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さよなら世界、こんにちは異世界

3.異世界で叫ぶ僕

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 そうだ!思い出した。エディは、10才にしてばあやと離されて悪役令息になるんだ。日頃、勉強も真面目にしないでいたずらばかりしていたエディ。ばあやの監督不行きで倒れたと見なされて、社交界デビューをする前に貴族教育が必要だろうと本館に住むこととなった。
 
 本館には業務をきっちりと行う執事とメイドばかりで、誰もエディには見向きもしない。食事はいつも広い食卓で一人で取り、お父様もお母様も近くにいる事に満足をして心を傾けてくれはしなかった。
 
 別館でばあやと住んでいたエディは、食事はいつもばあやが給仕をしてくれてマナーを教わりながら、他にメイドがいない時は内緒ですよと言って隣に座って一緒に食事をしていた。僕はそれが嬉しくて背の高い椅子に座って足をブラブラさせながら、にこにこしてばあやの事ばかり見て食べていた。

「ばあや、これなあに?おいちいね」「ばあや、ぼく、おにくきらいなの。かたくてくちゃいの」
「坊ちゃま、ばあやが小さく切りましょうね。お肉を食べると身体が大きくなって強くなるんですよ」
「とうちゃま、みたいにおおおきくなるの?」
「そうですよ。だから、頑張ってちょっとずつ食べましょうね。ほら、このソースをつけたら美味しくなりますよ」
「ぼく、ばあやとごはんたべるのだいしゅき。ぼくのそばにずっといてね」
「はい、ばあやは坊ちゃまが、もういいよと言うまでずっとお傍にいますよ」「やくそくだよ、ばあや」
「はい、坊ちゃま」

 だからなのか……。エディが何で悪役になってしまうのか分からなかった。

 僕も小さい頃から入院をしていたから、エディの孤独が痛いほどわかった。いつも目に入るのは白い天井と蛍光灯。チューブに繋がれた細い腕。誰もいない病室は、時計の音がやけに響いて聞こえるから電池を取って貰ったことがある。時間は長く、本だけが僕の友達だった。

 ばあやと離されたエディは、騎士団に入れば兄様達と一緒にいられると思って、本館に移り住むようになってから剣の鍛錬に精を出すようになった。けれど適性が無かったエディは、いくら鍛錬をしてもスキルは取得出来なかった。
 それでも諦めきれないエディは何度も傷つきながら立ち上がり、貴族院に入学してからも鍛錬を続けてやっと一番低いスキル兵士を取得した。嬉しくて近衛騎士団の兄様のところに報告に行くんだ。兄は苦笑いをしながら褒めてくれた。でも周りの冷ややかな態度に気付かなかったエディは聞いてしまう。

「公爵家の令息が兵士スキルだってよ。歩兵じゃあるまいし、未子は使えねえって評判は本当だったらしいな。副隊長も困ってたぞ。ハハハ……」

 それから、エディはどうしたんだっけ。今までの努力は無駄だったと思ったエディは、騎士団を目指すことをやめて荒んだ生き方をしていった。そして、凶悪盗賊団に拐かされ暴行されて、暴力によって従わされたエディは盗賊団の一員となった。そして、エディは、ある時ヘマをして投獄される。名前を変えて外見も変わり果てたエディを見て、公爵家の長兄のガディだけが気付いた。処刑まで、あと数刻。
 ガディがいくら騒ごうが誰もエディだと信じてくれず、もう処刑を止めることは出来なかった。そして、エディは最期に唯一気付いてくれた兄のガディに慟哭と呪いを掛けた。

「俺は兄様の為に頑張りたかった。褒められたかっただけなのに。兄様、助けてくれなくてありがとう」と─── 

 また、ガディもその呪いで己を責めて剣が持てなくなる。けれど、剣が持てないまま魔獣討伐に出陣して、第二王子ライデン様を庇って絶命。長兄ガディは第二王子ライデン様の側近であり、親友でもあった。ガディを亡くしたライデン様は徐々に闇にのまれていった……。

 うわーん!エディが見事なまでに、バッドエンドのきっかけになっていた。エディは身持ちを崩しただけだけど、その余波が王族にまでいくとは。

 うん?もしかして、今じゃない?今、ばあやが離れていくきっかけになるんじゃない!
 僕は、ゆっくりと考える間もなく。思いっきり息を吸い込んで叫んだんだ。

「ばあやを辞めさせないでぇぇぇぇぇ────!!」





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