上 下
31 / 49
さよなら世界、こんにちは異世界

31.意識が戻った世界で

しおりを挟む
 あれから、僕の状態はあまり芳しくなかった。後で聞いたらICU 集中治療室に1週間入院していたみたい。ほとんど意識がなくて、時間はただ何もせずに過ぎていった。

 少しずつ酸素マスクが外れる時間が、だんだんと長くなってきた。身体の方は相変わらずで、まだ頭は重くて難しいことを考えようとしても、すぐに煙のようにふらりと消えてしまう。

 ぼんやりとしている頭で思ったのは、僕は死ななかったんだなと、あとどれくらい生きれるのだろう?だった。

 別に僕は、今を悲観しているわけじゃなくて事実をそのままに受け止めているだけ。それは自分の細い腕と薄い胸板から生命の強さをまったく感じなかったからだ。

 そのことについて、もう悲しみや怒り悔しさは一切なかった。ただひとつ、思うのはまた母さんと父さんを悲しませてしまうなとそれだけだった。

 あとは僕は薄情で、酷いよなって自分の事を思う。だって、心の大半を占めていたのは「精霊と勇者と滅びの国」の事ばかりだったから。

 そして意識がない間に、僕が見る夢も「精霊と勇者と滅びの国」の世界の夢だった。

パルシオン帝国 

第二王子 ライデン・フォン・ディルエンデール・パルシオン 

アンディスール公爵家 

ばあやと2人のにいちゃんのガディにいちゃんとサウにいちゃん 

勇者ダンバード・スタンフィール 僕を助けてくれたダン!

 それからエディの夢を何回も見た。箱の中から出られないエディ。小さな光に変わって空に消えていくエディ。

 僕になにかを伝えようとしてくるけど、何を言ってるのかわからない。何回もなにかを訴えかけてくるから、ある時にエディの口の動きをつぶさに見てみた。「終、ごめん。ごめんね」ずつと、僕に謝っていた。

 そんなに、謝らないでエディは何も悪くない。こうなったのは、誰のせいじゃない。大丈夫だから!僕、エディが笑った顔が好きなんだ。
 
 酸素マスクがほぼ1日中取れるようになって、やっと1日30分の面会の許可が出た。

 早速、母さんが面会にきてくれた。母さん、少しやつれたかな。憔悴した様子を見て、申しわけないと思う。

「ごめんね、母さん」と言うと、黙って僕の頭を撫でてくれた。やさしいな。

「母さん……、頼みがあるの。僕の部屋のベッド側にある本棚の中に「精霊と勇者と滅びの国」とタイトルの本があるんだ。持ってきてほしい」

 思い切って言ってしまった!母さんは直ぐに探して、明日持ってきてくれると約束をした。本を読めば、ばあやに会えるかな?

 翌日、母さんが持ってきてくれた本を、そわそわしながらⅠ人になるのを待っていた。

 静かな病室は、コポコポと酸素がポンプから流れている音だけが響いていた。

 僕は寝ながらゆっくり本を開けて、Ⅰページ目をめくった。何ページか読んでみて、すぐに異変に気が付いた。

 エディがひんぱんに現れていた。序盤ですぐにいなくなるキャラクターだったのに読み進めると「ばあやとミートパイを作った回」「兄ちゃんと僕」など、追体験をしているようなタイトル名ばかりになっていた。おかしい、話が変わっているよ。この本はファンタジーで、勇者ダンが主役なのに冒険ばかりしているし。これって、あの世界で僕のやっていたことじゃない?こんな話だったかな?僕は急いで先のページをめくった。

 半ばまでめくると、手が止まった。

「精霊と勇者と滅びの国」の本の半ばから、真っ白なページになっていた。その先はすべて真っ白で何もない。

 ばあや、にいちゃん、ダン、エディがいる世界の未来が消えていた。何が起きているんんだ?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~

狼蝶
BL
――『恥を知れ!』 婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。 小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。 おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。 「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい! そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

無自覚主人公の物語

裏道
BL
トラックにひかれて異世界転生!無自覚主人公の話

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

眠り姫

虹月
BL
 そんな眠り姫を起こす王子様は、僕じゃない。  ただ眠ることが好きな凛月は、四月から全寮制の名門男子校、天彗学園に入学することになる。そこで待ち受けていたのは、色々な問題を抱えた男子生徒達。そんな男子生徒と関わり合い、凛月が与え、与えられたものとは――。

人生イージーモードになるはずだった俺!!

抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。 前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!! これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。 何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!? 本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。

処理中です...