能力持ちの全寮学校に入学しましたが、私は普通の一般人。とりあえず平穏にすごしたいんですけど!?

近藤蜜柑

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8月 7

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「まだ雨降ってるけど、花火大会大丈夫かな?」
「普通の花火なら湿気りそうだけど、花火大会は金かかるし、さっきみたいな大雨でも平気だって。海の時みたいに台風だとまずいけどな」
ルピナスは嫌な予感がした。
「・・・花火やるのって河川敷だよね?川の水が増えて、河川敷が水浸し・・・とかないよね?」
地元の河川敷の花火大会がそのせいで中止になった事を思い出した。
「あははははっ!さすがにそれは・・・あるかも」
笑っていたアスターは少しの間の後に固まった。
「え?」
「3年ぐらい前もあったんだよ・・・。河川敷が水浸しで花火中止になった事」
「み、見に行こう!!」
「おう!」
雨はかなり小降りでポツポツとした状態だ。傘を刺さない人も多くいて、また屋台を楽しみはじめた。

しかし、前日の雨と今日のゲリラ豪雨で河川敷に着いた時は結構びしょ濡れで、場所取りをしていた人と何人もすれ違った。
「うわ・・・結構ヤバいな・・・」
「あれ?アスター君の回り、乾いていってるよ?」
「あ~蒸発してるのかもな・・・」
「蒸発・・・そうだ!アスター君触って!!」
「・・・?どこ触ればいい?手か?髪か?頬か?確かにちょっと濡れ
「もう!私じゃなくて地面!」
手を伸ばしたアスターの手をルピナスは叩いた。
「なるほど!オレが触ればすぐ乾くな!」
「もう!アスター君はすぐそういう事言うんだから!」
「言うだけじゃダメなら実行すればいいか?」
今度は意識的にからかうアスターに、ルピナスは流石に赤くなりながら怒る。
「そ、そんな事言ってない!早く・・・触ってよ!」
「お、お前も際どい事言うな!さすがに照れる!」
「だから違う!誰のせいよ!」
「オレの、せいか・・・へへっ」
「もう!笑ってないで早く乾かして!」
「ほいほい」
アスターは指先を赤く光らせてしゃがみ、地面を触った。
ルピナスは帰宅する見物客が多かった事を思い出した。
「・・・花火も開催できるよって知らせられないかな?花火玉を一つ触ってもらって打ち上げちゃうとか」
「あ~と、乾かすなら近づくだけで良いぞ?手持ち花火は持っただけで発火するし」
アスターは乾かしながら答えた。
寮で花火をした時もみんながアスターをろうそく代わりにしていた。
「・・・確かにそうだったね。なら、花火師さんに怒られちゃうかもだから、迷ったフリして近づこう!」
「・・・1人じゃ嫌だ」
「大丈夫!一緒に行くから」
「な、1個だけ触ってもいいか?打ち上げ再開の為に知らせないといけないし、でっかいやつをさ!」
「わかった。・・・気をつけてよ?」
「おぅ!」
アスターは勢いよく立ち上がった。


2人でそっと近づいて行った。すると、関係者の人にやはり止められた。
「ちょっと!ここは入って来ちゃダメだよ!」
「ま、迷っちゃって・・・ごめんなさい」
ルピナスが注意を惹き付ける作戦だ。ルピナスは頭を下げた。
すると、関係者の人はかなり柔らかい表情になり、アスターをチラチラ見ながら言った。
「そう、大丈夫だよ。・・・カップルかい?」
「え?ち、違
「そうです!」
焦るルピナスにアスターは肯定した。
「え!?ちょっと何言って!!」
「イヤか?」
「ええ!?んと・・・」
赤くなるルピナスに男の人はガッカリしたようだ。
「あはは、お熱いね~・・・」




「コレが花火の玉か~!でっかいなぁ~!」
「近寄ったらダメだ!危ないだろ!!」
「ご、ごめんなさい」
はしゃぐアスターは怒られた。ルピナスはまた頭を下げチリンと鈴が鳴る。
「んじゃ、行くわ」
「はいはい、ごめんな~!中止になると思うよ」
「あの、大丈夫ですから!」
ルピナスはそう言ってアスターの後を着いて行った。


「ははっ何が大丈夫なんだろうな・・・」
先ほどのゲリラ豪雨で川の水嵩があがり、河川敷は水浸し。自慢の花火は・・・え?


ヒューー・・・・・・ドォン!!

「おい、何してんだいったい!」
「お、親方!」
「どうした!?」
「な、何もしてないですよ!火も着けてないのに、自然に上がったんですよ!!」
「お前!今年の目玉をいきなりぶっぱなして何を考えて!!
「すいません!・・・え?」
今下を向いて気づいた。先ほどまで水浸しだった河川敷が嘘のようにすっかり乾いている・・・。目玉の花火が夜空に大輪の花を開いた。湿気りなんて感じさせない。他の花火も同様に雫の1粒さえ着いていない。
「親方、河川敷乾いてます!!」
「・・・マインだ」
「え?」
「早く!連射連発スターマインだ!点火急げ!」
「は、はい!」
「プログラムがボロボロじゃねーかよ!」
「親方・・・」
親方は自分の頭をかきむしっていたが、手を止めて顔を上げる。
「ま、無駄になるよかマシだな・・・。よし、プログラム全部入れ替えだ!」
「ひええええっ!」
「返事!」
「はいいいっ!」
「やるぞ、大丈夫だ!!!」
「点火!」
「点火!」
彼女が言った大丈夫だという、同じフレーズが親方の口から出ていた。
手の震えが止まらない・・・奇跡だ・・・奇跡が起こった!コイツら、全部咲きたがってやがる!
「親方・・・」
「よし、夜空に熱い花、咲かすぞ!」
「はい!!」




ルピナスとアスターは見つからないように看板の裏に隠れて花火を見ていた。人も集まってきたし、作戦大成功だ。
「うわぁ!綺麗だね~!」
「まさか花火大会復活させられるなんてな・・・」
「でも、いきなり目玉から点火させなくても良くない?」
「目玉が上がったら、他のヤツも大丈夫だって気づくし、スタートさせずにはいられないだろ?」
「まぁ、それもそう・・・かな?」
「人も集まってきたしな!」
「うん、ありがとう!アスター君のおかげだね」
「ひひっもっと褒めろ!」
「うん、これからも頼りにしてるね」
「・・・・・・え?」

「ルピナス~!」
「あ、みんなこっちだよ~!」
モミジの声にルピナスは手を振る。寮のみんなも集まってきた。
「花火大会、中止になるかと思ったわ!」
「河川敷が氾濫した噂あったのに、大丈夫だったの?」
「うん、アスター君が乾かしてくれたんだ!」
モミジとカエデが心配そうに尋ね、ルピナスは誇らしげに微笑む。
「なるほどね」
ヒイラギが先ほどから黙ったままのアスターに声をかけた。
「アスター、大丈夫か?」
「・・・・・・平気だ」
「どうかしたの?」
いつもなら褒めろ褒めろと調子に乗るのに・・・
ルピナスとヒイラギが心配する。
「能力使いすぎたのか?」
「暑い、だけだ・・・」
「夏だもんね?」
ルピナスは首を傾げた。
「あぁ、夏、だからだよな・・・・・・」
「・・・・・・?」
みんなが綺麗だ、凄いと夜空に咲く花火を観て、歓声を上げる中、アスターはしばらく顔を隠し、花火を観ていなかった。

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