48 / 49
さよなら世界、こんにちは異世界
48.A級冒険者 ダンバード・スタンフィール
しおりを挟む 外出禁止はとりあえず解除になった。屋敷に戻れるとのことなので、早く家に帰ってマーサのお茶を飲んでゆっくりしたい。元は庶民なのだ。やはりお城なんて緊張するものである。
「リィ、もう帰るのか」
殿下が寂しそうに呟く。そりゃ、帰りますよ。ここは自宅ではないですし。でもそう言うと、いずれは自宅になるのだからとか言い出すので黙っておく。
「明日また来たらいいから。明日は1日休みにしてゲームをして遊ぼう」
そんなに遊んでばっかりでいいのか?魔物が出て大変だったんだから、もう少し働かないと国民から不満が出るぞ。と、微笑みながらも心の中で文句を言う。結婚して大丈夫なのだろうかと、不安にもなってきた。
「なりません、今は国民のために事態の終息を目指す時です」
思わず言ってしまった。真理子時代、忙しい時に呑気にお茶を飲んでいた上司を思い出してしまったのだ。
「リィ・・・」
殿下がやや涙目になったのを見て、やってしまったと後悔した。だが言ってしまったものはしょうがない。
「で、殿下・・・」
「リィ、なんて・・・なんて・・・」
婚約破棄か、初の大げんかに発展するか。だが間違っていないぞ。私は殿下の前に立ち、殿下の目を見た。小動物のように可愛らしく見えてきた。
「なんて、素晴らしいんだ!」
殿下が興奮したように叫ぶ。
「すでに国民のためを思い、殿下に意見できる。最高の伴侶だ!」
横で聞いていたドミニク様は胸に手を当てプルプル震えている。
「さすがマリアンヌちゅあん。今すぐにでも婚姻を成立させようか」
陛下、戯れも過ぎますぞ。と、私は時代劇で見た家老の気分になった。
「聞いたか、アレン。妃とはこんなに素晴らしい意見を出せるものなのだ」
「はい、この耳でしかと拝聴しました。マリアンヌ様は国の宝です」
たかだか働けと言っただけでこの反応。どうなっているんだか。とにかくこの馬鹿騒ぎが早く終わって、無事に家でお茶を飲みたいわ。
「妃教育も始まるのだから、マリアンヌちゃんのお部屋も早く用意しないと」
「やはり、部屋は我々の隣にしようか。夜中に目が覚めてパパとママがいないって泣くかもしれないからな」
「南の庭園が見渡せる部屋にしましょう、あそこなら私の私室と近いもの」
「母上、リィは私の妻となるんですよ。母上の私室の近くに住まわせたら、私が遠くなるではないですか」
「壁紙はピンクで金をあしらおうか。ピンクだけで200色はあるからな。マリアンヌちゅあんのピンクを見つけ出さないと」
全員無駄に張り切りだした。仕事が忙しすぎると、おかしなことを言って現実逃避をするものなのだ。と、思うようにした。これはもうキリがない。一国の国王陛下を相手にして不敬かとは思うが、仕方がない。いずれは舅となる人なのだ。今から慣れよう。
王族の一員になるのも不安があるが、それよりも心配なことがある。お妃教育である。勉強など10年以上やっていない。ついていけるのか不安でしかない。だが不安を口にすると、寄ってたかって大丈夫だよと慰められるだろう。慰められるだけならいいが、やらなくてもいいと言い出しかねない。そうなると将来的に困るのは自分自身だ。何も知らない妃など国民からすれば不要な存在。国家に不審をもたらすきっかけにだってなる。
とにかくやるしかない。私は不安を心の奥に隠し、部屋をどうするかなどと揉めている王族に笑顔を見せた。笑ってたらどうにかなる。そう思うしかない。それで・・・。
顔の筋肉が死んだように固くなるくらいに笑顔を見せて立っていた。心はとっくにどこかへ行ってしまった。ようやく自宅のお屋敷に戻ってきた時は、すでに自分は放心状態を通り越して宇宙の彼方に飛んでいっていたと思った。お城に1泊しただけなのだが。
「お嬢様!」
「よくぞご無事で・・・」
「お帰りなさいませ」
セバスチャン、マーサ、メアリが迎えてくれる。マーサが涙ぐんでいる。よくぞご無事って、魔物が出たからだよね。王族と会っていたからじゃないよね。
「怖いご経験をされたと伺っております。すぐお休みになってください」
気づくとセバスチャンの手が震えている。どんな報告を聞いたかわからないけど、魔物が出現して知らない令嬢に怪我させられたわけだから驚くのは仕方がない。
私はセバスチャンの手を握った。
「ありがとう、でも私は大丈夫。それよりマーサのお茶を飲みたいわ」
にっこり笑うと
「お・・・お嬢様」
「私のお茶なら・・・すぐにご準備いたします」
「さぁ、こちらへどうぞ」
3人が動き出した。お城の人たちもいい人たちだったけど、うちの使用人もすごいよね。できる使用人は違う。私はソファに座った。大きなため息が出てしまう。やっぱりうちはいいなぁ。
「リィ、もう帰るのか」
殿下が寂しそうに呟く。そりゃ、帰りますよ。ここは自宅ではないですし。でもそう言うと、いずれは自宅になるのだからとか言い出すので黙っておく。
「明日また来たらいいから。明日は1日休みにしてゲームをして遊ぼう」
そんなに遊んでばっかりでいいのか?魔物が出て大変だったんだから、もう少し働かないと国民から不満が出るぞ。と、微笑みながらも心の中で文句を言う。結婚して大丈夫なのだろうかと、不安にもなってきた。
「なりません、今は国民のために事態の終息を目指す時です」
思わず言ってしまった。真理子時代、忙しい時に呑気にお茶を飲んでいた上司を思い出してしまったのだ。
「リィ・・・」
殿下がやや涙目になったのを見て、やってしまったと後悔した。だが言ってしまったものはしょうがない。
「で、殿下・・・」
「リィ、なんて・・・なんて・・・」
婚約破棄か、初の大げんかに発展するか。だが間違っていないぞ。私は殿下の前に立ち、殿下の目を見た。小動物のように可愛らしく見えてきた。
「なんて、素晴らしいんだ!」
殿下が興奮したように叫ぶ。
「すでに国民のためを思い、殿下に意見できる。最高の伴侶だ!」
横で聞いていたドミニク様は胸に手を当てプルプル震えている。
「さすがマリアンヌちゅあん。今すぐにでも婚姻を成立させようか」
陛下、戯れも過ぎますぞ。と、私は時代劇で見た家老の気分になった。
「聞いたか、アレン。妃とはこんなに素晴らしい意見を出せるものなのだ」
「はい、この耳でしかと拝聴しました。マリアンヌ様は国の宝です」
たかだか働けと言っただけでこの反応。どうなっているんだか。とにかくこの馬鹿騒ぎが早く終わって、無事に家でお茶を飲みたいわ。
「妃教育も始まるのだから、マリアンヌちゃんのお部屋も早く用意しないと」
「やはり、部屋は我々の隣にしようか。夜中に目が覚めてパパとママがいないって泣くかもしれないからな」
「南の庭園が見渡せる部屋にしましょう、あそこなら私の私室と近いもの」
「母上、リィは私の妻となるんですよ。母上の私室の近くに住まわせたら、私が遠くなるではないですか」
「壁紙はピンクで金をあしらおうか。ピンクだけで200色はあるからな。マリアンヌちゅあんのピンクを見つけ出さないと」
全員無駄に張り切りだした。仕事が忙しすぎると、おかしなことを言って現実逃避をするものなのだ。と、思うようにした。これはもうキリがない。一国の国王陛下を相手にして不敬かとは思うが、仕方がない。いずれは舅となる人なのだ。今から慣れよう。
王族の一員になるのも不安があるが、それよりも心配なことがある。お妃教育である。勉強など10年以上やっていない。ついていけるのか不安でしかない。だが不安を口にすると、寄ってたかって大丈夫だよと慰められるだろう。慰められるだけならいいが、やらなくてもいいと言い出しかねない。そうなると将来的に困るのは自分自身だ。何も知らない妃など国民からすれば不要な存在。国家に不審をもたらすきっかけにだってなる。
とにかくやるしかない。私は不安を心の奥に隠し、部屋をどうするかなどと揉めている王族に笑顔を見せた。笑ってたらどうにかなる。そう思うしかない。それで・・・。
顔の筋肉が死んだように固くなるくらいに笑顔を見せて立っていた。心はとっくにどこかへ行ってしまった。ようやく自宅のお屋敷に戻ってきた時は、すでに自分は放心状態を通り越して宇宙の彼方に飛んでいっていたと思った。お城に1泊しただけなのだが。
「お嬢様!」
「よくぞご無事で・・・」
「お帰りなさいませ」
セバスチャン、マーサ、メアリが迎えてくれる。マーサが涙ぐんでいる。よくぞご無事って、魔物が出たからだよね。王族と会っていたからじゃないよね。
「怖いご経験をされたと伺っております。すぐお休みになってください」
気づくとセバスチャンの手が震えている。どんな報告を聞いたかわからないけど、魔物が出現して知らない令嬢に怪我させられたわけだから驚くのは仕方がない。
私はセバスチャンの手を握った。
「ありがとう、でも私は大丈夫。それよりマーサのお茶を飲みたいわ」
にっこり笑うと
「お・・・お嬢様」
「私のお茶なら・・・すぐにご準備いたします」
「さぁ、こちらへどうぞ」
3人が動き出した。お城の人たちもいい人たちだったけど、うちの使用人もすごいよね。できる使用人は違う。私はソファに座った。大きなため息が出てしまう。やっぱりうちはいいなぁ。
22
お気に入りに追加
1,059
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる