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1月 2
しおりを挟む家の中は、自分の記憶と全く変わっていない。
「父さん、再婚もしてないのか?」
「父さんが好きなのは母さんだけだよ」
「そっか・・・ごめん!」
アスターは勢いよく頭を下げた。父親は不思議そうにしているが、アスターは顔を上げない。
「何を謝ってる?」
「母さんが死んだの、オレの能力があったからだろ?」
ずっとずっと謝りたかった。それで父さんが怯えてしまったから・・・
「お前のせいじゃないよ」
「でも・・・」
「それに、赤ちゃんのお前が能力を望んで母さんを恨んで殺した訳じゃないだろ?」
「それは!」
アスターは勢いよく顔を上げると、父親は優しく微笑んでいた。
「それに!10年前のあの時、俺はお前に命を救われてるんだぞ?」
「・・・・・・!」
「ありがとうな、アスター」
「・・・父さんはオレが怖くないの?」
「あぁ、怖くない。ただ、大変な業を背負った息子を俺は守れるのか自信がなくなったんだ」
アスターは呟くように伝える。最後の強がりだ。
「・・・オレは守られる存在じゃない」
「あぁ、そうだ。あの時だって、俺一人でお前を守っていたんじゃない。お前自身も、地域の人も、幼稚園のみんなも、みんなでお前を守っていたんだよな。・・・お前も、守りたい子が出来たらいいな」
イタズラっぽく笑った父親の笑顔から、アスターは脳内に彼女が浮かび、照れ隠しの為に話を反らした。
「・・・が、学校に来たらちゃんとオレを探せ!」
「あははっ!わかったよ。また休みに帰っておいで。・・・あと、あの娘連れてきてほしい!もっと仲良くなりたい!」
「・・・ちなみにどんな奴?聞くだけ聞くわ」
「えっとな~」
父親は思いだしながら楽しそうに話し出した。
お正月過ぎの登校日。実家や施設で過ごし、戻ってきた人も多い。
「おはよう~!」
「おめでとう!」
「明けましておめでとう~」
「今年もよろしく~」
そんな挨拶が飛び交う。
ルピナスはアスターを見つけて走り寄った。
「あ、アスター君。年末はごめんね」
「も、もぅ、平気か?」
「うん、大丈夫!」
「・・・・・・・・・・・・」
「ね、どうかしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
目が合わない。普段おしゃべりな方なのに、口数も少ない。明らかに変だ。
「アスター君ってば!」
「・・・・・・!」
少し強めに腕を引っ張り、無理矢理目を合わすとアスターは真っ赤だった。
「お前は・・・マジで・・・!毎日帽子かぶって登校しろ!!」
アスターはそれだけ言うと逃げ去るように走って当校していった。
「・・・ぼ、帽子?」
ルピナスには何がなんだかわからない。
その頃、寮のアスターの部屋には、少し古びたカメラで撮ったであろう写真が部屋の壁のボードに飾られていた。
幼稚園くらいから、最近のだと、アリスをお姫様抱っこした劇の写真だ。
始業の前、クラス最速の足でかなり早く教室に着いたアスターは、ボタンとすれ違い、振り替えって聞いた。
「ボタン、何かいつもと違う香りだな?」
「は、はい!クリスマスに香水もらったので」
「ふ~ん、爽やかな香り・・・誰かと同じ・・・?」
「あ、あの!わたくし用があるので!!」
「あぁ、悪いな引き止めて」
「い、いえ!」
あ、あれ?
2人はそのまますれ違って歩く。
アスターは教室へ、ボタンは日直らしく、花瓶の水を代えようと廊下に出てきた。
教室の前で一部始終を聞いたルピナスは違和感を感じた。
ルピナスが教室に入るとアスターは
「あ、この香り、正月につけてたやつか?何の香りだ?」
アスターはいつものように近づいて、ルピナスの手を取り臭いを嗅ぐ。やはり何時もと変わらない?
「ラ、ラベンダーとカモミールだよ・・・」
「ルピナスさん眠りが浅いんですか?」
戻ってきたボタンが心配そうに聞く。
「え?何でだ・・・?」
「ラベンダーは眠りをさそう香りですから・・・」
アスターがキョトンとすると、ボタンが少し言いにくそうに説明する。
「うん。実はちょっと悩みが・・・」
「何だ!?」
ルピナスは頷き、アスターが心配そうに前のめりになるが、ルピナスは俯く。
「うん・・・ごめん、言えない」
「そっか・・・」
言えなくてごめんなさい!でも、悩んでいるのはあなたの事です!なんて言えないよ!
「ボ、ボタンちゃんちょっと来て!」
「え?はい!」
「・・・は!?おい!!」
ボタンは花瓶を置き、ルピナスはそんなボタンの手をとって教室の外へ誘う。
アスターの驚いた声に後ろ髪を引かれながらもルピナスはボタンを連れ出した。
西側の階段の2階と3階を繋ぐ踊り場なら、寮から登校してくるみんなの邪魔にならないだろう。
「あのね、かくかくしかじかで・・・」
ルピナスは年末の帰省時のアスターがルピナスの母親への事の顛末をボタンに相談してみた。
「なるほど。ですが、それは杞憂だと思います」
ボタンはきっぱりと否定した。
「そうかな・・・?」
「はい、私、先ほど同じような話をしていました」
「・・・うん、聞いてた」
ルピナスはコクンと頷く。ボタンは微笑みながら続ける。
「なら話は早いです。アスターさんは私にそれは何の香りかも聞いてきませんでしたよ?」
「じゃあ、どうしてお母さんに・・・」
ルピナスはまだ不安だが、ボタンは動じない。
アスターとの付き合いはボタンが小学校低学年で入学した頃から知っている。引きこもりだったボタンだが、10年近くもクラスメイトで寮で過ごしてるなら、ある程度理解できるものだ。
「ふふっ!アスターさんの事ですから、本当に会った誰かと勘違いしているのかもしれませんよ?」
「そうかな?」
「その時のご本人はどうでしたか?」
ルピナスは思いだしながら言葉を紡ぐ。
「えっと・・・不思議そうにしてた、かな・・・?」
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