能力持ちの全寮学校に入学しましたが、私は普通の一般人。とりあえず平穏にすごしたいんですけど!?

近藤蜜柑

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8月 1

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8月
お盆

まだまだおひさまはギラギラ。セミが元気に鳴いています。
お盆の時期が近くなり、寮のみんなは旅行に行ったり、イベントに呼ばれたり、地元の友達や家族のところへ帰省したり、お世話になった人に顔を見せに行ったりします。
私も帰省しようと思っていたけど、事情が変わり、寮に残る事になってしまいました。
寮母さんのようにみんなのご飯を作ってくれるカエデ君は、モミジちゃんと2人が育った施設のお手伝いに。カスミちゃんはフクジュ先生と実家へ。ボタンちゃんもポトス君も実家に帰るみたいだし、ヤマブキ君は仕事でお呼ばれだ。ヒイラギ君も帰るって言ってたかな?
みんながそれぞれ数日、寮を留守にするみたいです。みんなが出かける日が似通っていて、1人ぼっちになるのかなと思っていたら、当日の朝は私と、他にもう1人が残りました。

私は不思議に思って口を開きました。
「・・・アスター君は帰らないの?」
「・・・帰らない。毎年そうだし、オレの家は寮だ」
「帰らないって事は無い訳じゃないんでしょ?」
「・・・ずっと帰ってないのは。無いようなもんだよ」
彼がここまで落ち込んで、かたくなになっているのが不思議だ。確かに、頑固な方だろうけど、いつも明るい彼がこんな状態になっているのが気になる・・・。
「連絡は?」
「・・・してない」
「出来ないわけじゃないんだよね?」
「・・・そ、だけど・・・」
アスターは答えにくそうにしているが、ルピナスは止まらない。
気になってしかたがない・・・
「なら!
「うるせぇな!!帰れねーって言ってんだろ!!!」
「きゃあっ!」
アスターから炎が噴き出す。手が真っ赤に光っている。ルピナスは全身炎に包まれた。
「・・・!わ、悪い・・・!火傷してないか!?」
アスターは直ぐ正気に戻りルピナスの肩を掴む。辺りは少しだけ焦げてしまっている。
「へ、へい・・・き・・・」
「ちょっと見せろ!火傷・・・してない・・・な。良かった・・・」
もういつものアスターだ。
「う・・・うん。・・・・・・うぅっ・・・」
「あ~ゴメンって泣くなよ!」
「ごめっ・・・立ち入・・・すぎ・・・ちゃっ・・・」
「心配してくれたのは嬉しいから!な!」
「うん・・・っ!・・・ぐすっ」
アスター君は、しばらく頭をポンポンしながら落ち着かせてくれた
涙が止まった頃を見計らいアスターは口を開いた。
「・・・落ち着いたか?」
「うん・・・。ゴメン・・・」
「別にいいよ・・・」
アスターは決まり悪そうに自分の髪を掴む。
「・・・凄く、悲しい気持ちがアスター君から溢れてきて・・・。びっくりした・・・」
「あ~・・・お前の能力の影響ってなんだろうって思ってたけど、ソレかもな」
「・・・ソレ?」
「人の感情を言わなくても理解出来ちまうんだよ・・・。思い当たる節はあるか?」
「・・・あるかも」
「・・・にしても」
「ん?」
アスターはルピナスを頭のてっぺんから爪先までジーッと見る。
「あれだけの炎を浴びて本当になんともないんだよな?」
「・・・うん。どこも熱くないし、痛くないよ?」
確かに恐怖を覚え驚きはしたが、熱いとは思わなかった。
「そうか・・・。・・・・・・」
アスターは少し考えた。
「どうかしたの?」
「いや、平気ならいいか!何でもねぇよ」
「うん?」
「で、お前こそ帰らないのか?」
ルピナスは赤くなりながら話す。
「えっと・・・両親が2人で旅行に行くからそっちで過ごしなって・・・」
「あははっ!仲良しかよ!」
「本当だよ!」
「でも、いいな・・・。両親が仲良しか・・・」
アスターは寂しそうに笑った。ルピナスは気になっていたので聞いてみた。
「アスター君のとこ、仲良しじゃないの?」
「ん・・・オレ、フルールに年中で入学したんだよ」
「うん、ゴールデンウィークに聞いた。幼稚園からって長いね・・・」
「だろ?・・・・・・オレが産まれた時に母親が極端に熱がって、出産した後死んじまったらしいんだ。それからオレは父親と2人で暮らしてた」
「・・・兄妹は?」
なんとなくそんな気がしていた。少なくとも側にいないって
「いないな。・・・・・・実はさ、年少だった時、ストーブの近くにいた時、火事を起こしちまってさ」
「火事?・・・どうして?」
「ん・・・。俺は生まれつきの能力持ちみたいでな。初めてストーブを見た時、おもちゃだと思って遊んでた。・・・その時、オレの指先が真っ赤になって光った。オレの指から炎が出てて、もうパニックだった。・・・気がついたら部屋は真っ赤になって燃えてた」
「・・・・・・!」
「オレは自分が逃げるため、父さんを逃がすためにストーブを含めて家の一部を破壊した。・・・オレがするしかなかったんだ。母さんの写真とか、父さんに褒められた絵とか。死んで永遠に何もかも見れなくなるよりはいいって」
「・・・・・・」
「無我夢中だったよ、生きる為にな。父さんはそのお陰で助かったけど、オレを見て怯えちまってた。オレも怪我が酷くて、病院で治療中にフルールから封筒が届いたんだろうな。ある日、寝て起きたら寮の部屋で眠ってたよ」
「・・・・・・」
「父さんはオレに怯えてるし、嫌ってると思うよ。手紙も無いし、入学してからだから、もう10年近く逢ってないな・・・」
「ひっく・・・ひっく・・・」
「ん?」
「ひっく・・・ひっ・・・!」
「な、泣くなよ!!別にもう気にしてないから!」
アスターはルピナスの頭をまたポンポンするが、効果はあまり無い。
「でも・・・そんな・・・事あったら・・・ストーブ、嫌いに・・・なるよ!!」
「・・・・・・」
アスターは顔が熱くなり、ルピナスの肩に触れる。
こうするのが自然な気がしてその肩を引き寄せ・・・
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