たれると、それらは合わさりあっていき、やがて大きな爆発を起こした。

だがすでに男の姿はそこにはいなかった。

「奇襲がくる、各員防御態勢を」

声を発した騎士の頭は言い切る前に体から飛ばされ兵士の前に転がっていた。

「へ、兵長!?」

突然のリーダーの死に兵士たちは困惑と恐怖を示す。

「ぐあ!?」

「あえ?」

次々と断末魔をあげながら為す術なく死んでいく兵士たち。

「い、嫌だぁ!死にたくないぃ!」

「ど、何処だ!?何処にいるぅぅ?」

残り数名となった兵士の心臓に右手を一突きする男はため息をつきながら言う。

「はぁ。ただの上空からの滑空による攻撃に対処できないとは...弱い、弱すぎる...この星の人間は全員このような者だというのか?」

兵士の胸から手を抜き出しながら再び自問自答する男。

『アイスマジック:グランドソーン』

突如男が立っている地面は氷に包まれ、そこから鋭いつららが上目掛けて勢いよく伸びる。

「おっと」

咄嗟にジャンプして飛ぶことでつららを回避した男はこの魔法を使用した女性の方向をむく。

「少しは出来そうなのもいるじゃないですか」

「来るなら来い!蝶男!」

リアナは剣を大きく振り上げると、男の方向に向けて振り下ろす。

『アイスマジック:ブリザードスラッシュ』

剣から生成される氷はとてつもない速度で伸びていき、そのまま男を飲み込むと巨大な剣身のような形になって成長を止める。

「さ、流石リアナ!さっさとその賊を成敗してやれ!!」

馬車から顔を出した王様は意気揚々とリアナに話しかける。

「この男は私が相手する、後ろの兵は今すぐ王様を連れて国に退却しろ!!」

王様と貴族の馬車の近くにいる兵士はその命令を聞くとそそくさと馬車に乗ると、そのまま馬を振り返らせ来た道を帰り始める。

「おや、私から逃げられるとでも思っているのですか?」

バキバキと氷を砕きながら男はリアナに近づいてくる。

「やはりこの程度では倒れないか...」

額に汗を浮かべながらリアナは小さく呟く。

「そうですね...少し貴方で遊んでから彼らは始末するとしましょう。私この仕事が終わったらしばらく暇なんですよ」

「ごちゃごちゃと独り言を...」

「だからその分楽しませてくださいね!」

猛スピードで飛びながら間合いを詰める男。対してリアナは、

(こいつにはおそらくただの魔法は通じないだろう。ならばやることは只一つ)

リアナは魔法を唱えることなくただ剣を前に構えているだけだった。

「カウンターですね」

男は両手を針のように鋭く変形させるとリアナ目掛けて突き刺そうとする。

”ガンッ”

二人の周りに大きな風圧が起きる。
男の両手を器用に剣で防いだリアナは、そのまま腕力で弾き返そうとするが...

(お、重い...!?)

細長い体からは想像できないほどの腕力に負け、数十メートル後ろに吹き飛ばされる。
勢いよく地面に当たるリアナだがすぐに体制を立て直し、男の方を向く。

すでに間合いは数メートルまで迫られており、男は追撃の用意をしている。
リアナもすぐに剣を構え反撃の用意を始める。

そこから凄まじい斬撃が繰り広げられた。

男は両腕をリアナの至る所を突き刺すように素早く突くが、リアナもそれに対応し剣で捌く。

「確かに素質はありますね。一般兵なら余裕で倒すことができるでしょう」

どんどん腕の動きを早めていく男。一方リアナは次第にその速度についていけなくなり、咄嗟に横に回避する。

「ハァ、ハァ、まさかこれ程実力差があるなんて...でも残念ね。まだ私には奥の手が残っているわ!」

(とはいっても、あの魔法の詠唱には少し時間がかかる。果たしてこの男が素直に待つかどうか...)

「ほう、ではその奥の手とやらを見せてもらいましょうか」

男は余裕そうに言うと鋭い針を元の手に戻すと、羽を休めるように地面に降り立つ。

「あっそう、じゃあ死んでから後悔しなさい!!」

リアナは自分がひどく舐められていることを不服そうに詠唱を始める。

「凍てつく大地より、我がもとに氷霊を呼び寄せん。氷結よ、我が敵を震え凍えさせよ。銀白の竜、今ここに解き放つ!」

リアナの剣の周りが白い霧に覆われると、そこから巨大な氷でできたドラゴンが姿を現す。まるでひとつの作品のような美しさを見せる銀白の竜はリアナを背中に乗せると、男に威嚇の咆哮をあげる。

『アイスマジック:ブリザードブレス』

竜の巨大な口から白い霧が吐かれると、そのまま男に向けて氷のブレスが放たれる。
近くの地面は途端に凍りはじめ、大気が乾く。

だが男は避けようともせずそのブレスに自ら当たりに行った。

数十秒間凍てつく冷気が吐かれると次第にブレスは弱くなっていく。
ついにブレスを吐き終えると、ドラゴンは姿を白い霧の中に消していき、その場所には巨大な氷の塊とリアナだけが残った。

「も、もうこれで魔力は尽きたか。だがこれで...」

「私が倒せたと?」

氷の中から男の声が聞こえる。
リアナの疲れ切った顔は途端に絶望の表情に変わる。

「き、貴様!これほどの攻撃を受けてまだ...!?」

「そろそろそ飽きましたね。お遊びは終わりにして仕事に戻りましょうか」

目の前の氷塊が崩れ去ると同時に、リアナの視点は地面に落ちて転がった。

[エルフィンダール王国:広場]

昼間のためか街には多くの人が歩いており、中には奇抜な服装をした人も何人かいる。町の中央にある大きな噴水が特徴的な広場には、特に人が集中しており、男女のカップルや冒険者御一行などがベンチやテーブルで何かを話し合っている。

そんな広場の真ん中のテーブルで俺達はお互いを見れるように座っている。
本当は端っこの方のベンチしか座れないほどの満員のはずなのだが、ど真ん中のテーブルで座れている。なんなら周りのテーブルにも人が座っていない。
おそらく原因は俺の目の前に座る女性だろう。

「お、おい。あれって王様直属の...」

「リリス様がなぜあんなガキと一緒に...?」

ヒソヒソ声がこちらまで聴こえているぞモブA、B。

「で、この紙の話なんだけど」

とその場の空気を変えるように話を始め、三人の前に先程貰った紙を見せる。

「おう、そういえばそのトーナメントで優勝できれば元の世界に帰れるんだったな!」

「で、でも僕らそういう経験ほぼ無いし、出ても優勝は無理なんじゃないかな...」

そう、それだ。出場したとしても一般人と戦闘のプロでは雲泥の差だ。たとえ俺達が魔法を扱えたとしても勝つ見込みはほぼゼロに等しいだろう。

「そう、そこでだ」

とリリスの方向に目を向ける。

「この国随一の魔女リリスさんならなにか打開策があるかもしれないと思ってたわけですよ」

「ないわね」

速攻で返された。本当に考えたのかってほど速攻で返されてしまった。

「じゃあ、俺達はこのままこの世界で過ごせってことですか!?まあこっちの世界も楽しそうだから俺はいいけど」

後半はアレだが、ワキオの言うとおりだ。
このままこの世界に永住した場合、元の世界の俺達の家族や友達はどれほど心配するだろうか。

「でも無いもんは無いのよ。予選は明日から始まるのよ?王様は簡単そうに言ってたけど、出場選手はほぼ強者揃い。いくら今から小細工をしたって今の素人の貴方達じゃ到底及ばない」

「そ、そこをなんとか...!なにかおすすめの武器とか魔道具とか、裏ワザとか...なんでもいいので!」

マルタも必死に説得をする。

うーんとしばらくリリスは悩んだ後、なにか思いついたかのように話し始める。

「勝てるかどうかは知らないけど、各人の潜在能力をできるかぎり上げることは可能よ。ただし、達人みたいに武器を扱えるわけでもないし体術を使いこなせるわけでもないから。そこは注意ね?あくまで地力を上げるだけよ?」

つまり俺達の体は最高のパフォーマンスを出せるような出来になるけど、武器の扱いや戦闘スキルは才能次第ってことか。

「あと、そうね...この腕輪を貸してあげる」

彼女は真横に魔法陣を出すと、そこから三つの魔道具を取り出す。

「これ貴重品だから、失くさないように」

そう言いながら俺達に手渡していく。

「これが魔道具...!」

ワキオが興奮し始める。たしかにこの腕輪には只ならぬ気を感じる、気がする。

「あの、この魔道具にはどんな魔法が入っているんですか?」

「訓練兵用の補助魔法。特別凄い魔法ではないけど、貴方達はぴったりかも」

俺達はさっそく腕輪を付けてみる。
すると腕輪は白く光り、中の魔法の効果を直接脳内に流し込む。

「武器はあの店で、のこり二つの魔道具はあそこの辺で買うと良いものが売ってるから、あとで買いにいきなさい」
と言いながらいくつかの店に指をさす。

「できる限りのことはしたわ、これで負けても文句言わないのよ。じゃあ話はもう終わり。宿屋に行くわよ」
俺達が返事をする前にリリスはさっさと宿へ転送する。気がつくとすでに景色は噴水のある広場ではなく、見慣れた宿屋になっていた。

「潜在能力上昇の魔法はもう掛けといたから、一晩寝れば明日には最高のコンディションになっているはずよ」

「あの、色々ありがとうございました」

トーナメントの話を聞いたときには絶望したが、この人のお陰ですこし希望が見えてきた。

「じゃあ、私は任務終了ってことで城に戻るから」

リリスはそう言うと瞬時に姿を消してしまった。
行動が早いなあの人。

「で、ここからだな」

「お、たしかに体から力が湧き出る気がするぞ!!カナタ!マルタ!お前らもそうか!?」

「うーん、僕はあんまりそんな感じしないけど...」

「魔法かけてもらって興奮してるだけだろ。とにかく、はやく武器と魔道具を買いに行こう」

「ゲッ、また広場まで戻るのかよ!」

「て、てかさ。この世界の買い物って日本札使えるのかな?」

「「 あ 」」

結局再び城まで歩く羽目になった三人だった。

[夜の宿屋]
十畳ほどの寝室には昼間に買った武器と魔道具が置かれており、ベッドには礼儀正しく寝るマルタ、その下にイビキをかきながら床で寝るワキオがいた。
そして俺だが、明日のことが心配になり二時間前から眠れずにいる。
割と勢いで出場を決めてしまったが、果たしてこれでいいのだろうか。

「眠れないの?」

突然耳元で女性の声が囁かれる。

ハッとベッドの横をみると、目の前にパジャマを着たリリスがいた。
近くで見るとより美しいと感じられる顔立ちは少し小悪魔のような笑みを浮かべており、胸元が少しだけ開いているパジャマからは彼女の豊満な谷間が見える。
それより、

「な、なんでここに!?」

「ちょっと様子を見に来たのよ。いるのよね、貴方のように大会前日は眠れないような子」

「な、ナルホド...」

彼女から視線をそらすように寝返りを打つ。

「ほら、お姉さんが付き合ってあげる」

後ろから聞こえる彼女の声はだんだん近づいてきてくる!背中に柔らかな感触を感じる!
な、なんだこの展開!いつからこの小説はR18作品になったんだぁ!!

「はぁ、レイン様もこれ位反応みせてくれないかしら」

...は?

そう言うとリリスは俺から離れ顔を赤らめる。
この女、俺の反応を楽しむは愚か、別の男を想像している。

「ああレイン様、任務さえなければあなたと共にいられるというのに...」

独り言を喋り続けるリリス。この人寝ぼけてんのか?

「あ、寝ないと潜在能力の魔法効果はでないからさっさと寝なさい」

「あんたのせいで余計に眠れなくなったんですが!?」

『スリープ』

その一言で突如睡魔が襲ってくる。

なんだ...ただ俺を眠らせるために来たってのか...?
意識が...朦朧としてきた...

「王様の前では言わなかったけど、身体検査の際に、貴方の体から魔力ではない別の力を感じたの」

リリスは俺のベッドに座りながら話す。

「だけど貴方はその力に気づいていない、もしくは隠している。もし明日の試合でその力を使うなら...」

なんの...話を...し..て.........

彼女の話は耳に入らず、意識は深い眠りに落ちていった。
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