22 / 42
第1章 繰り返す女
選択の先にあるのは
しおりを挟む
「そうだ、一つ教えておかなきゃいけないことがあるんだった。人は多かれ少なかれ何かしらの罪を犯してしまうんだけど、それが犯罪級になると話は別だよね。警察に捕まったり法で裁かれたりする。過去や未来に行ってまで罪を犯すとどうなるのか、蒼井くんはどうなると思う?」
『どうなるって言われても、どこの警察に捕まるんだ?』
「どうなるって言われても良く分からないんですが、どこかの警察に捕まるんですか?」
「捕まえてくれるところがあればいいんだけど、次元を移動して過去を変えたりするのは現在や未来にも影響してしまう可能性があるからそんな人間はこの世界から弾かれて、違う世界へ連れて行かれてしまうんだ。多分二度と戻って来られない並行世界へ」
蒼井静佳は思ったことを恐る恐る九条薫に尋ねた。
『この世界に戻れないってことがあるのか? 九条さん何言ってんだ?』
「それって、もうこの世界には戻って来られないってことですか? 戻れる方法はないんですか?」
「方法というか、自分自身と向き合えなかった時点できっともう手遅れだろうね。罪を犯していることに気づくチャンスはあったはずだから、何度もね。君が監視した彼女のような人の行き先は無限輪廻と呼ばれるパラレルワールド。そこは他と繋がる5次元、そして6次元やそれ以外の余剰次元とも繋がらない次元世界だね。
並行世界というか並行時空だからこの世界とは交わることのない別次元ってところかな。そこで延々と繰り返される出来事にきっと彼女は気が付かないんだろうね。自分の欲に忠実に生きることのみを選んだのだから」
『手遅れって、あの人は助からないのか?』
「手遅れって…… あの人助からないんですか?」
「うーん……助かる望みは薄いかな。置かれている状態的には……タロットカードでいう所の運命の輪ってカードがあるんだけどその輪から外れるって感じかな。それに自分自身で気づかなきゃダメなんだ」
『タロットカードの運命の輪って、タイミングって意味だっけ』
「チャンスとかタイミングを逃すとかですか?」
「運命の輪の解釈にはチャンスとかタイミングって意味もあるけど、それとは別に宇宙の真理って意味もあって、そこから外れるって感じかな」
それを聞いた蒼井静佳は何も言葉を発することができなかった。あまりにもスケールが大きすぎて、自分の置かれている世界では実感としてすぐには感じ取れなかったからだ。しかし蒼井には宇宙の真理から外れた人間は一体どうなるのだろうか、という疑問が残った。
鮫島李花のような罪深き者が落ちていく無限輪廻は、他の人間として生まれ変わることもできず、ある時点まで行くとその先はまた過去へと繋がる小さな壊れた輪のような夢幻の蟻地獄のような世界。
例えば鮫島李花の行った偽りの世界で彼女の周りにいる人間は、元いた世界の人間と姿や行動は似ているように見えるが中身は違うのだ。同じようにあの世界に落ちた魂が無数に分裂し本体が学べるようにしているだけ。学びが終わらない限りそれは延々と続いていく。それこそ無限に。
科学者たちは『過去へと戻ることはできるのか』と研究を重ね答えを求めているのだが、実は強制的に過去へ戻される者がいることは、あまり、いや殆んどの人間には知られていないのである。それは体験した者が現在へ戻ってきたことがまだ確認されていないから。もしかしたら近い将来過去から帰ってきた人が現れるかも知れないし現れないかもしれない。
まだまだ、次元監視者として始まったばかりの蒼井のことを九条はゆっくりと見守っていくことにした。6次元で無事仕事を終えた蒼井はもう心の声を自分の意思で聴いたり聞かない様にすることができるのだが九条も天ヶ瀬もそれを蒼井本人には伝えていない。
もし一時的に心の声が聞こえない状態を作れたとしても周囲に危険が及ぶような時には否応なしに心の声は聞こえる。地域によって電気の周波数の違いがあるように危険を孕み悪意のある心の声は通常の状態とは周波数が違う。そんな訳で二人は安心して本人の気付きを待つことにしたのだ。
しかし天ヶ瀬は指導者として任された立場から生徒である蒼井にヒントを与えようとしていた。感がいい蒼井だったら簡単なヒントで成長のスピードが上がると思ったからだ。
だがそれは後に天ヶ瀬が蒼井にヒントを与えようとすると九条がオーナーと言う立場を大義名分に、悉く邪魔をしたため結果的に蒼井は一人で考え答えを導き出すことになるのだった。
青白く輝く幻想的な月が昇るある夜のこと、ブルーローズのディナータイムがひと段落した頃にフラリと現れた九条は天ヶ瀬に向かってこう宣った。
「蒼井くんがいつ僕たちの心の声を聞こえるようになるのか賭けをするも面白そうだと思わないかい、天ヶ瀬…… 二人で賭けをしないか。まぁ、私が負けることはないのだけどね」
自分が負けない賭けをしようとは、なんとも腹黒いことである。
しかしその賭けの話は、天ヶ瀬によってその場で即座に無慈悲に却下されるのだった。天ヶ瀬曰く、九条には嫌なことは嫌だとはっきり言わないと伝わらないという。彼にしては珍しくこんな言葉を九条に叩きつけた。
「そんなの絶対九条さんが勝つために九条さんだけが有利になる条件を出すに決まってるのだから、絶対そんな賭けなんかしない」
そんな言葉ぐらいでは少しも懲りない九条は、熱りが覚めた頃にまた天ヶ瀬を相手に彼の反応を楽しむのだった。
『どうなるって言われても、どこの警察に捕まるんだ?』
「どうなるって言われても良く分からないんですが、どこかの警察に捕まるんですか?」
「捕まえてくれるところがあればいいんだけど、次元を移動して過去を変えたりするのは現在や未来にも影響してしまう可能性があるからそんな人間はこの世界から弾かれて、違う世界へ連れて行かれてしまうんだ。多分二度と戻って来られない並行世界へ」
蒼井静佳は思ったことを恐る恐る九条薫に尋ねた。
『この世界に戻れないってことがあるのか? 九条さん何言ってんだ?』
「それって、もうこの世界には戻って来られないってことですか? 戻れる方法はないんですか?」
「方法というか、自分自身と向き合えなかった時点できっともう手遅れだろうね。罪を犯していることに気づくチャンスはあったはずだから、何度もね。君が監視した彼女のような人の行き先は無限輪廻と呼ばれるパラレルワールド。そこは他と繋がる5次元、そして6次元やそれ以外の余剰次元とも繋がらない次元世界だね。
並行世界というか並行時空だからこの世界とは交わることのない別次元ってところかな。そこで延々と繰り返される出来事にきっと彼女は気が付かないんだろうね。自分の欲に忠実に生きることのみを選んだのだから」
『手遅れって、あの人は助からないのか?』
「手遅れって…… あの人助からないんですか?」
「うーん……助かる望みは薄いかな。置かれている状態的には……タロットカードでいう所の運命の輪ってカードがあるんだけどその輪から外れるって感じかな。それに自分自身で気づかなきゃダメなんだ」
『タロットカードの運命の輪って、タイミングって意味だっけ』
「チャンスとかタイミングを逃すとかですか?」
「運命の輪の解釈にはチャンスとかタイミングって意味もあるけど、それとは別に宇宙の真理って意味もあって、そこから外れるって感じかな」
それを聞いた蒼井静佳は何も言葉を発することができなかった。あまりにもスケールが大きすぎて、自分の置かれている世界では実感としてすぐには感じ取れなかったからだ。しかし蒼井には宇宙の真理から外れた人間は一体どうなるのだろうか、という疑問が残った。
鮫島李花のような罪深き者が落ちていく無限輪廻は、他の人間として生まれ変わることもできず、ある時点まで行くとその先はまた過去へと繋がる小さな壊れた輪のような夢幻の蟻地獄のような世界。
例えば鮫島李花の行った偽りの世界で彼女の周りにいる人間は、元いた世界の人間と姿や行動は似ているように見えるが中身は違うのだ。同じようにあの世界に落ちた魂が無数に分裂し本体が学べるようにしているだけ。学びが終わらない限りそれは延々と続いていく。それこそ無限に。
科学者たちは『過去へと戻ることはできるのか』と研究を重ね答えを求めているのだが、実は強制的に過去へ戻される者がいることは、あまり、いや殆んどの人間には知られていないのである。それは体験した者が現在へ戻ってきたことがまだ確認されていないから。もしかしたら近い将来過去から帰ってきた人が現れるかも知れないし現れないかもしれない。
まだまだ、次元監視者として始まったばかりの蒼井のことを九条はゆっくりと見守っていくことにした。6次元で無事仕事を終えた蒼井はもう心の声を自分の意思で聴いたり聞かない様にすることができるのだが九条も天ヶ瀬もそれを蒼井本人には伝えていない。
もし一時的に心の声が聞こえない状態を作れたとしても周囲に危険が及ぶような時には否応なしに心の声は聞こえる。地域によって電気の周波数の違いがあるように危険を孕み悪意のある心の声は通常の状態とは周波数が違う。そんな訳で二人は安心して本人の気付きを待つことにしたのだ。
しかし天ヶ瀬は指導者として任された立場から生徒である蒼井にヒントを与えようとしていた。感がいい蒼井だったら簡単なヒントで成長のスピードが上がると思ったからだ。
だがそれは後に天ヶ瀬が蒼井にヒントを与えようとすると九条がオーナーと言う立場を大義名分に、悉く邪魔をしたため結果的に蒼井は一人で考え答えを導き出すことになるのだった。
青白く輝く幻想的な月が昇るある夜のこと、ブルーローズのディナータイムがひと段落した頃にフラリと現れた九条は天ヶ瀬に向かってこう宣った。
「蒼井くんがいつ僕たちの心の声を聞こえるようになるのか賭けをするも面白そうだと思わないかい、天ヶ瀬…… 二人で賭けをしないか。まぁ、私が負けることはないのだけどね」
自分が負けない賭けをしようとは、なんとも腹黒いことである。
しかしその賭けの話は、天ヶ瀬によってその場で即座に無慈悲に却下されるのだった。天ヶ瀬曰く、九条には嫌なことは嫌だとはっきり言わないと伝わらないという。彼にしては珍しくこんな言葉を九条に叩きつけた。
「そんなの絶対九条さんが勝つために九条さんだけが有利になる条件を出すに決まってるのだから、絶対そんな賭けなんかしない」
そんな言葉ぐらいでは少しも懲りない九条は、熱りが覚めた頃にまた天ヶ瀬を相手に彼の反応を楽しむのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる