魔法使いの悪友

shishamo346

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贈り物

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「好き勝手やらせすぎだ!!」
 さすがに、私からアルロに注意する。いや、注意じゃない。苦情を訴えてるんだよ、私は。
 防音やら何やら、完璧な屋敷である。そうでない所もあるが、私とアルロが密談する、この部屋は、色々とされている。だから、私が叫んだって、アルロの家族にすら聞こえない。
 盗み聞きすら出来ないような、様々な仕掛けをされている部屋で、私に叫ばれ、アルロは、煩いな、みたいな顔を顰める。
「何がだ?」
 子どもは五人いるのだ。そのどれかだとわかっているが、アルロ、どの子どもなのか、わかっていない。
 私は机の下から、アルロの足を蹴ってやる。
「何しやがる!?」
「私が気にかける子どもと言ったら、一人だけだ!! ルキエルだよ!!!」
「社会勉強させろ、と言ったのは、お前だろう」
「確かに言った。任務といっても、完全に遊びみたいなのを与えて、平民地区に行かせてるな。それはまあ、いい。平民に装いだしな」
「なら、いいだろう。俺だって、いつまでもガキどもを守ってやれないんだ。ああやって、少しずつ、学ばせてる」
「監視の目を全部、振り切られてるけどな」
「………」
 アルロ、目を背けやがる。
 ルキエルは、王都の貧民街の支配者アルロの子どもの一人だ。五人いる子の、ちょうどど真ん中である。上からはいいように使われ、下からは妙に懐かれ、とルキエルは家ではなかなか大変な立場である。
 だが、外に出れば、とんでもない存在となる。綺麗目な男な上、野良の妖精憑きなので、人としての常識に欠けているところがある。そんな男を一人で自由にさせるわけがないのだ。
 アルロだって、監視をつけている。私だって、ルキエルに監視をつけているのだ。そうやって、両者で協力して、ルキエルがやらかしたりしないように、と影から見守ってやっているというのに、ルキエルは隠した妖精憑きの実力を発揮して、監視の目をかいくぐって、どこかに行ってしまうのだ。
 ルキエルが平民地区に行く目的は決まっている。見習い魔法使いハガルの動向を調べるためだ。見習い魔法使いハガルはただの妖精憑きではない。大魔法使いの側仕えであり、平民に育てられた妖精憑きである。だから、ハガルは皇族にも接する機会が多く、また、平民が普通に接することが可能な貴重な見習い魔法使いである。
 ルキエルは、ハガルとどういうわけは仲良くなり、平民地区では、会って話したり、遊んだり、としている。だが、ハガル、なかなか口が固く、皇族のことも、大魔法使いのことも、魔法使いについても、一切、話さないのだ。話すことといったら、世間話程度である。
 ルキエルが持ち込んでいる情報、これっぽっちも役に立っていない。だけど、アルロはルキエルの今後のために、見逃しているのだ。
 だいたい、ルキエルがハガルに色々と聞き出さなくても、私がいるから、問題ないのだ。私は、貴族の学校時代から皇族との付き合いがある。今も、週に一回は城で皇族と面談しているのだ。情報は、そこからダダ洩れである。
 ルキエルをいつまでも家に閉じ込めておくわけにはいかないので、こうやって、外に出す口実を与えてやっているだけだ。だというのに、ルキエルは好き勝手だ。
「昨日は肝が冷えた。平民地区で露店を見ていたら、ルキエルのほうから声をかけてきた」
「知り合いなんだから、普通だろう」
「側にハガルがいたんだよ!!」
 生きた心地がしない瞬間だった。
 世間では、見習い魔法使いハガルは、大した妖精憑きではない、と噂されている。ルキエルでさえ、ハガルの側には平然としている。
 しかし、色々と後ろ暗い経験をしている私にとって、ハガルは化け物だよ。しかも、賢者テラスを越えた化け物だ。最近では、賢者テラスに会っても、そんなに怖くなくなった。馴れたというのもあるが、それ以上の化け物に対峙する経験をしたから、色々と諦めたのだ。
「仲良くやってるか?」
 アルロが珍しく、父親らしいことを聞いてきた。ルキエルの交友関係が気になるのだろう。
 お前が全部、滅茶苦茶にしたからな。
 ルキエルの幼馴染みと呼べる存在は、ただ一人だけだ。それ以外は全て、アルロが殺した。ちょっとルキエルと喧嘩して、ルキエルを傷つけたから、とアルロはルキエルの幼馴染みを殺したのだ。そのせいで、ルキエルは一時期、屋敷に閉じこもって出なくなったという。
 子も子なら、親も親だよな。どっちも大問題だ。
 一時期、アルロは気狂いを起こしていた。その頃にやったのだ。まともに戻れば、ルキエルの周囲だけ、とんでもないことをしてしまった、と後悔やら反省やら、私に語ったものである。だったら、さっさとルキエルの身を手放せ。ことある事に、私はアルロからルキエルを離そうとした。しかし、ルキエルはかなり力のある妖精憑きらしく、アルロを狂わせた。力のある妖精憑きに手をつけた者は、手放せなくなるほど、魅入られるのだ。
 アルロは生涯、ルキエルを手放せない。それは、私も同じだ。ルキエルとは散々、閨事をして、その体を女のように蹂躙した。もう、私もルキエルから離れられない。
 だけど、ふとした瞬間、アルロも父親としての感情が表に出る。一度、滅茶苦茶にした交友関係が気になるのだろう。
「仲良くしている。ハガルも随分と、ルキエルのことを気に入っているようだ。ルキエルを平民の友達と思って、色々と連れまわしているよ」
「そうか」
 穏やかに笑うアルロ。ルキエルに散々なことをしているが、やはり、父親なんだな。
 子どもたちの前では、酷い父親なのだ。これっぽっちも愛情を示していない。何より、子育てに一切、手を出さなかった。妻であるサツキがいなくなっても、まだ親の手が必要な子二人を同じ子どもであるルキエルに押し付けたのだ。お陰で、ルキエルは下二人に随分と懐かれている。
 ルキエルの世界は狭い。もっと広い世界に目を向ければ、ルキエルの復讐心も小さくなるのでは、なんて考えたのだ。
 誰も、皇帝に殺されたサツキの復讐なんて望んでいない。サツキが死んだばかりの頃は、アルロは考えただろう。最後は、皇帝を殺そう、と。
 だけど、その復讐心を燃やし続けるには、それなりの力が必要だ。生きるということは大変なんだ。そうして、日常を過ごしていれば、復讐心は薄れる。そのまま、皇帝への復讐心を失い、惰性で生き続けるはずだった。
 ルキエルの復讐心だけは、消えなかった。
 気狂いを起こした父親に、死んだ母親の身代わりとして抱かれたルキエルは、誰よりも男としての自尊心が高かった。それゆえに、許せなかった。
 殺された母親の復讐ではない。ルキエルを不幸した全てへの復讐だ。そのために、いつか、皇帝襲撃を貧民たちにさせるのだ。
 どうにか止めたいが、ルキエルはそれを許さない。ルキエルは今も、貧民街にある反抗勢力を潰している。あの男は、その口先で、ルキエルに魅了された手勢を使って、せっせと邪魔する者たち全てを消しているのだ。
 俺は腹が立つので、また、アルロを蹴った。
「どうして、俺を蹴るんだ!」
「お前がさっさとルキエルを手放さないからだ!! 私が手をつける前に、子どもたちを手放せと言ったというのに」
「煩い!! 俺の子どもなんだから、俺が育てるのは当然だろう!!!」
「何が育てるだ。ルキエルから聞いてるぞ。貴様は金だけ渡して、一番、手のかかるレーリエットとロイドをルキエルに押し付けただろう。金払ったからって、子は育つわけじゃないんだぞ!!」
「っ!?」
 反論出来ないアルロ。本当の話だ。
 私がルキエルに手をつける前にも、サツキの子どもたちを保護する話をしたのだ。だが、アルロは子どもを手放さなかった。あの時、こいつと殴りあってでも、子どもたちを保護しておけばよかった。
 後悔ばかりだ。私が手をつけてからも、度々、ルキエルだけでも引き取る話はあったんだ。だが、当のルキエルがそれを拒否した。その頃には、関わる全てを滅茶苦茶にしたい復讐心で、ルキエルはもう、手がつけられなくなっていたのだ。迂闊に私が手を出せば、ルキエル、容赦なく噛みついてくるだろう。
「いいか、私を通しての仕事だけを受けるんだぞ!!」
「だったら、もっと寄越せ!!」
「働きすぎで、お前の手下どもが可哀想だろう!!」
 私はまた、アルロの足を蹴ってやった。何事かあると、この男は、仕事に逃げる、悪い癖があった。






 その日も、何気なく街を歩いていた。帰りに王都の貧民街に寄るつもりなので、手土産を選んでいた。
 男はいいんだよな。ちょっと美味しい菓子とか渡しておけば。女が困るんだよ。
 アルロの長女リンネットは、とんでもない強欲なんだ。あれもこれも全て欲しい、と手あたり次第なところがある。同じような物を手土産にすると、苦情が出るんだよ。
 アルロの末娘レーリエットは、私が持っていく物全て、気に入らないんだよな。ほら、私はルキエルに手をつけた貴族だ。レーリエットはルキエルのことが大好きである。だから、私のことは敵と見ているのだ。迂闊なものを持っていくと、ルキエルの前で貶してくれるんだよな。ルキエルにとって、レーリエットは溺愛している妹だから、これで、私の評価が落とされる。
 だけど、一番、難しいのはルキエルだ。何を渡しても喜ぶが、逆に喜ばなかったことがない。だから、心配になってきた。表面で喜んでいて、本当は、いらない物を押し付けているんじゃないか、と。
 悩みながら、露店を巡っていると、見習い魔法使いハガルと一緒に店巡りをしているルキエルを見つけてしまう。今日も、平民のふりをして、こんなトコに来てたんだな。
 邪魔しては悪いな、と私は別の方向へと足を向ける。
「あんた、来てたのかよ!!」
 が、ルキエルは私の思いやりをぶち壊しにしてくれる。後ろから抱きついてきた。
 ルキエルの華奢な体躯を背中に感じて、私は一瞬、みだらなことを考えてしまう。場所が悪い、場所が!!
 観念して、振り返れば、ルキエルから少し離れた所に、見習い魔法使いハガルが苦笑していた。ハガル、長男だけあって、大人びた空気を持っている。ルキエルのほうが年上なんだがな。
 ルキエルは私の腕をつかむなり、引っ張っていく。
「なあ、メシは食べたか?」
「いや、これからだが」
「ハガルが、メシ驕ってくれるって」
「だったら、私がご馳走しよう」
「いや、ルキエルの分は俺が出そう。ルキエルの誕生祝いだ」
「………は?」
 私は間抜けな顔となった。
 ルキエルの、誕生日? 誕生日!?
 私は、あんなにルキエルと深い仲となっているというのに、ルキエルの誕生日を知らなかった。今、初めて知ったよ。
 どうにか、私は取り繕った。ルキエルは、誕生日をハガルに祝ってもらえる、ということではしゃいでいる。
 ハガルはというと、私のことを呆れたように見ていた。気づかれたんだな、私がルキエルの誕生日を知らない、ということを。
「そんな、気にしなくていいって。こいつに驕ってもらおうぜ、ハガル」
「じゃあ、いい店を連れてってやるよ」
「夜行く店はやめろよ」
「健全な店だ」
 一抹の不安を感じる。ルキエルは、ハガルが連れて行くという店を警戒する。口で言ったって、ハガルの普段の所業は、とても健全ではない。ハガルは女遊びの店の常連として有名だ。ただの人ならいいのだが、見習い魔法使いだから、イヤでも目立つのだ。
 だけど、ハガルの案内で連れて行かれたのは、甘味関係の露店であった。
「ここのがうまいんだよ。ハチミツがいっぱい入ってるんだ」
「いや、ハチミツいっぱい過ぎるのは」
「まあまあ、食べてみろって」
 甘けりゃいいわけではない。ルキエルは迷うも、ハガルは勝手に買って、ルキエルの手に押し付けた。
 何故か、私の手にまで押し付けてきた。私は甘いのは、大嫌いなんだが。
 見るからに胸やけしそうなほど甘そうなそれを食べるための席はない。これは、歩きながら食べたりする食べ物だ。
「うまっ」
「そうだろ。いいハチミツ使ってるんだよ」
「持ち帰りしよう」
「俺も、家に持って行こう」
 もりもりと食べるルキエルとハガル。ルキエルが甘い物好きなのは知っている。だけど、ハガルまで好きだとは知らなかった。二人とも、仲良く食べて、綺麗にたいらげた。
「あんたは食べないのか?」
 そして、私だけ、食べないまま残っているのに気づくルキエル。
「そっか、あんた、甘いの嫌いだったな」
「なーんだ、甘いの食べられないのかー」
「苦手なんだ」
 ハガルがバカにしたように言ってくる。だけど、それで私は怒ったりしない。普通に受け流す。
「ほら、一口は食べてみろよ。口にあうかもしれないし」
「この甘ったるい匂いだけで、胸やけする」
「一口だけ食べろよ。失礼だろう」
「………そうだな」
 金を出したのはハガルだ。それに口をつけないのは、礼儀に反することだ。私は甘いそれを一口、かじった。
 そして、すぐに残ったそれをルキエルに押し付けた。
「うまいのに」
 ルキエルは喜んで受け取って食べる。その間に、私はこの口の中に残る甘さを消すための飲み物を買った。
「俺も飲みたい!!」
「俺も!!」
「わかったわかった」
 ルキエルが二人になったみたいだ。いつの間にか、私はルキエルとハガルに、同じ飲み物を買ってやる。
 似通っているはずだ。ハガルは妖精憑きだ。ルキエルは隠しているが、妖精憑きだ。同じ妖精憑きだから、感性もよく似ているのだろう。
 だからだろう。二人でいると、ただの人に見える。ハガルは、平民に育てられた妖精憑きだから、平民に紛れ込んでも違和感がない。ルキエルは、ハガルと一緒にいる時は、肩の力を抜いて、普通にしているから、知らない誰かのようだ。
 ついでに、私は土産を選ぶのを手伝ってもらう。そのまま、私は二人から別れるつもりだった。
「じゃあな、ハガル」
「またな」
 ところが、ハガルとルキエル、呆気なく、別れたのだ。
「帰るのか?」
「今日はハガルとは、誕生祝いで何かご馳走してもらうだけだったから。ハガルも生家に帰るって、土産、買ってただろう」
「あ、ああ、そうだな」
 買ってた。ルキエルも、ハチミツべったりの食べ物を持ち帰りしていたな。
「邪魔してしまったか」
 だが、心配になった。私が側にいなければ、ルキエルは、きっと、ハガルと一緒に、まだ買い物とかしていただろう。そんな気がする。
 ルキエルは私の手をそっと握った。
「せっかく、ここで会えたんだから、何か買ってよ」
「欲しいものがあるのか?」
「あんたが選んで買ってくれたものなら、何だっていい」
「欲しいもの、あるだろう」
「欲しいもの、ないな」
「………」
 泣きたくなった。
 誰だって、これといった物が欲しい、という欲望がある。養子オクトだって、欲しい物を買うことがある。
「俺、人の物ばっかり選んでたから、そういうの、わかんないんだよな。けど、俺のこと考えて選んでもらえると、どんな物でも、嬉しい」
「いらない物もあっただろう」
「俺、そんなに物、持ってないから、貰えるだけでいいよ」
 そんなところまで、母親に似なくていいのに!!
 ルキエルは、亡くなった母サツキによく似ている。その容姿だけでなく、気性もだ。まさか、物持ちまで、サツキに似なくていいのに。
「これから、もう一度、店を回ろう。ルキエルが欲しいというもの、買ってやる」
「道具、いつもくれるじゃん。それでいい」
「あれは、取引で得たものだ」
「本当に、何だっていいんだ。欲しいものって、ないんだよな」
 ルキエル、心底、困っていた。ただ、ルキエルが欲しいというものを選ぶだけだというのに。
「誕生日なんて、今更だろう。これまで、祝ってもらうこともなかったってのにな」
「まさか、誰も? お前の父親もか!?」
「親父が子どもの誕生日なんて、覚えてるわけないだろう。ロイドとレーリエットは、俺が育てたようなもんだから、俺が祝ってやってんだ。姉貴は、自己主張するから、仕方なくだ。兄貴は、恥ずかしがるから、誕生日の日は、兄貴の好きな料理を出してる」
「ルキエルの誕生日は?」
「黙ってる。誰も、俺の誕生日がいつかなんて、覚えてもいないし、教えてない」
 幼い頃から、ルキエルは他人のことばかりだった。幼い弟妹の面倒をみていたから、それが自然だった。ルキエル自身、後回しにするのが、普通なんだ。
「何か、してほしいことはあるか?」
「………してほしいこと、ある」
 ルキエルは俯いて、頬を染めた。
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