上 下
13 / 49
さよなら世界、こんにちは異世界

13.異世界で抱っこ2

しおりを挟む
ダンに抱っこされてるなんて、あのダンだよ!
「精霊と勇者と滅びの国」の本の登場人物の中で、僕が一番大好きだった人だ。まさか、実物はこんなにかっこ良かったなんて!
 
 焦げ茶い色の髪の毛も明るい茶色の瞳も、何度も想像した。その身体は岩山のように固く、逞しい体格をしていながら、動きは虎のように敏捷だった。こんなふうに書いてあったから、ものすごい大男だと思っていたけど……。確かに大きい人だけど、この人は何頭身なの?というぐらい、足が長くてバランスが取れたスタイルをしていた。
 ほえ~、カッコいい!僕も大きくなったらこんなにカッコよく逞しくなれるかな。

「ダンさん。護衛さん達、見えないみたい。ばあやを馬車に乗せたいから、すみませんが手伝って貰っていいですか?」
「ああ、いいよ。まずは、ばあやさんを安全な場所に連れていこう。馬車の停車場で大丈夫か?それと、俺のことはダンって呼んでくれ」
「ダンさんを、ダン?いいんですか?ばあやをよろしくお願いします」

 ダンの腕に座らせて貰いながら、僕はぺこりと頭を下げた。

「ああ、ダンさんと呼ばれるのに慣れてないからな。あと、いくら子どもでも貴族が簡単に頭を下げるもんじゃないぞ」
「貴族?貴族ってどこかに書いてありましたっけ?なんで分かったの?」

 なんで、バレたんだろう。洋服に紋章が付いてるのかな?学校の制服みたいに、内側にエディンとか?そんな訳、ないよね。

「エディ、平民はこんな金を溶かしたような色の髪や、蜂蜜や琥珀のような色の瞳に、抜けるような色白の肌はしていない。この見た目だと、貴族ですと言ってるようなものだ。俺が見つけて良かったよ。人攫いに捕まったら、すぐに国外に売られてしまうぞ。今度からは気を付けるんだよ」

 また、頭をぽんぽんとされて。ダンは、僕をいったん降ろすと右手にばあやを抱えて、左手に僕を抱え直した。僕は歩くよって、ちゃんと言ったんだよ。
 
 でも、ダンが「女と子どもは甘やかしなさいと、小さい頃からシスターに言われてたんだよ。だから、どうか俺に抱えさせて貰えませんか?」なんて言うから、僕は嬉しくなって抱っこされたままでいた。ダンが僕とばあやを抱えても、歩くスピードは僕が1人で歩くよりも早くて頬に風が当たった。

「どうした?こうやって歩くのが楽しいのか?」
「はい、抱っこされて歩くのも初めてだし、こんなに早く歩くのも初めてでドキドキしちゃった。楽しい!あっ、こんな時に楽しいだなんて不謹慎ですみません」
「なぁに、子どもが気にするな。それに、エディは1人で心細いだろ。良く頑張ってるよ」

 また、頭をぽんぽんとしてくれた。ダンの手は大きくて温かくて、すごく安心する。でも、僕のこと何歳だと思ってるんだろう?

「ダン。僕の事を何歳だと思ってるの?」
「エディは6歳くらいかな?それか、しっかりしてるから、7歳かな」
「ええ……、僕、そんなに小さく見えるの?これでも10歳だよ」

 ちょっとだけ、ムカついたから顔をプイっと背けてしまう。ダンのばか。僕、背が小さいことを気にしてるのに。

「エディ、ごめんな。傷つけるつもりは無かったんだ。エディは可愛いから、つい小さい子どものように思ってしまう」
「いいよ。ダンは悪くない。僕がダンぐらいの大人になったら、ダンより大きくなるんだから」
「あは、楽しみだな。待ってるよ。おっ、そろそろ停車場だぞ」

 僕たちは、停車場に着くと待合所の小屋に向かった。ドアの手前で、中から数人の話し声と笑い声が聞こえた。

「お前ら、公爵家の子息の護衛だろう?こんな所で休んでいていいのか?」
「だって、なあ。魔獣が出たから護衛なんてしていると、こっちの命が危ねえだろう。それに三男のことなんて、誰も気に掛けてねえよ」
「もう少ししたら、ご無事でしたかー?って走って行ってくるさ。バカそうな子どもだったから、ここで休んでるのもバレねえだろう」

 ドアノブに手を掛けようとしたダンを黙って止めて、向こうの馬車を指差した。ダンはそのまま静かに、馬車に向かってくれた。ばあやを休ませる方が先だ。

 このくらいで泣くのは悔しいから、泣かないように我慢していた。僕は呪いの悪役令息だから、悪く言われるのは慣れている。こんなの大したことはない。僕はこんなことぐらいで傷つかない。僕は大丈夫だ。
 ただ、ダンの手が、僕を抱えるダンの腕が優しくて。

 ばあやを馬車の座席に降ろすと、何も言わずに優しい目をして、また頭をぽんぽんしてくれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したら豊穣の神でした ~イケメン王子たちが僕の夫の座を奪い合っています~

奈織
BL
勉強も運動もまるでダメなポンコツの僕が階段で足を滑らせると、そこは異世界でした。 どうやら僕は数十年に一度降臨する豊穣の神様らしくて、僕が幸せだと恵みの雨が降るらしい。 しかも豊穣神は男でも妊娠できて、生まれた子が次代の王になるってマジですか…? 才色兼備な3人の王子様が僕の夫候補らしい。 あの手この手でアプローチされても、ポンコツの僕が誰かを選ぶなんて出来ないです…。 そんな呑気で天然な豊穣神(受け)と、色々な事情を抱えながら豊穣神の夫になりたい3人の王子様(攻め)の物語。 ハーレムものです。

地味で冴えない俺の最高なポディション。

どらやき
BL
前髪は目までかかり、身長は160cm台。 オマケに丸い伊達メガネ。 高校2年生になった今でも俺は立派な陰キャとしてクラスの片隅にいる。 そして、今日も相変わらずクラスのイケメン男子達は尊い。 あぁ。やばい。イケメン×イケメンって最高。 俺のポディションは片隅に限るな。

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!

彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど… …平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!! 登場人物×恋には無自覚な主人公 ※溺愛 ❀気ままに投稿 ❀ゆるゆる更新 ❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

処理中です...