上 下
1 / 37

始まりの章

しおりを挟む

魔王とは、悪魔や魔物の王様。

こういったファンタジーの世界では、人間に害を与える種族・勢力の頂点に君臨する。勧善懲悪をテーマにした作品では倒されるべき悪の象徴として登場し、ラスボスになる事が多い。
Wikipediaより抜粋。



そう。多くの魔王は倒すべくして作り上げられ、倒される為にこそ存在する。

が・・・





「あーもう無理だよ!」
真央はそう言いながら、脳内でコントローラーを放り投げた。
実際には壊しでもしたら本当にクリア出来ないのでゲーセンでとったクッションに押し込むだけにとどめる。

幾度となく見たゲームオーバーを知らせる画面がスタート画面に変わり、宇宙をバックにして黒い表紙の太陽と月の描かれた古びた本がくるくると回っている。スタートを押すと、表紙のページが開かれてゲームが始められる。

幾度となく見たその画面を無視してそのまま寝転がり、不貞腐れる。真央の黒いボブも床に寝転ぶ。ついでに黒い瞳も休めるように閉じる。梅雨明けの夜でも暑い。扇風機を下に向ける。
部屋にエアコンはあるが、昼間しか使わないようにとリモコンを取り上げられている。

「真央!静かにしなさい!宿題は終わったの!?」
真央の母がドアを開けて寝転がっている真央を上から覗き込む。
夕飯を終えるなり、2階に戻りまたゲームに齧り付く娘を心配している。この年頃なら話題のドラマやアニメに夢中になる頃だ。
「残念。宿題はありませんよ~!」
「ならお風呂入りなさい」
「んー。後で~」
生返事を返してケータイをいじる。

「ケータイ触るならゲーム消しなさい」
と母親は言うが、
「倒す方法調べてみるの」
と言いながら眼鏡を直す。困った時の真央のクセだ。
「あらそう。ちゃんと消しなさいよ?」
真央が普段から興味がある事にしか眼に見えない事を知っている。その集中力は凄いモノなので、母親としてはスポーツや勉強に集中してほしいと思いながら黒と青がベースのボーイッシュな部屋を見回す。柄はチェックやストライプなど。
真央の洋服もボーイッシュな物がほとんどだ。
唯一の可愛らしさは飾られているゲームのぬいぐるみで、ヨッツィーやカーブィ、テカチュウなど。真央がゲーセンでとったり、一番くじで当てたり、友達から貰ったものである。

母親は可愛さとは少し離れたゲームでいっぱいの部屋を出てため息をついた。


真央はゲーマーだ。凝り性で、地味に戦う耐久も好きで、プレイ動画をネットにアップする事も少なくない。
普段は自分でゲームをプレイしながら地図を描いたり、どう戦うか追求する事が多いので、ある程度予想ができる。
しかし今回は、いろいろな方法を試すもことごとく失敗。レベルが低い訳でもない。こんな事は初めてだった。


真央が今クリア出来ないゲームはよくあるファンタジー物のRPG イノセント ワールド。
普通の村で平和に暮らしていた主人公に災害が降りかかり、故郷を失い、村を出る。
頻繁に起きるようになる災害は、旅をして行く中で原因は全て魔王であるラスボスによるモノだった事を知り、魔王を倒す為に仲間を増やし、ラスボスを倒す事で世界を救う。という王道なストーリーだ。

倒せない魔王について検索すると、マイナーなゲームだからかタイトルがヒットしなかった。魔王の名前もわからない。
やっと名前を見つけたと思ったらゲームで語られていない過去ばかりで、倒し方は出てこない。
友人に電話してみるとマイナーなゲームでもヒットしないはずないと、信じてもらえないし、そんな過去は無いと言われてしまう。

真央は納得出来ないと、色々な所で色々な検索の方法で調べまくった。





「真央!起きなさい!遅刻するわよ!」
母親の声で飛び起きる。服もそのままで、お風呂も忘れて調べまくっていたらしい。
お陰で過去はほとんど覚えてしまった。
少し汗をかいていたらしい。身体がじんわりしている。そろそろエアコンの使用を願いでるべきだろう。

何故か眼鏡だけはテレビ台の上にあった。
着けたままだった扇風機を止めるが、何処か違和感を感じた。
ゲームはロード画面のままだったので、テレビの電源だけ消しておく。

真央は気づかなかったが、扇風機は逆に回り、ロード画面は真っ黒な裏表紙から開いていた。



大急ぎで服を着替えて顔を洗い、ゼリー飲料を片手に家を飛び出した。

駅まであと少しのところで踏み切りが落ち、電車が来てしまった。
友人が真央が乗らなくてはいけない電車に乗るのが見える。駅に階段なども無い田舎なので、ここを渡り、改札を通れば電車に間に合う。
しかし、真央は以前にも何度かココで諦めて遅刻し、先生に目をつけられている。

仕方ない。今回だけだから!
踏み切りが閉まって、カンカンと音が鳴り響く中、真央は潜り抜けようとした。
ココで止まってから発進する電車だ。誰かの静止する声を無視して走り出したが、もう少しのところで真央の意識は飛んだ。


いつのまにか自分は倒れていて、身体中が痛い。友人が泣き叫ぶ声と救急車の音が聞こえていたが、眠気に襲われて真央は目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生したら悪役令嬢じゃなくイケメン達に囲まれちゃいましたっ!!

杏仁豆腐
恋愛
17歳の女子高生が交通事故で即死。その後女神に天国か地獄か、それとも異世界に転生するかの選択肢を与えられたので、異世界を選択したら……イケメンだらけの世界に来ちゃいました。それも私って悪役令嬢!? いやそれはバッドエンドになるから勘弁してほしいわっ! 逆ハーレム生活をエンジョイしたいのっ!! ※不定期更新で申し訳ないです。順調に進めばアップしていく予定です。設定めちゃめちゃかもしれません……本当に御免なさい。とにかく考え付いたお話を書いていくつもりです。宜しくお願い致します。 ※タイトル変更しました。3/31

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...