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本編・入学前
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朝は案の定、リシテアがぷりぷりと文句をいいながら仕事をしていた。
「お言葉ですがニコラ坊ちゃん、あなたの御父上は料理が何たるかをご存じではありません」
「僕もそう思う」
「う…ニコラまで…私はすぐにでも家族としてあの子を迎え入れてやりたいだけで」
「言い訳は結構ですわ!身内だけとはいえ、パーティーとなれば前日から仕込まなければならない食材もありますのよ!ただでさえ旦那様は好き嫌いが激しく、キッチンを困らせているというに…」
「うう…」
「以前も申しましたよ、来客の際は連絡をいち早くお伝えくださいと。言いましたよね!?」
「はいぃ…」
彼女はモーガス家のキッチンの管理を担っているリシテア。なぜあんなにお父様が一方的に怒られているかというと、自分の同級生であり、母の親友であるリシテアには、一切頭が上がらないのだそうだ。あとは彼女が言っているように、もてなす側の準備に関心がなかったり、大人なのに嫌いな食べ物が多かったりと、未だに手がかかることをしているためいつも怒られている。
「では…パーティーは明日以降で…」
「いいえ旦那様。料理人たちは昨晩このことを聞きつけ、深夜まで仕込みをいたしましたわ。今更中止だなんで、それこそボイコットいたします」
「に、ニコラが伝えてくれたのかい?」
「いいえ、僕ではなくオリヴィアが」
「そんなの誰でも良いのです!!あなたが直接私に交渉しに来なさいと言っているのですよ!!!!」
「ごめんなさい…」
いつもならもっと長く続くお説教だが、マーティがいる手前手短に済ませてもらい、朝食へと手を付ける。ふとマーティを見ると、不器用ながらも慣れないカトラリーを使ってムニエルを食べていた。幼いころの自分を見ているようでつい笑みがこぼれた。
「マーティ、そんなに畏まって食事をとるものではないよ」
「はぇっ!す、すみません!ぼく、その、あ、あまりこういうものを食べたことがなくて…」
「魚の皮くらい、手で取ったっていい。僕とお父様くらいしか見ていないから」
「でも、先生がマナーを教えてくださったので…」
「マナーなんてそんな。ようは相手が不快だと思う所作をしなければいいんだ」
「…お兄様が、そうおっしゃるのであれば…」
あ、これ難しい。僕は無理しなくていいよと伝えたかっただけなのに、本人は思ったより頑張りたかったパターンだ。どうしよう、選択肢を誤ってしまったかな。もしかして、いじめてると思われてない…?
「マーティには、マナーを学ぶよりたくさん食べて大きくなってくれることのほうが嬉しいんだよ」
「お父様…」
「ニコラの小さいころはすごかったよ。離乳したてなのに大人より食べていて、何かの病気かと思って受診させたくらいだ」
「あれは大げさすぎです。僕は食べることが好きなだけで…」
「これくらい大きなサンドイッチを一人で平らげてしまったんだよ。あれには驚いたなあ」
お父様がサンドイッチの大きさを誇張して伝えるものだから、マーティからもようやく笑顔が見られた。今はとにかくここに馴染み、健やかに成長してほしいと願うばかりだ。
「お食事は済みまして?これから使用人総出でパーティーの準備をいたしますから、旦那様は仕事へお戻りくださいな」
「ええ…もっと二人と話を…」
「さあ、坊ちゃんたち。これから遊んでも良いですが、はしゃぎすぎて怪我をなさらぬようにね!」
「分かってるよ、行こうマーティ」
「あっ、はい!ごちそうさまでした!」
「きちんと食べて偉いですね。…旦那様!お仕事の前にこのサラダを召し上がってくださいな」
「今仕事に行けって…」
「お食事がお済みになられたら、ね?」
「お言葉ですがニコラ坊ちゃん、あなたの御父上は料理が何たるかをご存じではありません」
「僕もそう思う」
「う…ニコラまで…私はすぐにでも家族としてあの子を迎え入れてやりたいだけで」
「言い訳は結構ですわ!身内だけとはいえ、パーティーとなれば前日から仕込まなければならない食材もありますのよ!ただでさえ旦那様は好き嫌いが激しく、キッチンを困らせているというに…」
「うう…」
「以前も申しましたよ、来客の際は連絡をいち早くお伝えくださいと。言いましたよね!?」
「はいぃ…」
彼女はモーガス家のキッチンの管理を担っているリシテア。なぜあんなにお父様が一方的に怒られているかというと、自分の同級生であり、母の親友であるリシテアには、一切頭が上がらないのだそうだ。あとは彼女が言っているように、もてなす側の準備に関心がなかったり、大人なのに嫌いな食べ物が多かったりと、未だに手がかかることをしているためいつも怒られている。
「では…パーティーは明日以降で…」
「いいえ旦那様。料理人たちは昨晩このことを聞きつけ、深夜まで仕込みをいたしましたわ。今更中止だなんで、それこそボイコットいたします」
「に、ニコラが伝えてくれたのかい?」
「いいえ、僕ではなくオリヴィアが」
「そんなの誰でも良いのです!!あなたが直接私に交渉しに来なさいと言っているのですよ!!!!」
「ごめんなさい…」
いつもならもっと長く続くお説教だが、マーティがいる手前手短に済ませてもらい、朝食へと手を付ける。ふとマーティを見ると、不器用ながらも慣れないカトラリーを使ってムニエルを食べていた。幼いころの自分を見ているようでつい笑みがこぼれた。
「マーティ、そんなに畏まって食事をとるものではないよ」
「はぇっ!す、すみません!ぼく、その、あ、あまりこういうものを食べたことがなくて…」
「魚の皮くらい、手で取ったっていい。僕とお父様くらいしか見ていないから」
「でも、先生がマナーを教えてくださったので…」
「マナーなんてそんな。ようは相手が不快だと思う所作をしなければいいんだ」
「…お兄様が、そうおっしゃるのであれば…」
あ、これ難しい。僕は無理しなくていいよと伝えたかっただけなのに、本人は思ったより頑張りたかったパターンだ。どうしよう、選択肢を誤ってしまったかな。もしかして、いじめてると思われてない…?
「マーティには、マナーを学ぶよりたくさん食べて大きくなってくれることのほうが嬉しいんだよ」
「お父様…」
「ニコラの小さいころはすごかったよ。離乳したてなのに大人より食べていて、何かの病気かと思って受診させたくらいだ」
「あれは大げさすぎです。僕は食べることが好きなだけで…」
「これくらい大きなサンドイッチを一人で平らげてしまったんだよ。あれには驚いたなあ」
お父様がサンドイッチの大きさを誇張して伝えるものだから、マーティからもようやく笑顔が見られた。今はとにかくここに馴染み、健やかに成長してほしいと願うばかりだ。
「お食事は済みまして?これから使用人総出でパーティーの準備をいたしますから、旦那様は仕事へお戻りくださいな」
「ええ…もっと二人と話を…」
「さあ、坊ちゃんたち。これから遊んでも良いですが、はしゃぎすぎて怪我をなさらぬようにね!」
「分かってるよ、行こうマーティ」
「あっ、はい!ごちそうさまでした!」
「きちんと食べて偉いですね。…旦那様!お仕事の前にこのサラダを召し上がってくださいな」
「今仕事に行けって…」
「お食事がお済みになられたら、ね?」
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