王道にはしたくないので

八瑠璃

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第1部

4話

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 俺として生きると決めたあの日から、俺は勉強を始めることにした。
 本来であればもう少し後から始められる予定だったが、俺からの希望によりその予定は大幅に短縮された。
 俺は生まれてから1度もこの家から出たことがない。敷地が広いから、と言うのもあるだろうが何より全てこの敷地内で事が終わる。俺や周囲の名前からして生まれた場所は現代日本だろうが、見た事がないほど広い。
 詳しく聞いてみた所、ここは本邸とは違う別邸だった事がわかった。分かっていた事だがやはり今世は余程の金持ちの所に生まれた様だ。

 当たり前だが、俺には前世と言うアドバンテージがある。普通の子供が1ヶ月で終わらせる事も、今世の優秀な頭のお陰か、俺自身の意欲か、たったの1日で終わらせる事だってあった。最初に俺に付いた家庭教師は驚くと同時に自身が持つ知識全てを教えてくるようになった。
 そんな調子で1人目、2人目と教師が変わるうちに、季節は1巡し、2度変わって俺は5歳になっていた。

 「お誕生日おめでとう仁!聞きましたよ、あの朱鷺トキ学園に通われるのだとか」

 「もうその様なお歳でしたか。いやはや、歳を食うと時間が早く感じますな」

 「ありがとう、西園寺、東雲。ほら仁」

 「今年も私の誕生日会に御足労頂き、ありがとうございます」

 「ははぁ。子供は成長が早いと言いますが、仁様は別格ですな」

 毎年恒例の俺の誕生日会も慣れたものだ。一族一堂に会し、世界各国に散らばっていた遠縁縁者さえも遠路遥々集まる今日は、俺を祝うためのものでもあるが情報交換という社交場にもなっている。そんな社交場には子供はほぼいない。大半の子供達は客室か既に帰っているかの2択だ。
 逆になぜ俺が大人に混じっているか、それは俺が次期当主だからに他ならない。

 父との交流が深い人の名前は勿論、末端に至るまで覚えておいて損はない。目の前で父と会談してる2人も先代から交流が続いている人達だった。
 父の隣でお行儀よく佇んでニコニコ会話を聞いている。流石に重要な情報を話したりはしないが、俺からの希望ともあってタメになる様な話を交えて話しているから、聞いていて飽きる事はなかった。飽きさせずに自分のペースで話すその話術は流石大手交易会社のトップなだけはある。
 しかしやはり子供の体力にだって限界はあった。朝早くから準備だのしていたのならば尚更。眠気に抗えず落ちてくる目蓋に気取られないうようにゆっくりとした瞬きをしたように見せかける。ここまでかなりの時間だった。俺が退席しても文句は言われないだろう。子供だし。
 談笑している父の袖の袖裾を控えめに引っ張って意思表示をすれば、それに気付いた父は、俺の言いたいことを理解した様に会話を打ち切ると、流れる様に会の終わりを宣言した。

 後のことは栄明に任せて、俺を抱き抱えたままさっさと奥に引っ込んでいく父の胸に頭を擦り寄せる。それが合図とでもいう様に、俺の背中を撫でていく手に体重を預けていると、1度は引っ込んでいた眠気がまたやってきた。それに対する最後の抵抗に、俺はずっと気になっていた事を聞いていた。

 「とうさん」

 「どうした」

 「とき学園ってどんなとこなの?」

 俺の疑問に撫でる手を頭に移動させては、気になるかと問い掛けてくる低い声に小さな頷きを返した。もう殆ど夢見心地だった。頭1つ容易に覆える掌に頭を擦り寄せて答えを待った。

 「楽しい所かもな」

 「かもなの?」

 「俺にとってそうでも、お前にとってそうなるかはお前次第だ」

 「ん………、」

 「眠いなら寝ていなさい」

 「ぅん………」 

 最早既に慣れ親しんだ香りに擦り寄って身を預ければ、小さく息を吐いたかのような微笑の音が漏れるのが聞こえる。それと同時に叩いてくる優しい調子の掌に背中を押されるかのように、俺は夢の中へと沈んでいった。





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