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第1章 繰り返す女

昔話

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 「おはようございます」

朝ではないが、これからブルーローズでの演奏を控えているので、蒼井静佳はいつものように挨拶をしながら控室へと入ってきた。

「蒼井くん、本当は怖い童話って知ってる?」

九条薫は、でもでもなく唐突にそんなことを聞いてきた。

『あぁ、本当は怖い童話の話なら知ってはいるけど、いきなりどうしたんだろう』
「一応知っています、でもいきなりそんなこと言うなんて何かあったんですか」

「実は、違った意味で怖い御伽噺みたいな話があるのだけど……ちょっと聞いてくれるかな」

『違った意味ってなんだ? 取り敢えず聞いてみるか』
「はい」

蒼井の答えを聞いた九条はフッと一息ついてから話し始めた。

「昔々、まだ王様が国を治めていた頃の話。
とある豊かな国の王子が身分を隠して隣国に留学した。彼はそこである女性に出会って彼女と交流を深めて行くうちに、お互いに似ているところがあることに気づき惹かれ合っていったんだ。

そして彼の留学が終わる頃になると彼女を連れて自分の国に帰りたいと思うようになった。彼は王子としての自分ではなくありのままの自分を受け入れて欲しくて身分を隠したままだった。彼女には本当の自分の身分を伝えずに気持ちを伝えた。

すると彼女も自分のありのままを受け入れてくれた彼を受け入れてくれたんだ。その後本当は隣国の王子であることを彼女に話して、二人が卒業して1年後に結婚することになった。実はその彼女も王弟の娘で身分的には全く問題なかったから、話はすんなり纏まって両方の親族にもすぐ承諾されてとんとん拍子で結婚するはずだったんだ」

『はずだった? 何かあったのか?』
「はずだったって、何かあったんですか?」

「その後国に帰った彼は次の王となる兄を支えるようになった。以前留学していたこともあって仕事の一環で結婚する彼女のいる国に訪れた時、偶々その国、えーと彼女のいる国の王女様が彼を見かけた。

王女はその時彼に一目惚れして、その人が誰なのかすぐに調べさせた。彼が隣国の王子だとわかると王様である自分の父親に「彼と結婚したい」って言ったんだ。
でも王様からは
「あの方は王である自分の弟の娘と結婚するからダメだ」って言われてしまった。それなのに
「絶対あの人と結婚する」って言って聞かなかったんだって。

そこで王様は常日頃から我儘な王女の行動を危惧した。先回りして秘密裏に王弟の娘を予定より早く隣国へ向かわせたんだ。でもそんなことを知らない王女は彼女を亡き者にしたら自分が代わりになれると思った。
それで裏から手を回そうとしたんだけど、外交問題にもなりかねない計画が王様にバレてしまって北側の塔に軟禁されたんだ。それからは二度と周りに迷惑をかけないようにと結局王女の命が尽きるまでその塔からは出してもらえなかったって話」

『殺して代わりになるって大丈夫かその王女。結局二人は結婚できたのかな』
「その後二人は結婚できたんですか?」

「そうそう、王子と王弟の娘はその後、幸せに暮らし両国の協力関係も強固になったって話。大夫端折っているけど悪いことはできないよって話かな、因果応報でもあるかな……」

話を聞き終わった蒼井は何ともいえない顔をしていた。

『なんかどこかで聞いたことがあるような、無いような…… もしかして九条さんの作り話?』
「それって九条さんの作り話じゃないですよね? でも初めて聞いた気がしないのは何でしょうか……」

『蒼井くん、結構勘が鋭いな。やっぱり次元管理者にして正解だったな。でもまさかこの話が昔6次元に行った時の監視対象のことだなんて言えないし』
「違うよ。本当に昔話みたいなものだって」

『本当は蒼井くんが監視していた鮫島李花が生まれ変わる前にやったことだなんて言ったら色々面倒だから、本当のこと言うのは今はやめとこう』

九条薫は、そこで一度お茶で喉を潤した。
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