18 / 37
卒業の章
しおりを挟む卒業式はなんとか終わらせたみたい。
あの後すぐ、倒れた先生にオルドルとラルが駆け寄って、眠らせる魔法をかけてくれて、誤魔化してくれていたそうだ。そのおかげで、笑いになって和やかになったんだって。
一言知らせてくれたらいいのにって、教室に戻る前、図書室に来たオルドルにもラルにも怒られた。
「全く考えが無い人ですね!学校中大混乱の大乱闘ですよ!」
「え?どういう事?」
「式はたしかになんとか終わらせたッスけど、その間もざわざわしてたんスよ」
「この学校がこれからどうなるのか、進級出来なかった在校生の中にも兄さんみたいな人は山ほどいます。卒業や進級が出来るのか出来ないのかと論争が止まらなくて・・・」
「卒業生の中にも不満が爆発したんスよ!卒業証書を奪ってさっさと出て行く人とか、卒業証書の奪い合いにまで進展したんスよ!!」
「楽しそうに言うな!しかも、お前も卒業証書の奪い合いに参加してたろ!?無理に決まってるだろ!何考えてるんだ!!あちこち怪我して!」
「オレ、こんなにワクワクしたのはじめてなんすよ!
一体いつから言ってやろうと思ってたんすか!?やっぱりマオ様は凄いっす!学校中巻き込んじまうんすから!」
「うん、ごめんね」
涙を見られたくなくて、ラルに抱きついてしまった。ゲームで裏切った時に言ってたんだ。
「オレ、仲間だなんて思ったことないっスよ?
え?ずっとそう思ってたんスか!?おめでたいっスねー。人類みな兄弟ってか?」
直ぐに帰らなくて良かったと心から感じた。ラルの身体中につけられた傷も包み込むように優しく抱きしめた。
「ま、マオ様?もう怒ってないっスよ?」
ラルは照れ臭そうに嫌がっていたけど、私を離そうとはしなかった。
オルドルとラルが戻ってしばらくたった頃、担任の先生が図書室に入ってきた。ほっといて先に教室に行くと思っていたけど、こんな事になったからかな?
でも、先生はぼろぼろになりながらもどうしてこうなったのかは覚えていないみたいだ。私は読んでいた本を閉じる。
「マオ君、私はいったい?」
どうやら記憶もなくしてしまったみたいだ。怒られる覚悟してたのに、どうしようやりすぎたかな?
「はぁ・・・」
「ため息!?ええと、えと・・・」
「君はもういい。他の先生方と一緒に生徒を止めてきなさい」
「校長・・・はい・・・」
担任の先生はオドオドしながら出て行き、代わりに校長が前に出た。
最初に見た時とは違った威厳を感じる佇まいだった。かなりご立腹らしい。ま、そりゃそうか式をぶち壊しにしちゃったんだし。
「随分と派手に暴れてくれたね?」
「僕は学校への不満を訴えただけですよ」
冷静に言い放つ。私は鐘を鳴らしただけ。みんなが動いたのは個人の意志でしかない。
「君はこの学校では有名人だ。魔剣士で、成績もいい。人望も人気もある。そんな君が火を付けたんだ!賢い君の事だ。こうなる事はわかっていたのではないかい?」
「確かに話を聞いて驚きました。でも、元々不満が無かったなら、人気者の生徒が不満暴露した!驚いた~で終わり。みんな教室に戻っているはずですよ?多少騒ぎになるとは思ってましたが、まさかここまで大きくなるのは予想外でした。学校側には責任が無いと思いますか?」
「そうだな。私も学校の品格とイメージを守るのに必死だった。・・・君は、この学校が嫌いかい?」
「はい。ずっと嫌いでした」
「入学する前からかい?」
「そうですね。入学して、もっと嫌いになりました」
「そうか・・・」
「この学校は選ばれたものだけが学べる学校。だからって、喚いて退学とかして出て行ったって何も変わらない。説得力なさすぎる!だから、卒業式まで待ってました」
「頼りになる先生はいなかったのかい?」
「先生は、最初から僕の力を伸ばす事しか考えてなかった。でも、僕は強すぎる力が怖くて、制御を知りたくて友達を頼ったけど、その事をたくさんの先生に咎められたりしてた。だから、先生に話しても意味がない!
聞いてくれる環境がまるでない!!落ちたら落ちたで知らない顔をして通りすぎる!!」
抱えていた悩みが後から後から溢れてくる。自分でもここまで悩んでたのかと思ってしまった。目が潤む。この事で泣くまいと思っていたからこそ、決壊するのを止められなかった。転生してから涙脆くなっているのかな?リシンが肩から寄り添ってくれるのが救いだ。
「そうか・・・」
「だから僕は、ずっと我慢してこの日を待ってました。ずっと不満を、声を大にして言いたかった・・・」
「入る前から嫌いだったのに入ってくれたのは何故だ?」
「本来行くべき場所で学びたかったから。会うべき人達に会って、友情を深めたくて入りました。最初は、さっさと退学しようと思ってたんだけど、システムを変えたくて、卒業まで我慢してました・・・」
ペイストは、ゲームなら学校を退学して、一般募集から僅かに受かる門を叩き、実力だけで騎士団長にまでなった。そして、大人になってもペイストは魔法の防御をしなかった。いや、覚えられなかったから出来なかったんだろう。
ペイストみたいな人はたくさんいるんだろう。フォルスも実は5年通ってた。
そして、ラルは・・・
「そうか。ありがとうマオ君。この学校の方針を改めて考えてみるよ」
「いえ、生意気ばかり言ってすみません。逆境に強く、バランスの良い人ならこのシステムでも大丈夫だと思います。例えば、心理カウンセリングみたいな人のいる保健室を作るとか、定期的に個別にアドバイスをするとか、悩みを聞く手紙みたいなのがあったら・・・」
「マオ君、この学校に残って教師にならんか?」
「え?」
「校長!?」
一緒に来て見守っていた数人の先生たちがざわつく。喜んでいる人に困惑している人、嫌そうにしている人もいる。隠れていたけど気配で気づいていた。
半分程の先生が集まっているようだ。もう半分は騒動を止めているんだろう。
「この学園には長い歴史がある。しかし、長いからこそ前例がないやり方を皆、私も含めて考えようとしなかった。時代は変わるが、私達は変われない。変わる事を恐れて口にしない。不満があっても口に出来ず、こういうものだと諦めてしまう。私は新しい風が欲しいんだ」
「せっかくですが、お断りします。僕は故郷に帰って、故郷を盛り上げていきたいんです」
「そうか。惜しいな。気が変わったらいつでも来てくれて構わないよ」
「それは無いと思います。でも、相談には来るかもしれません。それと、図書室の本は凄く参考になりました」
「君は、それが目当てだったのかい?」
「はい。学校の人間だけが自由に観ることができますから。忍び込むのも考えたけど、何日もバレないとは限らないし。自由に入る事が出来ていれば入学はかなり考えたと思います」
「ははは!そうか。どんな図書館よりもこの学校の図書室の方が本が多いのが自慢だからな。改めてマオ君、卒業おめでとう」
校長は卒業証書を入れておく筒と、ホルダーをくれた。
「ありがとうございます」
騒動の場に顔を出して、先生が聴いてくれた。今後の参考にすると約束してくれたというと、事態は大分穏やかになり、先生に対して卒業生は不満を、在校生は要望を言い合い、先生も助けてあげたかったと声が出たり、私もこうしたらと提案に参加すると騒ぎは収まった。
でも、私は自分の影響力が恐くなった。発言とか行動には気をつけよう。
魔王のカリスマ性が強すぎるのも問題だ。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!
杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!!
※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。
※タイトル変更しました。3/31
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる