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次の始まりの章

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数年後
「いやあ、いい風が吹いているな!大漁だ!」
「そりゃそうだろ!明日は戴冠式なんだ!」
「魚も新しい国王様が見たいんだろうな」
「いい肉だろ?戴冠式のお祝いにどうだい?」
「明日はお餅買っていこうかしら戴冠式だもの」
「明日はサービスでお餅一個追加だよ。なんたって」

『戴冠式だ!』





広い公園に1人の青年がやってきた。
白いシャツにゆったりとしたズボン。ラフな格好だが、緩くウェーブした金髪を後ろに纏め、エメラルドのような緑色の瞳。
端正な顔立ちや立ち振る舞いからは気品が漂う。

青年はベンチに腰掛けて、本を開いた。
青年は物語を読みはじめる。
まるで語りべとして・・・

「むかしむかし、とある国の王子さまは山火事で全てを失ってしまいました。
王子さまは悪魔に魅了されて
人を憎み、恨み、嫌うようになりました。
その王子さまは戦う事がとても上手でした。
学校で更に強い力を手にした王子さまは
みんなに怖がられて、もう【魔王】と呼ばれていました。
魔王は人間を滅ぼそうと海を荒らし、川を干上がらせ、竜巻を起こし、地震を起こすなど、いろいろな災害を起こしました。
困った神さまは、光と闇。太陽と月の力を2人の子どもたちに与えて未来を託しました」

いつのまにか2人の子どもが興味もったのか近づいてきていた。
その本は黒く、裏表紙は王冠を被ったネコ。表紙には太陽と月が描かれている。

「それから?」
「それからどうなるの?」
男の子と女の子が尋ねた。
「ふふっ。自分で書いてごらん。これからは君たちの物語だ」
青年はにっこりと笑い、本を閉じて渡してきました。


興味を持って少年が裏から開こうとすると、
「ソレイユ遅い!早く!」
「あっ!何すんだよ!」
「いいから、早く読もう!ってば!」
「あっ!」
少女が表に手を伸ばし、2人で取り合うと本が落ちてしまった。表から開き、風がページをめくる。しかし、表紙側の数ページしか文字は書かれていなかった。
「なによ~ほとんど何も書いてないじゃないの!ガッカリー」
「ったくレーヌはワガママなんだから!ごめんこの本貰っていいのか?あれ?あの人どこいったんだろう?」
さっきの青年がいなくなっていた。
「渡されてたし、くれるって事でしょう?貰っておけば?」
「・・・うん。そうだね!」
ソレイユがにっこり頷き、カバンにしまったところで、女性と男性が走ってきた。

女性は怒っている。
「ソレイユ!レーヌ!勝手に行くなって言っただろ!?」
「ごめんフォルス姉ちゃん」
「オルドルさん、ここが大陸で一番栄えてる国ですか?」
レーヌが男性に尋ねる。
「違う違う。ここは港の国だよ」
「すげぇ賑わいだな!なんか祭りでもあるのか?」
「明日は戴冠式だから当然さ」
「・・・たいかん、しき?」
ソレイユはわからないようだ。オルドルは簡単に説明する。
「王様が新しくなるんだよ」
「へーっどんな人だろうな?」
ソレイユは想像してみた。フォルスはにこやかに、オルドルは少し苦笑している。
「あったかくて頼りになる人だよ」
「見透かされるけど良いヤツだよ」
「2人とも知ってるの?」
ソレイユは少し驚く。
「学生時代の後輩なんだよ」
「俺にとっては先輩だな」
「へーっ学校の」
レーヌも楽しそうだ。
「勉強難しくて卒業出来ないと思ったよ」
「フォルス姉ちゃんならそうだ
ソレイユ?アンタは戴冠式見ないまま、ここで旅を終わりたいのかい!?」
「いだだっみ、見たいでふ」
失言したソレイユはフォルスにシメられる。怪力のフォルスには敵わない。
「うふふっ、楽しみね」
レーヌはにっこり笑った。



翌日、戴冠式が始まる。
開放されたお城でドキドキしながら待っていると
「マオ様のおなりー!!!!」
と門番の声が響いた。ソレイユは驚いた。
「魔王様!?!?・・・大丈夫なのか?」
ギロッ!!
「ヒッ!」
思わず大声を出してしまったソレイユは奥にいる数万人に睨まれた。
騎士団の人だけじゃなくて街の人にも睨まれたぞ?おっかね~!
ソレイユはオルドルに引っ張られる。
オルドルは小声で注意する。
「ここの新しい王様は愛されているからな。反逆でもしようものならこの港の国全員が敵になるぞ!」
「お、オルドル兄ちゃんも?」
「俺は副騎士団長だからな。当然だろ」
「もし、オルドルが引っ張らなかったら、町の人から袋叩きだね。勿論アタシも助けないよ」
「ヒェッ!」
フォルスの笑顔がからかった時の比じゃない。ソレイユは助けを求めるようにそっとレーヌを見るが
「いや、ソレイユが悪いでしょ?」
「・・・ごめんなさい」
一括されてしまった。



「子供か?不敬罪でツマミ出そうぜ!!」
「ならオレ案内するっスよ?アッチっす!」
「今の発言なら完璧に処理出来ますね」
騎士団長がはしゃぎ、目立ちたがりの隠密が乗り気になり、眼鏡の宰相が微笑む。
「ペイスト、ラル行かなくていい。フィックも落ち着け」
「よろしいんですか?マオさん」
「子供がからかえる王なんて平和そのものじゃないか。シェールも杖をしまえ」
メイド長は不満そうに杖をしまった。
「マオマオ!早く来てくれって!」
「わかった。リシン、大人しくしてろよ?」
「おう!」
コウモリのような小さい鳥は、彼の肩に乗って姿を消した。



王子さまはゆっくりと歩いてきた。
コツコツと歩く靴音だけが柔らかく聞こえる。
開放している城は街に着いた時の賑やかさを忘れたように静寂に包まれた。図書館とか、教会とか、精霊のいる湖みたいに、息をする事さえ無粋に思えてしまう。
王様の前で立ち止まると、顔を伏せて膝をつき、両手で器を作った。
前の王様がその両手に向かって手を伸ばし、指先を下にした。王様が柔らかく微笑むと、嵌めていた指輪は新しい王様の両手に落ちてきた。
新しい王様は落ちてきた指輪を嵌めた。
冠を被り、立ち上がってこちらに振り向く。
お辞儀をした瞬間凄い歓声が湧いた。

皆がこの光景を待っていたという事、王様が皆に愛されている事がわかった。まるで英雄が誕生したみたいだ。
新しい王様はキラキラと輝いていて、オレは、とても感動し、綺麗なものに憧れるように動けなくなってしまった。

「・・・ユ!・・・イユ!ソレイユ!」
「え、あ、何?どうしたんだレーヌ?」
「どうしたんだじゃないわよ!とっくに式は終わったのにボーっとして!」
「アタシは立ったまま寝てるのかと思ったよ」
「・・・」
フォルスがからかっても反応無しだ。オルドルが聞く。
「疲れたか?」
「違うよ!うん・・・何でもない」
ソレイユがふるふると首を横に振り、なんだか気持ちが一新した気がした。
レーヌも少し安心したようだ。
「ならいいわ」
「ごめん、行こうか!」
ソレイユは力強く歩き、旅を再開した。

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