バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します!

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さよなら世界、こんにちは異世界

46.A級冒険者 ダンバード・スタンフィール

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 遠くの場所を見ることが出来る魔法により、食事している無防備な姿を見られてしまったオリヴィアとリュウデリア。ローブを着ていてもフードを外して素顔を晒し、使い魔の大きさを人間大の大きさにして食事をしていた。

 一瞬とは言え、姿を見られてしまったからには、覗いてきた者を見つけ出さねばならない。南の大陸だと『殲滅龍』の二つ名で恐れられているリュウデリアだが、西の大陸ではどうなっているか解らない。昔の戦争の弊害から、あまり交流が無い国同士で情報を共有しているかによって知名度は違ってくる。

 警戒しておいた方が良い程度ならばまだ大丈夫だが、こういう龍が居るから各国に報せて警戒態勢を取らせろという達しがあれば、リュウデリア・ルイン・アルマデュラという龍を見れば騒然の話題となってしまう。

 冒険者をしながら旅をしている魔物使いの魔導士、という立場を利用して人間の国に入っている彼等にとっては、姿を見られて噂が広がるのが1番面倒だ。ならばリュウデリアが人化すれば良いだろうという話だが、龍の姿でいることに矜持を持っているので、何があろうと人の姿にはならない。なればもはやそれは龍を否定した人間擬きであるからだ。

 あのリュウデリアが、そんなどっちつかずな存在に成り果てる訳が無い。龍王に向かって人の姿を取るお前達は龍ではないとまで啖呵を切った彼が、ちょっとした騒ぎになるかも知れないから仕方なく……と人化すると思ったら大間違いだ。何があろうと龍の姿は変えない。故に、噂が広まり騒ぎが起きていたら、噂が他に流れる前に王都ごと消すつもりだった。



「ママーっ。あれ買ってー!」

「見ろよ、次あの子に声かけようぜ」

「えーっと、他に買うものは……」

「夕飯何にしようかしら?」



「……騒ぎは起きていないな。私達に敵意を抱いている様子も無い」

「ふむ……気配からして隠している訳でもない。本当に何も無いようだな。不届き者は確実にこの王都に居る筈なのだが……」

「感じた魔力で判別出来ないのか?」

「魔法は使ったが、魔道具を使った魔法だ。個人を判別できるものではない。魔力を充填して扱う類のものならば持ち主の魔力が感じられるが、道具を1度通して使うからな……本来の魔力とは違って少し乱れる」

「……なるほど」



 要するに、同じ魔力でも違うものに感じてしまうというわけだ。道具を通さない、普通の魔法ならば今頃誰の魔法で何処に居るのかすぐに判断出来るのだが、魔道具を使ったとなると少し話が変わってきてしまう。面倒なことになったと、リュウデリアはオリヴィアの肩の上で溜め息を吐いた。

 一応、同じ種類の魔道具だろう反応は感知出来ている。遠くを見ることができる。つまり特定の誰かを知覚外のところから盗み見れるということだ。そういった犯罪が容易にできてしまうような魔道具は誰にでも売ったりせず、身元を保証された者が、購入したという記録を録ってもらって初めて手に入れられる。

 誰が持っているのかは、売った店が国に報告する義務がある。閲覧できるのはそういった情報を無闇に明るみに出さない身分の偉い者達だ。犯罪が起きて、使われたかも知れないとなると情報を持つ者が憲兵等に協力して情報を与える。といった形を取っている。

 なので、オリヴィア達が誰が買ったか教えてくれと言って素直に教えてもらえるものではないのだ。脅しても良いのだが、それは手詰まりになった場合に取っておいた方が良い。万が一そういう脅したという情報を他者に喋られれば後々面倒なことになる。

 自由に探すことも出来やしないと、リュウデリアは人間の世界の面倒臭さに溜め息を溢すばかりだ。自然界ならば、力で捻じ伏せて無理矢理情報を吐かせるか、見つけ出して殺し合いになるというのに、法律やら手段やら倫理など、取って付けたような縛りが邪魔をしてくる。鬱陶しいことこの上ない。

 かと言ってこの広い王都を隅々まで歩いて探すのは愚策だ。相手も人間なのだから居場所なんていくらでも移動する。こちらは相手のことを知らないのだから、行動パターンなんて把握していない。1人1人調べていたら何年掛かるか解らない。どうしたものかと、オリヴィアも同じく溜め息を溢した時に、リュウデリアの頭の中では幾何学的な図形を描いて魔法陣の術式構築を行っていた。

 確かに調べる方法が無い。1人1人調べていたら膨大な時間が掛かる。見つけるのはほぼ不可能だろう。ただし、彼はその不可能を可能にする。あの時弾いて無効化した魔法を、記憶を頼りに再び頭の中で構築していく。砕いた魔法陣を描き、解析していった。同時に新たな魔法を開発する。解析と構築を同時進行で行い、ものの数秒で完成させた。



「術式構築完了──────魔法陣起動」

「……?どうしたんだ、リュウデリア」

「……見つけた。魔道具の方だが、今も移動している。接触するぞ」

「一般人か?」

「いいや。不届き者は──────」

























「──────うあー……っ。マズいよね……?やってることチョー変態だよね?気になるからって覗き見は良くないよね!?会ったばかりの人だし!でもやっちゃったし!これどのくらいの比率でボクが悪いかな……?……うん。10だよね。10ボクが悪いねごめんなさいっ!」



 羨望。希望。期待。憧憬。あらゆる感情を一身に集める限られた選ばれし者『英雄』。その1人であるソフィーは、人通りの無い寂れた路地裏で壁に背中を預け、蹲りながら頭を抱えて自己嫌悪に陥っていた。手元には遠くの場所を空からの視点で見れる遠見の魔道具の単眼望遠鏡が握られていた。

 他人のプライベートを覗き見る為に持っているんじゃなくて、魔物の大群などが王都に迫っているときに魔物の種類や数を確認する為にということで、国から渡されている貴重な魔道具である。私利私欲の為に使うなど以ての外。それは『英雄』であろうと例外ではない。筈なのだが……彼女はやっていた。覗き見をしたのだ。

 本の出来心だった。受付を通っていたからBランクは確実だということは知っていたが、もしかしたらオリヴィアがブーバスにやられてしまっているのでは、苦戦しているのではと思ってしまったのだ。ソロで依頼を受けると、負けてしまった場合居合わせた人がその場に偶然居ないと助かることはない。

 仲良くしようとしているのに、その日の内に死にましたでは目覚めが悪いので、本当に善意で魔道具を使って様子を確認しようとしたのだ。オリヴィア達が依頼に向かって少し過ぎているが、ブーバスを見つけるまでの時間も含めれば良い頃合いだろうと思って単眼望遠鏡を覗いた時、ソフィーは信じられないものを見た。

 各々の大陸で起こった特別な異常などは、どれだけ仲が悪くても交換してそれぞれ警戒するようになっている。南の大陸からも西の大陸へある情報が流されていた。それは幾つもの国を滅ぼしたある黒龍の話だ。『殲滅龍』という二つ名で呼ぶ、本来の龍とは違うフォルムをした純黒の龍。

 目撃情報は限りなく少ないものであるが、それでも『殲滅龍』のことをギルドマスターから聞いていた。人に近い姿をしているが、元は龍だから解りやすいだろうと、南の大陸の話だからという理由で軽い気持ちで聞いていた。しかし単眼望遠鏡でその姿を見た瞬間、ソフィーは身の毛もよだつナニカを感じ取った。

 普通ならば感知なんて難しくて解らない遠見の魔法を一瞬で察知し、黄金の瞳と目があった瞬間に魔法を砕かれて無効化された。本当に一瞬のことで、高い魔法の技術を持っている。見ていたことがバレてしまった。それに傍には、見たことがある純黒のローブを身に纏う、美しすぎる純白の女性。

 ローブを見てこの美しい女性がオリヴィアなのだと理解した。肩に乗っていた使い魔は使い魔ではなかった。国を滅ぼし殲滅したという凶悪な龍だったのだ。そんな存在を前にしてあれだけ無防備を晒していたのだから、生きた心地がしない。そんな気配なんて全く感じなかった。少し変わった使い魔だなと思った程度だった。

 龍は古来より、他者からの接触を嫌う。覗き見るなんて同様に毛嫌いされている行為だ。一説には、数キロ先に居る龍を覗き見た瞬間激昂し、暴れ回って近くの村や街を滅ぼしたという。その行為を今まさに、自分がやってしまった。率直に言って王都が危険だ。

 ソフィーでさえ、龍の力は凄まじいと感じているのだ。既に国を滅ぼしている『殲滅龍』と謳われる龍が相手になった場合、人々を護りながら戦えるかと問われたら即座に無理と答えるだろう。1人で伸び伸びと戦えるならまだしも、龍を相手に他者の命を護りながらなんてのはいくら『英雄』でも不可能だ。相手は世界最強の種族なのだから。



「このままだと怒りに触れて王都を襲いかねない。けど、使い魔だと偽ってまで入国してきた人と龍だし、まだ何もしてない。ボクの前では至って大人しかったし、もしかしたらアレは『殲滅龍』じゃなくて、違う種族だったのかも──────」



「──────という線もありえなくはないが、俺がその『殲滅龍』だ。残念だったな」



「なん──────ッ!?」



 真っ正面から声が聞こえた。恐ろしく近い。声が発せられるまで気づきもしなかった。ハッとしながら顔を上に持ち上げると、黄金の瞳と目が合う。魔道具で見たときと同じだ。冷徹さを孕んだ高い理性を感じさせる、鋭い瞳。それがもう目の前にあった。

 長年冒険者として戦ってきた事による反射。身の危険を感じたが故の全身全霊の抜剣。高価な望遠鏡など捨て置き、手放して双剣の柄に手を掛ける。誰にも知覚出来ないと言わしめる最速の抜剣を繰り出す。鞘から剣が抜けて目の前の存在へ向けている。

 極限まで圧縮された時の中、猫の獣人であるからこそ猫と同じ縦長に切れた瞳の虹彩が狭く細くなる。そしてその圧縮された時の中で見る。ゆっくりと自身の両手に持つ双剣が、目の前に居る純黒の龍に向かう中、明らかに異常な速度で伸ばされる大きな手。そして、刃が届く前に純黒の鱗に包まれた手が自身の顔を鷲掴んだ。



「──────ッ!?」

「良い身の熟しだ。『英雄』ともなれば投げられた程度では背は付かんか。まあ普通はそうだな。この程度で体勢を崩すなら呆れてものも言えん」



 ──────此処は……魔道具で『殲滅龍』を見た場所!?転移系の魔法まで使えるんだ……ッ!常軌を逸した魔法の使い手か。肉体派の方がまだ良かったかな……ッ!それに、やっぱり龍は知能が高いんだ……こんなに流暢に喋るなんてッ!



 顔を掴まれ、次には浮遊感を感じていた。猫のように軽やかな身の熟しで体を捻って足裏を引き摺りながら着地した。抜いた双剣は持って構えている。最高レベルの鍛冶屋に鍛えられた大業物の剣は太陽の光を浴びて銀に輝く。無駄な装飾を施さないように注文した質素ながらも、折れず曲がらない最高峰の武器。

 長年使っている相棒の剣は、実に頼もしく何度も共に戦場を駆け抜け、時には危ない場面を助けてくれた。しかし今回、その双剣が純黒の龍である『殲滅龍』に対して恐れているように感じる。剣が光を発して光る銀色も、どこか鈍いようにすら感じるのだ。

 龍本来の大きさにならず、態となのか人と同じ大きさを取っているリュウデリアに、ソフィーはごくりと喉を慣らした。掴まれて投げられた時の膂力は尋常じゃない。今度掴まれたら確実に頭を握り潰される。なのに恐らくは魔法に特化した戦闘スタイル。肉体派でないことは気配の感じ方でそう判断した。



「やはりお前が覗き見てきた不届き者だったな。路地裏に居て助かったぞ。お陰で人間共に見つからず、お前だけをこの場に連れて来る事ができた」

「……王都を襲うつもりはないって事……?」

「まだ読みかけの本がある。それに犯人が見つからず、噂が流れていれば消すつもりだっただけであり、見つかって噂が無いならば消す理由は無い」

「……そう。ボクをこの場に連れて来たのは……」

「ククッ──────『英雄』の力を見せてみろ」

「やっぱり……ねッ!!」



 別に見逃してもらえると楽観視はしていない。覗き見をしていたのが自身だと完全に把握していて、誰の目にも映らない王都の外へ転移で連れられた時点で殺し合いになるとは思っていた。問題は自身が仮に死んでしまった場合、怒りの矛先が王都に向かないかということだ。

 王都を襲うというのなら、死んでもリュウデリアを討つつもりだったが、襲わないならば死なないように立ち回るのみだ。彼の言葉からは嘘を感じなかったのと、長年の勘である。これで外れていたら笑い話にもならないが、現状そう考えるしかない。

 冷や汗が流れて双剣を握る手に力が入る。手汗も掻いていて柄が濡れている。震えそうになる脚を堪えて体勢を低く取り、超人的な跳躍をして突進した。真っ正面からかと、リュウデリアは仁王立ちになって胸の前で腕を組んでいる。舐めきった態度に一泡吹かせてやると、最高速度で疾走してリュウデリアの背後を取った。

 双剣から魔力の放出を行って急な方向転換をするのが得意なソフィーは、そのトリッキーな動きと出鱈目な予測不可能な動線。そして見えない超速度と刹那に叩き込む連撃を武器に『英雄』に至った武闘派の傑物。完全に背後を取ったと確信して、X字に斬り裂こうと双剣を振り下ろした。

 龍の鱗は硬いというのは常識だ。中には最高峰の防具よりも断然強度がある鱗を生やす龍が居るという。ソフィーはそこで、双剣の刃に魔力を限界まで流して刀身を強化し、目に見えないくらいの細かな魔力の刃を刀身に奔らせる。斬り付けながら、無数の刃と化した得意な魔力で同時に斬り裂こうというのだ。

 しかしその同時に二振りの斬撃は、リュウデリアの背中に触れること無く尻尾で受け止められた。尻尾の先端に純黒なる魔力で形成された刃がある。それに受け止められた。高い金属音に似た音を響かせて受け止められ、押し切ることも出来ない。魔力放出で推進力を得ても、押し切れそうになかった。

 ただの魔力で形成された刃の筈なのに、全力で振るった自身の剣が勝てない。押し切れない。背後を振り返ることなく難なくと受け止めたリュウデリアに、ソフィーは直感した。魔法に特化した戦闘スタイルだと思ったが、違う。それならこんな容易に受け止めてくる筈が無い。自身は嵌められたのだ。態と肉体派ではないように思わせる気配に変えていた。自身はそれを簡単に信じてしまった。

 焦りから短絡的な思考になっていたことを自覚する。それにしても恐ろしい才能だと感じた。自身のことを偽るのに気配を変えて、悟らせないなんて……と。魔法の技術力は凄まじい。加えて肉体派でもある。ソフィーは1番やりづらい万能型であるリュウデリアに苦々しい思いを抱いた。



「まさかそれが全力か?戦いは終わりでお前の力は見せ終わったのか?南の大陸に居た『英雄』はもう少し手応えがあったぞ」

「南の大陸の『英雄』……ダンティエルのこと?あの人はどうなったの?」

「聞いていないのか?まあ、俺がこの場に居ることが答えだな」

「……そっか」



 同じ『英雄』として1度だけ顔を合わせた事がある。千の剣を操る魔法の技術と操作技術。恵まれた肉体と強靱な精神を併せ持つ、広範囲での戦いにも特化した剣士だった。自身と同等かそれ以上の実力があった筈の彼は既に殺されている。目の前の、この純黒の龍に。

 嘘を言う理由が無い。故に真実。もう過去に『英雄』を殺している龍との戦いをこれから行っていくのだ。初撃は見事に防がれた。押し込む事ができないことから膂力で勝てる可能性は無い。魔力の質も相当ならレベルだ。速度も攻撃に対応してきたから最低でも自身と同じくらいの速度は出せると考える。

 知れば知るほど高いスペックを持ち合わせているリュウデリアに、乾いた笑みが生まれる。今更ながらに彼から感じる魔力は、まさに底無し。無限にも感じてしまう埒外の破滅的魔力。魔力切れを期待するのはやめた方が良いようだ。





 まさかこんな事になるなんて、と少しの後悔を抱きながら、ソフィーは双剣を強く握り直して飛び掛かり剣を振るった。生き延びる為に、『殲滅龍』へ挑むのだ。







 ──────────────────


 ソフィー

 心配になって確認のために遠見ができる魔道具を使ってオリヴィアのことを視た。そしたらまさかの『殲滅龍』と一緒に仲良く食事で度肝抜かれた。一瞬で察知されて、やべっと思ったが後の祭り。捕まって転移させられ、助けも期待できないところで龍と戦闘することになった。

 オリヴィアとは本当にただ仲良くしたかっただけ。女冒険者がものすごく少ない王都だからこそ、気軽に話せる人が欲しかった。




 リュウデリア

 記憶を頼りに砕いて無効化した魔法陣を解析して、同時に逆探知できる魔法を構築した。最初から魔法を新たに創れば良かったなと自分で思った。

 どの魔道具が使われたのかを逆探知し、持ち主を気配で探るとソフィーだったので、ちょうど良いと思って拉致した。完全に気配を消したら『英雄』でも気づかない。

 魔法特化に思えるが、ゴリゴリに肉体派でもある。つまり万能型なので、大体の人はやりづらい相手だと思う。




 オリヴィア

 リュウデリアから犯人が解ったと言われて一般人かと思いきや、まさかのソフィーだったので呆れていた。アイツは一体何がしたいんだ……と。

 戦いに巻き込まれたり人質にされる可能性があるので、ローブの防御性能があっても一応見学として別の場所に居る。リュウデリアの魔法で彼が見ている景色が自身にも見えるようにされている。



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