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妖精の隠し事
結末
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ハガルの子どもだからというわけではない。子どもは皆、行動が読めない。どこに行ってしまうかわからない。だから、私はハガルの子どもに付けられていた。
ハガルの愛情は狂愛だ。愛するあまり、ハガルは色々と余計なことをしてくれる。
ハガルの子どもラインハルトの側には、ハガルお手製の戦闘妖精二体がぴったりとくっついていた。この戦闘妖精に憑いた妖精は、かなり厄介だ。あまりにも年老いているため、根性がひん曲がっている。格は、高位妖精程度であるが、元はそうとは限らない。妖精憑きの側にいる時は最高位妖精であっても、妖精憑きを失った後は、高位妖精に格が落ちてしまう。しかし、この妖精は、よく話す。高位妖精は知能は高いといえば高いが、ここまで話さないのだ。
過去に見た、元妖精ナナキのことを思い出す。たぶん、この二体の妖精は、元は最高位妖精なのだろう。しかも、こいつらも、万年と生きた妖精だ。探せばいるもんだな、なんて出会った時には呆れてしまったものだ。私は妖精としては、まだまだ若いな。
ラインハルトは、ハガルの狂愛のせいで、片目を妖精の目に替えられてしまった。そのため、私の姿が見えるし、話せる。
「確か、ここでよく、父上がいなくなるんですよね」
ラインハルトは、ハガルがよく消えていなくなる場所が気になって仕方がない。ラインハルトは、ハガルのことが大好きで、ハガルのことを色々と知りたがった。
まずい場所だな。ハガルがいなくなる、という辺りに来て、私は気づいています。ハガルは、ここに来ては、ルキエルの部屋に来ていたのだ。そこまでするのなら、部屋ごと、持って帰ればいいだろうに。
妖精の力で隠された部屋だ。中途半端な妖精では、その部屋は開くことはない。
ラインハルトは、部屋の入口あたりに触れる。
「ここ、何か変だ。ねえ、カーラーン、力を貸してください」
「………わかった」
ラインハルトに命じられてしまっては、従うしかない。そう、ハガルに命じられているのだ。私はドアの偽装を外してしまう。
そして、秘密の部屋のドアがラインハルトの目の前に現れる。ラインハルトは、ハガルが来ていないと知っているので、躊躇なく入った。
「お前たちは入るな。ハガルにバレる」
私は戦闘妖精二体を通路に残して、部屋を封鎖した。
中は、時が止まったように、そのままだ。もう、ルキエルの遺体の痕跡はない。
「わ、手紙がいっぱいだ!!」
ラインハルトが子どもながらにあちこちと開けて回っていると、引き出しの中から、封がされた手紙が大量に出てきた。
そこは、元はルキエルの遺書があった引き出しだ。遺書一通だけで、他は何もなかったはずだ。
「えっと、ルキエル? 宛先が、ルキエルになっています。誰が書いたんだろう」
綺麗に封がされている手紙だ。ラインハルトは興味があるが、封を開けたりしない。
一目見ればわかる。ハガルだ。ハガルは今更ながら、ルキエルに手紙の返事を書いたのだ。随分と遅い返事だ。ルキエルが死んで、百年は過ぎた後だぞ。遅すぎだ。
ラインハルトは貧民であるが、お行儀がいい。手紙を綺麗に整えて、引き出しをしめる。こういう所、誰に似たのやら。
何の皮肉か、ルキエルの子孫とハガルの間に子がなされるなんて。ラインハルトは、妖精憑きを除く才能の化け物をハガルから受け継いでいた。どんどんと強くなり、賢くなってくるラインハルトは、ハガルでさえ、手がつけられなくなってきた。それでも、教育が良かったので、まだまだ甘ったれた子どもだ。
一通り見て回り、図面を見ては目を輝かせている姿に、私はルキエルの面影を見た。そういう所は残ったんだな。
「この部屋、誰の部屋なのですか? すごいですね。魔道具や魔法具の図面があります。物凄く頭のいい人でしょうね」
「お前の先祖だ。もうこの世にはいない」
「そうなのですか!? 戦争バカの一族、と皆言うのに、こんな賢い人がいたなんて」
「そこは正しい。この部屋の持ち主ルキエルは、王都の貧民街から移り住んできた貧民だ。優秀な妖精憑きで、道具の修理の腕前も神技といっていい。だが、性格は最低最悪だ」
「父上みたいな人ですか?」
「ハガルはな、ルキエルの真似をしているだけだ。ハガルは、ルキエルに憧れていたんだ」
「父上が憧れるって、そんなすごい人なのですか!? しかも、妖精憑きだなんて、いいなー」
ラインハルトにとっては、妖精憑きは最高なのだろう。妖精憑きとして生まれなかった事をラインハルトは今も残念がっている。
ハガルの力で、妖精を使役することまで出来るようになったというのに、強欲な子どもだ。そこが、ハガルによく似ている。
「ラインハルト、ここからは、内緒の話だ」
この部屋は様々な魔法が施されているので、秘密の話をするのに最適だった。だから、部屋に私は戦闘妖精を入れなかったのだ。
部屋の一角に隠されていた義体が動き出す。それは一瞬にして、女の姿に変わった。
「私が支配する高位妖精カリンだ」
「ここにも、戦闘妖精がいたのですか!?」
「ハガルも気づいていない。何せ、カリンは特別な妖精だ。ずっと、この部屋で義体について、隠れていたんだ。カリンはハガルの妖精であったが、ルキエルの名づけによって、支配から外れてしまった高位妖精だ。ルキエルに盗られた妖精であるが、私の支配はそのまま、という特殊な存在だ」
カリンはなかなか難しい存在だ。ハガルからの支配がなくなっても、妖精同士の繋がりは残っているのだ。元妖精ナナキが、人となっても、妖精の女王との繋がりが切れなかった事と同じだ。この繋がりを斬るには、妖精殺しの武器で強制的に斬るしかないのだが、あんな痛そうなこと、私は絶対にやらさない。だから、そこのところは黙っている。
「父上に話さなくていいのですか?」
「カリンはな、ルキエルの血筋に従っている妖精なんだ。なかなか、面倒な存在だから、ハガルから隠していた」
カリンはラインハルトを見て笑う。ルキエルに使役されたばかりの頃は、カリンは必要最低限の言葉と表情しか見せなかった。それも、ルキエルに影響を受けすぎてしまって、カリンが生まれもった格をどんどんと上げていったのだ。もう少しで、最上位妖精の仲間入りだ。
カリンはラインハルトの前に跪き、従属するように、頭を下げる。
「隠していて、いいのでしょうか。父上にはすぐ、気づかれてしまいますよ。何より、見るからに戦闘妖精ですし」
「義体についたまま、側に置いておくことはしない。普段は、私が隠しておこう。カリンは今も、私の支配下の妖精だ。万が一、私が側に居られない時は、カリンを私から解放しよう。義体は、このまま、部屋に隠しておこう。もう、これも使うことはないだろう」
「これは、父上が作った義体とは違うのですか?」
「これは、大昔の遺物だ。あの二人の義体は、ハガルのお手製だ。ルキエルが残した資料を元に、あの二体は作られた。ルキエルは偉大だ。名も残らないが、帝国全土の魔道具や魔法具が問題なく動いているのは、ルキエルの偉業だ」
「そうなのですか?」
「そうだ。ルキエルが死ぬまで魔道具や魔法具を直し、図面を作り、いかに管理するかを文章に残したんだ。それを元にして、ハガルは魔道具や魔法具を魔法使いに管理させている。全ては、この部屋から始まった」
ルキエルが全て行ったことだ。だが、ルキエルの名はどこにも残らない。もう、どこの貧民街でも、ルキエルの偉業を口にする者は存在しない。今の恵まれた生活を当然のことと考えている。
だが、帝国全土、全てが恵まれることはない。ルキエルが仕組みを作るまでは、ただ壊れていくだけの道具なのだ。圧倒的に、道具の数が足りない。新しく作り出す技術がないため、今ある道具だけでどうにかしている。だから、力のない領地には、その恩恵が届かない。
こう言ってやっても、ラインハルトもわからないだろう。今の生活が当然なのだ。そこが、残念だ。
「カリン、戻ってきなさい」
命じれば、カリンは義体を部屋のどこかに隠して、妖精となって、私の元に戻ってきた。そして、ラインハルトが見ている前で、すっと姿を消した。私の支配下に戻ったのだ。
「カーラーンって、物凄く強い妖精だって、父上の妖精たちが言ってたけど、本当ですか?」
「ああ、本当だ。ハガルの元にいる最高位妖精全てが相手でも、私には勝てないぞ」
「そうですか。でも、みんな、カーラーンのことを浮気者、と言ってましたよ。何か悪いことをしたのですか?」
「不可抗力だ」
私が一時期、ルキエルの妖精となってしまったことを言っているのだろう。ハガルの命令で仕方なくやっただけだというのに。私は悪くない。
「浮気は良くないですよ、浮気は」
「もう、その話はやめなさい。もう二度と、その話をしないと約束するのなら、軍神コクーンの剣技と体術を教えてやろう」
「え、本当ですか!?」
今でも、コクーンは伝説となっている。剣技と体術の素晴らしさから、人々から軍神、と呼ばれているのだ。
帝国所有の騎士団も、コクーンの指導を受けて、それなりの剣技と体術を継承しているのだが、表面的なものでしかない、とルキエルは話していた。
本来ならば、ラインハルトは軍神コクーンの一族だから、剣技と体術を受け継ぐべきなのだ。しかし、ラインハルトの祖父母は、ステラが生まれてすぐに亡くなったという。実際は、もっと前に軍神コクーンの剣技と体術は消えてしまっていた。
コクーンの一族は、どんどんと容赦なく妖精に寿命をとられていった。ルキエルが生きている間は、それもなかったが、死んだとわかると、次代が生まれてすぐに、親の寿命が盗られ、眠るように死んでいった記録が残っていた。そこから、コクーンの剣術と体術の継承は出来なくなったのだ。
それも、私という妖精が義体を通して、ルキエルから剣術と体術を受け継いでいた。ルキエルは、見ただけで、技術を体得してしまうのだ。お陰で、私は様々な体術と剣術を身に着けることとなった。
「でも、さすがに父上の体術と技術には勝てないですよ」
「実際にハガルとルキエルが戦ったことはないが、たぶん、ハガルは勝てないだろう。ハガルは騎士団仕込みの剣術と体術だ。ルキエルは、騎士団仕込みの剣術と体術を身に着けた者を簡単に撃退してしまった。ハガルが言っていた。ルキエルは、頭のいい戦い方をする、と」
「父上が負けるはずありません」
この年頃の子どもにとって、父親は絶対だ。負けるなんてありえないのだ。
なかなか難しいな、と思いながらも、私はラインハルトの頭を乱暴に撫でる。
「そういうのなら、ハガルご自慢の戦闘妖精と私で戦わせてみればいい」
「ここに隠した義体に憑くのですか?」
「筆頭魔法使いの屋敷の地下には、いくらだってある。それを使って、やってみればいい」
「絶対に、父上の勝ちです!!」
「ルキエルはなかなか手ごわいぞ」
「負けません!!」
ラインハルトをどうにか部屋の外に誘導して、私は再び、部屋の存在を隠した。
怒っていたラインハルトだが、部屋がまた隠されるのを見て、呆然となる。
「どうして、隠すのですか? 誰かが使えるようにすればいいではないですか。その部屋にいた人は、もう、この世にいないんですから、生者に譲られるべきです」
もう、為政者だ。正しいことをいうラインハルト。
「この部屋は、色々と曰くがある。常人が使える部屋ではない。だから、隠している」
長いこと、凶星の申し子を受け入れた部屋は、普通ではなくなっていた。隠して、封印するしかなかったのだ。
「父上でも、無理なのですか?」
「時間が解決することだ。だから、ハガルはこの部屋を隠したんだ。もう、この部屋を開けるような真似はしないように。時には、触れてはいけないものがある、ということをラインハルトも頭の隅でいいから、覚えておくといい」
「………」
「ハガルには内緒だ」
「すまない、見てしまった」
いないはずのハガルがいた。声をしたほうを向けば、ハガルの後ろであの戦闘妖精が笑って手を振っている。あいつら、ハガルを呼んだな!?
「もう、勝手に入ってはいけませんよ」
「………はい」
「この部屋の持ち主は、私の友達です。とてもかっこいい人なんですよ。聞きますか?」
「父上よりは、強くないですよね」
「強さとかっこよさは別です。ルキエルは、生き方がかっこいいんですよ」
ハガルはじっとラインハルトの妖精の目を見ていう。
私は、ラインハルトの妖精の目をなんとも思えない気持ちで見てしまう。ハガルお手製、と言われているが、それは、ルキエルが装着していた妖精の目だ。壊れた妖精の目をハガルが直し、ラインハルト用に調整したのだ。
ルキエルが装着していた妖精の目をラインハルトに使用することは、私は反対した。何が起こるかわからないからだ。
ルキエルは、義体に蓄積された私の記憶を妖精を通して取り入れてしまったことがあった。もしかすると、ラインハルトは、妖精の目を通して、ルキエルの記憶や経験を夢で見るかもしれない。だから、反対したのだ。
ハガルは本当に、何を考えているのかわからない。危険があるかもしれないというのに、愛する息子に、曰くある妖精の目を装着させたのだ。確かに、ハガルは父親失格なのだろう。ステラが殴るのも理解できた。
久しぶりにハガルに呼び出された。あの部屋を開けたことについて、聞きたいのだろう。
ハガルは赤ワインを飲んでいた。力ある妖精憑きは、酒で酔うことすらないから、意味がない。味を楽しむためだという。ただの果実水と赤ワインでは、違うという。
椅子を進められたが、座らない。実体がないのだから、椅子なんて意味がない。
「何か用か?」
「愚痴を聞いてほしい」
仕方なく、実体化して、椅子に座った。別に義体なんか使わなくても、座ることなど簡単だ。
「私は、別に、偉大な友達が欲しかったわけではない。普通の友達が欲しかっただけです」
「ルキエルは、普通ではないぞ」
「私にとっては、全ての存在が普通です。ルキエルだって、もう死んでいます」
ハガルの普通の基準は寿命の長さだ。ルキエルは、意外と早く亡くなった。ハガルも驚いていた。あんなに早く死ぬなんて、私も驚いた。軍神コクーン並に生きると想像していたのだ。
「カーラーンは、ルキエルの遺書、読みましたか?」
「手紙すら読んでいない。失礼だろう」
「ルキエルは、私の自慢の友達になるために頑張っていただけです。それを読んで、泣きたくなりましたいました。別に、友達になるのに、頑張りとか、努力とか、そんなもの、必要ないというのに。妖精憑きとして、肩を並べられるだけの強さが必要だ、なんてルキエルは考えて。そんなの、神が与えるものだというのに」
驚いた。ルキエルは、家族のことよりも、ハガルのことばかり考えていた。
コクーンの一族に関わることは、ルキエルにとって、損ばかりだ。なのに関わったのは、ハガルに肩を並べられる可能性を見出したからだ。
今の私は、妖精の女王を超えた存在だ。ルキエルの願いにより、ルキエルが妖精の女王から奪った妖精を継承した。それ以前に、ルキエルのために人となった元妖精ナナキが持つ妖精も継承した。これだけで、妖精の女王を簡単に屈服させられる。
いつでも出来るのだ。ただ、私はまだ、ハガルから解放されていない。だから、私はハガルから解放されるのを待っている。
だけど、ハガルには、まだ、私の存在が必要だ。私はたぶん、ルキエルの代わりだ。
「ルキエルは言っていた。ハガルのことは、自慢の友達だ、と。貢ぎ癖が病気だ、と心配もしていたな」
「ごめんなさい」
「ハガル、ありがとう」
「何が?」
「私の妖精を盗らないでくれて、ありがとう。お前が私から取りあげるのなど、簡単なことだったろう。なのに、取り上げないで、そのままにしてくれた。感謝する」
「ルキエルは、カーラーンを妖精の王にする、なんて書いていました。カーラーンが持つ妖精のほとんどは、ルキエルの手柄です。あなたが妖精の王となったら、ルキエルは喜ぶでしょう。私は、友達の願いを叶えるだけです」
「それも、ルキエルの遺書に書かれていたのか?」
「………」
無言だけど、肯定したようなものだ。どんなことが書かれていたのか、かなり気になった。
少し気分が上昇したようだ。ハガルは立ち上がると、部屋を出て行った。何も言われていないが、ついて行かないといけないんだろうな。
私は仕方なく、ハガルの後をついていく。ハガルは筆頭魔法使いの屋敷の地下に降りていく。
地下牢には、ハガルが筆頭魔法使いになったばかりの頃には、色々とあった。篭絡した暗部の女やら、ハガルに魅了されてしまった四肢のない暗部やら、呪われて変異してしまった血の繋がらない父親やら、色々だ。今は、もう、そういう悪趣味なことはしていないと思いたい。
地下牢は再利用されてはいた。だけど、ある地下牢だけ、封鎖されたままだ。
ルキエルがいた地下牢だ。ルキエルが使った後、その地下牢は封鎖されたまま、誰も使用することがなかった。ルキエルが使った物も全て、そのままだ。ハガルはその地下牢の中に入る。
「さすが、凶星の申し子だな」
何をやっているか、覗いてみれば、ハガルは妖精金貨の入った箱を覗き込んでいた。
大魔法使いを騙したことで、金貨が妖精に呪われてしまったのだ。一度、発動してしまった呪いは、そう簡単に解けない。だから、筆頭魔法使いの屋敷の地下に封印されていた。それが、何故か、ルキエルが使っていた地下牢に入れられていた。
「ただの、金貨に戻っているな」
「妖精の呪いも、神が与えた試練には、勝てなかったということですね。海の貧民街にあるルキエルの部屋も、どうにか、ここに移設しましょう」
「また、実験か。そういうことするから、ルキエルがハガルに友達と思われているかどうか、疑っていたぞ!!」
「こうして、ルキエルが平凡に過ごせる方法を模索していました。生きている間に、見つけてあげられなくて、残念でした」
「………」
「凶星の持ち主は、一生を波乱万丈に生きていくしかありません。平凡なんて、不可能です。ですが、その力を違う方法に持っていくことで、もしかしたら、ルキエルは外でも普通に生きていけたかもしれません。海の貧民街で、問題なく閉じこもっていられたのは、たまたま、あの大量の妖精を取り込んだからにすぎません。それも、ステラの一族が受ける神の加護が働いたお陰でしょう」
「教えてやれば良かっただろう」
ハガルは、ルキエルが凶星の申し子であることはわかっていた。そのことを教えていれば、ルキエルの未来は変わっていたかもしれない。
「どちらが良かったのか、今もわかりません。これには、正解なんてありませんよ」
「私はルキエルに教えたかった」
「後悔しているのですね。私から言えることは、暇つぶしにずっと悩んでいなさい。あなたは千年を軽く生きるのです。その長い期間をどう暇つぶしをするか、ということが重要です。ずっと、悩んでいなさい」
「ハガルはどうなんだ!?」
「もし、万が一、もう一度、凶星の申し子に出会うことがあった場合に備えて、色々と調べるだけです。人に比べれば、私は長寿ですが、妖精にとっては短い生ですよ」
どこまでいっても、ハガルは帝国の教育に忠実だった。
ハガルの愛情は狂愛だ。愛するあまり、ハガルは色々と余計なことをしてくれる。
ハガルの子どもラインハルトの側には、ハガルお手製の戦闘妖精二体がぴったりとくっついていた。この戦闘妖精に憑いた妖精は、かなり厄介だ。あまりにも年老いているため、根性がひん曲がっている。格は、高位妖精程度であるが、元はそうとは限らない。妖精憑きの側にいる時は最高位妖精であっても、妖精憑きを失った後は、高位妖精に格が落ちてしまう。しかし、この妖精は、よく話す。高位妖精は知能は高いといえば高いが、ここまで話さないのだ。
過去に見た、元妖精ナナキのことを思い出す。たぶん、この二体の妖精は、元は最高位妖精なのだろう。しかも、こいつらも、万年と生きた妖精だ。探せばいるもんだな、なんて出会った時には呆れてしまったものだ。私は妖精としては、まだまだ若いな。
ラインハルトは、ハガルの狂愛のせいで、片目を妖精の目に替えられてしまった。そのため、私の姿が見えるし、話せる。
「確か、ここでよく、父上がいなくなるんですよね」
ラインハルトは、ハガルがよく消えていなくなる場所が気になって仕方がない。ラインハルトは、ハガルのことが大好きで、ハガルのことを色々と知りたがった。
まずい場所だな。ハガルがいなくなる、という辺りに来て、私は気づいています。ハガルは、ここに来ては、ルキエルの部屋に来ていたのだ。そこまでするのなら、部屋ごと、持って帰ればいいだろうに。
妖精の力で隠された部屋だ。中途半端な妖精では、その部屋は開くことはない。
ラインハルトは、部屋の入口あたりに触れる。
「ここ、何か変だ。ねえ、カーラーン、力を貸してください」
「………わかった」
ラインハルトに命じられてしまっては、従うしかない。そう、ハガルに命じられているのだ。私はドアの偽装を外してしまう。
そして、秘密の部屋のドアがラインハルトの目の前に現れる。ラインハルトは、ハガルが来ていないと知っているので、躊躇なく入った。
「お前たちは入るな。ハガルにバレる」
私は戦闘妖精二体を通路に残して、部屋を封鎖した。
中は、時が止まったように、そのままだ。もう、ルキエルの遺体の痕跡はない。
「わ、手紙がいっぱいだ!!」
ラインハルトが子どもながらにあちこちと開けて回っていると、引き出しの中から、封がされた手紙が大量に出てきた。
そこは、元はルキエルの遺書があった引き出しだ。遺書一通だけで、他は何もなかったはずだ。
「えっと、ルキエル? 宛先が、ルキエルになっています。誰が書いたんだろう」
綺麗に封がされている手紙だ。ラインハルトは興味があるが、封を開けたりしない。
一目見ればわかる。ハガルだ。ハガルは今更ながら、ルキエルに手紙の返事を書いたのだ。随分と遅い返事だ。ルキエルが死んで、百年は過ぎた後だぞ。遅すぎだ。
ラインハルトは貧民であるが、お行儀がいい。手紙を綺麗に整えて、引き出しをしめる。こういう所、誰に似たのやら。
何の皮肉か、ルキエルの子孫とハガルの間に子がなされるなんて。ラインハルトは、妖精憑きを除く才能の化け物をハガルから受け継いでいた。どんどんと強くなり、賢くなってくるラインハルトは、ハガルでさえ、手がつけられなくなってきた。それでも、教育が良かったので、まだまだ甘ったれた子どもだ。
一通り見て回り、図面を見ては目を輝かせている姿に、私はルキエルの面影を見た。そういう所は残ったんだな。
「この部屋、誰の部屋なのですか? すごいですね。魔道具や魔法具の図面があります。物凄く頭のいい人でしょうね」
「お前の先祖だ。もうこの世にはいない」
「そうなのですか!? 戦争バカの一族、と皆言うのに、こんな賢い人がいたなんて」
「そこは正しい。この部屋の持ち主ルキエルは、王都の貧民街から移り住んできた貧民だ。優秀な妖精憑きで、道具の修理の腕前も神技といっていい。だが、性格は最低最悪だ」
「父上みたいな人ですか?」
「ハガルはな、ルキエルの真似をしているだけだ。ハガルは、ルキエルに憧れていたんだ」
「父上が憧れるって、そんなすごい人なのですか!? しかも、妖精憑きだなんて、いいなー」
ラインハルトにとっては、妖精憑きは最高なのだろう。妖精憑きとして生まれなかった事をラインハルトは今も残念がっている。
ハガルの力で、妖精を使役することまで出来るようになったというのに、強欲な子どもだ。そこが、ハガルによく似ている。
「ラインハルト、ここからは、内緒の話だ」
この部屋は様々な魔法が施されているので、秘密の話をするのに最適だった。だから、部屋に私は戦闘妖精を入れなかったのだ。
部屋の一角に隠されていた義体が動き出す。それは一瞬にして、女の姿に変わった。
「私が支配する高位妖精カリンだ」
「ここにも、戦闘妖精がいたのですか!?」
「ハガルも気づいていない。何せ、カリンは特別な妖精だ。ずっと、この部屋で義体について、隠れていたんだ。カリンはハガルの妖精であったが、ルキエルの名づけによって、支配から外れてしまった高位妖精だ。ルキエルに盗られた妖精であるが、私の支配はそのまま、という特殊な存在だ」
カリンはなかなか難しい存在だ。ハガルからの支配がなくなっても、妖精同士の繋がりは残っているのだ。元妖精ナナキが、人となっても、妖精の女王との繋がりが切れなかった事と同じだ。この繋がりを斬るには、妖精殺しの武器で強制的に斬るしかないのだが、あんな痛そうなこと、私は絶対にやらさない。だから、そこのところは黙っている。
「父上に話さなくていいのですか?」
「カリンはな、ルキエルの血筋に従っている妖精なんだ。なかなか、面倒な存在だから、ハガルから隠していた」
カリンはラインハルトを見て笑う。ルキエルに使役されたばかりの頃は、カリンは必要最低限の言葉と表情しか見せなかった。それも、ルキエルに影響を受けすぎてしまって、カリンが生まれもった格をどんどんと上げていったのだ。もう少しで、最上位妖精の仲間入りだ。
カリンはラインハルトの前に跪き、従属するように、頭を下げる。
「隠していて、いいのでしょうか。父上にはすぐ、気づかれてしまいますよ。何より、見るからに戦闘妖精ですし」
「義体についたまま、側に置いておくことはしない。普段は、私が隠しておこう。カリンは今も、私の支配下の妖精だ。万が一、私が側に居られない時は、カリンを私から解放しよう。義体は、このまま、部屋に隠しておこう。もう、これも使うことはないだろう」
「これは、父上が作った義体とは違うのですか?」
「これは、大昔の遺物だ。あの二人の義体は、ハガルのお手製だ。ルキエルが残した資料を元に、あの二体は作られた。ルキエルは偉大だ。名も残らないが、帝国全土の魔道具や魔法具が問題なく動いているのは、ルキエルの偉業だ」
「そうなのですか?」
「そうだ。ルキエルが死ぬまで魔道具や魔法具を直し、図面を作り、いかに管理するかを文章に残したんだ。それを元にして、ハガルは魔道具や魔法具を魔法使いに管理させている。全ては、この部屋から始まった」
ルキエルが全て行ったことだ。だが、ルキエルの名はどこにも残らない。もう、どこの貧民街でも、ルキエルの偉業を口にする者は存在しない。今の恵まれた生活を当然のことと考えている。
だが、帝国全土、全てが恵まれることはない。ルキエルが仕組みを作るまでは、ただ壊れていくだけの道具なのだ。圧倒的に、道具の数が足りない。新しく作り出す技術がないため、今ある道具だけでどうにかしている。だから、力のない領地には、その恩恵が届かない。
こう言ってやっても、ラインハルトもわからないだろう。今の生活が当然なのだ。そこが、残念だ。
「カリン、戻ってきなさい」
命じれば、カリンは義体を部屋のどこかに隠して、妖精となって、私の元に戻ってきた。そして、ラインハルトが見ている前で、すっと姿を消した。私の支配下に戻ったのだ。
「カーラーンって、物凄く強い妖精だって、父上の妖精たちが言ってたけど、本当ですか?」
「ああ、本当だ。ハガルの元にいる最高位妖精全てが相手でも、私には勝てないぞ」
「そうですか。でも、みんな、カーラーンのことを浮気者、と言ってましたよ。何か悪いことをしたのですか?」
「不可抗力だ」
私が一時期、ルキエルの妖精となってしまったことを言っているのだろう。ハガルの命令で仕方なくやっただけだというのに。私は悪くない。
「浮気は良くないですよ、浮気は」
「もう、その話はやめなさい。もう二度と、その話をしないと約束するのなら、軍神コクーンの剣技と体術を教えてやろう」
「え、本当ですか!?」
今でも、コクーンは伝説となっている。剣技と体術の素晴らしさから、人々から軍神、と呼ばれているのだ。
帝国所有の騎士団も、コクーンの指導を受けて、それなりの剣技と体術を継承しているのだが、表面的なものでしかない、とルキエルは話していた。
本来ならば、ラインハルトは軍神コクーンの一族だから、剣技と体術を受け継ぐべきなのだ。しかし、ラインハルトの祖父母は、ステラが生まれてすぐに亡くなったという。実際は、もっと前に軍神コクーンの剣技と体術は消えてしまっていた。
コクーンの一族は、どんどんと容赦なく妖精に寿命をとられていった。ルキエルが生きている間は、それもなかったが、死んだとわかると、次代が生まれてすぐに、親の寿命が盗られ、眠るように死んでいった記録が残っていた。そこから、コクーンの剣術と体術の継承は出来なくなったのだ。
それも、私という妖精が義体を通して、ルキエルから剣術と体術を受け継いでいた。ルキエルは、見ただけで、技術を体得してしまうのだ。お陰で、私は様々な体術と剣術を身に着けることとなった。
「でも、さすがに父上の体術と技術には勝てないですよ」
「実際にハガルとルキエルが戦ったことはないが、たぶん、ハガルは勝てないだろう。ハガルは騎士団仕込みの剣術と体術だ。ルキエルは、騎士団仕込みの剣術と体術を身に着けた者を簡単に撃退してしまった。ハガルが言っていた。ルキエルは、頭のいい戦い方をする、と」
「父上が負けるはずありません」
この年頃の子どもにとって、父親は絶対だ。負けるなんてありえないのだ。
なかなか難しいな、と思いながらも、私はラインハルトの頭を乱暴に撫でる。
「そういうのなら、ハガルご自慢の戦闘妖精と私で戦わせてみればいい」
「ここに隠した義体に憑くのですか?」
「筆頭魔法使いの屋敷の地下には、いくらだってある。それを使って、やってみればいい」
「絶対に、父上の勝ちです!!」
「ルキエルはなかなか手ごわいぞ」
「負けません!!」
ラインハルトをどうにか部屋の外に誘導して、私は再び、部屋の存在を隠した。
怒っていたラインハルトだが、部屋がまた隠されるのを見て、呆然となる。
「どうして、隠すのですか? 誰かが使えるようにすればいいではないですか。その部屋にいた人は、もう、この世にいないんですから、生者に譲られるべきです」
もう、為政者だ。正しいことをいうラインハルト。
「この部屋は、色々と曰くがある。常人が使える部屋ではない。だから、隠している」
長いこと、凶星の申し子を受け入れた部屋は、普通ではなくなっていた。隠して、封印するしかなかったのだ。
「父上でも、無理なのですか?」
「時間が解決することだ。だから、ハガルはこの部屋を隠したんだ。もう、この部屋を開けるような真似はしないように。時には、触れてはいけないものがある、ということをラインハルトも頭の隅でいいから、覚えておくといい」
「………」
「ハガルには内緒だ」
「すまない、見てしまった」
いないはずのハガルがいた。声をしたほうを向けば、ハガルの後ろであの戦闘妖精が笑って手を振っている。あいつら、ハガルを呼んだな!?
「もう、勝手に入ってはいけませんよ」
「………はい」
「この部屋の持ち主は、私の友達です。とてもかっこいい人なんですよ。聞きますか?」
「父上よりは、強くないですよね」
「強さとかっこよさは別です。ルキエルは、生き方がかっこいいんですよ」
ハガルはじっとラインハルトの妖精の目を見ていう。
私は、ラインハルトの妖精の目をなんとも思えない気持ちで見てしまう。ハガルお手製、と言われているが、それは、ルキエルが装着していた妖精の目だ。壊れた妖精の目をハガルが直し、ラインハルト用に調整したのだ。
ルキエルが装着していた妖精の目をラインハルトに使用することは、私は反対した。何が起こるかわからないからだ。
ルキエルは、義体に蓄積された私の記憶を妖精を通して取り入れてしまったことがあった。もしかすると、ラインハルトは、妖精の目を通して、ルキエルの記憶や経験を夢で見るかもしれない。だから、反対したのだ。
ハガルは本当に、何を考えているのかわからない。危険があるかもしれないというのに、愛する息子に、曰くある妖精の目を装着させたのだ。確かに、ハガルは父親失格なのだろう。ステラが殴るのも理解できた。
久しぶりにハガルに呼び出された。あの部屋を開けたことについて、聞きたいのだろう。
ハガルは赤ワインを飲んでいた。力ある妖精憑きは、酒で酔うことすらないから、意味がない。味を楽しむためだという。ただの果実水と赤ワインでは、違うという。
椅子を進められたが、座らない。実体がないのだから、椅子なんて意味がない。
「何か用か?」
「愚痴を聞いてほしい」
仕方なく、実体化して、椅子に座った。別に義体なんか使わなくても、座ることなど簡単だ。
「私は、別に、偉大な友達が欲しかったわけではない。普通の友達が欲しかっただけです」
「ルキエルは、普通ではないぞ」
「私にとっては、全ての存在が普通です。ルキエルだって、もう死んでいます」
ハガルの普通の基準は寿命の長さだ。ルキエルは、意外と早く亡くなった。ハガルも驚いていた。あんなに早く死ぬなんて、私も驚いた。軍神コクーン並に生きると想像していたのだ。
「カーラーンは、ルキエルの遺書、読みましたか?」
「手紙すら読んでいない。失礼だろう」
「ルキエルは、私の自慢の友達になるために頑張っていただけです。それを読んで、泣きたくなりましたいました。別に、友達になるのに、頑張りとか、努力とか、そんなもの、必要ないというのに。妖精憑きとして、肩を並べられるだけの強さが必要だ、なんてルキエルは考えて。そんなの、神が与えるものだというのに」
驚いた。ルキエルは、家族のことよりも、ハガルのことばかり考えていた。
コクーンの一族に関わることは、ルキエルにとって、損ばかりだ。なのに関わったのは、ハガルに肩を並べられる可能性を見出したからだ。
今の私は、妖精の女王を超えた存在だ。ルキエルの願いにより、ルキエルが妖精の女王から奪った妖精を継承した。それ以前に、ルキエルのために人となった元妖精ナナキが持つ妖精も継承した。これだけで、妖精の女王を簡単に屈服させられる。
いつでも出来るのだ。ただ、私はまだ、ハガルから解放されていない。だから、私はハガルから解放されるのを待っている。
だけど、ハガルには、まだ、私の存在が必要だ。私はたぶん、ルキエルの代わりだ。
「ルキエルは言っていた。ハガルのことは、自慢の友達だ、と。貢ぎ癖が病気だ、と心配もしていたな」
「ごめんなさい」
「ハガル、ありがとう」
「何が?」
「私の妖精を盗らないでくれて、ありがとう。お前が私から取りあげるのなど、簡単なことだったろう。なのに、取り上げないで、そのままにしてくれた。感謝する」
「ルキエルは、カーラーンを妖精の王にする、なんて書いていました。カーラーンが持つ妖精のほとんどは、ルキエルの手柄です。あなたが妖精の王となったら、ルキエルは喜ぶでしょう。私は、友達の願いを叶えるだけです」
「それも、ルキエルの遺書に書かれていたのか?」
「………」
無言だけど、肯定したようなものだ。どんなことが書かれていたのか、かなり気になった。
少し気分が上昇したようだ。ハガルは立ち上がると、部屋を出て行った。何も言われていないが、ついて行かないといけないんだろうな。
私は仕方なく、ハガルの後をついていく。ハガルは筆頭魔法使いの屋敷の地下に降りていく。
地下牢には、ハガルが筆頭魔法使いになったばかりの頃には、色々とあった。篭絡した暗部の女やら、ハガルに魅了されてしまった四肢のない暗部やら、呪われて変異してしまった血の繋がらない父親やら、色々だ。今は、もう、そういう悪趣味なことはしていないと思いたい。
地下牢は再利用されてはいた。だけど、ある地下牢だけ、封鎖されたままだ。
ルキエルがいた地下牢だ。ルキエルが使った後、その地下牢は封鎖されたまま、誰も使用することがなかった。ルキエルが使った物も全て、そのままだ。ハガルはその地下牢の中に入る。
「さすが、凶星の申し子だな」
何をやっているか、覗いてみれば、ハガルは妖精金貨の入った箱を覗き込んでいた。
大魔法使いを騙したことで、金貨が妖精に呪われてしまったのだ。一度、発動してしまった呪いは、そう簡単に解けない。だから、筆頭魔法使いの屋敷の地下に封印されていた。それが、何故か、ルキエルが使っていた地下牢に入れられていた。
「ただの、金貨に戻っているな」
「妖精の呪いも、神が与えた試練には、勝てなかったということですね。海の貧民街にあるルキエルの部屋も、どうにか、ここに移設しましょう」
「また、実験か。そういうことするから、ルキエルがハガルに友達と思われているかどうか、疑っていたぞ!!」
「こうして、ルキエルが平凡に過ごせる方法を模索していました。生きている間に、見つけてあげられなくて、残念でした」
「………」
「凶星の持ち主は、一生を波乱万丈に生きていくしかありません。平凡なんて、不可能です。ですが、その力を違う方法に持っていくことで、もしかしたら、ルキエルは外でも普通に生きていけたかもしれません。海の貧民街で、問題なく閉じこもっていられたのは、たまたま、あの大量の妖精を取り込んだからにすぎません。それも、ステラの一族が受ける神の加護が働いたお陰でしょう」
「教えてやれば良かっただろう」
ハガルは、ルキエルが凶星の申し子であることはわかっていた。そのことを教えていれば、ルキエルの未来は変わっていたかもしれない。
「どちらが良かったのか、今もわかりません。これには、正解なんてありませんよ」
「私はルキエルに教えたかった」
「後悔しているのですね。私から言えることは、暇つぶしにずっと悩んでいなさい。あなたは千年を軽く生きるのです。その長い期間をどう暇つぶしをするか、ということが重要です。ずっと、悩んでいなさい」
「ハガルはどうなんだ!?」
「もし、万が一、もう一度、凶星の申し子に出会うことがあった場合に備えて、色々と調べるだけです。人に比べれば、私は長寿ですが、妖精にとっては短い生ですよ」
どこまでいっても、ハガルは帝国の教育に忠実だった。
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