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第1章

ありそうで、なかったもの(改稿10/1)

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 こちらの世界、アルクトラスの街には、日本と同じものが多くある。反対に日本にあるものがないこともある。
 そのひとつに、ありそうでなかった意外なものがあった。それは…。


++++


 今日はドリーの家「陽だまりのパン屋」へきました。

「こんにちは」

「アリサちゃん、いらっしゃい。ドリーに用かい?」

 今日はドリーのお父さん、ジョンさんが店番をしていた。

「いえ、今日はおじさんにお願いがあって、来ました」

「俺にお願い?なんだろうなぁ」

「実は四角いパンを作ってもらいたいんです」

「四角いパン?」

  ありそうでなかったもの。そう、食パンがなかったんだよ。丸パンはあるのにね。

 ジョンさんに、食パンについて説明する。
 学園にパン作りが好きなカナエ先生がいたんだ。先生はお菓子を作るのも好きだった。その先生がいろいろなパンやお菓子の作り方を教えてくれたの。

「なるほど。四角い型を使うパンかぁ。焼き菓子の型でいいか?いやもう少し大きめの型の方がいいか?」

 ジョンさんはなにかぶつぶつつぶやいている。

「分かった。やってみるよ」

「ありがとうございます!」

 これでトーストやサンドイッチが食べられるよ。エヘヘ。

「アリサちゃん、お願いがあるんだが…」

「なんですか?」

「この四角いパンを作ったら、ウチで売ってもいいかい?」

「もちろんです」

 カナエ先生に教わったから、型があれば私も食パンは焼くことができるよ。でも毎日たくさん焼くことはできない。ジョンさんみたいな本職の人に作ってもらった方がいい。

「ありがとうよ。じゃこのことは、他の奴らに教えないでくれよ」

「はい。他の人には、言いません。それと四角いパンの名前ですけど、食パンって言うんです」

「しょっくパンだな」

「いえ、食パンです」

 そりゃあ、丸パンあって食パンないのは、ショックだったけど。いやそうじゃなくて…。

「よーし、それじゃ、工房へ行ってくるか」

「工房ですか?」

「しょっくパンを焼く型を作ってもらわなけりゃ」

「食パンです…じゃなくて、そんなに急がなくていんですよ?」

「いや、早い方がいい」

 ジョンさんは、店の奥の方へ声をかける。

「おーい、俺は今から、工房のブラーギのとこへ行ってくる。後の店番頼むぞ。じゃな、アリサちゃん、パンができたら、持っていくからよ」

 そう言い残して、店を出ていった。
 私は茫然と、その後ろ姿を見送るしかなかった。

「父さん、どうしたのよ?」

 ドリーが奥から出てきた。

「あらアリサ、いらっしゃい。父さんは?」

「ジョンさんなら、もう出かけちゃった」

「えっ?」

 ドリーは驚いているけど、私もこうなるとは…。

「実はジョンさんにお願いしたことがあって…。そしたら、そのまま出かけちゃったんだよね…」

「何を頼んだの?」

「四角いパンを作ってもらいたくて…」

「四角いパン?」

 ドリーに、食パンについて説明する。

「アリサって、変わったものを考えるのねぇ」

 なんですか?その変わったものって?

「ハンバーグとかポテトフライとか?」

「それは私が考えたものではなく、そうね、いわゆる故郷の味だよ」

「故郷の味かぁ。アリサの故郷って、すごく楽しいところなのね。いろんな料理ができるんだから」

「そうなのかな。よくわからないな」

  楽しいところって、一応ほめ言葉なのかな?

「あ、ごめんね。覚えてないこととかあるよね」

「いいよ、気にしないで」

 ドリーは「私が記憶喪失で、故郷のことを覚えてない」と思ったんだろうな。

「忘れたって、気にすることはないわよ。これから新しい思い出をどんどん作っていけば、いいんだから」

 ドリーって、すごくポジティブなんだね。ドリーとは話してて楽しい。
 ドリーに私が異世界から来たって話したら、なんて言うかな?
 もしかしたら、「いろんな体験できてよかったじゃない」って言うかもしれないな。


 しばらく話していた。

「あのさ今度一緒に、買い物に行かない?」

 ドリーが私を買い物に誘ってくれてる!

「いやなら、いいけど」

「いやじゃない。行きたい!一緒に買い物行きたい!」

 日本ではいじめられてた、ボッチな私。友達と買い物なんて、したことない。
 友達と買い物!夢みたいだ!

「今度のお休みの日に行こうか?」

 「陽だまりのパン屋」も「川の夕暮れ亭」も休みの日は同じなの。同じ休みでよかったよ。

「待って。おばさんに聞いてくる!」

 一応おばさんたちの許可とらなくちゃ。おばさんたちは、私の保護者だもんね。あわてて、食堂へ行く。

「おばさん、今度のお休み、ドリーと出かけてもいい?」

「いいよ、行っておいで」

「ありがとう!」

 ドリーのところへ戻る。

「おばさん、いいって」

「アリサも、ウチの父さんみたい。そんなに急がなくてもいいのに」

 ドリーに笑われた。

「じゃ、今度のお休みに行こうね」

「うん、行こうね」


 食堂へ帰ってからも、ドキドキしてた。買い物してる時、なにを話したらいいのかな。
 その日はずっと、落ち着かなかった。夜もドキドキ。次の日、起きてソワソワ。
 休みの日が待ち遠しい。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今度は食パンです。作るのは、アリサちゃんではないですが…。
 次回はお出かけです。

 (10/1 改稿)
  工房 ノーマン → ブラーギ  名前変更しました


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