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第1章 繰り返す女

選択の先にあるのは

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「そうだ、一つ教えておかなきゃいけないことがあるんだった。人は多かれ少なかれ何かしらの罪を犯してしまうんだけど、それが犯罪級になると話は別だよね。警察に捕まったり法で裁かれたりする。過去や未来に行ってまで罪を犯すとどうなるのか、蒼井くんはどうなると思う?」

『どうなるって言われても、どこの警察に捕まるんだ?』
「どうなるって言われても良く分からないんですが、どこかの警察に捕まるんですか?」

「捕まえてくれるところがあればいいんだけど、次元を移動して過去を変えたりするのは現在や未来にも影響してしまう可能性があるからそんな人間はこの世界から弾かれて、違う世界へ連れて行かれてしまうんだ。多分二度と戻って来られない並行世界へ」

蒼井静佳は思ったことを恐る恐る九条薫に尋ねた。
『この世界に戻れないってことがあるのか? 九条さん何言ってんだ?』
「それって、もうこの世界には戻って来られないってことですか? 戻れる方法はないんですか?」

「方法というか、自分自身と向き合えなかった時点できっともう手遅れだろうね。罪を犯していることに気づくチャンスはあったはずだから、何度もね。君が監視した彼女のような人の行き先は無限輪廻と呼ばれるパラレルワールド。そこは他と繋がる5次元、そして6次元やそれ以外の余剰次元とも繋がらない次元世界だね。

並行世界というか並行時空だからこの世界とは交わることのない別次元ってところかな。そこで延々と繰り返される出来事にきっと彼女は気が付かないんだろうね。自分の欲に忠実に生きることのみを選んだのだから」

『手遅れって、あの人は助からないのか?』
「手遅れって…… あの人助からないんですか?」

「うーん……助かる望みは薄いかな。置かれている状態的には……タロットカードでいう所の運命の輪ってカードがあるんだけどその輪から外れるって感じかな。それに自分自身で気づかなきゃダメなんだ」

『タロットカードの運命の輪って、タイミングって意味だっけ』
「チャンスとかタイミングを逃すとかですか?」 

「運命の輪の解釈にはチャンスとかタイミングって意味もあるけど、それとは別に宇宙の真理って意味もあって、そこから外れるって感じかな」

それを聞いた蒼井静佳は何も言葉を発することができなかった。あまりにもスケールが大きすぎて、自分の置かれている世界では実感としてすぐには感じ取れなかったからだ。しかし蒼井には宇宙の真理から外れた人間は一体どうなるのだろうか、という疑問が残った。

 鮫島李花のような罪深き者が落ちていく無限輪廻は、他の人間として生まれ変わることもできず、ある時点まで行くとその先はまた過去へと繋がる小さな壊れた輪のような夢幻の蟻地獄のような世界。

例えば鮫島李花の行った偽りの世界で彼女の周りにいる人間は、元いた世界の人間と姿や行動は似ているように見えるが中身は違うのだ。同じようにあの世界に落ちた魂が無数に分裂し本体が学べるようにしているだけ。学びが終わらない限りそれは延々と続いていく。それこそ無限に。

科学者たちは『過去へと戻ることはできるのか』と研究を重ね答えを求めているのだが、実は強制的に過去へ戻される者がいることは、あまり、いや殆んどの人間には知られていないのである。それは体験した者が現在へ戻ってきたことがまだ確認されていないから。もしかしたら近い将来過去から帰ってきた人が現れるかも知れないし現れないかもしれない。


 まだまだ、次元監視者として始まったばかりの蒼井のことを九条はゆっくりと見守っていくことにした。6次元で無事仕事を終えた蒼井はもう心の声を自分の意思で聴いたり聞かない様にすることができるのだが九条も天ヶ瀬もそれを蒼井本人には伝えていない。

もし一時的に心の声が聞こえない状態を作れたとしても周囲に危険が及ぶような時には否応なしに心の声は聞こえる。地域によって電気の周波数の違いがあるように危険を孕み悪意のある心の声は通常の状態とは周波数が違う。そんな訳で二人は安心して本人の気付きを待つことにしたのだ。

しかし天ヶ瀬は指導者として任された立場から生徒である蒼井にヒントを与えようとしていた。感がいい蒼井だったら簡単なヒントで成長のスピードが上がると思ったからだ。

だがそれは後に天ヶ瀬が蒼井にヒントを与えようとすると九条がオーナーと言う立場を大義名分に、悉く邪魔をしたため結果的に蒼井は一人で考え答えを導き出すことになるのだった。



 青白く輝く幻想的な月が昇るある夜のこと、ブルーローズのディナータイムがひと段落した頃にフラリと現れた九条は天ヶ瀬に向かってこう宣った。

「蒼井くんがいつ僕たちの心の声を聞こえるようになるのか賭けをするも面白そうだと思わないかい、天ヶ瀬……  二人で賭けをしないか。まぁ、私が負けることはないのだけどね」

自分が負けない賭けをしようとは、なんとも腹黒いことである。

しかしその賭けの話は、天ヶ瀬によってその場で即座に無慈悲に却下されるのだった。天ヶ瀬曰く、九条には嫌なことは嫌だとはっきり言わないと伝わらないという。彼にしては珍しくこんな言葉を九条に叩きつけた。

「そんなの絶対九条さんが勝つために九条さんだけが有利になる条件を出すに決まってるのだから、絶対そんな賭けなんかしない」

そんな言葉ぐらいでは少しも懲りない九条は、熱りが覚めた頃にまた天ヶ瀬を相手に彼の反応を楽しむのだった。

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