バッドエンドの異世界に悪役転生した僕は、全力でハッピーエンドを目指します！

さよなら世界、こんにちは異世界

16.異世界のパン

　帰宅すると、ダンにばあやを部屋に運んで貰った。
　ひと息つく間もなく、医者の手配を本館の執事にお願いしたけど。僕に付いている使用人は、基本的にばあやだけだったから、壊滅的にこの離れの屋敷の事は何もかも分からなかった。

　ようやく、お医者さんがやってきてばあやを診察して貰うと、疲労で今は寝ているだけだから大丈夫と言われた。ほっとして、僕は倒れ込むようにソファーに座ると、やっとダンの事を思い出した。

　こんなに良くして貰ったのに、お茶も出してない！僕、最悪だ……。キョロキョロと見回しても姿はどこにも見えない。呆れて帰っちゃったのかな……。テーブルの上に小さな麻の袋があった。なんだろう？

　おそるおそる中を覗いて見ると、いくつかのパンと果物が入っていた。側には小さなメモが置いてあった。

「忙しそうだから、今日は帰るな。また、来てもいいかな？俺はしばらくこの街にいるから、何かあれば冒険者ギルドに言伝してくれれば俺のところに連絡がくるようになっている。エディ、お腹空いただろう？評判のパン屋のだから味は保証する。良かったら食べてくれ。エディの友、ダンバード・スタンフィールより」

　きっと、このパンはダンが食べようと思って買ったものだよね。短時間だけしかいなかったけど、この別館の使用人の少なさや公爵家での僕の待遇など分かっちゃったかな。食事は本館に言わないと用意してくれないから、今日はもう食べないつもりだったんだ。

　何だか、僕の中でいろんな感情がグルグルと回っていた。ばあやにしか相手にされない僕、恥ずかしくて、惨めで、情けなくて、寂しくて。でも、ばあやの優しさを思い出して、胸の内があたたかくなった。それから、ダンの優しさが胸の内で光となって、じめじめした気持ちを忘れさせてくれた。

　袋の中から、パンのいい匂いがした。思わずお腹がグゥとなった。ダンに感謝して、食べさせて貰おう。お腹が空くとイヤな考えばかりになってしまうし。

「ダン、ばあや、いただきます」

　パンは外側は香ばしくて中はふわふわのパンだった。真ん中にはとろりとしたチーズが入っていた。美味しい……。ばあやと半分コしよう。
　もう一つのパンは、外側も柔らかくて真ん中にイチゴジャムみたいなのが入っていて、すごく美味しかった。まだ、いくつもあるけど残りはまた明日食べよう。もう、僕も疲れちゃった。

　明日、起きたらばあやは怒るかも知れないけど、一緒に寝かしてもらおう。今日はいろいろあったけど、楽しい事もあったから、誰もいない静かな部屋で１人で寝るのはイヤなんだ。

　上着を脱いで、寝衣に着替えるとばあやに寄り添うように横になった。本当、今日はいろいろあったぁ。ばあやの人肌が温かくて安心して、僕は直ぐに眠くなってきた。欠伸をしながら思い出したのは、ダンの事だった。