能力持ちの全寮学校に入学しましたが、私は普通の一般人。とりあえず平穏にすごしたいんですけど!?

近藤蜜柑

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9月 7

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イベリスは息を吸い込む。この大声を出すというのは普段の自分のイメージと真逆で上手くいかない。せめて歌うならまだこの羞恥心も少しは少なくなるのだろうか・・・?
「さ、先進みた~い~!」
「はい、次アスターく
「オレのだー!!!!」
待ちきれずに叫ぶアスターにルピナスは過剰に反応する。顔は真っ赤だ。
「ってちょっと何が!?」
「何だよ?何を叫んでもいいんだろ!?」
「そうだけど・・・!」
「おっきかった・・・」
カスミは耳がキンキンしているようだ。
「おおっしゃ!!」
「じゃあ、次ナズナ君どうぞ」
オリーブ先生に促されてナズナは闇雲に声を出す。
「え?あのちょっと何も・・・聞いてないでーす!!」

「はい、アスター君の勝利です」
「いよっしゃあ!先に進むぞルピナス」
「う、うん!ありがとう」
「やはり、アスター君、最高記録出ましたよ!おめでとう!」
「マジか!?よっしゃあ!」
「何だと!?俺様のが大きかっただろ!?」
「言いましたよね?同時だったので計測不能です」
喜ぶアスターにポトスは不満そうに抗議するが、オリーブ先生に一喝される。言い方は穏やかだが、有無を言わさぬ迫力がある。少々怒らせてしまったようだ。
「・・・くそっ」
ナズナが困りつつ質問する。
「あ、あの、説明聞いてないんですけど・・・」
「あぁ、失礼しました。3チーム揃ったら、代表の人が1人ずつ叫びます。声量が大きかった人が抜けていくゲームです。また3チームそろったらやりましょうね!」
「・・・はい」





先に進むと、アネモネのチームがいた。ルピナスが聞く。
「あれ?アネモネ先輩?先に行ったんじゃ・・・」
「気になったから待っていたの。ね、ちょっと触っていい?」
「え?オイ!」
「あら、やっぱりいい筋肉ね・・・」
アネモネは返事を待たずにポトスに近づきぺたぺたと身体を触る。
「は、はしたないぞ!!」
ポトスの変化を受け取り、アネモネはニコリと笑う。
「わかったわ。攻めかたを変えるわね」
「再戦か?なら受けてたつぞ!」
「ふふっ。えぇ、楽しみだわ。・・・それにしても、本当に動物が寄ってくるわ!みんな可愛いわね。アナタの事大好きみたい」
「あまり口にするな・・・!・・・?お前の影響ってもしかして
「・・・教えないし、成否解答もしないわ」
「何故だ?」
「・・・あまり自分の事を話すの得意じゃないの」
「そうか、悪い」
アネモネに暗い影が落ちたのを感じてポトスは立ち入り過ぎた事を謝罪する。
能力持ちは多くの人がトラウマを抱えている人が多い。ポトスも思い当たる節が無いわけではない。
「ふふっ!優しいのね。ありがとう」
「・・・・・・」
素直に褒められて、礼を言われてポトスは固まる。
「あら、真っ赤じゃない!大丈夫?」
「へ・・・きだ」
「ふふっ!可愛いのね」
からかわれるのは苦手だ。上手く声が出ない。昔の記憶が蘇るから・・・。でも、不快ではないのは、彼女のからかいには悪意は感じない。むしろ・・・そう考えると余計に身体が熱くなる。
「こど・・・つ・・・るな!」
「あら、大人扱いがお好み?」
「そ・・・ない!!!」
「いやだ!ホント可愛いわね!」
アスターやルピナスは見守りながら感想を述べる。アネモネ先輩は周囲の眼など気にならないタイプなのかとルピナスは感じる。
「よくアレで会話できるな・・・」
「ポトス君って照れると喋ってくれなくなるもんね」
「・・・・・・!」
「あ、しゃべってないや!」
「か、カスミちゃ!」
聞こえていたようで睨まれたが、話を聞いていたカスミが動物園のように指を指して歓声をあげるようにしたので慌ててルピナスは口を塞ごうとしたが遅すぎた
「お前ら全員生米のようにバラバラになりたいのか?」
『・・・ごめんなさい』
キレているポトスに3人はとりあえず謝った。
アセビと幼い女の子は楽しそうなアネモネに呆気にとられていた。普段一匹狼のアネモネの意外な一面を見ているからだ。




さて、時間を少し巻き戻してコブシが叫んでいる頃
「勝ちたーい!!!」
「お、なかなか大きいねアレはコブシ君かな?」
ヤマブキ達のチームが通過し、緩やかな下りを進む。ボタンが素直に褒める。
「でも、ヒイラギさんすごかったです!」
「ははっ!ようやく年上らしさ出せたかな?」
「そういうの気にしてたの?意外」
黙っていたヤマブキが口を開く。ヒイラギは何となくトゲを感じたが、今は気にしないようにする。
「そう?ウチはクラス委員とかないけど、 一応年長者だか
「よく言うよ。飛び級を断わるストイック人間なクセに」
「1年1年を大事にしたいだけだよ」
「実際なら中学生で大学生まで5つ飛び級してるボクへの嫌味!?」
「それは価値観の違いだけだよ。否定も肯定もしない。僕は学生生活を楽しんでいたいだけだよ」
「じゃあ留年したら?」
「・・・今日はやけに噛みつくね?」
やはりトゲ、いや、牙がある。先ほどの自分の叫びといい、普段の振る舞いから感の良いヤマブキはもっと早く気づくと思っていた。
「疲れましたか?」
ボタンが気遣った。
「・・・まぁね、あと」
「ルピナスか・・・」
「・・・・・・うん」
ヒイラギはわざと名前を口にした。つらいだろうが、現実を見せなければヤマブキはいつまでもすがり付いてしまう。
幻想に捕らわれて本物を見失う事になる。それはいけない。ヤマブキにはヤマブキだけの本物を探してほしい。幻想が本物に変わったとしても、常に本物な者とは戦う場所が違う。幻想が幻想だと知らずに手を伸ばすのと、幻想だとわかっているのに手を伸ばすのは意味が違ってくる。それに、その幻想が振り返る可能性は限りなく0に近い・・・。


ルピナス達がローズ先生のところに着いた時、ヤマブキはオリーブ先生のところに着いていた。
ポトスのチームに合流しているルピナスと無線でやりとりをしていたのだ。
「そっちに着くんだ・・・。ボクなら双子の大体の場所わかるし、合流させる事も出来るし、それに!
「・・・あの2人、しばらく2人きりにさせてあげたいの。ヤマブキ君と一緒にいたら、何で合流しなかったのって不信がられちゃうと思う・・・」
「ホントはアイツと一緒にいたいだけでしょ」
「・・・え?何か言った?」
「・・・はぁ、何でもないよ」
「ごめんね。わがままだけど、2人を探したい時はお願いするね」
「・・・・・・わかった」
ヤマブキは話し終わった後、近くにあった小石を軽く蹴った。

 こんなやりとりをしていたので、ヤマブキは機嫌が悪い。息を吐いて泣きそうな声を出す。
「・・・・・・ごめん。八つ当たりして・・・。僕は、早く大人になりたい」
「・・・僕が能力を受けてないから言えるけど、彼も彼女の能力を受けてないよ?」
「属性の話・・・?」
「君なら既に察していたと思うけど?」
「うん・・・・・・。応援するよ」
落ち込んむヤマブキにボタンが口を開く。
「別に、しなくてもいいんじゃないですか?」
「ボタン!?」
「まだお付き合いだってされてないようですし、 ジャマしちゃいけないなんて誰が決めたんですか?」
人の眼を気にしておどおどしていた半年ほど前のボタンは何処へ?と思うほどに大胆な発言だった。
「・・・ホント、強くなったね」
「そうですか?」
ヤマブキは驚き、ボタンは気づいてなさそうに首をかしげ、ヒイラギがにこやかに頷く。
「うん、恋をすると変わるね」
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