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第3章 ウィルトシャー

ソールズベリー

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 ブルーローズでの生活にも慣れてきた頃、鳥居恭介は故郷のことを思い出していた。

彼は名前こそ日本名であるがイギリス人の血の混じるクォーターである。母方の祖父が高名な魔法使いであることと、彼自身のポテンシャルの高さも相俟って祖父も認める優秀な魔法使いに成長した。
特に空間移動に関しては彼自身も絶大なる自信を持っている。

母は生活魔法と呼ばれる魔法が得意なので主に家事や料理でその力を使い、空いた時間を趣味の時間にして優雅な生活を送っている。

そんな母を大らかに見守る父は大学教授であるとともに発明家である。研究好きな父は母の魔法を見てヒントを得ることもあるのだと、鳥居が子供の頃はよく話して聞かせていた。

ソールズベリー。そこが彼の故郷である。


イギリスでなら何不自由なく暮らせていけたのに外へ出たのは単なる好奇心からだった。
大学卒業後に祖父の跡を継いで魔法使いとして生きていく道もあった。しかし子供の頃から聞かされていた父の話から日本という国がどうしても気になって『父の祖国を見てみたい』と両親に伝えてみた。

すると両親からは思いもしない答えが返ってきた。

「お祖父様の跡はいつでも継げるけど、これから世界で何が起こるか分からないから今のうちに海外へ行ってきなさい。何かあったらいつでも内緒で戻って来られるのだから」

将来は祖父の跡を継ぐことが確定しているかのようなことを言われたが、そこにはあえて触れないことにした。

 そして両親や祖父の伝を存分に使って行った先がシークレットエージェントだった。
そこでは空間移動魔法だけでなく、さまざまな魔法を依頼という名の仕事の中で使い鍛えてきた。時々内緒で祖父の元を訪ねては自分の腕を披露したものだ。

ある時祖父からたった一つだけと言って約束させられたことがある。

「信頼できるもの以外に無詠唱魔法は見せてはいけないよ」

それだけだった。

どうやら本当の力は無闇に見せてはいけないようだ。

それを守って今でも無詠唱魔法を他人に見せてはいない。

 次に祖父の元を訪ねた時、鳥居は祖父の所にいた猫がいないことに気がついた。その猫は祖父の使い魔だがとても鳥居に懐いていた。祖父に黙って鳥居について行こうとしたこともあるぐらいだ。
その使い魔の猫がどうしていないのかを尋ねると祖父はなぜか笑ってこう言った。

「ミーシャにはそのうち会えるよ、必ずね。それから恭介はこれから2つの大切なものに出会えるはずだよ」

それを聞いた鳥居は祖父の言葉を、ミーシャに会えなかったことに対する単なる慰めか何かだと思っていた。



 それからある依頼の途中でひょんなことからこのブルーローズにお世話になることになった。まるで導かれるようにたどり着いたブルーローズには九条薫と言うちょっと変わったレストランのオーナーが待っていた。

そして鳥居はここブルーローズで2つ大切なものを手に入れることになるのだった。
1つ目は猫のみーちゃん改めミーシャ。

もう1つは……、今はまだそれに気付けていない。




そして今、自然豊かな故郷のソールズベリーに帰りたいかと問われたら迷わずに

『帰らない』

と答えられるほどには、鳥居はこのブルーローズでの生活を何の気兼ねも無く楽しんでいた。

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