上 下
47 / 70

9月 7

しおりを挟む
イベリスは息を吸い込む。この大声を出すというのは普段の自分のイメージと真逆で上手くいかない。せめて歌うならまだこの羞恥心も少しは少なくなるのだろうか・・・?
「さ、先進みた~い~!」
「はい、次アスターく
「オレのだー!!!!」
待ちきれずに叫ぶアスターにルピナスは過剰に反応する。顔は真っ赤だ。
「ってちょっと何が!?」
「何だよ?何を叫んでもいいんだろ!?」
「そうだけど・・・!」
「おっきかった・・・」
カスミは耳がキンキンしているようだ。
「おおっしゃ!!」
「じゃあ、次ナズナ君どうぞ」
オリーブ先生に促されてナズナは闇雲に声を出す。
「え?あのちょっと何も・・・聞いてないでーす!!」

「はい、アスター君の勝利です」
「いよっしゃあ!先に進むぞルピナス」
「う、うん!ありがとう」
「やはり、アスター君、最高記録出ましたよ!おめでとう!」
「マジか!?よっしゃあ!」
「何だと!?俺様のが大きかっただろ!?」
「言いましたよね?同時だったので計測不能です」
喜ぶアスターにポトスは不満そうに抗議するが、オリーブ先生に一喝される。言い方は穏やかだが、有無を言わさぬ迫力がある。少々怒らせてしまったようだ。
「・・・くそっ」
ナズナが困りつつ質問する。
「あ、あの、説明聞いてないんですけど・・・」
「あぁ、失礼しました。3チーム揃ったら、代表の人が1人ずつ叫びます。声量が大きかった人が抜けていくゲームです。また3チームそろったらやりましょうね!」
「・・・はい」





先に進むと、アネモネのチームがいた。ルピナスが聞く。
「あれ?アネモネ先輩?先に行ったんじゃ・・・」
「気になったから待っていたの。ね、ちょっと触っていい?」
「え?オイ!」
「あら、やっぱりいい筋肉ね・・・」
アネモネは返事を待たずにポトスに近づきぺたぺたと身体を触る。
「は、はしたないぞ!!」
ポトスの変化を受け取り、アネモネはニコリと笑う。
「わかったわ。攻めかたを変えるわね」
「再戦か?なら受けてたつぞ!」
「ふふっ。えぇ、楽しみだわ。・・・それにしても、本当に動物が寄ってくるわ!みんな可愛いわね。アナタの事大好きみたい」
「あまり口にするな・・・!・・・?お前の影響ってもしかして
「・・・教えないし、成否解答もしないわ」
「何故だ?」
「・・・あまり自分の事を話すの得意じゃないの」
「そうか、悪い」
アネモネに暗い影が落ちたのを感じてポトスは立ち入り過ぎた事を謝罪する。
能力持ちは多くの人がトラウマを抱えている人が多い。ポトスも思い当たる節が無いわけではない。
「ふふっ!優しいのね。ありがとう」
「・・・・・・」
素直に褒められて、礼を言われてポトスは固まる。
「あら、真っ赤じゃない!大丈夫?」
「へ・・・きだ」
「ふふっ!可愛いのね」
からかわれるのは苦手だ。上手く声が出ない。昔の記憶が蘇るから・・・。でも、不快ではないのは、彼女のからかいには悪意は感じない。むしろ・・・そう考えると余計に身体が熱くなる。
「こど・・・つ・・・るな!」
「あら、大人扱いがお好み?」
「そ・・・ない!!!」
「いやだ!ホント可愛いわね!」
アスターやルピナスは見守りながら感想を述べる。アネモネ先輩は周囲の眼など気にならないタイプなのかとルピナスは感じる。
「よくアレで会話できるな・・・」
「ポトス君って照れると喋ってくれなくなるもんね」
「・・・・・・!」
「あ、しゃべってないや!」
「か、カスミちゃ!」
聞こえていたようで睨まれたが、話を聞いていたカスミが動物園のように指を指して歓声をあげるようにしたので慌ててルピナスは口を塞ごうとしたが遅すぎた
「お前ら全員生米のようにバラバラになりたいのか?」
『・・・ごめんなさい』
キレているポトスに3人はとりあえず謝った。
アセビと幼い女の子は楽しそうなアネモネに呆気にとられていた。普段一匹狼のアネモネの意外な一面を見ているからだ。




さて、時間を少し巻き戻してコブシが叫んでいる頃
「勝ちたーい!!!」
「お、なかなか大きいねアレはコブシ君かな?」
ヤマブキ達のチームが通過し、緩やかな下りを進む。ボタンが素直に褒める。
「でも、ヒイラギさんすごかったです!」
「ははっ!ようやく年上らしさ出せたかな?」
「そういうの気にしてたの?意外」
黙っていたヤマブキが口を開く。ヒイラギは何となくトゲを感じたが、今は気にしないようにする。
「そう?ウチはクラス委員とかないけど、 一応年長者だか
「よく言うよ。飛び級を断わるストイック人間なクセに」
「1年1年を大事にしたいだけだよ」
「実際なら中学生で大学生まで5つ飛び級してるボクへの嫌味!?」
「それは価値観の違いだけだよ。否定も肯定もしない。僕は学生生活を楽しんでいたいだけだよ」
「じゃあ留年したら?」
「・・・今日はやけに噛みつくね?」
やはりトゲ、いや、牙がある。先ほどの自分の叫びといい、普段の振る舞いから感の良いヤマブキはもっと早く気づくと思っていた。
「疲れましたか?」
ボタンが気遣った。
「・・・まぁね、あと」
「ルピナスか・・・」
「・・・・・・うん」
ヒイラギはわざと名前を口にした。つらいだろうが、現実を見せなければヤマブキはいつまでもすがり付いてしまう。
幻想に捕らわれて本物を見失う事になる。それはいけない。ヤマブキにはヤマブキだけの本物を探してほしい。幻想が本物に変わったとしても、常に本物な者とは戦う場所が違う。幻想が幻想だと知らずに手を伸ばすのと、幻想だとわかっているのに手を伸ばすのは意味が違ってくる。それに、その幻想が振り返る可能性は限りなく0に近い・・・。


ルピナス達がローズ先生のところに着いた時、ヤマブキはオリーブ先生のところに着いていた。
ポトスのチームに合流しているルピナスと無線でやりとりをしていたのだ。
「そっちに着くんだ・・・。ボクなら双子の大体の場所わかるし、合流させる事も出来るし、それに!
「・・・あの2人、しばらく2人きりにさせてあげたいの。ヤマブキ君と一緒にいたら、何で合流しなかったのって不信がられちゃうと思う・・・」
「ホントはアイツと一緒にいたいだけでしょ」
「・・・え?何か言った?」
「・・・はぁ、何でもないよ」
「ごめんね。わがままだけど、2人を探したい時はお願いするね」
「・・・・・・わかった」
ヤマブキは話し終わった後、近くにあった小石を軽く蹴った。

 こんなやりとりをしていたので、ヤマブキは機嫌が悪い。息を吐いて泣きそうな声を出す。
「・・・・・・ごめん。八つ当たりして・・・。僕は、早く大人になりたい」
「・・・僕が能力を受けてないから言えるけど、彼も彼女の能力を受けてないよ?」
「属性の話・・・?」
「君なら既に察していたと思うけど?」
「うん・・・・・・。応援するよ」
落ち込んむヤマブキにボタンが口を開く。
「別に、しなくてもいいんじゃないですか?」
「ボタン!?」
「まだお付き合いだってされてないようですし、 ジャマしちゃいけないなんて誰が決めたんですか?」
人の眼を気にしておどおどしていた半年ほど前のボタンは何処へ?と思うほどに大胆な発言だった。
「・・・ホント、強くなったね」
「そうですか?」
ヤマブキは驚き、ボタンは気づいてなさそうに首をかしげ、ヒイラギがにこやかに頷く。
「うん、恋をすると変わるね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。  後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。  しかし、そこに香奈が現れる。  成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……  オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕! ※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。 「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。 【今後の大まかな流れ】 第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。 第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません! 本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに! また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます! ※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。 少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

あなたのそばにいられるなら、卒業試験に落ちても構いません! そう思っていたのに、いきなり永久就職決定からの溺愛って、そんなのありですか?

石河 翠
恋愛
騎士を養成する騎士訓練校の卒業試験で、不合格になり続けている少女カレン。彼女が卒業試験でわざと失敗するのには、理由があった。 彼女は、教官である美貌の騎士フィリップに恋をしているのだ。 本当は料理が得意な彼女だが、「料理音痴」と笑われてもフィリップのそばにいたいと願っている。 ところがカレンはフィリップから、次の卒業試験で不合格になったら、騎士になる資格を永久に失うと告げられる。このままでは見知らぬ男に嫁がされてしまうと慌てる彼女。 本来の実力を発揮したカレンはだが、卒業試験当日、思いもよらない事実を知らされることになる。毛嫌いしていた見知らぬ婚約者の正体は実は……。 大好きなひとのために突き進むちょっと思い込みの激しい主人公と、なぜか主人公に思いが伝わらないまま外堀を必死で埋め続けるヒーロー。両片想いですれ違うふたりの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...