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つづき
しおりを挟む例えるならそよ風の色。
雲と空の間の色。
だから葵はしなやかな青のイメージ。
「葵は、いつまでうちに居るの?」
あまりに自然に風に溶け込んでいるのを見ていると、消えてしまうのではないかとふと頭の中に過る。
「・・・分かんない」
「どこかに行っちゃうの?」
「どうだろうね。いつまでも居ていいなら・・・僕は居たいけど」
風がまた涼しくなったのを感じる。
「でも、ずっとじゃないんでしょ?」
さぁっと言って、下を向いて寂しそうに笑ったのを、私は見逃さなかった。
細く筋が通っている首に、長めの栗色の髪が重なる。
哀しそうな目をして、口元から出た言霊は、容易く宵の口に流されていった。
「綾女ちゃん、夜が濃くなってきたから帰ろう。もうすぐ森が海みたいになるよ」
横に並ぶ葵を、私は横目で見上げる。
細い首がやけに目立って見えた。
「うん、帰ろうか」
私たちは手を繋いで家に向かう。
葵の掌は暖かいけれど、二人の指の間を夜の沈黙が通って行った気がした。
「ずっと居て」と言えなかった私のところに、葵は留まっていてくれるのだろうか。
家に帰ってお風呂に浸かり、今日も同じベッドで横になる。
葵はまた何か口ずさんでいた。
「それ癖? 気付いたら葵って何か歌ってるよね、それで会話してるみたいに。なんか優しい金平糖の色してる。葵の歌うメロディーには、色んな色があるんだね」
幼い頃よく行っていた駄菓子屋さんに置いてある綺麗な瓶に入った、ピンクや黄色、オレンジに黄緑。
そして金平糖のように甘ったるいメロディー。
「ねぇ、今は何色だと思う?」
ふふんっと、嬉しそうに私を背中から優しく包む。
声はいつになく弾んでいた。
「そうだなぁ、私のお気に入りのマニキュアの色。夕日みたいなオレンジの中に、キラキラした星が入ってるの。そんな感じの色」
「そのマニキュア、綾女ちゃんが塗ったとこ見たいな。きっと細い指に映えるよ」
「ありがと。また今度ね」
そう答えて、電気を消して葵の腕の中に滑り込む。
葵は骨々しくも意外としっかりとした肩幅で、私の事を抱き枕のように抱えながら眠る。
毎日、こうしてお互いが眠りに就く。
私は葵の腕にすっぽりと収まり、葵は私の背中にお腹をぴったりと当てる。私にとって安心出来る時間だった。
「おやすみ」
温かい彼の命の音を聞きながら、また夜に沈んでいく。
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