上 下
36 / 49
さよなら世界、こんにちは異世界

36.異世界で男らしく

しおりを挟む
「ダッ――、ムグッぅぅ…………」

 まさか会えると思ってなかったから、嬉しくて大きい声を出しちゃった。慌てて両手で口をふさぐ。しばらく周囲を注意していたけど、気付かれなかったみたい。僕はほっと胸をなでおろした。

 ダンが玄関から入ってことは、きっとこっそり僕に会いに来てくれたんだよね。ないしょ、ないしょ。

 2階のベランダからダンに手を振ると、笑顔で僕を見てくれた。
 5年ぶりに会ったダンは、イケおじじゃなくてイケにいさんになってた。ダークブラウンの髪はすっきりと短く、前より日焼けしてワイルドな男っぽさが……。くぅーーかっこいい!

 ダンが後ろに下がってと身振りで教えてくれた。なんだろう?下がって直ぐに、まあるい何かが飛んできた。手に取ってみると、厳重に布に包まれていた。

 またベランダの手すりから下を見ると、もうダンは背中を向けて歩き出している。ダンに呼び掛けたかったけど我慢して、その背中に念じた。振り向け、振り向け~~。

 あっ、振り向いてくれた。大きく手を振って声には出さないで、何か言ってる。じーーっと、見つめて……。「エディ、またな」と言ってる。うん!またね、ダン!僕は心の中で言って、ダンの背中が見えなくなるまで、手を振り続けた。

 ダンがくれた物はなんだろう?布で包んであって、その上を縄ひもでぐるぐる巻きにしてある。すごい厳重で開封するのが大変そうだけど、壊れないようにしてくれたんだ……。なんか、うれしくなる。ハサミもナイフも見当たらないから、短剣で縄を切ろうかな。でも絶対に失敗して壊しそうだから、ばあやがきてくれるまでおとなしく待つ。

 そういえば髪の毛も起きたら腰の長さまであって、うっとおしいから切りたいんだけど、にいちゃん達が許してくれないらしい。

 本の中ではエディの容姿は幼い頃は可愛かったけど、16才になった頃には男らしかったはずだ。髪型もダンみたいに短髪で、身体は筋肉はそんなについてなかったけど身長はもう少し高かったはずだ。断罪された時の挿絵では、髭が生えていて髪もざんばらに短くなっていた。
 
 比べて、今の僕の容姿は豪奢な金髪を腰の長さまで伸ばして、手足は細く華奢でしなやかだ。身長も160cmそこそこしかない。しかも日に当たってなかったから、色白で頬はつるんと無精ひげ知らずなのだ。

 例えるなら、教会の壁画の精霊さんみたいな感じ。生活感無し、農業も畜産も冒険者もやらなそう!妖精さん、異世界に飛ばしてくれるなら、ダンみたいに男らしいタイプが良かったんだけどな。

 冒険者をして、年を取ってからの牧場経営はどうだろうかと憧れていたのに。いや、待てよ。今から成長期かも!これから、ダンみたいに身長が伸びて筋肉隆々になるんだ。可能性は極少ないけど、異世界転生出来たんだからまだ分からないし~。体調が完全に回復したら、身体を鍛えようっと!

 よし!さっそくだけど、スクワットなら出来そう!今なら、ばあやもいないし……。チリツモ、チリツモ。フフフッ、ばあやも知らないうちに身体を鍛えて、マッチョエディになるんだ。そうしたら、ダンも冒険に一緒に行ってくれるかな。

ーーエディ、いつの間にマッチョになったんだい?俺より、上腕二頭筋が逞しいじゃないかー。あっはっはっはなんて、肩をたたき合って笑いあいたい。僕も、その時は俺って自分のことを言ってみようかな。

――1,2,3,4,……5,6,7,…………8,9,……10

 うん、おーけー!まずは、休もう。僕は今すぐに、休養をした方がいい。たった10回のスクワット運動をして、ぜーぜーと息をして寝台に転がり込んだ。

 ふぁー、びっくりした!最後の10回目で腰をおろしたらプルプルしちゃって、もう立てないかと思った。今じゃあ、こんなキラキラした見た目だけど、僕だって男だからね。スクワット10回でへたり込むのは、男のプライドが許せないから……必死に起き上がったよ。

 
 16才の男子高校生なんて、アレだからね。僕は心臓が弱くて体育会系の運動部は入れなかったけど、友達がサッカー部にいたから話しは聞いていた。その話を聞いてるだけで、男同士ってやることが荒々しいし7割はエロい事も考えてるなぁと思ってたよ。

 朝食を食べたら昼食の前にお腹が空いておにぎり1個食べて、昼食を食べたらおやつにサンドイッチかおにぎりか牛丼を食べて、夕食も完食する。底なし沼みたいな胃袋だけど、本当にお腹が空いて食べても食べても太らないって言ってた。僕は小食だったから、関係ない話しだけども。

 そんなわけで、僕も男なんだぞって主張をしたいけど、まともにスクワットも出来ない僕は鼻で笑われそうだ。

 そういえば元気かな?サッカー部の友達。中学も同じで、入院をするといつもお見舞いに来てくれた。ええ~と、名前は何だっけ?どんな顔をしてたっけ?手術が成功したら、サッカーを教えてくれるって……約束してたような気がするけど。

 僕は、あっちの世界のことを少しだけ忘れてしまったみたいだ。なんで、忘れてしまったのかも思い出せなかった。
 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら豊穣の神でした ~イケメン王子たちが僕の夫の座を奪い合っています~

奈織
BL
勉強も運動もまるでダメなポンコツの僕が階段で足を滑らせると、そこは異世界でした。 どうやら僕は数十年に一度降臨する豊穣の神様らしくて、僕が幸せだと恵みの雨が降るらしい。 しかも豊穣神は男でも妊娠できて、生まれた子が次代の王になるってマジですか…? 才色兼備な3人の王子様が僕の夫候補らしい。 あの手この手でアプローチされても、ポンコツの僕が誰かを選ぶなんて出来ないです…。 そんな呑気で天然な豊穣神(受け)と、色々な事情を抱えながら豊穣神の夫になりたい3人の王子様(攻め)の物語。 ハーレムものです。

転生したので異世界でショタコンライフを堪能します

のりたまご飯
BL
30歳ショタコンだった俺は、駅のホームで気を失い、そのまま電車に撥ねられあっけなく死んだ。 けど、目が覚めるとそこは知らない天井...、どこかで見たことのある転生系アニメのようなシチュエーション。 どうやら俺は転生してしまったようだ。 元の世界で極度のショタコンだった俺は、ショタとして異世界で新たな人生を歩む!!! ショタ最高!ショタは世界を救う!!! ショタコンによるショタコンのためのBLコメディ小説であーる!!!

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。

拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ 親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。 え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか ※独自の世界線

異世界人は愛が重い!?

ハンダココア
BL
なぜか人から嫌われる体質で、家族からも見放され、現世に嫌気がさしたので自殺したら異世界転生できました。 心機一転異世界生活開始したけど異世界人(♂)がなぜか僕に愛の言葉を囁いてきます!!!!! 無自覚天然主人公は異世界でどう生きるのか。 主人公は異世界転生してチート能力持っていますが、TUEEEE系ではありません。 総愛され主人公ですが、固定の人(複数)としか付き合いません。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

元魔王様は今世こそ平凡スローライフを開拓したい、、、のですが、元勇者(今世王子)が離れません!!!〜ベタつき具合はスライム並みです〜

しおりんごん
BL
いきなりだけど、『魔王』って聞いて思い浮かぶイメージはどんなのがある? 残虐?恐ろしい?人間をいたぶる?やばい奴?怖い? うんうん、、、大体はそんな感じだよね え?魔王、、、受け?勇者攻め?、、、何を言ってる? と、とりあえず、、、なんかこわーい存在ってのはある程度の共有認識なんだと思う 、、、けどさ 俺はそんなことなかったから!!!!!!!!!! 確かに前任魔王(父)は道すがら人街を潰してきたり、秘境のドラゴンいたぶって舎弟にしたり、でっかい森を人間たちへの嫌がらせで更地にしたりしてたけど! 俺は争い事とか、痛いこととか、辛いこととか、魚を食べることとか、、、 全然好まないし、人間ともラブアンドピースで生きて行きたかったわけ!!! と、まぁ過去形だから、もう俺の魔王としての生涯は終わったんだけど だけども気が付けばなんと二度目の人生スタートしちゃってて!! 俺は念願の人として生まれることができたのなら、人が溢れる街から遠くの田舎町で牛に囲まれて、自給自足のスローライフで一生をゆっくり終えたいわけさ! だから俺の理想のスローライフを開拓するため、、、とにかく活動開始だ〜!! って、、、うん?前世帰り?魔導学校?元勇者の第二王子?!?! あ、あの頭のネジが二桁は外れてる、イカれ勇者の生まれ変わり?! おい!そんなの聞いてなっ、、、「あー、、、みぃつけた、キィちゃん♡」 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!」 俺の念願の人生、、、どうやら波乱確定らしいです 前世から激重感情持ちの前世勇者、今世第二王子の攻め×前世から念願の自由な人生を獲得するも、今世でも攻めに振り回され、逃げられない元魔王受け(チートではある)

処理中です...