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さよなら世界、こんにちは異世界
49.A級冒険者 ダンバード・スタンフィール
しおりを挟む物心ついて、最初の記憶は。
固いパンと、擦り切れたたシーツ、明るいシスターの笑顔だった。
セルジオ王国。俺が生まれた国だ。この国とは違い、絶対王政だった。
王族が住む王宮の周囲に、貴族のお館があり、その周りに壁のようにして民の家々が並んでいる。そして、その民の家の近くには魔獣が巣食う魔の森があった。
セルジオ王国では、民衆が生きる壁だった。
セルジオ王国で民に生まれた者は総じて、貴族に仕えるか、魔獣と戦う為に兵士になるか、冒険者として魔獣に挑むか、魔獣に喰われるか、そんな選択しか無かった。
そんな国に俺は生まれて、孤児院の前に捨てられた。
孤児院は、いつも腹を空かした子どもがあふれていた。小さな細切れの肉が入ったスープに、固いパンを浸して食べるのがみんなのご馳走だった。
そんな生活の中でも楽しみがあった。隣接した荒れた土地をみんなで耕して、畑を作り不足している食材の足しにしていた。シスターと子どもたちで大切に育てられた菜園は、季節ごとに恵みを与えてくれた。
それらは学ぶ機会がない子どもたちに、毎日の生活の中で生きた知恵を教えてくれた。
穀物の中でも収穫した数日後に食べた方が美味い芋類の事。野菜についた青虫を慈しむ心。蟲たちが紡ぐ糸をこより、機織りすれば生地となって洋服になる事。
寒い季節の夜は、星が瞬き。朝になれば霜がおりて、地面を踏む足音がシャクシャクと楽しい音がすること。
仲間をいとおしみ、信頼し、心を開く事。悲しみは長く続かないと、明日を夢見る希望を抱く事。
シスターたちは、幼い子の母替わりに抱きしめて宝物よとささやいた。成長をすると、生きていく術を教えてくれた。
料理の下準備の仕方、洗濯や掃除、金銭の計算まで。
金の貸し借りはしない事、小さな幸せに感謝する事。
そして、15才になって孤児院から出て何年経っても1年に1度は顔を見せて欲しいと、シスターたちは口を揃えて言って送り出してくれた。
孤児院から出る年齢の子に、いつも決まって言う口癖があった。
「私たちが、寝る間を惜しんでお世話をして、毎日のように…….いとおしい子と頭を撫でてきた子どもたち。いくつになっても大切なのは変わりはしないわ」
いつでも、シスターが笑っていた。同じ部屋のジョナサンは、食いしん坊でいつもお腹がポッコリ出ていたっけ。植物を育てるのが上手かった。アレクは縄投げが得意で、ケニーは乗馬が上手かった。
孤児院を出たら、みんなで冒険者ギルドに登録をしに行こうと約束していた。冒険者になって、自由に世界を見て回ろうと。消灯時間になっても、そんな話しばかりしていて、余計に眠れなくなった夜。
幸せはずっと続くのだ、信じていた。あの日、大型魔獣バジリスクに孤児院が襲われるまでーー。
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