魔法使いの悪友

shishamo346

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過去からの捜索者たち

救えない女

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「やっと行ったか。自由だ!!」
 色々と、しつこく、くっついてきた妹レーリエットと、元妖精ナナキが海の貧民街から出ていって、せいせいした。一日中、べったりで、鬱陶しかった。
「お主、本当に冷たいのぉ。あんなに好いてくれてるというのに」
「あれほどの忠臣、なかなかいないぞ」
 コクーン爺さんとワシムは、物凄く呆れる。もう、俺は呆れられるばっかりだな。褒められることは、何一つない。
「朝から就寝まで、ずっと一緒だぞ。俺だって、それなりの男だ。夜、隠れて一人でやりたいことがある」
「普段から、好き勝手やっているではないか」
「それが出来なくなるんだよ!! あいつらは、束縛がすごいぞ。あれはダメ、これはダメ、ふしだらだ、汚らわしい、と口うるさい」
「そういうことばかりするからじゃろう。ルキエルのことを思ってのことだ。聞き入れてやれ」
「そういう存在なんだよ。無理だ」
 コクーン爺さんの忠言も、俺には響かない。だって、常人には見えない最高位妖精カーラーンに四六時中、言われている。聞き飽きた。
 カーラーンを見れば、コクーン爺さんの忠言に何度も頷いているよ。こいつら、実は考え方が同じだな。生きた年数が違うけど、コクーン爺さんも、ある意味、妖精に近いのかもな。
「昨日は、随分と可愛がってもらったし、今日は大人しく、道具いじりしてよう」
「貴様、ここでは身売りはしないと言ってたではないか!?」
「金はとっていない。閨事しただけだ。あそこまで良いものは、あの男にされて以来だな」
「………業が深いな」
 俺の身の上、コクーン爺さんは詳しく聞いてこない。今回、俺を誘拐しようとした奴らを拷問して、俺のことを色々と知ったのだろう。報告は最低限だったが、紙に書かれていない何かを聞いたはずだ。
 表向きでは、俺は元支配者の娼夫だ。しかし、実際は、元支配者であった父親の娼夫だ。そのことを知っている者はそういない。
 王都の貧民街でも、俺はただ、親父に可愛がられている、と思われていた。何せ、俺はお袋寄りに似ている、と言われていた。お袋をよく知る奴らが言うのだから、そうなのだろう。お袋を失った親父は狂って、お袋に似た俺を可愛がった、そう思われても仕方がない。
 夜には、俺の上に親父が圧し掛かっている、なんて、想像すらしていなかった。日中は、俺は親父のお気に入り、として王都の貧民街では、一目置かれていただけだ。腕っぷしもなく、妖精憑きを隠していた俺には、その程度の価値しかないと見られていた。
 そして、親父の可愛がっている娼夫は別にいると思われていた。噂は流れていたのだ。夜になると、とんでもない色香のある声が屋敷の奥から響き漏れていたとか。きっと、奥深くに閉じ込め、可愛がられているのだろう、と噂された。
 さて、あの誘拐犯たちは、どこまで俺の情報を持っていたのやら。コクーン爺さんとワシムは、上手に隠したのか、大した情報がなかったか、どちらかだ。
 妖精憑きの力を使えば、レーリエットのナナキが乗った馬車が海の貧民街から出て、王都へと向かっていっているのはわかる。それを確認してから、俺は部屋に戻るために歩き出した。
 だけど、すぐ、俺は足を止めて振り返る。コクーン爺さんとワシムも、建物に戻ろうとして、俺が振り返ったので、首を傾げて、俺の視線の先を見る。
 そこに、綺麗な女が俺に向かって歩いてきた。怒りに満ちた顔で、コクーン爺さんとワシムを通り抜け、俺の前に立つと、思いっきり、俺の頬を引っ叩いた。
「いってぇな。その長い爪で叩くな。顔が傷ついただろう」
「煩い!! いつもいつもいつも、アタシの邪魔ばかりして!!! どうして、あんたは、いつも、アタシの望み通りに動かないのよ!?」
「なんで、俺が、姉貴の思い通りに動かないといけないんだ。俺は姉貴を助けてやった。その一回のお陰で、あんたは綺麗な体だったろう」
 俺の姉だと知って、コクーン爺さんとワシムは止めるのを辞めた。
 俺は、この姉リンネットを助けたばっかりに、親父の娼夫となった。たった一回だ。その一回で、俺の人生は変わったのだ。
「あんたが父さんに可愛がられて、どれだけ、アタシは惨めになったか」
 なのに、この女は、感謝すらしない。それどころか、俺が親父の娼夫にされたことを良いことだ、とこんなところで言ってくれる。
「だからって、俺の情報を貴族に売ったのか!?」
「そうよ!!」
 バカだな、この女。ちょっと言ってやれば、自白しやがった。まだ、俺の情報源がどこか、誰もわかっていなかったというのに、この女の頭は、本当に空っぽだな。
 俺は呆れて、溜息しか出ない。何を言ったって、リンネットは、反省なんてしない。
「あんたは父さんに昼も夜も可愛がられ、それを見て、皆、どう言ってたか知ってる? アタシは父さんの子どもじゃないって言われてたのよ!!」
 ぼろぼろと泣き出すリンネット。もう、いい年頃の女が、子どもみたいな事で泣き出しやがった。
「知るか。日中、俺を束縛してたのは、逃がさないためだ。夜は、お袋の身代わりに、閨事の強要だ。それがいいなんていうなら、代わってくれれば良かったじゃないか!!」
 少しでも逃げるそぶりを見せようものなら、夜には酷い目にあっていた。逃げることが無駄だと思い知らされながらも、復讐心だけで耐えていたんだ。
 それを羨ましい、なんて言われて、俺は吐き捨てるしかない。恨み言だって出る。過去のことは、昇華なんて出来ない。過去は終わったものだ。経験は蓄積だ。残るんだ。
「やってやったわよ!! 父さん、見向きもしなかった。アタシを見ていうのよ、ちっとも似てないな、て」
「似てなくても、美人だからいいだろう。それで満足しろよ。お前だって、貧民街では、高嶺の花だぞ」
「あの小生意気なレーリエットがいなければね。レーリエットが出てくると、アタシなんて誰も見向きもしない!! あんただって、レーリエットを可愛がって!!!」
「仕方がない。手塩にかけて育てたんだ。レーリエットは可愛い」
 そこだけは譲らない。夜泣きだってあやしてやったんだ。レーリエットは可愛い妹だ。
「手塩にかけて育てたら、あんなに可愛くなっただけだ。俺は、見た目が普通だとしても、レーリエットを大事にする。見た目じゃない」
「そう言っていられるのも、今のうちよ。レーリエットに醜い傷があったら、あんたでも、見捨てるでしょうね!!」
「そこは、妖精さんに治してもらうから、大丈夫だ。それ以前に、ナナキが守っているレーリエットには傷一つつけられない」
 何かしたのだろう。わざわざ、そんなことを言うのだから、今頃、レーリエットとナナキが乗った馬車が襲撃されちゃってるんだろうな。
 綺麗なのに、醜い笑みを浮かべるリンネット。この姉は、根性が悪いから、綺麗な顔が歪むんだよな。残念だ。
「生きているといいわね」
「一度は見捨てたんだ。死んでも仕方がない。それで、わざわざ俺の前に出てきて、どうするんだ?」
「一緒に来るのよ。あんたを貴族の元に連れていくの。あんたを連れて行けば、アタシは貴族のような生活が出来るのよ」
「………」
 俺はもう、呆れて、声も出ない。頭が痛くなる。リンネットにとっては、俺は何でもいうことをきく奴隷なんだろう。弟は、姉の言うことをきくもの、とでも思っているのかもしれない。確かに、もう一人の弟ロイドは、そんな感じだな。リンネットにこき使われていたな、ロイド。
 リンネットは当然のように俺の腕をつかんで引っ張る。
「ほら、行くのよ!! たまには、アタシのためのことをしなさい!!!」
「俺は今、身売りを休んでいる」
「今更、その身を綺麗にしたい、なんて思っているの? バカじゃない。あんなに父さんに毎日、何年も抱かれて、今更、その身が綺麗になれるわけがないでしょう!! あんたはどこまでいっても、娼夫なのよ」
「確かに、そうだな。俺は結局、誰かの娼夫だ。だけど、その相手は俺が決める。もう、俺の許可なく、蹂躙なんてされない」
 俺はリンネットの手を振り払った。女だというのに、リンネットに触れられると、気持ち悪い。同じ血が流れているというのに、これっぽっちも愛情を感じない。
「一年前だって、見逃してやったというのに。今回だって、見逃したんだ」
 証言が出てなくても、なんとなく、姉が情報を売ったんだろう、と俺は気づいていた。俺の前に出て来なければ、見逃したのだ。
「ナナキ、捕縛しろ」
 俺が命じれば、この場にいないはずのナナキが姿を表し、リンネットを地面に抑え込んだ。
「どうして!?」
「どうしようもない女ね」
 レーリエットまで姿を見せる。リンネットは、レーリエットを憎々しいと睨み上げるだけだ。ナナキの拘束は完璧だ。
「魔法でちょっと幻を見せただけだ。今頃、襲撃も、いつまでも追いつかなくて、大変だろうな。どこまで追いかけても、あの馬車には追いつけない」
「この、化け物!!」
「お兄ちゃんになんてこというのよ!! お兄ちゃんのお陰で、私たち家族は無事でいられるのよ!!!」
「あんたは知らないのよ。こいつ、この力を使って、随分と人を殺してるんだから!!」
「そんな力があっても、あの父親を殺さなかったじゃない! 私たちは、ただ、血がつながっている、というだけで、助けられていたのよ!!」
 レーリエットはボロボロと泣きながら叫ぶ。本当に、レーリエットは、俺の良心だ。だけど、そんな理由で生かしていたわけではない。最高の復讐のために、親父を生かしておいただけだ。
 兄弟姉妹だってそうだ。復讐のためだ。そこに、情なんてない。
「相も変わらず、身の程を知らない女だな。私のルキエルに酷い口をきいて」
 ナナキはリンネットの顔を地面に押し付けて嘲笑う。
「私のルキエルの顔に傷をつけたな!!」
 リンネットの顔を地面にぐりぐりと押し付ける。リンネットは叫ぶが、ナナキは容赦がない。
「もう、いい。ナナキ、離してやれ」
「この女は殺すべきだ。ルキエルの情報を売って、ルキエルの立場を悪くするぞ」
「その時は、向かってくる奴らを殺せばいい。そうだろう。俺を傷つける者全てを親父は殺してくれたお陰で、いなくなった。同じことをすればいい」
「しかしっ」
「それもまた、刺激があっていいじゃないか。あの誘拐しようとした奴らも、まあまあ、良かった。いいのが来たら、違う意味で楽しめる」
「また、いやらしい顔して。それ、嫌い!!」
 ちょっと思い出しちゃったな。レーリエットは不機嫌になる。
 俺の命令に、不承不承ながら、ナナキはリンネットを離した。だけど、リンネット、顔も服も酷いものだ。あの綺麗な顔も傷だらけだ。ナナキ、容赦ないな。
 悔しくて、だけど、逃げる先もないので、リンネットは座り込んで、俺たちを睨み上げる。
「どこの貴族に依頼されたんだ?」
「知らない。ただ、指定した場所に連れていくように言われただけよ」
「………頭が痛い」
 俺はリンネットの服の汚れとか、顔の傷とかを魔法でどうにかする。本人にはわからないが、見ている周りは、リンネットが綺麗になっているのがわかる。そして、俺を呆れたように見てきた。
「俺を連れて行ったら、お前は用無しだから、殺されてたぞ」
「そんなことないわ!! 約束してくれたもの!!!」
「どこまで、俺の情報を売ったんだ。全部、教えろ」
 尋問なんて必要ない。この女は、頭が空っぽだ。簡単に話す。
「あんたが妖精憑きだってことまで、全てよ!!」
「そこは隠せよ!?」
「あんたが妖精憑きだってことを話さなくて、痛い目にあったのよ!! 話すわよ!!!」
 親父が生きていた頃は、俺が妖精憑きだってことは秘密だった。万が一、貧民街の中に広がった時は、子どもだって容赦しない、そう脅したのだ。
 実際、弟ロイドが、子どもながらに、冗談で言ってしまった。まあ、誰も信じなかったが、その話が親父に伝わり、その夜、ロイドはぼろ雑巾になるまで殴られた。後でロイドは俺が魔法で治したが、精神に恐怖が刻まれ、二度と、俺が妖精憑きだ、と外でも中でも言わなくなった。それを見た、兄と姉は、堅く口を閉ざしたのだ。
 なのに、親父が死ねば、姉は簡単に隠さなければならない俺の秘密を暴露する。
 俺は泣くしかない。
 突然、俺が泣き出して、傍観を続けていたコクーン爺さんとワシムまで驚いた。
 俺が泣くことなんて、そうそう、ない。こいつらの前で泣いたのなんて、随分と昔だ。そんな俺が泣いたのだ。ナナキは俺を隠すように抱きしめる。
「泣かないでください。泣いたら、困る」
「お兄ちゃん、泣かないで!!」
 レーリエットまで、俺が泣くから、どうにか慰めようとするが、良い言葉なんて出ない。ただ、お願いするしかないんだ。
「姉貴、もう終わりだ」
 俺は、とうとう、姉を見捨てた。
 リンネットは、何を言われているのか、わかっていない。身の上で起こっていることは、わからない。だって、目に見えないことだから。
 俺は、リンネットにつけた妖精を全て、引きはがした。リンネットは気づいていないが、俺の妖精が、守っていたのだ。だから、自分勝手なことをしていても、ずっと無事だった。
 貴族なんかに俺の情報を売っても無事だったのは、俺の妖精がリンネットを守っていたからだ。俺の妖精は、そこらの野良の妖精憑きでも歯が立たない。帝国に逆らわなければ、リンネットはどこまでも無事だった。
 見えない加護を失ったリンネット。これから、本当の苦しみが待っている。リンネットから引きはがした妖精に報告させてみれば、酷いものだった。よくもまあ、自分勝手なことをして、その尻ぬぐいを俺の妖精たちがしていたのだ。
「どこへでも行けばいい。もう二度と、会うことはないだろう」
「そうね。あんたみたいな化け物とは、金輪際、家族でもないわ!! 見ていないさい。必ず、見返してやるんだから!!!」
「………」
 俺は何も言わない。強力な加護を失ったリンネットの行先は、闇しかない。貧民は貧民だ。貴族の元に行っても、使い捨てられるだけだ。
 そうして、俺はリンネットを見逃し、見捨てた。




 久しぶりに身売りの店に行けば、常連の貴族が嬉しそうにやってきた。
「随分と久しぶりじゃないか!!」
「そうだな。俺が来ない時は、浮気してもいいんだぞ。ここには、いい女がいっぱいだ」
「ルキエルがいい。さあ、座って」
 いつもの通り、俺の手を握って離さない貴族は、俺を座らせる。
「実は、ルキエルの身内という女が、我が家にいるんだ」
「兄か? それとも、弟か? 妹は今、俺の近くで街を見ているがな」
「姉だと言っている」
「姉? 俺には姉はいない。誰かと間違えていないか? それとも、騙されてないか?」
 俺は貴族を心配そうに見てしまう。
「姉は、いないのか? 随分と、ルキエルのことを知っているようだぞ」
「そんなに俺に似ていたのか? 俺の妹を見たよな。妹に似ていたか?」
「………どちらにも、似てないな」
「しばらく、休んでいたからな。俺のことが恋しくなったのか。仕方がないな。約束通り、今日は部屋代だけでいい。俺を可愛がってくれ」
 俺は貴族に深く口づけする。公衆の面前で、と普通だったら注意されるのだが、ここは貧民街なので、許される。
 俺は、貴族の膝に座り、さらに身を寄せて、甘える。貴族はごくりと生唾を飲み込み、俺の服に手を入れる。
「俺を思って、その姉だという女を抱いたのか?」
 俺はわざと貴族の手をつかんで止める。お預けをされて、貴族は苦笑する。
「まさか! 身内だというから、住まわせてやっているだけだ。とんでもない我儘で、身の程知らずな女だ。ルキエルの身内だというから許してやったというのにな」
「俺の我儘は、きいてくれるのか?」
「ああ、もちろんだ。どんな我儘もきいてやろう」
「じゃあ、これから部屋に行こう。可愛がってくれ。久しぶりに、抱かれたい」
「そうか!!」
 可愛い我儘だ。貴族は喜んで、俺を抱いて部屋に連れて行ってこれる。部屋は、最上級だ。その部屋は、前払いでないと使えない。
 貴族相手でも、俺は普通の部屋だ。こんな最上級の部屋は、ここに来て初めてだ。
 だけど、親父と閨事をする時は、もっといいベッドだけどな。
 ベッドに優しく下ろされて、我慢ならない貴族は俺に圧し掛かる。それを俺は上手におさえこむ。貴族の肩をおさえ、少し、離した。
「その、俺の身内だという女は、俺のことを何て話した?」
「気になるのか? 後でいいだろう」
「悪く言われて、愛想がつかされたんじゃないか、気になる」
「そんなに、私のことを」
 感動して、無理矢理、俺に口づけする貴族。深く、舌を絡められてしまうと、俺は簡単に抵抗する力が抜けてしまう。それどころか、喜んで、求めてしまうのだ。
「ルキエルのことを妖精憑きだというんだ。だから、綺麗だと」
「や、そこ、弱いっ」
 首筋で話しかけて、執拗に後ろの蕾に指で突いてくる。首筋に息がかかり、蕾の奥のよいところを突かれ、俺は身もだえする。
 良い声に、興奮する貴族。俺には準備なんて必要ない。貴族は剛直を俺の蕾に挿入する。
 勢いよく、どんとされて、俺は簡単に絶頂する。久しぶりのそれに、小刻みに喜んだ。
「確かに、綺麗だ。どんどんと、綺麗になっていく。だが、それは、こうやって、私が可愛がっているからだ!!」
「そ、そうっ、や、激しいっ!!」
 容赦ない挿入に、俺はシーツをつかんで悶えた。この男は、ともかく好き勝手だ。それがいい。全力でやってくれるのだ。
 残念ながら、剛直の太さと長さは、平均よりちょっとあるくらいだけど。
「お前だけだ、これを受け止めてくれるのは!!」
 知らないが、普通の女では、この貴族の剛直は受け止めきれないという。だから、俺に嵌ったんだ。
 だけど、俺はさらに恐ろしいものを相手にしていた。貴族のそれは、まだ可愛い。だけど、好き勝手蹂躙されるのは、楽しい。
 両足を持ち上げられ、さらに深くついてくる貴族。ついでに、深く俺に口づけしてくれる。これが、俺も好きだ。密着して、奥へと突かれて、さらに口づけをしてもらえる。
「俺も、これが好きだったな」
 貴族は俺の上から引きはがされた。
 その豪華な部屋にいるのは、俺と貴族だけではなかった。
 素っ裸の貴族は、先に部屋に忍んでいたナナキに首をつかまれ、豪華な絨毯の上に抑え込まれた。
「ナナキ、もうちょっとしたかった」
「後で、もっとすごいことをしてやる」
「甘いものを食べると、辛いものを食べたくなる。その男の行為も、大事な味付けだ」
「なかなか、僕だけものもになってくれないな。そこがいい」
「き、貴様っ!! 私にこんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
 貴族はナナキに向かって叫ぶ。それなりの力を持っているのだから、こんな貧民街で遊べるのだ。それなりの護衛が、店の外にいるのだろう。
 俺はベッドに座り、貴族を見下ろした。身分を示しそうなものをざっと服を見て探すも、ない。そう簡単に、身に着けていないよな。
「護衛のほうは、どうした?」
「きちんと捕らえて、海の貧民街の支配者が拷問している。すぐに、情報を吐くだろう」
「仕事、早すぎだ」
「僕のルキエルが、こんな男に抱かれるなんて、我慢出来ない。今すぐ殺したい」
「ルキエル、どういうことだ!?」
 俺を縋るように見上げてくる貴族。まさか、俺が裏切るなんて、思ってもいなかったのだろう。身売りの関係なんだから、閨事では、嘘だって平気でつくってのにな。この男も、夢見過ぎだ。
「ちょっとしたおまじないをしたら、すぐにかかるな。妖精は、本当に便利だ」
「本当に、妖精憑きなのか!?」
「姉も本物だ。あの女を使って、あんたをここに呼んだんだ。もう、あの女は用無しだな。それ以前に、もう生きてもいない」
 姉リンネットが死ねば妖精が戻ってくるようにしていた。もう、リンネットには守りのための妖精はつけなかった。妖精は、俺を狙う貴族を呼ぶために、リンネットにつけただけだ。
 この貴族は、俺の姉だというリンネットの我儘ぶりに我慢ならず、リンネットを殺したのだ。
 リンネットを殺したら、妖精はこの貴族を俺の元へと導くように命じていた。貴族と一緒に戻ってきた妖精に聞けば、リンネットの最後は、呆気なかった。
「もう、お前がどこの誰なのか、わかった。ナナキ、王都の貧民街に行くついでに、この男の弟に、手土産として、首を持っていってやれ。大喜びだろう」
「喜んで」
「な、そんなっ、私を、愛してるんじゃ」
 俺はナナキに拘束されたままの貴族の頭を踏みつける。
「俺はな、愛してる、という言葉が、吐き気がするほど嫌いなんだ」
 一年前、コクーン爺さんに差し出した敵の一人であるタリムは、往生際に、そう言った。そう、口にしたから、俺はタリムを捨てた。
「愛してるだの、好きだの、吐き気がする! もう、そいつは用無しだ。さっさと殺せ!!」
「喜んで」
 貴族が何か叫ぶが、ナナキは首を捻って、呆気なく殺した。
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