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さよなら世界、こんにちは異世界

46.A級冒険者 ダンバード・スタンフィール

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 初めて会った時は、泣きながら頑張っている小さな子どもだった。あの時は迷いもせずに直ぐに手を差し伸べた。
 
 その子どもは、涙を流しながら顔を上げ決然と前だけを見ていた。おのれの身を捨て、この人を助けてくれと叫ぶ姿はあまりにも真摯でありーー子どもながら目を見張る美しさがあった。
 
 アンディスール公爵家の子息と分かった時は本当に驚いた。立憲君主制のパルシオン公国といえども、やはり身分差は公然と有り、貴族と平民では同じテーブルに座れないほどの差が歴然とあった。
 
 けれども、エディは屈託が無く、自分の感情に素直だった。お付きの者がいたり育ちの良さを感じて、爵位はあっても男爵の子息がか大商人の息子かと思っていた。
 今では名だたる冒険家の地位はあれど、これまでは尊大な態度の貴族か、身分に線引きをして柔和な笑顔で感情を隠して接してくる貴族しか会ったことは無かった。
 だから、エディがパルシオン公国三大公爵のアンディスール公爵の屋敷に案内した時でも、まさかな?と疑っていた。既存の貴族像とエディが余りにもかけ離れていたからだ。
 だが本館の正門をくぐり、実際に案内された離れの別館に通されて納得した。
 
 ーー館の装飾も設えてある家具も、貴族の住まいには似つかわしくないものだった。それで、ああ庶子なのかと腑に落ちた。
 素直で屈託がないのは、性質もあるが大半はこの『ばあや』に守られてきたからだろう。他のお側仕えは見当たらなかった。その事でも、公爵家での扱いが窺われた。
 戦争で親を亡くした子どもの悲惨な生い立ちは、孤児院で育ったから山程見てきた。極論だが、そんな子ども達に比べたら、比べものにならない程にマシだ。 
 だが、この簡単に人に騙されそうなぽやぽやした感じのするエディが、広い館で誰にも顧みられない日々を過ごしてきたと。『ばあや』と2人でひっそりと暮らしてきたと思うと胸が痛んだ。
 
 本館の医師の診察で『ばあや』は大丈夫だと言われて安心したのか、いつの間にかエディはソファーで寝ていた。そんなエディを抱き上げて、寝台へ運ぶ。
 いとけない寝顔は、庇護欲をかき立てられて……。まばらになった前髪をそっと撫でつけて、まるみのある額にくちづけを。
 離れがたい思いはあれど、ギルドに戻って魔獣ベヒモスの出現と討伐の報告の義務があった。
 
 ふところに入れてあった昼飯に気付いて、昼食を食べないまま寝てしまったエディの為にテーブルにメモと一緒に残した。パンと果物だが、無いよりはいいだろう。
 一度だけ振り返って、俺はアンディスール公爵の屋敷を後にした。きっと、また会える予感を感じながら。
 


♢♢♢♢♢♢

あけましておめでとうございます。
お正月でバタバタして、投稿が遅れてしまいました。すみません∑(゚Д゚)

しばらくは、ダンの物語をお付き合い下さい。

 
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