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さよなら世界、こんにちは異世界
34.ただいま異世界
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あれから、ずっと考えていた。
精霊のこと、エディ、ばあや、にいちゃんたち……、そして、ダン。
僕がパルシオン帝国でエンディ・アンディスール・デュトワとして生きていた時間は、人生の尺度から見たらほんの少しの長さだったけど。
異世界では今まで、見たこともないほどの未来に満ちていたんだ。夢だって、せっかく面白そうなところで起こされたら目覚めて不機嫌になるよね。
だから、僕はもう一度だけ「精霊と勇者と滅びの国」に行きたい。お母さんとお父さんをまた悲しくさせることも、それが無責任で自分勝手に決めたことも、僕を責めてくれてかまわないから……どうか、僕が生きてるとおもえる世界で生きたい。
僕はいろいろ考えて、なにか答えらしきものを見つけた気がする。
祈りと時間と僕の命。僕の命は、いまや風前の灯なんだろう。母さんと父さんが育んでくれた命。けれども、粗末に扱うつもりも、今は精霊に捧げる気もない。
だから、僕の記憶、この過去をあげる。
本の最後のページを破ると、どこかで遠雷に似た叫び声が聞こえた気がした。切り取ったページを想いを込めて、指でなぞる。よいしょと枕の下に押し込んで、心で強く願った。
――精霊さん、僕をエディ、ばあや、にいちゃんたち、ダンの元へ帰してください――
急激に襲う強い眠気。目を開けていたいのに、意識が朦朧としてきて……弾けて、閉じた。
どこかで、小さなエディが笑った気がした。笑い声とざわつく物音、グルグル廻る天井。星が流星となって、僕に光が降り注ぐ。地割れのように大地が揺れて、バケツをひっくり返したかのような雨にひたすら打たれていた。
身体が痛くて、バラバラになりそうだ。誰か助けてと悲鳴をあげたいけど、声をだす気力もなくて。もうだめだと限界と思ったけど、意識が光に包まれたーー。
「エディが目を覚ましたって、本当か?」
「エディが私のエディたんがッ!」
「誰がおまえのエディたんだよ。いい加減に、その趣味止めたら?23才にもなって……なア?」
「ガングリオン兄さんには、何も迷惑をお掛けしていませんが?それに趣味じゃなくて、ライフワークです」
「サウズさぁ、ライフワークって……あのウサギだろう?」
「兄さん、ウサギではないです。ミャウミャウです」
「おまえ、名前まで付けてんの?」
「なにか?私のライフワークに口出し無用です」
僕は、もう目覚めていた。起きてすぐに周りに人がいる気配はしていたから、声を掛けようと思っていたけど……にいちゃんたちのやりとりが面白くて、寝たふりしちゃっていた。フフフ、にいちゃんたち面白いなぁ。
僕は帰ってこれたんだね。良かったぁ。
「エディン様がお目覚めになりましたよ……坊ちゃま、良かった」
ばあやの心配そうな声が聞こえた。
「エディ、良かった」
「エディ、心配しましたよ」
にいちゃんたちも、心配そうだ。みんな、僕、帰ってこれてよかった。もう会えないかと思った。
「ばあや、にいちゃん、ただいまぁ……」
「エディ、おかえり」
「おかえりなさい、エディン様」
にいちゃんたちを何気なく見たら髪型を変えて、見た目も少し落ち着いた?僕はもっと見ようと上体をゆっくりと持ち上げて起き上がろうとした。あれ、身体が動かないけど。
横になったまま、手に当たる自分の髪の毛を掴んで持ち上げた。うん?僕の髪の毛、結構な長さに伸びてる。ばあやに手鏡を渡されて、自分の顔を見てみた。鏡には、小さな子供の顔から、大人になろうとしている僕の顔が映っていた。
「僕、どのくらい寝てたの?」
「エディン様は、5年は寝てました。いくら呼びかけても、揺さぶっても起きては貰えずに5年経ってしまいました」
「5年ーーーーー!!!!」
ええっ!あっちでは、2カ月くらいしか経ってなかったよ。
どういうこと、精霊さん!
精霊のこと、エディ、ばあや、にいちゃんたち……、そして、ダン。
僕がパルシオン帝国でエンディ・アンディスール・デュトワとして生きていた時間は、人生の尺度から見たらほんの少しの長さだったけど。
異世界では今まで、見たこともないほどの未来に満ちていたんだ。夢だって、せっかく面白そうなところで起こされたら目覚めて不機嫌になるよね。
だから、僕はもう一度だけ「精霊と勇者と滅びの国」に行きたい。お母さんとお父さんをまた悲しくさせることも、それが無責任で自分勝手に決めたことも、僕を責めてくれてかまわないから……どうか、僕が生きてるとおもえる世界で生きたい。
僕はいろいろ考えて、なにか答えらしきものを見つけた気がする。
祈りと時間と僕の命。僕の命は、いまや風前の灯なんだろう。母さんと父さんが育んでくれた命。けれども、粗末に扱うつもりも、今は精霊に捧げる気もない。
だから、僕の記憶、この過去をあげる。
本の最後のページを破ると、どこかで遠雷に似た叫び声が聞こえた気がした。切り取ったページを想いを込めて、指でなぞる。よいしょと枕の下に押し込んで、心で強く願った。
――精霊さん、僕をエディ、ばあや、にいちゃんたち、ダンの元へ帰してください――
急激に襲う強い眠気。目を開けていたいのに、意識が朦朧としてきて……弾けて、閉じた。
どこかで、小さなエディが笑った気がした。笑い声とざわつく物音、グルグル廻る天井。星が流星となって、僕に光が降り注ぐ。地割れのように大地が揺れて、バケツをひっくり返したかのような雨にひたすら打たれていた。
身体が痛くて、バラバラになりそうだ。誰か助けてと悲鳴をあげたいけど、声をだす気力もなくて。もうだめだと限界と思ったけど、意識が光に包まれたーー。
「エディが目を覚ましたって、本当か?」
「エディが私のエディたんがッ!」
「誰がおまえのエディたんだよ。いい加減に、その趣味止めたら?23才にもなって……なア?」
「ガングリオン兄さんには、何も迷惑をお掛けしていませんが?それに趣味じゃなくて、ライフワークです」
「サウズさぁ、ライフワークって……あのウサギだろう?」
「兄さん、ウサギではないです。ミャウミャウです」
「おまえ、名前まで付けてんの?」
「なにか?私のライフワークに口出し無用です」
僕は、もう目覚めていた。起きてすぐに周りに人がいる気配はしていたから、声を掛けようと思っていたけど……にいちゃんたちのやりとりが面白くて、寝たふりしちゃっていた。フフフ、にいちゃんたち面白いなぁ。
僕は帰ってこれたんだね。良かったぁ。
「エディン様がお目覚めになりましたよ……坊ちゃま、良かった」
ばあやの心配そうな声が聞こえた。
「エディ、良かった」
「エディ、心配しましたよ」
にいちゃんたちも、心配そうだ。みんな、僕、帰ってこれてよかった。もう会えないかと思った。
「ばあや、にいちゃん、ただいまぁ……」
「エディ、おかえり」
「おかえりなさい、エディン様」
にいちゃんたちを何気なく見たら髪型を変えて、見た目も少し落ち着いた?僕はもっと見ようと上体をゆっくりと持ち上げて起き上がろうとした。あれ、身体が動かないけど。
横になったまま、手に当たる自分の髪の毛を掴んで持ち上げた。うん?僕の髪の毛、結構な長さに伸びてる。ばあやに手鏡を渡されて、自分の顔を見てみた。鏡には、小さな子供の顔から、大人になろうとしている僕の顔が映っていた。
「僕、どのくらい寝てたの?」
「エディン様は、5年は寝てました。いくら呼びかけても、揺さぶっても起きては貰えずに5年経ってしまいました」
「5年ーーーーー!!!!」
ええっ!あっちでは、2カ月くらいしか経ってなかったよ。
どういうこと、精霊さん!
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