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第1章 高校編
ブルーローズ4
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烏星達也は目の前に座る九条薫から発せられる殺気を一身に受けて、まるで蛇に睨まれた蛙の如く小さくなっていた。図体は大きいのに。その横に座る如月には烏星を助けるつもりは全く無いようだ。彼女風に言わせれば
「1nmも助ける気はないわ!」なのだろう、今のところは。
すぐに沈黙を破ったのはやはり空気を読めない、じゃなかった読まない遙加だった。
「達也、今日はこない約束でしょ? どうしてここにきたの?」
「フウーン、そうだったんだ。ではどうして店の外で聞き耳を立てていたのか教えてくれないかな、烏星達也君」
達也は九条薫にフルネームで知られていることに驚いた。その様子を見ていた薫はピクリとも表情を動かさずに話し始めた。
「遙加のことなら大概のことは知っているよ。許嫁というより婚約者だからね、私たち2人は。ね、遙加」
「そうだね、薫」
まるで語尾にハートマークでも付きそうな会話だ。そして九条薫は遙加を見る時だけは優しい顔になる。しかしまた正面を向くと能面のように無表情になっていた。美人の怒った顔ほど怖いものはない。わざとなのだろうか、この男ならやりかねないが。
「そういえば遙加、渡した指輪はどうしたの、していないようだけど。持って来てくれなかったのかな」
「ううん、ちゃんと持ってるよ。でも今日はこれからバイトに行くからバッグの中にしまってあるんだ」
「バイト中にもしも無くなったりしたら危ないから身につけていた方が安全だよ」
「そうかもしれないけど……食べ物を扱うからアクセサリーを身につけるのは禁止されてるの」
「そうか……。そのバイトって確か来月で契約満了だったよね。まだ更新手続きはしてないでしょ」
「うんまだだけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「そのバイトはもう更新しないで欲しいんだ。ちょっと早いけど、私の助手をここでしてくれないかな」
「いいの! 前はまだ早いって言ってたのに……」
「事情が変わったからね。遙加がイヤでなかったらお願いしたいんだけど、どうだろうか」
すると遙加は即答した。
「よろしくお願いします! 店主様」
「では決まりだね。それと、今月と来月は私が遙加の送り迎えをするから烏星君はもう遙加の送り迎えをしてくれなくて大丈夫だよ。これまでの礼は伝えておくね。それと遙加のお母さんにも私から話しておくから心配しなくていい。学校も休みに入るし問題ないよね」
「私は大丈夫ー!!」
それを聞いた烏星達也は、まるでこの世の終わりのような顔をしていた。それになぜ烏星が送り迎えをしていることまで九条が知っているのか。独占欲の強そうな九条にいくら遙加でも、わざわざ伝えたりしないはずだ。烏星と如月の2人は空恐ろしくなった。
「あのー、お取り込み中すみません。どうしてもお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
如月がまた挙手をして九条に訴えかけた。それを見た九条は右手の掌を上に向けて如月に話の続きをするよう促した。
「遙加が霊媒体質なのは九条さんもご存知かと思うのですが、それもあって烏星達也になるべく一緒にいるように部長命令を出したのは私なんです。彼はこれでも霊を寄せ付けないという力があるんです。その辺は大丈夫なんでしょうか」
「何も心配いらないよ。言うよりも見てもらった方が早いから……遙加、持って来てくれた指輪を出してくれるかい」
「うん、良いけど何をするの?」
「まあ、いいから私を信じてくれないか。まずその箱ごと私に渡してくれるかな」
遙加は何の疑いも持たずに九条に指輪の箱を渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
そう言って箱から指輪を出すと出て来たのは透き通るようなタンザナイトの埋め込まれたプラチナリングだった。九条はそれを手に取ると遙加の左手を取り薬指に嵌めた。するりと入ったそのリングは遙加の薬指にぴったりのサイズだった。
「すごーい、なんかの手品みたい」
「手品じゃないよ」
『強い霊力は宿しているけどね』と九条は心の中だけで思った。
「学校では指にできないから、このチェーンに通して首から下げておくといい」
言っているそばから指輪を左手の薬指から外してチェーンに通し遙加の首に下げてしまった。
「どうだい、如月さん。これでも心配かい」
「いいえ……烏星君と一緒にいるよりも強力なお守りというか結界だと思います」
「そう言う訳だからこれからは心配いらないよ。私もついているしね」
「遙加は指輪をつけてどんな感じがしたのか教えてくれないかい」
「なんていうか、体が軽くなった気がする、肩も軽いし」
「問題ないみたいだね」
「あのー、もう一つ伺ってもよろしいでしょうか」
「どんなことかな?」
「はい。もし仮にその指輪がなくなったらどうするのかと……」
「それなら心配いらないよ。スペアは揃えてあるからね。バンド活動で薬指につけるなと言われても大丈夫なように他のサイズもあるから」
「……そっ、そうですか。ご配慮恐れ入ります」
「なに、大したことではないよ」
すると九条は急に何かいいことでも思いついたかのように言葉を続けた。
「そうだ、テーブルにあるのはうちのパティシエが君たちのために作ったスィーツがだからどうぞ召し上がれ。現役高校生の率直な感想を聞かせてくれるとパティシエも喜ぶと思うよ」
「本当に! 嬉しい、いただきまーす」
「ありがとうございます、では遠慮なく頂きます」
しかし烏星だけは古城の甲冑のように固まったまま動かなかった。
「烏星君もどうぞ、甘いもの苦手だったかな」
その声でやっとこちらの世界に帰ってこられたのだろう。
「…………いえ、有り難くいただきます」
こうして烏星達也のシロナガスクジラより重い初恋は見るも無惨に砕け散ったのだった。そして如月と烏星の二人は深く心に誓った。
決して九条薫を敵に回してはいけないと。
「1nmも助ける気はないわ!」なのだろう、今のところは。
すぐに沈黙を破ったのはやはり空気を読めない、じゃなかった読まない遙加だった。
「達也、今日はこない約束でしょ? どうしてここにきたの?」
「フウーン、そうだったんだ。ではどうして店の外で聞き耳を立てていたのか教えてくれないかな、烏星達也君」
達也は九条薫にフルネームで知られていることに驚いた。その様子を見ていた薫はピクリとも表情を動かさずに話し始めた。
「遙加のことなら大概のことは知っているよ。許嫁というより婚約者だからね、私たち2人は。ね、遙加」
「そうだね、薫」
まるで語尾にハートマークでも付きそうな会話だ。そして九条薫は遙加を見る時だけは優しい顔になる。しかしまた正面を向くと能面のように無表情になっていた。美人の怒った顔ほど怖いものはない。わざとなのだろうか、この男ならやりかねないが。
「そういえば遙加、渡した指輪はどうしたの、していないようだけど。持って来てくれなかったのかな」
「ううん、ちゃんと持ってるよ。でも今日はこれからバイトに行くからバッグの中にしまってあるんだ」
「バイト中にもしも無くなったりしたら危ないから身につけていた方が安全だよ」
「そうかもしれないけど……食べ物を扱うからアクセサリーを身につけるのは禁止されてるの」
「そうか……。そのバイトって確か来月で契約満了だったよね。まだ更新手続きはしてないでしょ」
「うんまだだけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「そのバイトはもう更新しないで欲しいんだ。ちょっと早いけど、私の助手をここでしてくれないかな」
「いいの! 前はまだ早いって言ってたのに……」
「事情が変わったからね。遙加がイヤでなかったらお願いしたいんだけど、どうだろうか」
すると遙加は即答した。
「よろしくお願いします! 店主様」
「では決まりだね。それと、今月と来月は私が遙加の送り迎えをするから烏星君はもう遙加の送り迎えをしてくれなくて大丈夫だよ。これまでの礼は伝えておくね。それと遙加のお母さんにも私から話しておくから心配しなくていい。学校も休みに入るし問題ないよね」
「私は大丈夫ー!!」
それを聞いた烏星達也は、まるでこの世の終わりのような顔をしていた。それになぜ烏星が送り迎えをしていることまで九条が知っているのか。独占欲の強そうな九条にいくら遙加でも、わざわざ伝えたりしないはずだ。烏星と如月の2人は空恐ろしくなった。
「あのー、お取り込み中すみません。どうしてもお伺いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
如月がまた挙手をして九条に訴えかけた。それを見た九条は右手の掌を上に向けて如月に話の続きをするよう促した。
「遙加が霊媒体質なのは九条さんもご存知かと思うのですが、それもあって烏星達也になるべく一緒にいるように部長命令を出したのは私なんです。彼はこれでも霊を寄せ付けないという力があるんです。その辺は大丈夫なんでしょうか」
「何も心配いらないよ。言うよりも見てもらった方が早いから……遙加、持って来てくれた指輪を出してくれるかい」
「うん、良いけど何をするの?」
「まあ、いいから私を信じてくれないか。まずその箱ごと私に渡してくれるかな」
遙加は何の疑いも持たずに九条に指輪の箱を渡した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
そう言って箱から指輪を出すと出て来たのは透き通るようなタンザナイトの埋め込まれたプラチナリングだった。九条はそれを手に取ると遙加の左手を取り薬指に嵌めた。するりと入ったそのリングは遙加の薬指にぴったりのサイズだった。
「すごーい、なんかの手品みたい」
「手品じゃないよ」
『強い霊力は宿しているけどね』と九条は心の中だけで思った。
「学校では指にできないから、このチェーンに通して首から下げておくといい」
言っているそばから指輪を左手の薬指から外してチェーンに通し遙加の首に下げてしまった。
「どうだい、如月さん。これでも心配かい」
「いいえ……烏星君と一緒にいるよりも強力なお守りというか結界だと思います」
「そう言う訳だからこれからは心配いらないよ。私もついているしね」
「遙加は指輪をつけてどんな感じがしたのか教えてくれないかい」
「なんていうか、体が軽くなった気がする、肩も軽いし」
「問題ないみたいだね」
「あのー、もう一つ伺ってもよろしいでしょうか」
「どんなことかな?」
「はい。もし仮にその指輪がなくなったらどうするのかと……」
「それなら心配いらないよ。スペアは揃えてあるからね。バンド活動で薬指につけるなと言われても大丈夫なように他のサイズもあるから」
「……そっ、そうですか。ご配慮恐れ入ります」
「なに、大したことではないよ」
すると九条は急に何かいいことでも思いついたかのように言葉を続けた。
「そうだ、テーブルにあるのはうちのパティシエが君たちのために作ったスィーツがだからどうぞ召し上がれ。現役高校生の率直な感想を聞かせてくれるとパティシエも喜ぶと思うよ」
「本当に! 嬉しい、いただきまーす」
「ありがとうございます、では遠慮なく頂きます」
しかし烏星だけは古城の甲冑のように固まったまま動かなかった。
「烏星君もどうぞ、甘いもの苦手だったかな」
その声でやっとこちらの世界に帰ってこられたのだろう。
「…………いえ、有り難くいただきます」
こうして烏星達也のシロナガスクジラより重い初恋は見るも無惨に砕け散ったのだった。そして如月と烏星の二人は深く心に誓った。
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