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卒業の章

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卒業式はなんとか終わらせたみたい。
あの後すぐ、倒れた先生にオルドルとラルが駆け寄って、眠らせる魔法をかけてくれて、誤魔化してくれていたそうだ。そのおかげで、笑いになって和やかになったんだって。
一言知らせてくれたらいいのにって、教室に戻る前、図書室に来たオルドルにもラルにも怒られた。

「全く考えが無い人ですね!学校中大混乱の大乱闘ですよ!」
「え?どういう事?」
「式はたしかになんとか終わらせたッスけど、その間もざわざわしてたんスよ」
「この学校がこれからどうなるのか、進級出来なかった在校生の中にも兄さんみたいな人は山ほどいます。卒業や進級が出来るのか出来ないのかと論争が止まらなくて・・・」
「卒業生の中にも不満が爆発したんスよ!卒業証書を奪ってさっさと出て行く人とか、卒業証書の奪い合いにまで進展したんスよ!!」
「楽しそうに言うな!しかも、お前も卒業証書の奪い合いに参加してたろ!?無理に決まってるだろ!何考えてるんだ!!あちこち怪我して!」

「オレ、こんなにワクワクしたのはじめてなんすよ!
一体いつから言ってやろうと思ってたんすか!?やっぱりマオ様は凄いっす!学校中巻き込んじまうんすから!」

「うん、ごめんね」
涙を見られたくなくて、ラルに抱きついてしまった。ゲームで裏切った時に言ってたんだ。

「オレ、仲間だなんて思ったことないっスよ?
え?ずっとそう思ってたんスか!?おめでたいっスねー。人類みな兄弟ってか?」

直ぐに帰らなくて良かったと心から感じた。ラルの身体中につけられた傷も包み込むように優しく抱きしめた。
「ま、マオ様?もう怒ってないっスよ?」
ラルは照れ臭そうに嫌がっていたけど、私を離そうとはしなかった。


オルドルとラルが戻ってしばらくたった頃、担任の先生が図書室に入ってきた。ほっといて先に教室に行くと思っていたけど、こんな事になったからかな?
でも、先生はぼろぼろになりながらもどうしてこうなったのかは覚えていないみたいだ。私は読んでいた本を閉じる。
「マオ君、私はいったい?」
どうやら記憶もなくしてしまったみたいだ。怒られる覚悟してたのに、どうしようやりすぎたかな?
「はぁ・・・」
「ため息!?ええと、えと・・・」
「君はもういい。他の先生方と一緒に生徒を止めてきなさい」
「校長・・・はい・・・」

担任の先生はオドオドしながら出て行き、代わりに校長が前に出た。
最初に見た時とは違った威厳を感じる佇まいだった。かなりご立腹らしい。ま、そりゃそうか式をぶち壊しにしちゃったんだし。
「随分と派手に暴れてくれたね?」
「僕は学校への不満を訴えただけですよ」
冷静に言い放つ。私は鐘を鳴らしただけ。みんなが動いたのは個人の意志でしかない。
「君はこの学校では有名人だ。魔剣士で、成績もいい。人望も人気もある。そんな君が火を付けたんだ!賢い君の事だ。こうなる事はわかっていたのではないかい?」
「確かに話を聞いて驚きました。でも、元々不満が無かったなら、人気者の生徒が不満暴露した!驚いた~で終わり。みんな教室に戻っているはずですよ?多少騒ぎになるとは思ってましたが、まさかここまで大きくなるのは予想外でした。学校側には責任が無いと思いますか?」
「そうだな。私も学校の品格とイメージを守るのに必死だった。・・・君は、この学校が嫌いかい?」
「はい。ずっと嫌いでした」
「入学する前からかい?」
「そうですね。入学して、もっと嫌いになりました」
「そうか・・・」
「この学校は選ばれたものだけが学べる学校。だからって、喚いて退学とかして出て行ったって何も変わらない。説得力なさすぎる!だから、卒業式まで待ってました」
「頼りになる先生はいなかったのかい?」
「先生は、最初から僕の力を伸ばす事しか考えてなかった。でも、僕は強すぎる力が怖くて、制御を知りたくて友達を頼ったけど、その事をたくさんの先生に咎められたりしてた。だから、先生に話しても意味がない!
聞いてくれる環境がまるでない!!落ちたら落ちたで知らない顔をして通りすぎる!!」
抱えていた悩みが後から後から溢れてくる。自分でもここまで悩んでたのかと思ってしまった。目が潤む。この事で泣くまいと思っていたからこそ、決壊するのを止められなかった。転生してから涙脆くなっているのかな?リシンが肩から寄り添ってくれるのが救いだ。

「そうか・・・」
「だから僕は、ずっと我慢してこの日を待ってました。ずっと不満を、声を大にして言いたかった・・・」
「入る前から嫌いだったのに入ってくれたのは何故だ?」
「本来行くべき場所で学びたかったから。会うべき人達に会って、友情を深めたくて入りました。最初は、さっさと退学しようと思ってたんだけど、システムを変えたくて、卒業まで我慢してました・・・」

ペイストは、ゲームなら学校を退学して、一般募集から僅かに受かる門を叩き、実力だけで騎士団長にまでなった。そして、大人になってもペイストは魔法の防御をしなかった。いや、覚えられなかったから出来なかったんだろう。
ペイストみたいな人はたくさんいるんだろう。フォルスも実は5年通ってた。
そして、ラルは・・・

「そうか。ありがとうマオ君。この学校の方針を改めて考えてみるよ」
「いえ、生意気ばかり言ってすみません。逆境に強く、バランスの良い人ならこのシステムでも大丈夫だと思います。例えば、心理カウンセリングみたいな人のいる保健室を作るとか、定期的に個別にアドバイスをするとか、悩みを聞く手紙みたいなのがあったら・・・」
「マオ君、この学校に残って教師にならんか?」
「え?」
「校長!?」
一緒に来て見守っていた数人の先生たちがざわつく。喜んでいる人に困惑している人、嫌そうにしている人もいる。隠れていたけど気配で気づいていた。
半分程の先生が集まっているようだ。もう半分は騒動を止めているんだろう。

「この学園には長い歴史がある。しかし、長いからこそ前例がないやり方を皆、私も含めて考えようとしなかった。時代は変わるが、私達は変われない。変わる事を恐れて口にしない。不満があっても口に出来ず、こういうものだと諦めてしまう。私は新しい風が欲しいんだ」
「せっかくですが、お断りします。僕は故郷に帰って、故郷を盛り上げていきたいんです」
「そうか。惜しいな。気が変わったらいつでも来てくれて構わないよ」
「それは無いと思います。でも、相談には来るかもしれません。それと、図書室の本は凄く参考になりました」
「君は、それが目当てだったのかい?」
「はい。学校の人間だけが自由に観ることができますから。忍び込むのも考えたけど、何日もバレないとは限らないし。自由に入る事が出来ていれば入学はかなり考えたと思います」
「ははは!そうか。どんな図書館よりもこの学校の図書室の方が本が多いのが自慢だからな。改めてマオ君、卒業おめでとう」
校長は卒業証書を入れておく筒と、ホルダーをくれた。
「ありがとうございます」




騒動の場に顔を出して、先生が聴いてくれた。今後の参考にすると約束してくれたというと、事態は大分穏やかになり、先生に対して卒業生は不満を、在校生は要望を言い合い、先生も助けてあげたかったと声が出たり、私もこうしたらと提案に参加すると騒ぎは収まった。

でも、私は自分の影響力が恐くなった。発言とか行動には気をつけよう。
魔王のカリスマ性が強すぎるのも問題だ。
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