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宰相の章
しおりを挟むここに残っているのは数人の女性と、老人くらいしかおらず、男性はお城で働いているそうだ。
圧政の為に住民が逃げ出すのを防ぎ、若い人を働かせて、子供達は人質・・・。
ここにいるのはおばさん、お爺さん、お婆さんだ。
「生活はギリギリやに」
「宰相も気の毒とは思うよ。あの噂が本当ならな」
「ちょっとやめーや!」
「前の王様は素敵やったやんか!」
「アタシやってそう思うし、アンタやってケイン様に王様になってほしかったやろ?」
「そりゃそうやけど・・・」
空気がまた重くなる。タブーの話だとわかる。
「あーごめんなぁ。みんなまだ納得してないんよ」
「いえ、ケイン様のお話は伺っています。教えて頂きたいです」
フィックが促し、みんなうなづく。
何か重要な情報が得られるかもしれないし、単純に興味もあった。
「・・・実はなぁ、宰相には息子がおって、その息子を王にしたかったんよ」
「せやけど、息子のシリウス様が行方不明になったんや」
「きっとシリウスさんは、本当の事を知ったんだろうね」
「そうでしょうね」
フォルスが仲間内でそっと囁き、フィックが頷く。
「でも、奥さんは相当こたえたみたいやに」
「奥さん?」
「宰相のべルーラには奥さんがおってな。何かなぁ、前の王様の亡くなったのも宰相が絡んどるみたいやし・・・」
「でも結局証拠は出てこーへんし、王位継承の指輪も何処にあるのかわからへんから、王様が不在のまんまで宰相が政治をしとるんよ」
「王位継承に指輪が必要なの?」
「はい。昔、王位が奪われた事があって、それ以来、指輪を付けた王様が王位を継ぐのに納得した相手が触れないと外れないんです」
フォルスが聞き、シェールが付け足す。この国の貴族だったので詳しい。
「へぇ、面白いですね。まじないの類でしょうか?」
「おそらくそうですわ」
フィックは興味を持ち、シェールが頷く。
「それに、奥さんは身体も弱かったし、その時に悪い噂が流れてなぁ・・・」
「悪い噂?」
フォルスが聞き返す。
「べルーラが王様殺して、奥さんが今になってそれを知ったんやないかって」
「止められへんかった自分を責めて、べルーラを拒絶したっていう噂なんよ」
「その奥さんは?」
シェールが心配そうに聞く。
「自害したんじゃないかって話やに」
「遺書があったんやって。べルーラが破り捨てたらしいけどなぁ」
「そのすぐ後やに。こんな風に圧政になったんは」
「べルーラだってここを良くしたいとは思っていると思うけどなぁ」
「なんでも、財政が上手くいってへんから税金上げてるって聞いたわ!」
「何やそれ!まずは見直して、家計簿付けて、節約して、そして旦那のお小遣い減らさんと!」
「それはアンタの家やろ!」
「あぁ!ホンマや!」
「あはははっ!」
みんな和やかに笑っているけど、それは過去の話。もう、その旦那さんは捕まっている。そういう話でもしないとやっていられないのだ。
フォルスは窓を背にして声を掛ける。
「ラル、聞いてたね?」
「・・・・・・」
「ラル?泣いてんのかい?」
「いや、あったかいっすね。オレ、あの時逃げたくなかったな・・・」
「・・・仕事が先だ。アタシたちは、ここを守る為に来てるんだよ」
「・・・わかってるッス。オレ、今の噂全部確かめてくるッス!」
「気をつけな」
「了解!すぐ戻るッス」
ラルは音をたてずにその場を離れた。
「フォルス?どうしたんですか?」
「ラルが此処にいたかったって。今は噂確かめに行ってるよ。戻ってきたら住民と会わせてやろうか」
「はい!気に入ってくれて嬉しいです」
一行はゆっくりしていきなと部屋に案内された。
「これからどうしましょうか?」
「早く何とかしてあげたいです・・・」
「一刻も早く動きたいよ!」
フィックは困り、シェールは同情し、フォルスは苛立ちを抑えている。
「明日にも革命が起きてもおかしくないッスよ」
「きゃ!」
「気配消して近づくんじゃないよ!ラル!」
「ごめんなさい。癖ッスよ」
「おかえり。かなり早かったじゃないですか」
「はい、フィック先輩。噂の内容がはっきりとわかってたッスからね」
「で、真相はどうでしたか?」
「・・・全部本当ッス」
「なるほど。火のない所には煙はたたないね」
フォルスはため息をつく。
「で、真実だと知ってどうしますか?」
「どうもしませんわ」
「そうだね。同情の余地はあるけど、既に手遅れなところまで来ちまってる」
フィックが改めて聞くと、間髪入れずにシェールが答え、フォルスも同調する。はじめから変わらない。何もしないなら国は滅びる。それは変わらない。自分たちは助ける為に来ているんだ。
「事情はわかったッスけど、それでもべルーラが見る夢は変わらないッスよね?」
「えぇ。夢は未来を見せます。べルーラも罪を持っている。その罪を改めて見せるだけです」
「大丈夫ですわ!」
ラルが疑問をぶつける。リシンの力が無ければ今回の作戦は難しい。フィックが答え、シェールも頷く。
「ならいいッス」
「では、日が沈んだら闇に紛れて城に忍び込みましょうか」
「革命については本当なんですか?」
フィックの提案に乗り、シェールは心配そうに聞く。
「はいッス。お城で捕まっている人と連絡を取り合っている人が協力してて、時を伺っている感じッス」
「急がないといけないね」
フォルスが言うと、みんなで顔を合わせて、頷いた。
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