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第1部
5話
しおりを挟む「朱鷺に行かせるの?他の所でもいいと思うけれど………」
「………設備も整っているし、ある程度優秀な奴も来るだろう。そうすれば仁にも友が出来る」
「そうね、でもそれだけじゃないんでしょう?」
「…………まぁ、多少の融通は利かせられるだろう」
「母さん、俺そこが良い。楽しそう」
二人の間に挟まれるように言えば、母は愁眉の表情ではあるが渋々頷き、父は焦りを隠すように朝食を口に運んでいた。見てるこっちも冷や汗垂れそうな程母のプレッシャーは強かったもんな。当てられてる本人は挙動不審だったが。
父に運ばれ、ぐっすり1晩過ごした後。起きたら目の前に超絶イケメンの顔があった。寝てる時もイケメンてどういうことだ。寝起きで辛うじて出なかった悲鳴だったが、起きようと寝返りをうった瞬間にまた美女の顔があって心底吃驚した。あのまま運ばれたのはどうやら父母の寝室のようだった。3人川の字で寝ようとまだ余裕があるベッドの中央に囲まれるようにして寝かされていたようで、起こさないように身支度でもしようかと思っていたら母が流れるような動作で状態を起こしたのだからまた驚いた。深い眠りなどないかのような顔付きで朝の挨拶をされる。これも慣れたもので俺もまた同様に母に返す。
それからベッドに戻されかける父を起こして、3人朝食を囲んでいた時に出てきたのが俺がどこの学校へ行くのか、というのが冒頭だった。
どうにも母は俺の意思に関係なく決めるのに反対だったようで、父の表向きの理由に懐疑的だった。追い詰めるように質問していく母と、瞳を泳がせながら答える父。見兼ねた俺が口を出したのだ。
父の言葉に嘘はないだろうし、父が過去通っていた学園なのだから少しは力になれるだろう、という思惑もあったようだ。
実際、学園案内用のパンフレットを読んでみた所、俺が前世含めて過去見てきた中でも随一の設備と広さだった。
朱鷺学園。小・中・高一貫、在校生は6000人を超えるマンモス学園でもある。最大の特徴としては、ここに通う者の殆どが金持ちの子息だという事だ。全国の金持ち子息が入学し、その地位に見合った教養が身につくと言われている場所だった。
父曰く、胡座を掛かなければ確かにそれ相応の力を身に付けられる場所だという。広い敷地が必要故にこの学園はその煌びやかな外観に反して鬱蒼とした山奥に位置していた。都市の中心にあるのかという最新設備と充実したプログラムの数々。全国各地から集まる子息の為に用意された寮は、一見ホテルの内装かと見紛う位のものだが、金持ち子息とはいえ男だ。流石にここまで綺麗な状態の寮は少ないだろう。
高いセキュリティで守られている生活は、快適そのものだろう。人によっては此処に一生住んでいたいと思うくらいには居心地は良さそうだ。がしかし、そこまで良いものでもないだろう。長い間世俗と離れた煌びやかな箱の中で過ごしていれば、遅かれ早かれ鬱憤は溜まりそうだ。
実際父に話を聞いてみればまぁ出てくる黒い話。
金持ち子息が通うということは大半が世間を知らない。常識を知らないのだ。それを教えられるのは周囲だけ。周りに同じ思想の者だけの世界のまま卒業すれば痛い目に合う奴も間間いるそうだ。
その為に学外との交流プログラムも盛んに行われるようで、休日は申請すれば学外に遊びに行く事も可能だという。する者は少ないらしいが。
そして、金持ちであるからこそある程度、学が足りなくとも金の力で進学するものも少なくないという。
ある程度の頭を持っていれば、後は金の力で進学出来てしまう。そのせいで上に上がるにつれ残る者は厄介なタイプが多いらしかった。実際、父は生徒会長を務めていた時に手を焼かされたのだと溢していた。
そしてそんな者たちを取り締まる為に生まれた風紀委員会は高等学年にしかないそうだ。小・中は生徒会だけだったのが高になってからは風紀委員があるというのは、まさしくどれほど手子ずっているのかが分かるというものだった。
それらを聞いても尚、俺は行きたいと希望した。理由は簡単。面白そうだからである。
しかし先ずは就学する為にはある程度の余力を残しておきたい。勉学は勿論だが、どうせ1年後には学園に行くのだ。その前に世界を知るべきだ。今の生活さえどれほど上なのか知っておかなければならない。
その為に今俺がすべきは______。
「とうさん!」
「どうした。そんな興奮して。珍しい、」
「俺、家の外を見てみたい!」
「な………、んだと?!」
狼狽える父の姿は新鮮だった。
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