言葉足らず

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本編

かわいいやつ 姫乃和樹 視点

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約束したわけじゃないけど、自然とお昼を一緒に食べるようになった。
そうじゃなかったなら、こんな騒々しい所に好き好んで来ない。

目的は人垣の向こう、1人でジュースを飲む洋。
気だるげな雰囲気を醸し出してる。
そんな姿も絵になる男だが
その瞳は笠原勇虎だけしか写さない。


「ぁ。笑ってらー。チワワちっちゃいねぇ可愛いねぇ」

甘さを残した低い声には似合わない、粗雑な言葉遣いでクスリと笑う。

穴が開くほど見つめて
そんなにアイツのどこがいいんだか…無性に腹が立つ。

「ん?」

綺麗な形をした頭に手刀を落とす。

「あて」

間抜けな声が上がる。

「心がこもってないぞ」

可愛いなんて思ってないだろうに。

一瞬フリーズしていた洋だったが、俺だと分かると年相応の笑顔に顔を歪め、すぐに怒ったような表情を作った。


「姫ちゃんのゲスめ!善良な俺の細胞を殺すだけじゃ飽き足らず、そんなこと言うなんて。」

かまってくれと言わんばかりに雑な泣き真似まではじめる。

こいつは本当に…

頭に落とした手をそのままにポンポンとあやすように叩く。

「いいのかアレ」

チラリと勇虎を見やると
いまだにセフレであろう少年と仲良さげであった。

そのまま洋の向かいに座り、メニューを開く。
俺の問に洋は口をゆっくりと開いた。

「いいも悪いもね、うーん」

想像していなかった返しだった。

「洋って割と冷たいんだな。」

そう言って洋の顔を見る。それと並列で注文もしておく。
そして洋は自信なさげな声で話しだす。

「…だってさ、俺みたいなヤツがさ勇虎の恋人ヅラしても。」

それを聞いて呆れた。
俺はその後に続くだろう言葉を聞こうとした。

「ヅラしても…?」

「ううん、何でもないや」

洋が言葉を飲み込んだのはすぐ分かった。


「さっき姫ちゃん言ったじゃん。心こもってないって。」

話をそらすということは
あまり踏み込まれたくないようだった。
だから洋の言葉に先ほどの会話を思い返す。

「言ったな」


その時の洋の瞳は、勇虎しか写していないような瞳は、
勇虎の隣の少年を写していた。


「でも心の底から 、チワワちゃん達のこと可愛いなって思ってるんだ。」

その洋の言葉には嘘はないようだったが、何かまた別の感情もみえた。


「俺なんかよりも釣り合ってる」

その言葉にふつふつと怒りが湧いた。
もちろん勇虎に対してだ。

洋にそんなこと言わせるとか、どんな扱いしてきたんだ。

許せないとも思った。
思わず出してしまった

「案外そう思ってんのも自分だけかもしれないぞ。」

洋の小さな顔に手を伸ばした。
手を添えた洋の肌は陶器のように白く滑らかだった。
洋の顔を上げさせ、長い睫毛に縁どられた瞳の下、涙袋の辺りをなぞる。
なぞる指を追いかけるかのように、オリーブ色の瞳に宿る光が流れる。
しゅっとした鼻。
ふっくらとしたピンクの唇。

「洋は綺麗だよ」

それまで騒がしかった食堂が水を打ったかのように静まり返った。

洋の頬に紅が集まる。


「お待たせ致しました。」

注文した品が運ばれてきたようだった。
俺はゆっくりと洋から手を離した。
静まっていた食堂も動き始めたようだった。


「冗談はよせやい」

口を尖らせ照れたように言う洋。
笑ってしまった。
いつもの昼時に戻る。

「ひとくちちょうだい」

洋の申し出に躊躇ためらいはするも唐揚げを口に運んでやった。


背中に刺さる勇虎の視線を受けながら。

そんなことも気にならないくらい
洋はたまらなくかわいいやつなんだ。
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