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10月 5

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「相談して良かったよ。頼りになるよね!」
きょとんとしていたアスターはバッと下を向く。珍しく小さな声で呟く。
「もっかい・・・」
「ん?」
「もっかい言って・・・」
下を向きながらも指先で1を出したアスターにルピナスは不思議に思いながらも、本当に思っているので口にする。
「私、アスター君の事、頼りにしてるよ?」
「ヤバ、すげー嬉しい・・・。ごめん、後でいくらでも文句聞くから、ちょっとこうさして」
アスターが顔をあげたと思ったら真っ赤な顔と強い赤い瞳をしていてルピナスは初めて見た顔に少しドキリとした。
「ちょっ!!アス・・・!」
がばりと抱きつかれてルピナスは高鳴る鼓動を誤魔化すようにアスターの頭を撫でる。
「あ・・・ほ、ホントに耳とかフワフワだ~かわい
「お、男に可愛いって言うな!」
棒読みだが濡れた犬みたいに頭をぶんぶん回して振り払い、まだ捕まってはいるが、離してはくれた。
ルピナスは何とか誤魔化す。
「・・・い、衣装だよ?」
「あ、衣装な・・・。でも、あんま言うな」
「う、うん」
か、顔が熱い・・・!
「ん?なんだ?いい香りがする・・・」
「あ、また手?」
ルピナスが慣れたように手のひらを出して、アスターは鼻を近づける。
「違うかも・・・」
アスターは手を引き、首元に鼻を近づける。
「ちょっ!!やめっ!くすぐったいっ!」
「クンクン・・・クンクン・・・あ、髪だ。これ、うまそうな匂い」
「し、試供品でオレンジの香りのシャンプー貰ったの」
「クンクン・・・手は?」
「て、手はゴールデンポピー」
「クンクン・・・こっちは甘い・・・オレは付けないけど・・・嗅いでた・・・」
肩に頭を置かれてルピナスは動けなくなる。パニックになりながら背中をパシパシ叩く。
「あ、あ、アスター君!?・・・眠いの?コーヒー貰ってこようか!?それとも寝に行く!?」
「ん~・・・」
効果はまるで無い。




ナズナは拳を握り締め氷のような笑顔で聞く。
「・・・シャクヤク、出来ているかい?」
「勿論じゃ。しかし、本当に使うんじゃな?転じても知らんぞ?」
「ありがとう!じゃあな!」
転じて?意味がわからない!まぁ、いい、この状況をなんとか出来るのならば・・・!
そういえばシャクヤクは黒いローブを羽織って服がわからなかったな。魔法使いか?
「ふふっ!さてはて、どうなるかのぅ?」
シャクヤクはローブの袖を持ち、微笑む口元を隠す。裾から刃物のような物がチラリと見えた。



ナズナはアスターの肩を掴んでルピナスから剥がし、なんとか壁の隅に寄せて座らせる。そして包みを渡した。
「はい、これをあげるよ、そこにあったチョコレート。コーヒーの味だよ?」
ナズナは瓶の形のチョコレートをあげた。
「・・・なずな?さんきゅ~あむっ。おっ!うまいシロップ入ってる」
「ん?どんなの?」
「はい、これはちみつチョコだよ」
鳥の形をしたチョコレートだ。
「ぱく。うん、美味しい」
しかし、ルピナスはアスターのチョコレートの包みを見て驚く。ナズナも気づく。
「待ってこの匂い・・・アスター君のはチョコレートボンボン!?」
「あれ?先生の机のと混ざっちゃったのかな!?」
アスターはぼーっとした頭で聞く。
「なんだ?それ?」
ナズナは罰が悪そうに、ルピナスは心配して覗き込む。
「えっと・・・お酒の入ったチョコだね」
「アスター君大丈夫?」
「大丈夫だって!なんともない」
「そう?」
まぁ、ほんの少しだったし、極端に弱い人じゃない限り大丈夫か。酷い人は料理酒だけでも酔うと聞くが、寮のキッチンを管理しているカエデ君がそういう事をしているのは見たことがないし・・・
なんてルピナスが考えていると。
「何か、旨そうだな・・・。お前の食いたい・・・」
「え?」
アスターは少し焦点が合っていない眼をしながら手を伸ばす。ナズナは嫌な予感がしたが、ルピナスは食いしん坊なアスターのいつもの事だと思って見下ろし、少しからかう。
「ふふっ!クッキー?なら、トリックオアトリートでしょ?」
「お菓子くれなきゃイタズラ・・・」
「そう!」
「・・・・・・」
「アスター君?」
反応が無くて心配したルピナスはしゃがむ。ナズナは嫌な予感がしてきた。
「る、ルピナス水を取りに
アスターは伸ばした手でルピナスの頭を引き寄せて耳元で囁く。
「早く、食わせろ・・・」
「ち、ちょっとちょっと!?アスター君!!」
何で耳元で囁いたの!?何で今日はこんな引き寄せるの!?ど、ドキドキしちゃうんだけど!!
「いただきます・・・」
「ち、ちゃんとあげるから!おすわり!」
既にアスターは座っているのにおすわりを命じるルピナスもパニックだ。
「もう、限界・・・」
アスターはルピナスにズルリと倒れこんで、膝の上に頭を乗せた状態で安定した。完全に膝枕状態だ。
「ち、ちょっとアスター君!?な、何してるの!?」
アスターはゴロリと頭を上にした。
「ふせ~!」
「・・・って酔ってるの!?」
楽しそうに報告してきてちょっと可愛いと思ってしまったけど、あんな少しのアルコールで酔う!?
「ん~ご褒美まだか~?」
アスターは両手を回してきた。
「ちょ!腰に抱きつくなバカぁ!」
「が~う~っ」
「もう!起きて!ちょっ!ダメだって!誰か助けて!」
「いや、もうごゆっくりって感じ?」
「リア充ご馳走さま」
モミジとカエデはカスミの眼を塞ぎスタスタと連れていった。
「なんか柔らかい・・・?」
すりすりと膝に頬被りをしだした。
ヤバい!今日のワンピースはちょっと丈が短い!
「ちょっとダメだってば!ひゃあっ!ちょっとどこ触って!!もうバカぁ~!!」
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