上 下
32 / 37

宰相の章

しおりを挟む

ここに残っているのは数人の女性と、老人くらいしかおらず、男性はお城で働いているそうだ。
圧政の為に住民が逃げ出すのを防ぎ、若い人を働かせて、子供達は人質・・・。
ここにいるのはおばさん、お爺さん、お婆さんだ。

「生活はギリギリやに」
「宰相も気の毒とは思うよ。あの噂が本当ならな」
「ちょっとやめーや!」
「前の王様は素敵やったやんか!」
「アタシやってそう思うし、アンタやってケイン様に王様になってほしかったやろ?」
「そりゃそうやけど・・・」
空気がまた重くなる。タブーの話だとわかる。

「あーごめんなぁ。みんなまだ納得してないんよ」
「いえ、ケイン様のお話は伺っています。教えて頂きたいです」
フィックが促し、みんなうなづく。
何か重要な情報が得られるかもしれないし、単純に興味もあった。

「・・・実はなぁ、宰相には息子がおって、その息子を王にしたかったんよ」
「せやけど、息子のシリウス様が行方不明になったんや」

「きっとシリウスさんは、本当の事を知ったんだろうね」
「そうでしょうね」
フォルスが仲間内でそっと囁き、フィックが頷く。

「でも、奥さんは相当こたえたみたいやに」
「奥さん?」
「宰相のべルーラには奥さんがおってな。何かなぁ、前の王様の亡くなったのも宰相が絡んどるみたいやし・・・」
「でも結局証拠は出てこーへんし、王位継承の指輪も何処にあるのかわからへんから、王様が不在のまんまで宰相が政治をしとるんよ」
「王位継承に指輪が必要なの?」
「はい。昔、王位が奪われた事があって、それ以来、指輪を付けた王様が王位を継ぐのに納得した相手が触れないと外れないんです」
フォルスが聞き、シェールが付け足す。この国の貴族だったので詳しい。
「へぇ、面白いですね。まじないの類でしょうか?」
「おそらくそうですわ」
フィックは興味を持ち、シェールが頷く。
「それに、奥さんは身体も弱かったし、その時に悪い噂が流れてなぁ・・・」
「悪い噂?」
フォルスが聞き返す。
「べルーラが王様殺して、奥さんが今になってそれを知ったんやないかって」
「止められへんかった自分を責めて、べルーラを拒絶したっていう噂なんよ」
「その奥さんは?」
シェールが心配そうに聞く。
「自害したんじゃないかって話やに」
「遺書があったんやって。べルーラが破り捨てたらしいけどなぁ」
「そのすぐ後やに。こんな風に圧政になったんは」
「べルーラだってここを良くしたいとは思っていると思うけどなぁ」
「なんでも、財政が上手くいってへんから税金上げてるって聞いたわ!」
「何やそれ!まずは見直して、家計簿付けて、節約して、そして旦那のお小遣い減らさんと!」
「それはアンタの家やろ!」
「あぁ!ホンマや!」
「あはははっ!」
みんな和やかに笑っているけど、それは過去の話。もう、その旦那さんは捕まっている。そういう話でもしないとやっていられないのだ。

フォルスは窓を背にして声を掛ける。
「ラル、聞いてたね?」
「・・・・・・」
「ラル?泣いてんのかい?」
「いや、あったかいっすね。オレ、あの時逃げたくなかったな・・・」
「・・・仕事が先だ。アタシたちは、ここを守る為に来てるんだよ」
「・・・わかってるッス。オレ、今の噂全部確かめてくるッス!」
「気をつけな」
「了解!すぐ戻るッス」
ラルは音をたてずにその場を離れた。
「フォルス?どうしたんですか?」
「ラルが此処にいたかったって。今は噂確かめに行ってるよ。戻ってきたら住民と会わせてやろうか」
「はい!気に入ってくれて嬉しいです」



一行はゆっくりしていきなと部屋に案内された。
「これからどうしましょうか?」
「早く何とかしてあげたいです・・・」
「一刻も早く動きたいよ!」
フィックは困り、シェールは同情し、フォルスは苛立ちを抑えている。
「明日にも革命が起きてもおかしくないッスよ」
「きゃ!」
「気配消して近づくんじゃないよ!ラル!」
「ごめんなさい。癖ッスよ」
「おかえり。かなり早かったじゃないですか」
「はい、フィック先輩。噂の内容がはっきりとわかってたッスからね」
「で、真相はどうでしたか?」
「・・・全部本当ッス」
「なるほど。火のない所には煙はたたないね」
フォルスはため息をつく。

「で、真実だと知ってどうしますか?」
「どうもしませんわ」
「そうだね。同情の余地はあるけど、既に手遅れなところまで来ちまってる」
フィックが改めて聞くと、間髪入れずにシェールが答え、フォルスも同調する。はじめから変わらない。何もしないなら国は滅びる。それは変わらない。自分たちは助ける為に来ているんだ。

「事情はわかったッスけど、それでもべルーラが見る夢は変わらないッスよね?」
「えぇ。夢は未来を見せます。べルーラも罪を持っている。その罪を改めて見せるだけです」
「大丈夫ですわ!」
ラルが疑問をぶつける。リシンの力が無ければ今回の作戦は難しい。フィックが答え、シェールも頷く。
「ならいいッス」
「では、日が沈んだら闇に紛れて城に忍び込みましょうか」
「革命については本当なんですか?」
フィックの提案に乗り、シェールは心配そうに聞く。
「はいッス。お城で捕まっている人と連絡を取り合っている人が協力してて、時を伺っている感じッス」
「急がないといけないね」
フォルスが言うと、みんなで顔を合わせて、頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...