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第2章 大学編

朧げな記憶

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 九条遙加は結婚しても相手が九条薫なので対外的には特に何も変わらなかった。
変わったのは住む所と戸籍上で妻になった事くらいである。しかしそれを知るのもほんの一部の人間だけだ。

 如月曰く、人気バンドになる予定のブルーローズ。実はボーカルが既婚者でしたなんてバンド活動に支障がないか心配していた遙加だった。
しかし如月は大丈夫だと言って不敵な笑みを浮かべて薫に何か相談していた。

遙加が聞いても「方針が決まったらちゃんと話すから、今は話せない」と言って如月は教えてくれない。
薫に聞いてもすぐに話をはぐらかされてしまい一向に教えてくれる気配はない。

遙加が考えたところであの如月が考えていることなど分かるはずもない。切り替えの早い遙加は今はまだ追求するのを止めることにした。
  
 
 そんな新しい生活にも慣れてきた頃、ふと思い出したことがあった。
先日の結婚式で久し振りに兄に会ったことを思い出していたことがきっかけだった。

 それは遙がまだ5歳になるかならないかの頃の記憶だった。
いつまでも新婚気分の遙加達の両親はよく2人で出かけていた。以前は家族全員で出かけていたのだが、その頃高校生になっていた兄の彼方は何故か親よりも精神年齢が高かった。

そんな彼方は、遙加の面倒は自分が見るからたまには2人で出かければ、と送り出していたのだ。

 ある日遙加は大好きな彼方とお留守番をしていたのだが何故か外に出たいと騒ぎ兄を困らせた。
困った彼方は近くの公園まで散歩に連れて行くことにした。ニコニコ顔の遙加は彼方と手を繋いで兄を引っ張るように出かけて行った。

 意気込んで公園まで歩いた5歳児はすぐに疲れてしまった。どこかに座りたいと騒ぎ出すと丁度目の前にあったベンチに座ってしまった。

遙加はベンチに座る前に兄に何かを言われた所までは覚えているのだが、その後の記憶が一部分だけすっぽり抜けていて気がついたら兄に抱えられて家のソファーに座っていたことがあった。

 そんなこと、これまで思い出したこともなかったのに思い出してしまうと本当は何があったのかどうしても知りたくなった。

何かを言われたことは覚えているが、何を言われたかは覚えていない。気が付いたら家にいたということはきっと気を失ってしまったのだと今の遙加なら分かる。

 当事者ではない薫に話したところでなんの解決にもならない。遙加は兄に会ってその時のことを教えてもらうことにした。


 大学の准教授である兄に連絡すると、二つ返事でOKが出てレストラン・ブルーローズに来ると言い出した。

「美味しいものが食べたいからそっちに行くよ」

一方的に話を決めた兄、彼方は週末ブルーローズに来ることになった。

「薫にも俺が行くこと伝えておいて」

昔とは違い、妹使いの粗い兄であった。



 遙加が週末に彼方が来ることを薫に話すと、一瞬薫が難しい顔をした。まだ何の話をするのか内容を伝えていないのに、だ。

「遙加、彼方には悪いがブルーローズで食事をするのは話が終わってからにしよう。話はディメンションの方でした方がいい。私から彼方に連絡しておくから」

「ありがとう、薫。きっと私が言っても言いくるめられちゃうから助かる」

「大切な妻のことは私が守るから、安心して」

こちらはこちらで新婚さんパワー炸裂であった。

 
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